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<第二章 第2話>

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  <第二章 第2話>
 百発百中だった。
 三十秒弱で九回、矢を放った。三本ずつ。
 二十七名を、三十秒弱で射殺いころした。
 残りの四名は、あわてふためき、逃げ出した。仲間たちが、次々に殺されていくのを見て。
 その四名が、もう一度、石塀を乗り越えた。
 彼らを追いかけて、どの屋敷に逃げ込むかを、確認しなければならない。
 どうせグレースの屋敷だろうが、確認は必要だ。
 窓から、裏庭に出た。
 二十七体の死体に、近づいた。
 左手の弓を右手に持ち替えた。
 左の手のひらを開き、死体に向けた。
 「収納」と念じた。二十七体の死体が消えた。
 魔法の小箱に、収納されたのだ。
 一つ目のダンジョンでは、古代文明人が制作した四つの究極魔法具を入手した。
 魔法の王冠、魔法の首飾り、魔法の腕輪、魔法の小箱だ。
 入手した際、魔法の王冠と魔法の首飾りを身につけた。魔法の腕輪は右腕に装着した。魔法の小箱は、左手の手のひらの上に乗せた。
 究極魔法具は、身につけると、数秒で、体内に吸収される。
 そのため、究極魔法具を身につけていることは、他人からは見えない。
 魔法の小箱は、いくらでもモノを収納できる。「脱・収納」と念じれば、収納したモノを取り出すことができる。
 しかし、生き物は収納できない。
 ニワトリを使って、何度も実験してみた。生きたニワトリは、収納できない。
 だが、ニワトリを屠殺とさつすれば、収納できる。
 魔法の小箱の中が真空なのかどうかはよく分からないが、収納した肉類は、腐らない。新鮮な肉類を収納すれば、どれだけの期間が経っても、取り出したとき、新鮮なままだ。
 ひょっとしたら、魔法の小箱の中は、時間が止まっているのかもしれない。
 裏庭の芝生の上に、左手の手のひらを向けた。
 襲撃犯に刺さった矢を思い描き、「脱・収納」と念じた。
 二十七本の矢が、芝生の上に出現した。
 魔法の小箱は、便利だ。魔法の小箱の力を利用すれば、モノを分離できる。
 二十七本の矢には、血はついていなかった。矢だけを「脱・収納」と念じたからだ。
 背中に背負った矢筒に、二十七本の矢を戻した。
 周囲に、誰もいないことを確認した。
 夜回りの警備兵は、二名いる。定期的に、屋敷の敷地内を巡回している。
 魔法の王冠のテレパシー能力で、彼らの現在地を確認した。正門付近にいる。
 ダンジョン攻略で、究極魔法具を入手したことは、誰も知らない。付き人のアメリアたちにも、秘密だ。
 今後も、できるだけ他人に知られたくない。
 他人に知られると、めんどうなことに巻き込まれる可能性が、高いからだ。
 テレパシー能力を、いったん切った。
 「透明化」と、念じた。
 身体も服も、そのほかの身につけた物も、透明になった。
 魔法のマントの能力だ。
 究極魔法具の一つである魔法のマントは、三つめのダンジョンで、入手した。
 魔法のマントは、二種類の能力を合わせ持つ。
 通常の究極魔法具は、一種類の能力しかない。
 その点で、魔法のマントは、特別な究極魔法具だ。
 魔法のマントの二種類目の能力は、空中浮揚ふよう能力だ。もちろん、飛行もできる。
 「上昇」と念じた。
 十メートルほど、上昇した。
 屋敷の周辺は、林に囲まれている。東西南北共に、幅五十メートルほどの正方形の林だ。
 人工林だろう。
 上級貴族のプライバシー保持のためか、騒音防止か、あるいは単に、かまどや暖炉用の焚き木を採取するためか。
 よくわからないが、どの上級貴族の屋敷も、四方を林に囲まれている。
 林の外側は、二車線の馬車道だ。石畳で舗装されている。馬車道の両脇には、歩道がある。
 北側の馬車道に、四名の襲撃犯が、林を抜けて現れた。
 彼らは、西に向かって、歩道を走り始めた。
 透明化したまま、空中を飛行し、彼らの追跡を始めた。
 準男爵寮は、学園の敷地の東側に集中している。
 西へ行けば行くほど、身分の高い上級貴族の屋敷がある。
 さて、生き残りの襲撃犯たちは、果たして、どの屋敷に逃げ込むのか。
 静かに、追跡を続けた。
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