上 下
399 / 440
本編

-403- 求められる品格

しおりを挟む

「以前から申し上げようか否か迷っておりましたが、やはりここはちゃんとお伝えしておこうかと」
「うん、どうしたの?」

前置き長いなとか、以前から思っていたら迷ってないで言って欲しかったな、とか、若干そんなことを思いながらセバスを見る。
セバスは……うん、僕が駄目な子みたいな表情だ。
今の流れの何が行けなかったのかが、僕にはよくわからないから勿体ぶらないでちゃんと教えて欲しい。
僕だって、流石に言われたらちゃんと次から気を付ける。

「レン様、相手が誰か分からないうちに、入室を許可してはなりません。
『はい、どうぞー』とは、どうぞお入りくださいという意味に捉えられます」
「でも、ノックの仕方はセバスだったよ?」

そう言うと、お父様とステラから面白そうな笑いが漏れた。
勿論笑い方は全然違う。
お父様は綺麗な顔して『ぶはっ!』と下品に吹き出してるし、ステラは上品に『ふふっ』と微笑ましそうに笑う。
今のどこがおもしろかったのか分からないけれど、お父様とステラの笑いのツボは似てるのかもしれない。

「それでもです。もしかしたら、私に似せているかもしれないでしょう?」
「……この家で?」

この家でそんな人いないでしょ?と思って問うと、またふたりから笑いが漏れ、更に今度は上からも笑いが降ってくる。
もう、セオまで。
主人が小言を貰っているのにそれを見て笑うなんて、ちょっと失礼じゃないかな?なんて思っちゃう。
けれど、おかげで深刻そうな雰囲気は全くないから、かえって良かったと思うことにした。

「習慣というものは、行動の積み重ねでございます。外でも同じことをなさったら困るでしょう?
それに、私だからとて、ステラを連れてきたとは限りません。
扉を開く前にきちんと相手を確認し、その後で入室の許可を出してください。
そこで笑っていますが、セオ、確認はあなたの仕事ですよ」
「俺は耳が良いんで。流石に違ったらご歓談中でも先に伝えてます」

確かにセオは耳が良いから、二人きりの時ならノックがされる前に誰が来たかを教えてくれることが多い。
相手の目に見えないだけで、確認はしてくれてるよね。
今日みたいに、僕が誰かと会話をしている時には、割って入りまではしないだけだ。
その必要があるなら『お話し中失礼します』とワンクッション置いてくれる。

うん、問題ないって僕が思った時には、セバスから盛大なため息が漏れた。

「求められる品格というものがございます」
「アレックスはそのままで良いって言ってくれるよ?寧ろ、アレックスの前でやると、いつものレンで居てくれって言われたでしょう?
求められる場では、侯爵夫人らしくするから、その時だけじゃ駄目かな?」
「………」

あんに、今は必要ないよね、と言ってるようなものだ。
自分で扉を開けないってことにやっと慣れてきたところなんだもん。
セバスは渋ってるみたいだけど、普段から窮屈じゃ疲れちゃうよ。

アレックスだって、ノック音がセバスだったら、確認してないことの方が多いよね……って、思ったけれど、セバスがノックしてるのを分かって『なんだ?』とか、『来たか』とか言うだけで、いきなり『入れ』とは言ってなかったような気もしてきた。

「アレックスと一緒の時は、いつもアレックスに任せてるでしょう?」
「うーん……」

セオが、笑いながら首を捻ってくる。
え?違ったかな?

「気が早ってレン様が先に返事されてる時もちょいちょいありますね」
「え、そうだった?」
「はい。でもアレックス様は微笑ましく思ってるだけだと思いますよ。俺の許可無く開けるなとは言われていないでしょう?『自分以外に極力肌を見せるな』と言われたかもしれませんが」
「あ……そうだった」

そんなこともあったっけ、なんて思い出す。
セオが部屋から退いてからアレックスに注意された事だけど、あの時セオの耳には当然届いてたよね。

「その時だけと仰いますが、出来ないでしょう」
「出来るよ」
「………」
「僕は出来るよ?寧ろ、その方が出来る気がする。孤高な侯爵夫人の“レン様”を演じてる時なら、躊躇もないと思う。言葉も所作も物事の捉え方も、僕とは全然違うでしょ?」
「………」

セバスが黙っちゃった。
許されるところでは、僕でありたい。
もちろん、領の外では気をつけるつもりだし、隙を見せないように演じる気満々でいる。

「別に良いんじゃないか?」

それでも駄目かな?って思った時、意外にも助け舟はお父様から出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女
BL
過去の虐待のトラウマから、怒鳴られると動悸がしてしまう子が過呼吸を起こす話

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...