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第二章 極悪伯爵令嬢の夜襲:第一次 <第1話>

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  <第二章 第1話>
 九月の最初の水曜日。帝国学園の授業初日の夜。深夜十二時近く。
 クマートは、ベッドルームの窓を開けた。
 月明かりが明るかった。そのおかげで、裏庭がよく見えた。
 今夜は、来そうだな。極悪伯爵令嬢グレースの夜襲が。
 アニメ版も、そうだった。
 グレースは、婚約者の王子が、ヒロインときしているのを、見てしまう。
 すると、その日の夜に、ヒロインを襲う。自分の屋敷の警備兵を使って。
 しかも、襲った警備兵は、私服だった。犯人の正体を隠すためだ。犯人たちは、短剣を身につけていた。
 アニメ版では、イケメン貴公子五人組の一人、体育会系イケメン男爵令息が、ヒロインを救う。たまたま深夜、一人でランニングをしていた。平民寮の近くまで来たときに、偶然、ヒロインの悲鳴を聞いて、駆けつける。
 アニメ版では、ヒロイン襲撃犯は、五名だった。
 その理由は、平民寮には、警備兵がいないからだ。
 一方、上級貴族の寮は、違う。自領から連れてきた警備兵がいる。
 平民寮、下級貴族寮、中級貴族寮は、集合住宅だが、上級貴族寮は、一戸建ての屋敷だ。しかも、敷地はかなり広い。
 クマートが入居する準男爵用の屋敷の敷地は、一辺がおよそ百メートルほどの正方形だ。周囲は、高さ二メートルの石塀で囲まれている。南側に正門がある。屋敷の北側が、ベッドルームだ。屋敷には、付き人の学生四名も同居している。それに、住み込みメイドも。
 警備兵の数は、身分によって決まっている。準男爵の場合は、十名だ。ほかに、貴族身分の将校が、二名いる。彼らは、屋敷警備隊の隊長と副隊長だ。
 警備兵の数は、男爵は二十名、子爵は三十名、伯爵は五十名だ。侯爵は七十名で、公爵と王子は百名だ。
 よってグレースの屋敷には、警備兵が五十名いる。将校の人数は規制されていないが、おそらく三名だ。なぜなら、百人隊を指揮する将校は三名だからだ。
 夜襲の人数は、何名だろうか。
 三十名か、四十名か。
 クマートの屋敷には、警備兵十名と将校二名がいることは、グレースもわかっているはずだ。それに加えて、戦力になるのは、クマートと四名の付き人だ。合計十七名だ。
 本来は、四十名でも、戦力的に足りない。攻防三倍の法則があるからだ。
 攻撃する側は、防衛する側の三倍の戦力があって初めて、互角に戦えるという戦場の経験則だ。
 だが、寝込みを襲うという前提ならば、三十名でも、標的を暗殺できるはずだ。グレースは、そう考えるかもしれない。
 来た。三十名ほどの思考反応を感じた。百メートルほど先に。
 一つ目のダンジョンで入手した魔法の王冠の力だ。魔法の王冠の能力は、テレパシー能力だ。相手の思考を読むことができる。
 とはいえ、思考を正確に読めるのは、せいぜい半径二十メートル以内だ。
 それより離れると、思考の読み取りが、不鮮明になる。
 だが、このテレパシー能力には、もう一つの使い方がある。対人間レーダーだ。半径百メートルほどの距離にいる人間の思考を、感じることができる。
 百メートル先の場合、なにを考えているのかは、わからない。
 だが、どの方角の何十メートル先に、何人の人間がいるかが、わかる。
 窓辺に置いておいた矢筒を背負い、左手で弓を取った。
 矢筒から、三本の矢を取り出した。
 右手の指の間に、三本の矢をはさんだ。人差し指から小指の間だ。
 通常は、三本同時に矢を放っても、標的にはあたらない。
 しかし、魔法の腕輪を使えば、話は別だ。百発百中になる。
 なぜなら、魔法の腕輪の能力は、念力だからだ。矢が飛ぶ方角を、念力で自由自在に変えることができる。
 北側の石塀のすぐ近くまで、来た。
 人数を、数えてみた。三十一名だ。
 三十名は兵士で、一名は指揮官の将校だろう。
 弓矢を、構えた。
 数人が石塀に、よじ登った。
 数人が、敷地内に飛び降りた。
 次々に、石塀を乗り越えた。
 全員が、敷地内に入るのを待った。
 三十一人目が、敷地に入った。
 不法侵入罪だ。
 不法侵入した武装犯罪者なら、殺害しても、法律的にも道徳的にも、問題ない。
 矢を放った。三本同時に。
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