異世界極悪令嬢と同じクラスになってしまった!

蛇崩 通

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<第三章 第4話:騎士団長登場>

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  <第三章 第4話:騎士団長登場>
 控え室に行った。誰もいないことを確認した上で、魔法の小箱から、革製甲冑を出した。
 普通の革製甲冑ではない。
 普通の革製甲冑は、牛革を使っている。
 クマートが特別につくったワニ革の甲冑だ。
 ワニと言っても、普通のワニではない。
 この異世界にしか生息していない魔獣一角いっかくワニだ。
 この異世界では、ワニも一角ワニも、生息している地域は、帝国の東の最果てオスターラント領だけだ。
 そのため、帝国臣民のほとんどは、ワニを見たことがない。
 オスターラント領の九割以上は、魔獣の森だ。魔獣の森の南部は熱帯地域で、魔獣一角ワニの生息地だ。
 ワニ革の甲冑は、一部、大蛇の蛇皮も使用している。腹の部分だ。一角ワニのワニ革は分厚いため、腹の部分までワニ革にすると、上半身を前傾しにくい。そこで、腹の部分だけ、大蛇の蛇皮にした。
 コロシアムに戻った。
 東側の出入り口から、コロシアムに足を踏み入れると、観客席が、どよめいた。
 おそらく、ワニ革の甲冑のせいだろう。
 観客席にいる学生たちは、ワニ革の甲冑など、見たことがないはずだ。
 「甲冑が緑だ!」
 「まるで、トカゲのようだ」
 「いや、蛇のようだ」
 「ひょっとして、蛇皮の甲冑か?」
 そんな声が、観客席から聞こえた。
 コロシアムの中央に立つと、係員から、木剣を渡された。
 しばらく、待った。対戦相手が、来るまで。
 ストレッチをして、待った。
 コロシアムの北口から、大男が、現れた。
 帝国騎士団の騎士団長だ。
 帝国最強の剣士だ。
 観客席が、どよめいた。
 大歓声が、あがった。
 騎士団長を見て。
 彼は、鋼鉄製の甲冑を身につけていた。
 コロシアムの中央まで、来た。
 審判と司会を、ジロリと見た。
 「ワシの対戦相手は、どこにいる?」
 「わたしです。騎士団長殿」
 クマートが、そう答えた。
 騎士団長は、マジマジと見た。クマートを。
 「なぜ貴公は、鋼鉄製の甲冑を着用していないのだ?」
 その質問に、クマートが逆に質問し返した。
 「騎士団長殿こそ、なぜ、試合用の革製甲冑では、ないのですか?」
 「王子殿下が、甲冑真剣試合を、お望みだと聞いたからだ」
 甲冑真剣試合とは、お互いに鋼鉄製の甲冑を身につけて、真剣で闘う試合だ。実戦に近い訓練の一環として、騎士団では、頻繁に行われている。
 ただし、互いに本気になると、死人や重傷者が出てしまう。
 そのため、実施には、細心の注意が必要だ。
 帝国学園でも、三年生になると、甲冑真剣試合の練習が始まる。
 クマートは、司会の男と審判に、視線を向けた。
 「わたしも、真剣を使っていいですか?」
 数秒間、沈黙が流れた。
 司会も審判も、すぐには事態を飲み込めなかったのだ。
 なぜなら、新入生が、騎士団長と甲冑真剣試合をするなど、ありえないからだ。
 だが、王子殿下の要望だ。
 逆らうわけには、いかない。
 「もちろんです。オスターラント公」
 司会の男が、そう答えた。
 「少々、お待ちください。騎士団長殿」
 そう言って、クマートは、コロシアムの北東側の観客席に向かって、走った。
 観客席のすぐそばまで来た。
 叫んだ。
 「アメリア! 剣を貸してくれ!」
 観客席の中段に座っていたアメリアたち四名が、観客席下段まで降りてきた。
 ベアーナが叫んだ。アメリアが口を開くよりも早く。
 「若様! あたしの剣のほうが、リーチが長いです」
 「いや、今回は、スピード勝負だ。軽い剣のほうが良い。アメリア、おまえの剣を貸してくれ」
 「はい、クマート様!」
 アメリアが、ベルトの右腰の金具から、剣を収めたさやをはずした。
 鞘に入ったままの剣を、両手で、放り投げた。クマートに向かって。
 「クマート様、受け取って! あたしの愛を!」
 左手で、つかんだ。アメリアの鞘に入った長剣を。
 愛とか、言うなよ。衆人環視の前で。超がつくほど、はずかしい。
 クマートは、恥ずかしさのあまり、心の中で頭を抱えた。表情には、出さなかったが。
 コロシアムの中央に、戻った。
 「お待たせしました。騎士団長殿」
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