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<第一章 第6話>

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  <第一章 第6話>
 茫然自失ぼうぜんじしつ状態となった。数十秒間も。女性教師が。メガネ少年の説明を聞いて。
 問いただした。グレース伯爵令嬢に。彼の説明が、真実か否かを。
 グレースは悪びれることなく、事実であることを認めた。
 彼女は、剣を奪われてもなお、女性教師とメガネ少年を、斬首刑にするつもりでいた。
 それに、クマートのことも。
 女性教師が、生徒たちに大声で呼びかけた。
 「しばらく教室で待っていてください。学園長を呼んできます」
 女性教師が、教室から出て行った。
 その直後だった。
 グレースの付き人パーカーが、意識を取り戻した。
 「なにが、いったい……」
 そうつぶやきながら、立ち上がった。
 グレースが、叫んだ。
 「パーカー! おぬしは背後から襲われたのじゃ! そこの黒髪の男に! その黒髪男を殺せ!」
 パーカーは、自分の両手を見た。それから、自分の周囲を。
 「わしの剣は、どこだ?」
 「ここにあるよ」
 大柄の黒髪少女が、パーカーの長剣を振りかざした。
 「ベアーナ! 挑発は、いけません!」
 きつい声で、たしなめた。
 ベアーナは、不満そうな顔で、つぶやいた。
 「若様……」
 パーカーが、ベアーナたちを、にらんだ。
 まずい。
 アメリアやベアーナたちが、襲われる。大男のパーカーに。
 大男であっても、相手は素手だ。剣を持つ少女四名ならば、勝てるだろう。
 だがその場合、パーカーが、彼女たちの長剣で切り刻まれ、斬殺ざんさつされる。
 それも、まずい。
 彼の注意を、こちらに向けさせなければ。
 パーカーに、呼びかけた。
 「ここに、伯爵令嬢様の剣がある」
 そう言って、グレースの長剣を、床に突き立てた。自分の右脇に。
 言葉を続けた。
 「わたしと素手で闘って、わたしに勝てたら、この剣を、返そう」
 事態を、飲み込めていないようだった。パーカーは。
 だが、グレースが命じた。
 「パーカー! その黒髪男を倒して、わらわの剣を奪還せよ!」
 「御意ぎょい
 パーカーが、接近してきた。背筋を伸ばして。
 近くで見ると、より大男に見える。背も高いが、肩幅も広く、胸板も分厚い。
 身長は、百八十センチメートル以上だろう。
 体重は、百キログラム近くありそうだ。
 にもかかわらず、贅肉ぜいにくはついていない。精悍せいかんな顔をしている。
 大男のパーカーが、見下ろした。クマートを。
 「姫様の剣を返せ。さもなくば……」
 彼の言葉を、さえぎった。
 「脅し文句はいいから、かかってこいよ」
 次の瞬間だった。
 パーカーが、右のこぶしで殴りつけてきた。クマートの顔面を。
 右ストレート・パンチだ。
 左ひじを上げて、防御した。左手首の位置は、下に向けた状態で。
 ウグッと、うめいた。パーカーが。
 ニヤリと笑いながら、声をかけた。大声で。教室中に、聞こえるように。
 「肘の固い骨を拳でなぐれば、そりゃ痛いだろう」
 「この野郎!」
 激怒したパーカーが、飛びかかってきた。
 胴体タックルだ。
 次の瞬間だった。
 パーカーの巨体が、ね返された。
 右肘をカウンターであてたのだ。パーカーの脳天に。空手の右逆突きと同様に、下半身の筋力も使って。
 右逆突きは、右後ろ足で床を強く蹴り、その力を腰に伝え、肩に伝え、右拳に伝える。
 それと同様に、今回は、右肘に下半身の力を伝えた。
 パーカーは床に尻もちをつき、ふたたび意識を失った。
 ウォードが立ち上がった。
 彼は、意識を取り戻したばかりだった。そのため、状況を飲み込めていなかった。
 グレースが命じた。
 「ウォード! 黒髪男を倒せ! わらわの剣を奪還せよ!」
 「御意」
 そう答えつつ、ウォードも、自分の足下の周囲を見回した。
 自分の剣を探しているのだ。
 そこで、声をかけた。
 「素手で闘おうぜ」
 そう言って、左右の拳を握り、構えた。
 ウォードも、左右の拳を握って構えた。
 その構えは、百年も前のボクサーのようだった。
 近代ボクシングが誕生する前、ボクシングは、何でもありのケンカ殺法だった。
 果たして、ウォードの闘い方は、どんなものか。
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