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本編
-435- エリー先生の家へ
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「……おめでとうございます」
馬車がゆるりと動き出した時だった。
オスカーさんが、セオを正面に捉えて、ちょっとびっくりした声で呟いた。
なにがおめでとうかというと、セオの結婚のことだ。
きっと、セオにまで意識が向かなかっただけだろうな。
エリー先生も、オスカーさんを見てから、セオを見てびっくりした顔になった。
「ありがとうございます」
「ああ、本当だ!おめでとう!」
「ありがとうございます。立場は特に変わりございませんのでこれからもよろしくお願いします」
はにかむような笑顔で告げるセオは、僕にはとても嬉しそうに見えた。
セオ=フィッツからセオ=リトルトンになっても、爵位は子爵のまま変わらないし、僕の専属従者なのにも変わりない。
子爵夫人ではあるけれどね。
でも、他の子爵と違って領地を持たないから、子爵夫人として場に出ることは限りなくゼロに近いと思う。
僕の専属従者として傍にいるのが常だからなのが一番の理由だ。
「レン様のも凄いけれど、君のも凄いね」
エリー先生がセオの耳を見ながらぽつりと呟く。
その言い方が、『ものが良いね』っていうより『主張が激しいね』って言われているみたいで、吹き出しそうになった。
「過ぎたものだと思っています」
「いや、石が良いのも確かだけれど、独占力の塊だ」
「……自覚はしています」
「君にはそのくらいの方が良いのかもしれない。ね、レン様?」
「はい」
エリー先生に同意を求められて、僕はしっかりと頷く。
エリー先生の言わんとすることは、僕にはよく理解できた。
「領内では兎も角、帝都での僕の立場はとても危ういものです。
僕のそのブローチだけでは足りないこともあるかもしれません。
でも、そのピアスをつけていれば上位貴族は勿論、裏に通じている者ほど相手が誰だかすぐにわかるでしょう。
下手に手を出さない、いえ、出せないはずですから」
赤い目を持つ者はものすごく珍しいと聞いているし、ヴァンが所属していた諜報ギルドでは、赤い目をしていることがヴァンの特徴であり有名な話だと聞いている。
ヴァンなら帝都入りの前までには『彼は諜報ギルドを辞めて、爵位を買いエリソン侯爵邸のお抱えになったらしい』という噂は自ら流すだろう。
セオのために、だ。
牽制には効果抜群だ。
そういうところは抜かりないもんね。
僕が自信を持って肯定すると、三人がびっくりした顔で僕を見た。
エリー先生もセオもオスカーさんもだ。
「いや、そうではなく……私が言いたかったのは、単純にセオ様はみんなに人気があるからってだけだよ」
「私もてっきりそれだけだと」
「え?」
そうだったのかあ。
確かに、セオも人気があるのかもしれないけれど、アレックスとレナードの歓声が凄くて、霞んじゃってそこに意識が向かなかったよ。
「レン様は、物事を深く見抜く力をお持ちですから」
セオが、誇らしげに答える。
おめでとうと言われた時よりも、なんだか嬉しそうだ。
ちょっとくすぐったいけれど、僕の評価がセオの評価にも繋がる。
セオだけじゃない、このエリソン侯爵領全体にもだ。
勿論、直接的には、アレックスへの評価だ。
まだ公務としては僕のしたことはほんの少しだけれど、それでも少しずついい影響が出てるって聞いている。
「誇らしいし頼もしいね」
「期待に応えられるように頑張ります」
「ほどほどで良いんだよ、レン様」
「レン様はすでに頑張っていますからね。あまり頑張り過ぎないでくださいね」
「そうですね。ほどほどに……」
「なんだい、オスカーその目は」
「いいえ、エリー様こそほどほどとは遠いところにおられるなと思っただけです」
「うっさいよ!」
「マナー講師としてその言い方は───」
「はいはい、聞き飽きたよ。まあ、でも、確かに私はついやりたいところまでやっちゃうんだけれどもね。
私自身としては、『ほどほど』と思ってるんだよ、これでも」
楽し気に笑いながら話すエリー先生は、確かに余裕がある。
確か、いくつか特許を持っているとも聞いているし、社交の場はエリー先生の方が顔が広いと聞いたし、相談事にもたくさん乗っていると聞いた。
それだけ、色々なところに顔がきくんだろうな。
ってことは、それだけ相手を大切にしているってことだ。
エリー先生のお人柄なんだろうなあ。
僕ももう、すっかりエリー先生のファンになってるもの。
馬車がゆるりと動き出した時だった。
オスカーさんが、セオを正面に捉えて、ちょっとびっくりした声で呟いた。
なにがおめでとうかというと、セオの結婚のことだ。
きっと、セオにまで意識が向かなかっただけだろうな。
エリー先生も、オスカーさんを見てから、セオを見てびっくりした顔になった。
「ありがとうございます」
「ああ、本当だ!おめでとう!」
「ありがとうございます。立場は特に変わりございませんのでこれからもよろしくお願いします」
はにかむような笑顔で告げるセオは、僕にはとても嬉しそうに見えた。
セオ=フィッツからセオ=リトルトンになっても、爵位は子爵のまま変わらないし、僕の専属従者なのにも変わりない。
子爵夫人ではあるけれどね。
でも、他の子爵と違って領地を持たないから、子爵夫人として場に出ることは限りなくゼロに近いと思う。
僕の専属従者として傍にいるのが常だからなのが一番の理由だ。
「レン様のも凄いけれど、君のも凄いね」
エリー先生がセオの耳を見ながらぽつりと呟く。
その言い方が、『ものが良いね』っていうより『主張が激しいね』って言われているみたいで、吹き出しそうになった。
「過ぎたものだと思っています」
「いや、石が良いのも確かだけれど、独占力の塊だ」
「……自覚はしています」
「君にはそのくらいの方が良いのかもしれない。ね、レン様?」
「はい」
エリー先生に同意を求められて、僕はしっかりと頷く。
エリー先生の言わんとすることは、僕にはよく理解できた。
「領内では兎も角、帝都での僕の立場はとても危ういものです。
僕のそのブローチだけでは足りないこともあるかもしれません。
でも、そのピアスをつけていれば上位貴族は勿論、裏に通じている者ほど相手が誰だかすぐにわかるでしょう。
下手に手を出さない、いえ、出せないはずですから」
赤い目を持つ者はものすごく珍しいと聞いているし、ヴァンが所属していた諜報ギルドでは、赤い目をしていることがヴァンの特徴であり有名な話だと聞いている。
ヴァンなら帝都入りの前までには『彼は諜報ギルドを辞めて、爵位を買いエリソン侯爵邸のお抱えになったらしい』という噂は自ら流すだろう。
セオのために、だ。
牽制には効果抜群だ。
そういうところは抜かりないもんね。
僕が自信を持って肯定すると、三人がびっくりした顔で僕を見た。
エリー先生もセオもオスカーさんもだ。
「いや、そうではなく……私が言いたかったのは、単純にセオ様はみんなに人気があるからってだけだよ」
「私もてっきりそれだけだと」
「え?」
そうだったのかあ。
確かに、セオも人気があるのかもしれないけれど、アレックスとレナードの歓声が凄くて、霞んじゃってそこに意識が向かなかったよ。
「レン様は、物事を深く見抜く力をお持ちですから」
セオが、誇らしげに答える。
おめでとうと言われた時よりも、なんだか嬉しそうだ。
ちょっとくすぐったいけれど、僕の評価がセオの評価にも繋がる。
セオだけじゃない、このエリソン侯爵領全体にもだ。
勿論、直接的には、アレックスへの評価だ。
まだ公務としては僕のしたことはほんの少しだけれど、それでも少しずついい影響が出てるって聞いている。
「誇らしいし頼もしいね」
「期待に応えられるように頑張ります」
「ほどほどで良いんだよ、レン様」
「レン様はすでに頑張っていますからね。あまり頑張り過ぎないでくださいね」
「そうですね。ほどほどに……」
「なんだい、オスカーその目は」
「いいえ、エリー様こそほどほどとは遠いところにおられるなと思っただけです」
「うっさいよ!」
「マナー講師としてその言い方は───」
「はいはい、聞き飽きたよ。まあ、でも、確かに私はついやりたいところまでやっちゃうんだけれどもね。
私自身としては、『ほどほど』と思ってるんだよ、これでも」
楽し気に笑いながら話すエリー先生は、確かに余裕がある。
確か、いくつか特許を持っているとも聞いているし、社交の場はエリー先生の方が顔が広いと聞いたし、相談事にもたくさん乗っていると聞いた。
それだけ、色々なところに顔がきくんだろうな。
ってことは、それだけ相手を大切にしているってことだ。
エリー先生のお人柄なんだろうなあ。
僕ももう、すっかりエリー先生のファンになってるもの。
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