異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-431- セオのピアス

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ヴァンは、エリソン侯爵領に勤めることが決まってからすぐにピアスをして欲しかったみたいだ。
僕の支度をしながらも、セオは色々と深い話をしてくれたよ。

ヴァンは、『いつか、この耳に俺の瞳の色を嵌めたい』って言うような言葉を何度も口にしていたんだとか。
まあ、だよね。
ヴァンだもん。
でも、そのたびに、セオが渋っていたんだって。

前に、結婚はしないでずっとこのままじゃないか的なことをセオが口にしていたけれど、そんなことはなかった。
ヴァンがどんな人かを知ってしまった今ならわかる。
あれはなんとしてもセオと結婚する気だーって。

「レン様たちの交換が終わってからなら受け取る、と伝えたんです」
「そっか」

恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに笑うセオの耳には、ヴァンの瞳の色と同じ極上の真っ赤なルビーが光っている。
大きさは、セオの耳朶に丁度良くて、上品に見える大きさだ。
それでもとても綺麗で、誰が見ても良いものだってわかるようなルビーだ。

「セオに凄く似合ってる。ヴァンもピアスをしてるんだよね?」
「はい。自分で用意しようと思っていたら、爺さまがすでに用意してくれていました」
「そっか、良かったね」
「───はい」

若干泣きそうなセオが話してくれたのは、前にセオにはご両親が決めた婚約者がいて、その人のためにご両親が用意したものだから、駄目になっちゃったそれをそのままヴァンには渡したくなかったようだ。

駄目になっちゃった理由も聞いたよ。
セオのせいじゃなくて、相手が傲慢な人で、セオの他に恋人が何人もいたみたい。
貴族階級は伯爵の出だったからセオの肩身は狭かったらしい。

それに、その伯爵は、複数の友人たちを誘って、あろうことかセオを襲おうとした。
けれど、セオはそのときすでに強かったから返り討ちにしちゃったんだって。
当然、相手の家からは婚約破棄を言い渡された。

でも、それがいけなかったようだ。

なにがって、その友人たちも階級がセオより高い人たちばかりだったからだ。
本当なら、そんな人との婚約なんて破棄されて良かったね、って思う。
セオの立場からして、断れないなら尚更。

ご両親はセオの味方はしてくれなかったし、それは友人たちもで。
ちゃんと気にせずセオを見てくれる友人もいたみたいだけれど、嫌みを言ってくる人が多かったんだって。

セオの味方でいてくれたのは、お兄さんとお姉さん、それから親友のふたり。
ふたりのうちのひとりが、宮廷図書館で史書、今は副館長さんらしい。
セオのことをちゃんと見てくれて、今も付き合いのある友人がいて良かった。

「年明けの祝賀会で会うことがあるかもしれないので、その前にはレン様にお話ししなければと思っていました」
「アレックスは知ってるの?」
「はい。まあでも、相手がアレックス様でしたからね、付き合いが無ければあちらから話しかけてくることなんてなかったんです。肝が小さいんですよ。アレックス様も、後ろにいればいいと言ってくれていましたので、それに甘えていました」
「ならよかった。でもそうだね、僕とセオの二人の時にばったり会ったら何か言ってくるかもしれないもんね」
「はい」
「話してくれてありがとう」

「はい。……俺がエリソン侯爵邸で勤めるのが決まってから、兄さんがピアスとブローチを爺さまに渡してくれてたんです。
爺さまは、それを売って、新しく用意してくれていて。あれよりずっと良いものだったから、けっこうしたと思うんですけど」
「そっか。セバスもなんだかんだ言ってもセオとヴァンのことをちゃんと認めてくれてたんだね」
「『まだ早い気もしますが、仕方ないですね』って言われましたけれどねー」
「ふふっ」

セオの言い方がセバスそっくりで、本当にそう言われたんだと思ったら思わず笑いが漏れちゃう。

「セバスにしたら、ヴァンがエリソン侯爵邸の使用人として一人前に仕上がってからでも、なんて思ったのかも」
「確かに、その言葉はヴァンに言ってました」
「やっぱり?でも、ヴァンは真面目にやるときはやる人だよね。ちゃんと、『セオさんをください』ってセバスに言った?」
「……まっすぐ頭を下げて、爺さまに乞いました。まあ、最終的に俺も一緒に下げましたが」
「良かったね。そういえば、アレックスって知ってたの?」

なんとなく、エリソン侯爵邸の使用人同士が籍を入れるにあたって、主に報告しないっていうことに違和感がある。

「折を見て、というのは、ヴァンが使用人になってすぐにお伝えしていたようです。
アレックス様は、『仕事に支障がでないならば好きにして構わないから籍を入れたら教えて欲しい』と。
爺さまにも、それとなくほのめかしていたようです。俺からはきちんと伝えていなかったのですが───」
「だって、セオ、すぐに結婚すると思わなかったんじゃない?」

ヴァンが貴族籍を取っても、セオを追いかけてエリソン侯爵邸の使用人になったとしても、だ。
セオって自分の魅力に自信がなさそうな気がする。
一度婚約破棄されてるなら尚更かもしれない。
でも、そこは、ヴァンが溺愛してるからこそつり合いが取れていそうだなって思う。

「はい。賭けに勝った時点で流れたものと思っていたので。実際にピアスとブローチを見せられて焦りました」

苦笑いで答えながら、セオは僕の髪を整える。

「俺より先に、爺さまが用意してることを知ってたんですよ」
「さっすが」

セオさんのためなら全世界の人を敵に回しても構わないって本気で思ってそうなヴァンのことだ。
セオさんが悲しむことは絶対にしない、とも。

もし、渡す前にセオのピアスがないなら、ヴァンは一緒に自分で用意しちゃう性格だ。
あるいは、用意したのをセバスにこっそり手渡すくらいするかもしれない。

セオに対して大きなため息を良く吐くし、小言が絶えないセバスだけれど、本当の孫の様に大切にしてると僕から見てもそう思う。
ジュードやレナードと扱いが違う。
いい意味で厳しくて、そこがセバスの優しさなんだとも。

「レン様には事前に伝えられずにすみません。ちゃんとお伝えしてから、せめて明日にして欲しいと言ったのですが」
「待てないって?」
「まあ、はい」

だからといって昨夜に突撃なんて、絶対無理だったもんね。

「今日は、二人にとってなんかの記念日なの?」
「出会った日、だそうです」
「そっか、ヴァンらしいね」

ヴァンはロマンチストだ。
多分、このエリソン侯爵邸の誰よりも。
日が変わってピアスとブローチを交換して、今日届け出を出したかったんだろうなあ。

「なるだろうなって思ってたから、気にしなくて大丈夫だよ。セバスとアレックス以外、もう誰か知ってるの?」
「両親と兄には、ヴァンが先に」
「セオは伝えてないの?」
「俺が実家を苦手なの知ってるんです」
「でも、大切にはしてるよね」
「……レン様でもそう思うんですか?俺、全く連絡とってないですけど」

切り離せるほどになれないお人よしなところがセオらしいって思う。
良いか悪いかは僕には判断が付けられないけれど、セオの中で折り合いがついているならそれが一番良いと思う。
それに、だからこそヴァンが伝えに行ったはず。
セオ自体が実家のことをどうでもいいと思っていたら、ヴァンは何もしていないはずだ。
ひとりで伝えに行ったのは、セオが実家……ご両親とお兄さん、お兄さんは味方だったと言っていたからただ単に遠慮しちゃってるだけなのかもしれないけれど、ともかく大事にしてるからだ。
セオが大事にしているものは、ヴァンは大事にする。
セオがどうでもいいと思ったら、ヴァンもどうでもいいと切り捨てる。
そう思う。

「セオは優しいから」
「俺はそこまで優しくないと思いますけどね。でも、優しいレン様から言われると、本当にそんな気になってきます」
「うん」
「両親と兄に、手紙を書きます。あと、辺境にいる姉にも。……両親には、期待してません。祝福の言葉を貰ってきたから俺の気持ち次第だって言われたんですけどね」
「うん」

きっと貴族らしい貴族なら、ヴァンが会いに行った時点でなんとなくうまくやってくれているような気がしたけれど、祝福の言葉を貰ってきて、セオの気持ち次第だって言うなら本当にうまくやってきたんだろう。
貴族らしい貴族というなら、肩書きや資産にはこだわるはずだし、ヴァンならどちらもクリアしてる。

「式をあげるの、手伝うからね」
「ええ?!俺等のはいいんですよ、そんな時間もないですし。レン様自分の結婚式のこと考えてください」
「………」

時間がないと言われると、たしかに今は時間がないのかもしれない。
せめてステラのお試し期間が過ぎて、数日セオの代わりが務まるくらいにならないと休暇もあげられない、か。

この話はまた今度にしよう。

その代わり、皆に知らせたあとで、イアンにこっそりお祝いのケーキをお願いしよう。
うん、それがいい。

「あ、ねえセオ───」
「はい、今日も可愛いレン様の出来上がりです。はい、なんですか?」
「うん、ありがとう。えっと、話は全然変わるんだけれどね、アレックスが警備隊長さんに会う前に僕に話したいことがあるって言ってたんだけれど、セオ何か聞いてる?」
「あー……はい、爺さまから聞いてます。でも、レン様がアレックス様からお聞きするときは、俺も一緒に聞くようにって先ほど言われてもいますよ」
「そうなの?」
「はい。今俺からお話しすることは出来ませんが」
「あ、うん。そこは大丈夫」

「俺は、レン様なら平気な気がしてます」

なんだかより『いったいどんな話だろう?』って謎が深まっただけみたいだ。
セオに促されて、食堂を目指す。

まあ、いいや。
まずは、マーティンの朝ごはんを美味しくいただこう。
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