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本編

-404- 僕の役目

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「レンはあいつの嫁だ。あいつがそれでいいって思ってるんだろ?お前の理想をレンに押し付けるな」

お父様に言われて、セバスが息を飲んで眼を見開いたのがわかった。
お父様の言い方はかなり辛辣な気がするけれど、あながち間違いでもない。

ただ、言葉選びは、ものすごく意地が悪い。
的確に、より相手にダメージを与えるものをチョイスしてきた。

それは、アレックスと僕に対する優しさからでもあるはず。
あとね、お父様も僕自身を認めてくれているようでちょっとだけ嬉しくなった。


セバスの理想を押し付けないで、とまでは思っていない。
セバスは良かれと思って言ってくれているのがわかるから。

エリソン侯爵の夫人として、アレックスの横に立つに相応しい夫人として、どうあるべきかを教えてくれているだけだ。
それが、“セバスの理想”と言うなら、それも間違いじゃないと思う。


「レン様……申し訳ございません」

あ、セバスが深く頭をさげちゃった。
謝罪が欲しいわけじゃないし、謝る必要なんてないんだけれどな。
僕の考えを分かって欲しかっただけで。

でも、お父様に言われて、セバス自身が自分に非があるって思っちゃったみたいだ。
そうじゃないと、セバスは謝ることなんてしないって前にアレックスが言ってたもん。

「ううん、謝らないで。
セバスは、アレックスの横に立つに相応しい夫人として僕がどうあるべきかをいつも考えて教えてくれて、感謝してるんだ。
僕自身が、まだ慣れていないことがたくさんあるし知らないこともたくさんあるから、これからも教えて欲しいし、駄目なところは駄目だって遠慮なく言って欲しい。
うーん……『どうぞー』が駄目なら、今度からノックされたら『はーい』って返事だけにする。『どうぞー』は心の中だけで言うよ。それならいい?
この家で迎い入れるときにね、相手に委縮されたくないんだ」

「レン様……」

「だって、エリソン侯爵夫人だよ?それだけで、相手にプレッシャーを与えているでしょう?」

それに、アレックスがいるから。
アレックスは優しい、もの凄く優しい。
領民に寄り添って、指示するだけじゃなくて、自らも進んで動くくらいだ。

けれど、鋭い見た目と闇属性で、一部には恐れられているし、いくら慕われていたとしても緊張感をあたえる存在だ。
なら僕は、その緊張感を少しでも中和する役目でいたい。
委縮して話したいことも話せないような状況を作りたくない。

「アレックスの隣で、僕がより緊張感を与えるより、その緊張感を中和出来る存在でいたい。
アレックスが、見た目で誤解されちゃうこともまだあるでしょう?
ずっとエリソン侯爵領で育った人は兎も角として、新しく越してきた人たちには、よりそういう誤解を与えちゃうこともあると思うんだ。
僕は僕らしいやり方でアレックスを支えたいなって思ってるよ」

「レン様はお若いのにいつも深い考えをお持ちですね。出過ぎた真似を致しました」
「出過ぎてないよ?セバス自身が遠慮しちゃったらそれこそ嫌だからね?思うことがあったら今日みたいに言ってね?
セバスが言ってくれることは、僕の方が駄目な時の方が多いんだし、その時その時で僕もちゃんと考えるから」
「畏まりました」

セバスに笑顔が戻った。
よかった、空気も和らいだみたいだ。


「お父様、ありがとう」
「ん?俺は思ったことを言っただけだ。礼には及ばんぞ」
「そうだよ、蓮君!ルカは人の心を抉っただけだからね、寧ろ怒っていいと思う!」
「ふふっ」

ふんすっと鼻息荒く渚君が力説してくる。
公爵という立場でありながら帝国の結界を一人で守るお父様に、これだけ遠慮なく物を言えるのは、渚君だけだろうな。
渚君が怒っていても、お父様が渚君を怒っているところは見たことない。

渚君自身、お父様を『とても誤解されやすいけれど、すごく優しい人だ』と言っていた。
僕もそう思う。


お父様が言わなかったら、たぶん、セオが何かしら言ってくれたんだと思う。
でも、お父様と渚君がいる時にそれはなるべく避けたかったんだ。

思ったことを言っただけというなら、本当にそうなんだろうけれど。
でも、僕はお礼を言いたかったから、『ありがとう』は本心だ。


「───失礼します」
「え?」

何かに気が付いたようにセバスが出ていくのを目に、渚君が自分の言動が原因だと慌ててしまう。
でも、それは違う。
セバスは単に急いでいただけだと思う。

「ああ、アレックス様が予定より早くお戻りになったのでその出迎えに行っただけですよ」
「そっか、良かったあ」
「ぶはっ!渚は本当に感情が忙しいな」
「っ!?もー!大っ体がルカのせいだからね?」
「ははっ」

セオの言葉に、ほっと溜息をつく渚君。
そんな渚君を見て、面白そうに笑うお父様。
笑ったお父様に、渚君はぽかぽかと拳を入れる……拳というか、まるで肩たたきだ。
あ、方じゃなくて胸元だから胸叩き?
うん、確かに感情が忙しそうだ。
でも、とても微笑ましい。

「セオ、アレックスすぐに来られそう?」

何か急を要することがあったのかな、って、逆に僕は少しだけ心配になった。

「少しお時間がかかるかもしれませんね。ただ、深刻な話はされていませんので、レン様は心配されずにこのままお待ちください」

特に緊急に対処しなくちゃいけない何かがあった訳じゃないみたいだ。
問題が起こった訳じゃないことに、ほっとする。

「うん、わかっ───」
「俺と渚のことは気にせず、出迎えに行っても良いぞ?」
「っ!?」

『わかった』と僕がセオに伝えるより前に、お父様は意地悪く笑いを浮かべて口を開いた。

良いぞ?と言いながら、両手で軽く空を抱き寄せて、目を閉じて唇を尖らせる。
『おかえりなさい』の僕の真似なんだろうけれど。

「「っ全然似てないよ!」」
「ぶはははっ!」

僕と渚君の精一杯否定する声が重なった。

お父様は大笑いしてるし、ステラも面白そうに笑ってる。
それに、セオも顔を背けてるけれど吹き出し笑ってる。

もう、失礼しちゃう。
え……待って。
セオとステラが笑うってことは、ちょっとは似てたってこと?
嘘でしょ?
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