異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-408- 占い師ソレイユ アレックス視点

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「ソレイユ、これは……」

ソレイユが差し出してきたのは、金の細工が繊細で美しい細身のバレッタだった。
エメラルドは5粒。
その全てがピアスと同等の大きさだが、色もまたピアスと同等だ。
バレッタにしては小ぶりだ。
俺の小指ほどしかない。
だが、普段レンの髪を飾るにはこのくらいの大きさの方が品が良く飾りやすいだろう。

私から、と言えども、これをなんの見返りもなく貰うわけにはいかない。

領主である俺のところには、毎年多くの祝い品というものが届く。
領が誕生した日、収穫祭、そして俺の誕生日だ。

普段高価なものを受け取らない俺は、この3日間だけは受け取ることとした。
これは、祖父さまに倣っている部分が大きい。
祖父さまの場合は、領が誕生した日、収穫祭、祖母さんとの結婚記念日、互いの誕生日、の5日あったが。

それらはただ貰うだけにはいかないので、何かしらの“対価”を渡している。
大体が、俺の直筆での感想と感謝の文、そして品が良い新商品に対しては販路の橋渡しなどもしている。


レンとの結婚はまだお披露目をしていないので、常識の範囲内のものなら受け取るとしているが、高価なものは結婚式をあげてからにしたい。
話しが上がった際には、その意向を伝えるようにしていた。

改めてみると、このバレッタはとても美しい出来だ。
もしかしなくとも、ブローチとピアスの台座を施した職人の手で作られたものだろう。
欲しいか欲しくないかと聞かれたら、欲しいに決まっている。
レンに絶対に似合うはずだし、この色を領内で着けられるのは、レンか祖母さんかしかいない。

「とても素敵な品だが、きちんと支払う」
「いいえ、アレックス様。こちらは、私からレン様への感謝の気持ちです」
「しかし───」

「この石は、受け取った石のあまりの一部です。グレース様は、『余った石は好きにお使いなさい』と仰いました。
ですから、元手はそこまでかかっていません」
「感謝、とは?俺のもとに来たことへの、か?」

領民の殆どが俺が結婚しないことを半ばあきらめていたに違いない。
レンとの結婚は本当に奇跡であって、来年の結婚式前後はお祭り騒ぎになることだろう。
既にレンが嫁いできたことで、領内はより明るくなっているし、誰もが歓迎ムードだ。
レンの人柄によるものが大きいが、俺自身だけでなく、家の者も領の者もとても喜んでくれているのを肌で感じている。

「いいえ、レン様ご自身がこの地へ来られたことへの感謝です。
……近い内、今までにないほどの厄災が訪れるでしょう」
「それは、石が教えてくれたのか?」
「ええ。ですが、レン様が来られたことを知ったのは、来られてからです。
レン様が来られることを、石は教えてくれませんでした」

そういうことは、今までにもあったようだ。
曰く、“突如訪れる異質”なのだと。

「その厄災とレンとが来たことに、どういう関係が?」
「レン様が来られてから、未来が変わりました」

ソレイユが言うことは、こうだ。
ある時を境に、占う者占う者、皆同じ時期に大変な目に合うことが分かった。
それも、同じ理由で、だ。
中には死を迎えている者もいたという。

ソレイユの占いの顧客は、貴族と商人が殆どだ。
ただ、ピアスとブローチを購入する客については、占いを無料としているらしい。

で、それらの者たちが皆、同じ時期に同じタイミングで同じ理由をもって苦しむ未来が見えだした。
その理由が、全員が全員“飢え”だという。

勿論、ソレイユはその占いの答えを顧客本人の誰にも明かしたことはなかった。
だが、近い内訪れる未来に恐れを抱いたという。

その未来が、レンが来た後から急に変わりだしたらしい。

厄災は訪れることに変わりない。
大変な時期を迎えることは迎える。
だが、被害が最小限で済み、飢餓は訪れることなく、更に復興に向けて皆未来の表情は明るかったと言うのだ。
これには、レンが大きく関わっていると言う。

「飢餓の原因は?」
「わかりません。私が見えるのは石を通して、相手の未来の一部分に過ぎないのです。
未来はいくつもあり、その時々の選択により変化するものです。
今私が占い師として言えることは、“レン様がエリソン侯爵領の未来を変えた”ということだけです。
もしかすると、レン様ご自身が直接行うことではないかもしれません。
レン様が来られたことで、誰かが何かを成し遂げるのかもしれません。
ですが、レン様の存在が私の見える未来を変えた、ということだけは確かなことです」

未来はいくつもあり今の選択と行いによって変わるとソレイユは言う。
良くなることもあれば、悪くなることもある、と。

ソレイユの言うことは、わかる。
過去は変えられないが、未来はいくらでも変えられるものだ。
俺もそう思う。

ソレイユの占いは、当たることもあれば外れることもある。
理由は、今のままではこうなる未来が見える、からだ。

これは、占い師によって様々だろう。
どんな原理だか理屈だかはわからないが、未来の変わらない占い師というのも存在するらしい。

「ですから、これはその感謝の気持ちです。
占いをアレックス様は心から信じていないでしょう?」
「まあ、確かに」

俺は、未来は自身で切り開いていくものだと思っている。
占いを聞くことで、その思考を変えられるのを好まない。
自分自身の考えが揺らぐ気がしちまう。

「だが、否定する気もない。
どうせならいい時期に新しい事業を始めたいと思う者の気持ちも、良縁に恵まれるためにどうしたらいいか自分では見いだせないと思う者の気持ちもわかる。
占いに頼ることで、それらが解消され、自身が前向きに希望を見いだせるならばそれはそれでその者にとっていいことだろう」
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