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<第三章 第3話:ランサー(槍使い)登場>
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<第三章 第3話>
大男が、現れた。
長い棒を持っている。試合用の槍だ。槍の穂先にあたる部分は、布地が巻かれている。
クマートが、声をかけた。
「ベルク公、午前中の決勝戦は、見事な闘いだった。優勝、おめでとう」
「お褒めにあずかり、光栄です。ところでオスターラント公閣下」
ベルクも、下級貴族だ。
「閣下は、やめてくれ。同じ学園の学生なのだから。クマートと呼んでくれ」
「それでは、クマート様、今回も素手で闘うおつもりなのですか?」
「ああ。もちろん」
「しかし、槍は剣よりも得物が長いため、素手では闘えませんよ」
「それは、闘ってみれば、わかることだ。本気で、打ち込んでこい」
「わかりました。それでは、遠慮なく、行きます」
「さあ、来い」
ベルクが、大きく踏み込んだ。クマートに向かって。槍を突き出しながら。
左中段内受けで、防御した。穂先の手前の部分に、クマートの左手首を、打ちつけた。内側から、外側へと。
次の瞬間、左手で槍をつかんだ。
同時に左手で、槍を手前に引っ張った。
だがベルクは、体勢を崩さなかった。
足腰の筋力を、しっかりと鍛えているからだ。
その直後、クマートは、自分の右足の底を、槍の真ん中あたりに、のせた。
踏みつけた。力を入れて。右足で、槍の中央を。
思わずベルクが、槍を落とした。
その瞬間を、逃さなかった。
クマートは右足を着地した直後、右足を軸に反時計回りに、百八十度回転した。
左の横蹴りを、蹴り込んだ。ベルクのみぞおちに。
あたりが、浅かった。
そのうえベルクは、分厚い革製の鎧を着ている。ダメージは、それほど大きくはない。
左足を着地した直後、ふたたび反時計回りに、百八十度回転した。今度は左足を軸にして。
右の横蹴りを、蹴り込んだ。ベルクのみぞおちに。
今度は、充分な深さで突き刺さった。横蹴りが、みぞおちに。
大男のベルクが、吹っ飛んだ。後方、一メートル以上も。
地面に尻もちをついたベルクは、悶絶した。
ベルクは、起き上がることができなかった。腹を抱えて、地面の上で、のたうちまわった。
審判が、叫んだ。
「勝者、クマート・オスターラント公!」
観客席から、大きな歓声があがった。それに、割れんばかりの拍手喝采だ。さきほどよりも、大きい。
貴賓席を、見た。
極悪伯爵令嬢グレースが、王子の耳もとで、なにかをささやいている。
また、なにかをたくらんでいる。
王子が、伝令の兵士二名を呼んだ。
その二名に、なにかを伝えた。
二名は、それぞれ別の方向へ走り出した。一人は、クマートのいる方角だ。
だがもう一人は、コロシアムの外側へ向かって走った。
誰かを、呼びに行ったのだろう。
伝令が、司会のもとに来た。
伝令の話を聞いたとたん、司会の男が固まった。石像のように。
三秒ほど固まっていたが、そのあと、クマートのもとに来た。
「オスターラント公、王子殿下のお望みなのですが……」
「いいですよ。今度は、誰と闘うのですか?」
「それが……」
言葉を一瞬濁したあと、司会の男が言った。
「騎士団長です。帝国騎士団の」
帝国最強の剣士だ。
学生が、勝てるような相手ではない。
「どうしますか? お断りしますか?」
「いや。せっかくですから、闘いましょう」
クマートは真剣な面持ちで、言葉を続けた。
「試合用の革製甲冑、取りに行っていいですか」
これから、木剣でボコボコにされるのだ。
気分が沈んだ。少しだけだが。
大男が、現れた。
長い棒を持っている。試合用の槍だ。槍の穂先にあたる部分は、布地が巻かれている。
クマートが、声をかけた。
「ベルク公、午前中の決勝戦は、見事な闘いだった。優勝、おめでとう」
「お褒めにあずかり、光栄です。ところでオスターラント公閣下」
ベルクも、下級貴族だ。
「閣下は、やめてくれ。同じ学園の学生なのだから。クマートと呼んでくれ」
「それでは、クマート様、今回も素手で闘うおつもりなのですか?」
「ああ。もちろん」
「しかし、槍は剣よりも得物が長いため、素手では闘えませんよ」
「それは、闘ってみれば、わかることだ。本気で、打ち込んでこい」
「わかりました。それでは、遠慮なく、行きます」
「さあ、来い」
ベルクが、大きく踏み込んだ。クマートに向かって。槍を突き出しながら。
左中段内受けで、防御した。穂先の手前の部分に、クマートの左手首を、打ちつけた。内側から、外側へと。
次の瞬間、左手で槍をつかんだ。
同時に左手で、槍を手前に引っ張った。
だがベルクは、体勢を崩さなかった。
足腰の筋力を、しっかりと鍛えているからだ。
その直後、クマートは、自分の右足の底を、槍の真ん中あたりに、のせた。
踏みつけた。力を入れて。右足で、槍の中央を。
思わずベルクが、槍を落とした。
その瞬間を、逃さなかった。
クマートは右足を着地した直後、右足を軸に反時計回りに、百八十度回転した。
左の横蹴りを、蹴り込んだ。ベルクのみぞおちに。
あたりが、浅かった。
そのうえベルクは、分厚い革製の鎧を着ている。ダメージは、それほど大きくはない。
左足を着地した直後、ふたたび反時計回りに、百八十度回転した。今度は左足を軸にして。
右の横蹴りを、蹴り込んだ。ベルクのみぞおちに。
今度は、充分な深さで突き刺さった。横蹴りが、みぞおちに。
大男のベルクが、吹っ飛んだ。後方、一メートル以上も。
地面に尻もちをついたベルクは、悶絶した。
ベルクは、起き上がることができなかった。腹を抱えて、地面の上で、のたうちまわった。
審判が、叫んだ。
「勝者、クマート・オスターラント公!」
観客席から、大きな歓声があがった。それに、割れんばかりの拍手喝采だ。さきほどよりも、大きい。
貴賓席を、見た。
極悪伯爵令嬢グレースが、王子の耳もとで、なにかをささやいている。
また、なにかをたくらんでいる。
王子が、伝令の兵士二名を呼んだ。
その二名に、なにかを伝えた。
二名は、それぞれ別の方向へ走り出した。一人は、クマートのいる方角だ。
だがもう一人は、コロシアムの外側へ向かって走った。
誰かを、呼びに行ったのだろう。
伝令が、司会のもとに来た。
伝令の話を聞いたとたん、司会の男が固まった。石像のように。
三秒ほど固まっていたが、そのあと、クマートのもとに来た。
「オスターラント公、王子殿下のお望みなのですが……」
「いいですよ。今度は、誰と闘うのですか?」
「それが……」
言葉を一瞬濁したあと、司会の男が言った。
「騎士団長です。帝国騎士団の」
帝国最強の剣士だ。
学生が、勝てるような相手ではない。
「どうしますか? お断りしますか?」
「いや。せっかくですから、闘いましょう」
クマートは真剣な面持ちで、言葉を続けた。
「試合用の革製甲冑、取りに行っていいですか」
これから、木剣でボコボコにされるのだ。
気分が沈んだ。少しだけだが。
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