3 / 41
<第一章 第2話>
しおりを挟む
<第一章 第2話>
「姫様、お待ちください」
付き人の女生徒が、グレースに声をかけた。
グレースが、にらみつけた。彼女を。
「エルシー、わらわに逆らうのか?」
「めっそうも、ございません。ただ、反逆者の斬首刑は、王子殿下に相談してからのほうが、よろしいかと」
「必要ない。殿下は、わらわの頼み事は何でも、笑顔で、かなえてくださる」
付き人の女生徒エルシーは、押し黙った。何か、言いたそうだったが。
グレースが、視線を向けた。大男の付き人パーカーに。
「斬首刑に……」
その瞬間、女生徒が口を挟んだ。もう一人の女子の付き人だ。
「姫様、お待ちください」
怒鳴りつけた。グレースが。
「アイラ! おぬしも、わらわに逆らう気か!」
「めっそうも、ございません。この近距離で斬首刑にしますと、返り血で、姫様のお召し物が汚れてしまいます」
一瞬、動きが止まった。グレースが、吟味しているのだ。アイラの指摘を。
「うむ。それは、嫌じゃな」
「でしたら、斬首刑は、広い場所で後日にしたほうが、よろしいかと」
アイラも、避けようとしているのだ。教室での殺人を。
グレースは、男子生徒の付き人に、視線を向けた。パーカーとは別の男子だ。
「ウォード。ここに、広いスペースを作れ。机と椅子を、教室の後方に、さげよ」
「ハッ。かしこまりました」
ウォードは、背の高い痩せ型の少年だ。痩せ型ではあるが、服の上からでも分かる。腕の筋肉は、だいぶついている。剣術の修行を、かなり積んでいそうだ。
ウォードが、剣を抜いた。前方の席の生徒たちに、命じた。机と椅子を、教室の後方に移動させるようにと。
数分後には、教室の前方に、ある程度の広さのスペースができた。
メガネ少年が、そのスペースの中央に、土下座させられた。
彼の後方には、剣を抜いたパーカーがいる。
パーカーが、剣を振り上げた。
その瞬間だった。
叫んだ。早口で。メガネ少年が。
「私には、権利があります。生存権、自由権、それに……」
グレースが激昂し、怒鳴り散らした。
「権利など、ない! いかなる権利も! 虫けらのような弱者には!」
パーカーは、剣を振り上げたまま、静止した。グレースが話し終わるまで、剣を振り下ろすのは、まずいと思ったからだろう。
グレースが、怒鳴り続けた。
「権利とは、わらわのような強者が持つものじゃ。弱者の権利は、強者が与えたものじゃ! ゆえに強者は、いつでも自由に、弱者の権利を剥奪することができるのじゃ!」
グレースが、教室を見回した。悪魔のような形相で。
「虫けらども! 心して聞け! 貴様らに、生存権を売ってやろう。一人、一万ゴールドじゃ!」
一万ゴールドは、帝国共通金貨で一万枚だ。帝国共通金貨一枚の価値は、日本円換算で、十万円相当だ。食料品の価格を基準にすると。
よって一万ゴールドは、十億円相当だ。
なるほど、これが、目当てだったのか。
内心、合点がいった。
平民の生徒の中には、大金持ちの大商人の子弟もいる。
彼らの父親なら、十億円を払う者もいるだろう。
なぜなら、それにより、伯爵令嬢とのコネを得られる。
しかも彼女は、王子の婚約者だ。将来的には、商業上の特権を得られるはずだ。十億円を払っても、長期的視点では、充分、元が取れる。
だが、下級貴族で支払うことができる者が、いるだろうか。
いるわけがない。
中級貴族は、どうであろうか。
おそらく、いないのではないか。
では、上級貴族ならば?
オスターラント準男爵領では、領国政府の年間国家予算が、日本円換算で、七十億円くらいだ。
十億円は、払えない金額ではないが、払いたくない。
不当な要求だからだ。
グレースは、怒鳴り続けた。
「一万ゴールドを払えば、わらわの奴隷として、三年間、殺さずに、こき使ってやろう。一万ゴールド払わなかった者は、奴隷として売り飛ばすこともある。役立たずの奴隷は、殺処分じゃ!」
「非道すぎる!」
悲痛な声で叫んだ。メガネ少年が。
グレースが視線を向けた。メガネ少年に。
「弱者に、強者に意見する権利などない」
それから、パーカーに視線を向けた。
「この虫けらを、斬首刑にせよ」
パーカーが、ふたたび高く、剣を振り上げた。
まずい、まずい、まずすぎる。
このままでは、取り返しのつかないことになる。
もうボクが、やるしかないのか。
「姫様、お待ちください」
付き人の女生徒が、グレースに声をかけた。
グレースが、にらみつけた。彼女を。
「エルシー、わらわに逆らうのか?」
「めっそうも、ございません。ただ、反逆者の斬首刑は、王子殿下に相談してからのほうが、よろしいかと」
「必要ない。殿下は、わらわの頼み事は何でも、笑顔で、かなえてくださる」
付き人の女生徒エルシーは、押し黙った。何か、言いたそうだったが。
グレースが、視線を向けた。大男の付き人パーカーに。
「斬首刑に……」
その瞬間、女生徒が口を挟んだ。もう一人の女子の付き人だ。
「姫様、お待ちください」
怒鳴りつけた。グレースが。
「アイラ! おぬしも、わらわに逆らう気か!」
「めっそうも、ございません。この近距離で斬首刑にしますと、返り血で、姫様のお召し物が汚れてしまいます」
一瞬、動きが止まった。グレースが、吟味しているのだ。アイラの指摘を。
「うむ。それは、嫌じゃな」
「でしたら、斬首刑は、広い場所で後日にしたほうが、よろしいかと」
アイラも、避けようとしているのだ。教室での殺人を。
グレースは、男子生徒の付き人に、視線を向けた。パーカーとは別の男子だ。
「ウォード。ここに、広いスペースを作れ。机と椅子を、教室の後方に、さげよ」
「ハッ。かしこまりました」
ウォードは、背の高い痩せ型の少年だ。痩せ型ではあるが、服の上からでも分かる。腕の筋肉は、だいぶついている。剣術の修行を、かなり積んでいそうだ。
ウォードが、剣を抜いた。前方の席の生徒たちに、命じた。机と椅子を、教室の後方に移動させるようにと。
数分後には、教室の前方に、ある程度の広さのスペースができた。
メガネ少年が、そのスペースの中央に、土下座させられた。
彼の後方には、剣を抜いたパーカーがいる。
パーカーが、剣を振り上げた。
その瞬間だった。
叫んだ。早口で。メガネ少年が。
「私には、権利があります。生存権、自由権、それに……」
グレースが激昂し、怒鳴り散らした。
「権利など、ない! いかなる権利も! 虫けらのような弱者には!」
パーカーは、剣を振り上げたまま、静止した。グレースが話し終わるまで、剣を振り下ろすのは、まずいと思ったからだろう。
グレースが、怒鳴り続けた。
「権利とは、わらわのような強者が持つものじゃ。弱者の権利は、強者が与えたものじゃ! ゆえに強者は、いつでも自由に、弱者の権利を剥奪することができるのじゃ!」
グレースが、教室を見回した。悪魔のような形相で。
「虫けらども! 心して聞け! 貴様らに、生存権を売ってやろう。一人、一万ゴールドじゃ!」
一万ゴールドは、帝国共通金貨で一万枚だ。帝国共通金貨一枚の価値は、日本円換算で、十万円相当だ。食料品の価格を基準にすると。
よって一万ゴールドは、十億円相当だ。
なるほど、これが、目当てだったのか。
内心、合点がいった。
平民の生徒の中には、大金持ちの大商人の子弟もいる。
彼らの父親なら、十億円を払う者もいるだろう。
なぜなら、それにより、伯爵令嬢とのコネを得られる。
しかも彼女は、王子の婚約者だ。将来的には、商業上の特権を得られるはずだ。十億円を払っても、長期的視点では、充分、元が取れる。
だが、下級貴族で支払うことができる者が、いるだろうか。
いるわけがない。
中級貴族は、どうであろうか。
おそらく、いないのではないか。
では、上級貴族ならば?
オスターラント準男爵領では、領国政府の年間国家予算が、日本円換算で、七十億円くらいだ。
十億円は、払えない金額ではないが、払いたくない。
不当な要求だからだ。
グレースは、怒鳴り続けた。
「一万ゴールドを払えば、わらわの奴隷として、三年間、殺さずに、こき使ってやろう。一万ゴールド払わなかった者は、奴隷として売り飛ばすこともある。役立たずの奴隷は、殺処分じゃ!」
「非道すぎる!」
悲痛な声で叫んだ。メガネ少年が。
グレースが視線を向けた。メガネ少年に。
「弱者に、強者に意見する権利などない」
それから、パーカーに視線を向けた。
「この虫けらを、斬首刑にせよ」
パーカーが、ふたたび高く、剣を振り上げた。
まずい、まずい、まずすぎる。
このままでは、取り返しのつかないことになる。
もうボクが、やるしかないのか。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる