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<第三章 第5話:龍殺しの少年>

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  <第三章 第5話:龍殺しの少年>
 騎士団長が、いぶかしげな表情で、問いかけた。
 「鋼鉄製の甲冑は、借りないのか?」
 「この甲冑は、魔獣一角ワニの革で作っていますので、真剣による通常の斬撃では、貫通しません」
 そう言って、クマートは、左腕を伸ばした。
 さやから、長剣をいた。
 右手に持った長剣で、左腕の籠手こてりつけた。軽くだが。
 左腕の籠手を、見せた。
 籠手には、切り傷がついていた。薄く。
 だが、切りかれては、いない。貫通もしていない。
 「なるほど、わかった」
 クマートは、剣を鞘に収めた。その鞘の金具を、右腰の金具に装着した。
 背筋を伸ばした。
 いつでも、闘う準備ができていることを、示すために。
 司会の男が、審判に合図をした。
 審判が、口を開いた。
 「それでは……」
 そのときだった。伝令が、走ってきた。
 数十秒前、貴賓席では、極悪伯爵令嬢グレースが、王子に耳打ちするのが見えた。
 その直後、王子は伝令に、なにかを命じた。
 伝令が、息を切らしながら、コロシアムの中央まで走って来た。
 大声で、伝令内容を叫んだ。司会と審判、それに騎士団長に伝えるために。
 「騎士団長殿に、王子殿下からの伝言です! 対戦相手のオスターラント公は、龍殺しの学園一の剣士! 遠慮することなく、殺すつもりで闘え!」
 戸惑った。その場にいる全員が。
 もっともクマートは、平然としていたが。
 騎士団長が、クマートに問いかけた。
 「貴公が、ドラゴンを倒したという新入生か? 噂には、聞いていたが」
 「そのとおりです」
 「どのように、倒した?」
 「距離を取って、弓矢で倒しました」
 「ドラゴンのうろこは、鋼鉄より固いと聞く。どうやって、貫通させた? 矢を?」
 「目です。どんな動物も、頭蓋骨には、穴が開いています。目と、鼻です。それに、頭部の下部。特に、目の部分に矢を打ち込んだ場合、深く矢が刺されば、やじりが、脳に達します。そうやって、倒しました。ドラゴンを」
 騎士団長の戦意が、低下した。目に見えて。
 おそらく、思ったに違いない。
 この少年が、ドラゴンを倒したのではない。彼の家臣たちが、倒したのだ、と。
 上級貴族の場合、家臣たちが挙げた成果は、主君である上級貴族の手柄となる。上級貴族が、指揮をったからだ。
 もちろん、実際に指揮を執ったかどうかは、あやしい。参謀を務める家臣の中級貴族の作戦通りに、命令を出しただけかもしれないからだ。
 魔法の王冠のテレパシー能力を、数秒だけ、使ってみた。
 騎士団長は、こう考えた。
 この少年は、数十名、いや、数百名の家臣たちを使って、ドラゴンを倒した。
 数十名か百数十名の家臣たちが、ドラゴンを足留めした。
 そこで、数十名か百数十名の弓兵が、いっせいに、矢を放った。ドラゴンの目をねらって。
 そのうちの一本が、目に突き刺さった。奥深くまで。
 魔法の王冠のテレパシー能力を、切った。この能力は、スイッチを入れていると、集中できないからだ。
 右手に持った真剣を、構えた。
 司会の男が、審判に合図した。
 審判が、声をかけた。クマートと騎士団長に。
 「それでは、始めます。両者、かまえ!」
 その三秒後、審判が叫んだ。
 「始め!」
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