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本編
-442- ご褒美
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「アレックス?!お疲れ様」
「ああ、レンも。大丈夫だったか?」
「うん。満さんとも友達になったし、エリー先生とアイラ様にはとても良くして貰ってる」
「そうか」
『そんな頑張り屋のレン様には、今日はご褒美があるよ』とエリー先生に言われて、『ご褒美?』と首を傾げたところで家令のジェフリーさんに連れられてアレックスが来てくれたんだ。
聞いてなかったから凄くびっくりしたし、一緒にお茶が出来ると知って嬉しくなる。
いつもと同じようにアレックスの腕の中に納まって、同じように口づけを受ける。
人前での抱擁も口づけも少しずつ慣れてきたと思う。
アレックスがいつも通りだから、かな。
でも、お父様みたいに揶揄われるととたん恥ずかしくなっちゃうんだよね。
今日も、『嘘だろう?あのアレックスが……』と心底驚かれた後で『ぶはっ!』と笑いを吹き出す声が入ってきた。
エリー先生とそっくりな声だけれど、エリー先生とは逆の前方から聞こえてくる。
それに、エリー先生は、思ってもあからさまに口に出さないくらいは大人の対応をする。
何より、アレックスを『アレックス』と呼ぶ人は限られてる。
アレックスの背に隠れて見えなかったけれど、ひとしきり笑い終わったらしいその人は、満さんによく似た顔でにっこりと僕へ笑ってきた。
ただし、その笑顔の作り方や声、何より髪色や瞳はエリー先生そっくりだったから、確実に彼がユージーンさんだってわかる。
「アレックス、僕にも君の愛しい奥さんを紹介してくれないかな?」
「したくないが仕方ない」
「なんだそれは、酷いなあ」
侯爵当主と伯爵家を継がなかった長男、職場の部下と上司、今の肩書はそうだとしても、アレックスとユージーンさんはとても気心知れた間柄なのが見てわかる。
アレックスにも遠慮なく言える人はとても貴重な存在だ。
アレックスは、例え友人だとしても肩書で遠慮しちゃっても仕方ないと思える人だ。
闇属性であり、エリソン侯爵領の当主だから。
それでもなお、遠慮のない物言いで分け隔てなく接する人がいてくれるのはアレックスにとって代えがたい存在だと思う。
因みに親友のオリバーさんがアレックスに対して遠慮がちに見えたのは、もともとの彼の人柄だと思えた。
僕のことは常に『親友の奥さん』として扱ってくれて、いい意味で距離があった。
それは、アレックスに対する気遣いでもあり、旭さんに対する誠実さでもあったから、僕もとても楽だったし居心地のいい空間だった。
「レン、俺の親友で上司のユージーン=ハワードだ。あまりよろしくしなくていいぞ」
「ああ、それは酷い!」
「ふふっ……顔を合わせるのは初めまして、ですね。レン=エリソンです。エリー先生にはとても良くしてもらっています」
アレックスの紹介の仕方が雑で、だからこそアレックスが心を許しているのがよくわかる。
彼、ユージーンさんの反応は少し過剰だけれど、半分以上がポーズなのがわかるし、それを面白がってるのも伝わってくる。
ミツルさんがエリー先生とよく似てると言っていたけれど、確かによく似てる。
エリー先生の方が、マナー講師だからか上品だけれども。
「生身では初めまして。ご紹介に預かったユージーン=ハワードです。やあ、本当にびっくりするくらいの美人さんだ。アレックスが隠しておきたいのもわかるよ。レン君、とお呼びしても?」
「はい、勿論です。ユージーンさん」
ユージーンさんも、僕のことを侯爵夫人としてじゃなく、“親友の奥さん”として扱ってくれるみたいだ。
それが嬉しい。
「お噂はかねがね」
「お噂?」
お噂ってなんだろう?と首を傾げると、満面の笑みを見せてくるユージーンさん。
「今までアレックスの恋愛相談なんてのったことがなかったからね!いやあ、もうただの惚気だとしか思えない発言を悩ましく語られるのは、親友の冥利に尽きるよ!『なんでもひとつだけ』の話を聞いた時には呆れもしたけどね、それでもむんぐっ―――」
「少し黙ってくれ」
烏で挨拶された時も思ったけど、流れるような話し方だ。
うん、言葉選びは違うけれど、エリー先生が遠慮なく話す時のテンポと同じ。
アレックスが焦ったように、ユージーンさんの口を塞いだ。
ちょっとだけモヤッとするのは、きっとアレックスがユージーンさんの後ろから抱きしめるように口を塞いでいるからだ。
気心知れた中だろうし、恋愛相談をされて楽しそうにしてるんだから、間違ってもアレックスに恋愛感情なんて持っていなさそうに見えるけれど、たぶん、ユージーンさんとアレックスとの身長差だとか見た目の良さだとかがちょっとばかり理想的な感じに見えるから、かな。
あとは、僕がユージーンさんとあいさつしか交わしていない間柄だからかもしれない。
アレックスが全然そういう目で見ていないのは分かる。
でも、相手がセオやジュード、レナード、だったとしたら起こらない感情だ。
「レン、すまない。親友とは言え赤裸々に語ることでも、まして本人のいるところで明かす話じゃなかった」
「え?それは……良いんだけれど」
「ぷはっ!いいんだ?」
アレックスからの謝罪は僕の心とはちょっと別方向から投げられた。
ユージーンさんを抱きしめたままだ。
や、抱きしめてるわけじゃないんだろうけれど、羽交い絞めというには拘束は緩そうだし、抱きしめてるようにしか見えない。
塞いだ口も、ユージーンさんが両手で下ろしちゃったし、何よりそのアレックスの右手はユージーンさんの手の中にあるままだ。
面白そうに笑うユージーンさんだけれど、自惚れだとしか思えない話をされるのは、打ち明けられたからと言ってちょっとばかり恥ずかしいくらいだ。
僕だって旭さんに会った時に最初の出会いや気持ちを明け透けに語ったし、セオにはなんでも相談しちゃっているから殆ど知られてる。
僕もアレックスも初婚どころかお付き合いすら初めての人間だ。
そんな初心者だからこそ、恋愛を相談するのはけして悪いことじゃないし、寧ろそういう間柄がいるのはアレックスにとっても喜ばしいことだと思うよ、思うんだけれど。
「うん、それはいいんですけど」
ユージーンさんに答えた後に、アレックスに視線を移しても、視線が合うだけだ。
じゃあ何が?って思っていそう。
きっと僕が面白くなさそうな顔をしているからだ。
取り繕うことも出来たけれど、アレックスの親友に対して演技は必要としないからって素直になり過ぎたかもしれない。
これは、ただの嫉妬だ。
可愛くも、綺麗でもない僕の気持ちだ。
ぐるぐると渦巻くものがどんどん大きくなっていく気がする。
───っもういいや、全部素直になっちゃおう。
「あんまり僕以外をそうやって抱きしめないで欲しいなって」
「っ?!」
僕がぽろっと本音を口にするや否や、ユージーンさんがばりっと剥がれるようにアレックスから抜け出す。
アレックスも驚いた顔で、両手を放して自身の両肩あたりにあげて降参のポーズをとった。
「すまない……」
僕を目にして、驚いたアレックスだったけれど、ゆっくりと右手で顔を覆うと、絞り出すように呟く。
今度のアレックスの『すまない』は、謝罪じゃない。
僕には、『可愛い』だとか『好きだ』とか、誉め言葉に聞こえた。
同じ言葉でも意味が全然違えば、伝わるものも全然違うから、僕の気持ちは直ぐに浮上する。
「疾しい気持ちは一切ない」
「あったら困るよ」
アレックスがものすごくとろけたような笑みで頬に手を添えてくれる。
それから真剣な顔になって告げてくるもんだから、おかしくて思わず笑みになっちゃう。
添えられた手に手を重ねて答える僕に、ほっと安堵の息をアレックスが漏らした。
「「可愛いー!!」」
刹那、同じ声が重なって同じ言葉が別々のところから聞こえてきた。
ユージーンさんと、エリー先生で、同じ独特の音階を奏でる。
『可愛いー!』だけど正しく言うと『かっうわいぃいー!』だ。
発音は基本ドとミの音しか使わないから、僕の耳には『かっうわいぃいー!と聞こえる。
まるでステレオだ。
それから、交互に僕への称賛が始まった。
『びっくりするくらい美しいのに中身がこんな可愛いなんてびっくりだよ』だとか───二重にびっくりしてるなあ、と呑気に構える暇もなく『やあ、今のは特別可愛かった。アレックス様じゃなくても悶えるね!』とエリー先生。
「初めてだから束縛激しいのは多少しょうがないとしてさ、それでも僕はやり過ぎだと思っていたけれど……うん、そうなってしまっても仕方ないと思えるほど可愛いね!」
「だろう?可愛さに悶えるほどだけれど、それでいてびっくりするくらい聡明なんだ」
「確かに!若いのに考え方が素晴らしいね。それにピアノと歌はプロ級……ああ、元の世界ではプロ、だったね。あの歌は、どこかで披露しないと勿体ないよ!また聞きたいね。役者、だったのだろう?普段は可愛いのに演技をしたら別人だと聞いたよ」
「祝賀会に出るならその方がいいね。ただでさえエリソン侯爵領はやっかみが多いからねえ」
「アレックスの代になってより豊かになったからね。領地はけして大きくないけれど富は多いから」
「何もしないで自然になったわけじゃないのに、卑しく野心溢れる貴族も多いからね。伯爵家だって外側だけ取り繕って中は貧しいなんて結構あるしね。そういう人たちからは求められても笑顔でお断りさ」
「母上に断られたら、社交界でつまはじきにされるんじゃ?」
「それは自業自得というものさ───ところで、ユージーン」
僕への褒め合戦が終わりをつげたのは、エリー先生からだ。
自分の息子の名前を呼ぶその笑顔が、ちょっとばかり……ううん、かなり怖い。
ユージーンさんも『うっ……』なんてあからさまに言葉に詰まって顔が引きつってる。
「あ……ああ!僕はそろそろ一度戻らないと!忙しい中抜けてきたんだ、どうしてもレン君とちゃんと会っておきたかったからね」
「何を言ってるんだ、すぐには一人じゃ戻れない癖に。言っても帰ってこない最愛の息子が久しぶりに帰ってきたんだ。逃がすと思ってんのか?───ああ、失礼、つい。アレックス様、帰りはまたご一緒に」
「ああ、勿論」
笑顔で有無を言わせないエリー先生のお願いに、ううん、お願いというよりもうこれは脅しに近い。
即答で答えたアレックスは正しい判断だって僕でも思ったよ。
「ああ、レンも。大丈夫だったか?」
「うん。満さんとも友達になったし、エリー先生とアイラ様にはとても良くして貰ってる」
「そうか」
『そんな頑張り屋のレン様には、今日はご褒美があるよ』とエリー先生に言われて、『ご褒美?』と首を傾げたところで家令のジェフリーさんに連れられてアレックスが来てくれたんだ。
聞いてなかったから凄くびっくりしたし、一緒にお茶が出来ると知って嬉しくなる。
いつもと同じようにアレックスの腕の中に納まって、同じように口づけを受ける。
人前での抱擁も口づけも少しずつ慣れてきたと思う。
アレックスがいつも通りだから、かな。
でも、お父様みたいに揶揄われるととたん恥ずかしくなっちゃうんだよね。
今日も、『嘘だろう?あのアレックスが……』と心底驚かれた後で『ぶはっ!』と笑いを吹き出す声が入ってきた。
エリー先生とそっくりな声だけれど、エリー先生とは逆の前方から聞こえてくる。
それに、エリー先生は、思ってもあからさまに口に出さないくらいは大人の対応をする。
何より、アレックスを『アレックス』と呼ぶ人は限られてる。
アレックスの背に隠れて見えなかったけれど、ひとしきり笑い終わったらしいその人は、満さんによく似た顔でにっこりと僕へ笑ってきた。
ただし、その笑顔の作り方や声、何より髪色や瞳はエリー先生そっくりだったから、確実に彼がユージーンさんだってわかる。
「アレックス、僕にも君の愛しい奥さんを紹介してくれないかな?」
「したくないが仕方ない」
「なんだそれは、酷いなあ」
侯爵当主と伯爵家を継がなかった長男、職場の部下と上司、今の肩書はそうだとしても、アレックスとユージーンさんはとても気心知れた間柄なのが見てわかる。
アレックスにも遠慮なく言える人はとても貴重な存在だ。
アレックスは、例え友人だとしても肩書で遠慮しちゃっても仕方ないと思える人だ。
闇属性であり、エリソン侯爵領の当主だから。
それでもなお、遠慮のない物言いで分け隔てなく接する人がいてくれるのはアレックスにとって代えがたい存在だと思う。
因みに親友のオリバーさんがアレックスに対して遠慮がちに見えたのは、もともとの彼の人柄だと思えた。
僕のことは常に『親友の奥さん』として扱ってくれて、いい意味で距離があった。
それは、アレックスに対する気遣いでもあり、旭さんに対する誠実さでもあったから、僕もとても楽だったし居心地のいい空間だった。
「レン、俺の親友で上司のユージーン=ハワードだ。あまりよろしくしなくていいぞ」
「ああ、それは酷い!」
「ふふっ……顔を合わせるのは初めまして、ですね。レン=エリソンです。エリー先生にはとても良くしてもらっています」
アレックスの紹介の仕方が雑で、だからこそアレックスが心を許しているのがよくわかる。
彼、ユージーンさんの反応は少し過剰だけれど、半分以上がポーズなのがわかるし、それを面白がってるのも伝わってくる。
ミツルさんがエリー先生とよく似てると言っていたけれど、確かによく似てる。
エリー先生の方が、マナー講師だからか上品だけれども。
「生身では初めまして。ご紹介に預かったユージーン=ハワードです。やあ、本当にびっくりするくらいの美人さんだ。アレックスが隠しておきたいのもわかるよ。レン君、とお呼びしても?」
「はい、勿論です。ユージーンさん」
ユージーンさんも、僕のことを侯爵夫人としてじゃなく、“親友の奥さん”として扱ってくれるみたいだ。
それが嬉しい。
「お噂はかねがね」
「お噂?」
お噂ってなんだろう?と首を傾げると、満面の笑みを見せてくるユージーンさん。
「今までアレックスの恋愛相談なんてのったことがなかったからね!いやあ、もうただの惚気だとしか思えない発言を悩ましく語られるのは、親友の冥利に尽きるよ!『なんでもひとつだけ』の話を聞いた時には呆れもしたけどね、それでもむんぐっ―――」
「少し黙ってくれ」
烏で挨拶された時も思ったけど、流れるような話し方だ。
うん、言葉選びは違うけれど、エリー先生が遠慮なく話す時のテンポと同じ。
アレックスが焦ったように、ユージーンさんの口を塞いだ。
ちょっとだけモヤッとするのは、きっとアレックスがユージーンさんの後ろから抱きしめるように口を塞いでいるからだ。
気心知れた中だろうし、恋愛相談をされて楽しそうにしてるんだから、間違ってもアレックスに恋愛感情なんて持っていなさそうに見えるけれど、たぶん、ユージーンさんとアレックスとの身長差だとか見た目の良さだとかがちょっとばかり理想的な感じに見えるから、かな。
あとは、僕がユージーンさんとあいさつしか交わしていない間柄だからかもしれない。
アレックスが全然そういう目で見ていないのは分かる。
でも、相手がセオやジュード、レナード、だったとしたら起こらない感情だ。
「レン、すまない。親友とは言え赤裸々に語ることでも、まして本人のいるところで明かす話じゃなかった」
「え?それは……良いんだけれど」
「ぷはっ!いいんだ?」
アレックスからの謝罪は僕の心とはちょっと別方向から投げられた。
ユージーンさんを抱きしめたままだ。
や、抱きしめてるわけじゃないんだろうけれど、羽交い絞めというには拘束は緩そうだし、抱きしめてるようにしか見えない。
塞いだ口も、ユージーンさんが両手で下ろしちゃったし、何よりそのアレックスの右手はユージーンさんの手の中にあるままだ。
面白そうに笑うユージーンさんだけれど、自惚れだとしか思えない話をされるのは、打ち明けられたからと言ってちょっとばかり恥ずかしいくらいだ。
僕だって旭さんに会った時に最初の出会いや気持ちを明け透けに語ったし、セオにはなんでも相談しちゃっているから殆ど知られてる。
僕もアレックスも初婚どころかお付き合いすら初めての人間だ。
そんな初心者だからこそ、恋愛を相談するのはけして悪いことじゃないし、寧ろそういう間柄がいるのはアレックスにとっても喜ばしいことだと思うよ、思うんだけれど。
「うん、それはいいんですけど」
ユージーンさんに答えた後に、アレックスに視線を移しても、視線が合うだけだ。
じゃあ何が?って思っていそう。
きっと僕が面白くなさそうな顔をしているからだ。
取り繕うことも出来たけれど、アレックスの親友に対して演技は必要としないからって素直になり過ぎたかもしれない。
これは、ただの嫉妬だ。
可愛くも、綺麗でもない僕の気持ちだ。
ぐるぐると渦巻くものがどんどん大きくなっていく気がする。
───っもういいや、全部素直になっちゃおう。
「あんまり僕以外をそうやって抱きしめないで欲しいなって」
「っ?!」
僕がぽろっと本音を口にするや否や、ユージーンさんがばりっと剥がれるようにアレックスから抜け出す。
アレックスも驚いた顔で、両手を放して自身の両肩あたりにあげて降参のポーズをとった。
「すまない……」
僕を目にして、驚いたアレックスだったけれど、ゆっくりと右手で顔を覆うと、絞り出すように呟く。
今度のアレックスの『すまない』は、謝罪じゃない。
僕には、『可愛い』だとか『好きだ』とか、誉め言葉に聞こえた。
同じ言葉でも意味が全然違えば、伝わるものも全然違うから、僕の気持ちは直ぐに浮上する。
「疾しい気持ちは一切ない」
「あったら困るよ」
アレックスがものすごくとろけたような笑みで頬に手を添えてくれる。
それから真剣な顔になって告げてくるもんだから、おかしくて思わず笑みになっちゃう。
添えられた手に手を重ねて答える僕に、ほっと安堵の息をアレックスが漏らした。
「「可愛いー!!」」
刹那、同じ声が重なって同じ言葉が別々のところから聞こえてきた。
ユージーンさんと、エリー先生で、同じ独特の音階を奏でる。
『可愛いー!』だけど正しく言うと『かっうわいぃいー!』だ。
発音は基本ドとミの音しか使わないから、僕の耳には『かっうわいぃいー!と聞こえる。
まるでステレオだ。
それから、交互に僕への称賛が始まった。
『びっくりするくらい美しいのに中身がこんな可愛いなんてびっくりだよ』だとか───二重にびっくりしてるなあ、と呑気に構える暇もなく『やあ、今のは特別可愛かった。アレックス様じゃなくても悶えるね!』とエリー先生。
「初めてだから束縛激しいのは多少しょうがないとしてさ、それでも僕はやり過ぎだと思っていたけれど……うん、そうなってしまっても仕方ないと思えるほど可愛いね!」
「だろう?可愛さに悶えるほどだけれど、それでいてびっくりするくらい聡明なんだ」
「確かに!若いのに考え方が素晴らしいね。それにピアノと歌はプロ級……ああ、元の世界ではプロ、だったね。あの歌は、どこかで披露しないと勿体ないよ!また聞きたいね。役者、だったのだろう?普段は可愛いのに演技をしたら別人だと聞いたよ」
「祝賀会に出るならその方がいいね。ただでさえエリソン侯爵領はやっかみが多いからねえ」
「アレックスの代になってより豊かになったからね。領地はけして大きくないけれど富は多いから」
「何もしないで自然になったわけじゃないのに、卑しく野心溢れる貴族も多いからね。伯爵家だって外側だけ取り繕って中は貧しいなんて結構あるしね。そういう人たちからは求められても笑顔でお断りさ」
「母上に断られたら、社交界でつまはじきにされるんじゃ?」
「それは自業自得というものさ───ところで、ユージーン」
僕への褒め合戦が終わりをつげたのは、エリー先生からだ。
自分の息子の名前を呼ぶその笑顔が、ちょっとばかり……ううん、かなり怖い。
ユージーンさんも『うっ……』なんてあからさまに言葉に詰まって顔が引きつってる。
「あ……ああ!僕はそろそろ一度戻らないと!忙しい中抜けてきたんだ、どうしてもレン君とちゃんと会っておきたかったからね」
「何を言ってるんだ、すぐには一人じゃ戻れない癖に。言っても帰ってこない最愛の息子が久しぶりに帰ってきたんだ。逃がすと思ってんのか?───ああ、失礼、つい。アレックス様、帰りはまたご一緒に」
「ああ、勿論」
笑顔で有無を言わせないエリー先生のお願いに、ううん、お願いというよりもうこれは脅しに近い。
即答で答えたアレックスは正しい判断だって僕でも思ったよ。
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