異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

文字の大きさ
上 下
397 / 445
本編

-401- 黒い宝石

しおりを挟む
「ありがとう」
「いえ……それではお茶が飲めませんね。今箱をご用意いたします」
「うん」


お茶を前に出されてお礼を言うと、セバスは僕の手にまた目を落として席を外す。
たしかに、このままじゃお茶は飲めないし、気軽にテーブルの上に転がすことなんてもっと出来ない。

それにしても、ずっと見ていたくなる石だ。
これがアレックスの耳と胸元を飾ると思うと凄く嬉しい。

「そういえば、これ、ダイヤじゃないよね……なんていう石なの?」
「マスグラバイトだ」
「マスグラバイト……」
「ああ。山になった中に一つだけあってな、それを加工した。知られていない石だが価値はある。そこは偽装していない」
「偽装されてるのは、産地だけ?」
「ああ。さすがに外じゃマズいだろうからな。産地偽装はセバスにも見えないぞ。伝えるのは自由だ」
「うん。ありがとうお父様」

マスグラバイト、なんて宝石の名前を僕は知らなかった。
元々そこまで宝石に明るくない。
元の世界にもあるのか、それともこの世界特有なものなのかもわからない。
でも、お父様が価値があるっていうんだから相当価値のあるものなんだろうな。
少なくとも、アレックスがこれをつけて周りから侮られないくらいには価値のあるものなんだろうと思う。

「そうだ、他の石はちゃんと戻してきた?」
「いくつか加工して手元にあるぞ。付与魔法の練習用にあった方がいいだろ?」
「あ、そっか。うん、やってみたい」
「必ずしも価値のある宝石が魔力をためやすいというとそうでもないからな。
種類別にいくつか用意してある」
「黒い宝石だと、どんな石が魔力をためやすいの?」

「そうだな……黒翡翠がいい。ブラックダイヤは、そいつにやったんだろう?」
「うん」

そういってお父様は、テーブルの上にコロン、と出してきた。
ブラックダイヤと比べるんだから、それなりに価値のあるものなんだろうな。

「黒翡翠は、石その物のランクもあるが、種類にしては価値もまあそれなりにある上に、魔力を込めやすいし、闇属性との相性もいい」
「そうなんだ。ちなみに、安価でためやすいのってある?」
「ふむ……ブラックスピネルなら、お前との相性も良いし、手に入りやすい。スピネル自体は平民の髪飾りにも良く使われるくらい安価だ」
「なら、孤児院の子供たちへ贈るのも大丈夫かな?」
「ああ、問題ないぞ。足りなければ用意してやる」
「うん」

付与が上手くできるようになったら、みんなの分を作ってあげたいな。

「……来たか」

お父様の呟きと同時、扉のノック音が聞こえてセバスが入ってくる。
箱って言ってたから、前にコインを入れていたようなベルベット地の箱を思い浮かべていたんだけど、セバスが持ってきたのは見事な金細工のアンティークな宝石箱だった。
猫足なのが可愛い。
僕の手のひら分の大きさだ。

「こちらへ」
「ありがとう、セバス。綺麗でしょう?すごくアレックスに似合いそう」
「左様ですね。とても珍しい石のようですが、レン様のお色そのものでございます。アレックス様もさぞお喜びになることでしょう」
「うん。交換するまで保管してもらってもいい?」
「もちろんでございます」

目に届く場所にずっとあるのはなんだか不安だ。
誰も取りはしないのは分かってる。
でも、僕の空間に収納するんじゃなくて、ちゃんと家に保管してもらいたいって思ったんだ。

「セバス」
「はい、如何しましたか?」
「セバスには、ちゃんと伝えとこうと思って。この石の産地は、本当はエルフ族の山奥じゃなくて、お父様がそう見えるように偽装を掛けたんだって」
「……」
「そう心配せずとも大丈夫だ、誰にも分からない」

セバスが黙るのを目に、お父様が面白そうににやりと笑った。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。 ※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します! ※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。

処理中です...