上 下
431 / 440
本編

-435- エリー先生の家へ

しおりを挟む
「……おめでとうございます」

馬車がゆるりと動き出した時だった。
オスカーさんが、セオを正面に捉えて、ちょっとびっくりした声で呟いた。
なにがおめでとうかというと、セオの結婚のことだ。

きっと、セオにまで意識が向かなかっただけだろうな。
エリー先生も、オスカーさんを見てから、セオを見てびっくりした顔になった。

「ありがとうございます」
「ああ、本当だ!おめでとう!」
「ありがとうございます。立場は特に変わりございませんのでこれからもよろしくお願いします」

はにかむような笑顔で告げるセオは、僕にはとても嬉しそうに見えた。
セオ=フィッツからセオ=リトルトンになっても、爵位は子爵のまま変わらないし、僕の専属従者なのにも変わりない。
子爵夫人ではあるけれどね。
でも、他の子爵と違って領地を持たないから、子爵夫人として場に出ることは限りなくゼロに近いと思う。
僕の専属従者として傍にいるのが常だからなのが一番の理由だ。


「レン様のも凄いけれど、君のも凄いね」

エリー先生がセオの耳を見ながらぽつりと呟く。
その言い方が、『ものが良いね』っていうより『主張が激しいね』って言われているみたいで、吹き出しそうになった。

「過ぎたものだと思っています」
「いや、石が良いのも確かだけれど、独占力の塊だ」
「……自覚はしています」
「君にはそのくらいの方が良いのかもしれない。ね、レン様?」
「はい」

エリー先生に同意を求められて、僕はしっかりと頷く。
エリー先生の言わんとすることは、僕にはよく理解できた。

「領内では兎も角、帝都での僕の立場はとても危ういものです。
僕のそのブローチだけでは足りないこともあるかもしれません。
でも、そのピアスをつけていれば上位貴族は勿論、裏に通じている者ほど相手が誰だかすぐにわかるでしょう。
下手に手を出さない、いえ、出せないはずですから」

赤い目を持つ者はものすごく珍しいと聞いているし、ヴァンが所属していた諜報ギルドでは、赤い目をしていることがヴァンの特徴であり有名な話だと聞いている。
ヴァンなら帝都入りの前までには『彼は諜報ギルドを辞めて、爵位を買いエリソン侯爵邸のお抱えになったらしい』という噂は自ら流すだろう。
セオのために、だ。
牽制には効果抜群だ。
そういうところは抜かりないもんね。


僕が自信を持って肯定すると、三人がびっくりした顔で僕を見た。
エリー先生もセオもオスカーさんもだ。

「いや、そうではなく……私が言いたかったのは、単純にセオ様はみんなに人気があるからってだけだよ」
「私もてっきりそれだけだと」
「え?」

そうだったのかあ。
確かに、セオも人気があるのかもしれないけれど、アレックスとレナードの歓声が凄くて、霞んじゃってそこに意識が向かなかったよ。

「レン様は、物事を深く見抜く力をお持ちですから」

セオが、誇らしげに答える。
おめでとうと言われた時よりも、なんだか嬉しそうだ。
ちょっとくすぐったいけれど、僕の評価がセオの評価にも繋がる。
セオだけじゃない、このエリソン侯爵領全体にもだ。
勿論、直接的には、アレックスへの評価だ。
まだ公務としては僕のしたことはほんの少しだけれど、それでも少しずついい影響が出てるって聞いている。

「誇らしいし頼もしいね」
「期待に応えられるように頑張ります」

「ほどほどで良いんだよ、レン様」
「レン様はすでに頑張っていますからね。あまり頑張り過ぎないでくださいね」
「そうですね。ほどほどに……」
「なんだい、オスカーその目は」
「いいえ、エリー様こそほどほどとは遠いところにおられるなと思っただけです」
「うっさいよ!」
「マナー講師としてその言い方は───」
「はいはい、聞き飽きたよ。まあ、でも、確かに私はついやりたいところまでやっちゃうんだけれどもね。
私自身としては、『ほどほど』と思ってるんだよ、これでも」

楽し気に笑いながら話すエリー先生は、確かに余裕がある。
確か、いくつか特許を持っているとも聞いているし、社交の場はエリー先生の方が顔が広いと聞いたし、相談事にもたくさん乗っていると聞いた。
それだけ、色々なところに顔がきくんだろうな。
ってことは、それだけ相手を大切にしているってことだ。
エリー先生のお人柄なんだろうなあ。
僕ももう、すっかりエリー先生のファンになってるもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

pretty preschool teacher

フロイライン
BL
愛多幼稚園新人教諭の石川遥は、その美貌と優しい性格から、子供達は勿論のこと、その保護者からも圧倒的な支持が寄せられていた。 しかし、遥には誰にも言えない秘密があった…

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女
BL
過去の虐待のトラウマから、怒鳴られると動悸がしてしまう子が過呼吸を起こす話

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

処理中です...