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本編
-403- 求められる品格
しおりを挟む「以前から申し上げようか否か迷っておりましたが、やはりここはちゃんとお伝えしておこうかと」
「うん、どうしたの?」
前置き長いなとか、以前から思っていたら迷ってないで言って欲しかったな、とか、若干そんなことを思いながらセバスを見る。
セバスは……うん、僕が駄目な子みたいな表情だ。
今の流れの何が行けなかったのかが、僕にはよくわからないから勿体ぶらないでちゃんと教えて欲しい。
僕だって、流石に言われたらちゃんと次から気を付ける。
「レン様、相手が誰か分からないうちに、入室を許可してはなりません。
『はい、どうぞー』とは、どうぞお入りくださいという意味に捉えられます」
「でも、ノックの仕方はセバスだったよ?」
そう言うと、お父様とステラから面白そうな笑いが漏れた。
勿論笑い方は全然違う。
お父様は綺麗な顔して『ぶはっ!』と下品に吹き出してるし、ステラは上品に『ふふっ』と微笑ましそうに笑う。
今のどこがおもしろかったのか分からないけれど、お父様とステラの笑いのツボは似てるのかもしれない。
「それでもです。もしかしたら、私に似せているかもしれないでしょう?」
「……この家で?」
この家でそんな人いないでしょ?と思って問うと、またふたりから笑いが漏れ、更に今度は上からも笑いが降ってくる。
もう、セオまで。
主人が小言を貰っているのにそれを見て笑うなんて、ちょっと失礼じゃないかな?なんて思っちゃう。
けれど、おかげで深刻そうな雰囲気は全くないから、かえって良かったと思うことにした。
「習慣というものは、行動の積み重ねでございます。外でも同じことをなさったら困るでしょう?
それに、私だからとて、ステラを連れてきたとは限りません。
扉を開く前にきちんと相手を確認し、その後で入室の許可を出してください。
そこで笑っていますが、セオ、確認はあなたの仕事ですよ」
「俺は耳が良いんで。流石に違ったらご歓談中でも先に伝えてます」
確かにセオは耳が良いから、二人きりの時ならノックがされる前に誰が来たかを教えてくれることが多い。
相手の目に見えないだけで、確認はしてくれてるよね。
今日みたいに、僕が誰かと会話をしている時には、割って入りまではしないだけだ。
その必要があるなら『お話し中失礼します』とワンクッション置いてくれる。
うん、問題ないって僕が思った時には、セバスから盛大なため息が漏れた。
「求められる品格というものがございます」
「アレックスはそのままで良いって言ってくれるよ?寧ろ、アレックスの前でやると、いつものレンで居てくれって言われたでしょう?
求められる場では、侯爵夫人らしくするから、その時だけじゃ駄目かな?」
「………」
あんに、今は必要ないよね、と言ってるようなものだ。
自分で扉を開けないってことにやっと慣れてきたところなんだもん。
セバスは渋ってるみたいだけど、普段から窮屈じゃ疲れちゃうよ。
アレックスだって、ノック音がセバスだったら、確認してないことの方が多いよね……って、思ったけれど、セバスがノックしてるのを分かって『なんだ?』とか、『来たか』とか言うだけで、いきなり『入れ』とは言ってなかったような気もしてきた。
「アレックスと一緒の時は、いつもアレックスに任せてるでしょう?」
「うーん……」
セオが、笑いながら首を捻ってくる。
え?違ったかな?
「気が早ってレン様が先に返事されてる時もちょいちょいありますね」
「え、そうだった?」
「はい。でもアレックス様は微笑ましく思ってるだけだと思いますよ。俺の許可無く開けるなとは言われていないでしょう?『自分以外に極力肌を見せるな』と言われたかもしれませんが」
「あ……そうだった」
そんなこともあったっけ、なんて思い出す。
セオが部屋から退いてからアレックスに注意された事だけど、あの時セオの耳には当然届いてたよね。
「その時だけと仰いますが、出来ないでしょう」
「出来るよ」
「………」
「僕は出来るよ?寧ろ、その方が出来る気がする。孤高な侯爵夫人の“レン様”を演じてる時なら、躊躇もないと思う。言葉も所作も物事の捉え方も、僕とは全然違うでしょ?」
「………」
セバスが黙っちゃった。
許されるところでは、僕でありたい。
もちろん、領の外では気をつけるつもりだし、隙を見せないように演じる気満々でいる。
「別に良いんじゃないか?」
それでも駄目かな?って思った時、意外にも助け舟はお父様から出た。
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