396 / 441
本編
-400- 突然の訪問二回目
しおりを挟む
ティッセルボナーを見送って、セバスとセオからエリソン侯爵領の色々を教えて貰おうと書斎に入った時だった。
セオが、変なタイミングで口を閉ざす。
「セオ?」
「爺さま───」
「先に出迎えますので、セオはレン様と共に」
「わかりました───レン様、スペンサー公とナギサ様が来られました」
「え?もう?」
「はい、もうです」
誰か来たのかな?出迎えるって何だろう?って不思議に思ったらすぐにセオが教えてくれた。
まだお昼にもなっていない。
今日は随分と早い到着だ。
僕もセオに促されてエントランスホールへと足を運ぶ。
「何か急ぎのことでもあったのかな?」
「あー…ナギサ様の感じでは、それはなさそうですね」
「そっか」
大分ほっとする。
セバスの顔もセオの声も硬かったから
何か良くないことでもあったのかと思っちゃった。
「あ。今からマーティンに言ってお昼追加したら間に合うかな?」
あと一時間ほどでお昼になる。
着々と準備してくれているだろうけれど。
「レン様が次に気にするところはそこなんですねー」
「うん。変かな?」
「いいえ、全然変じゃないですよ?マーティンのおっさんならなんとかして間に合わせるでしょ。
先に爺さまが出迎えてますし、途中アニーさんとステラさんに指示もしてますね、安心してください」
「良かった」
「爺さまは家に誰か入られたら魔力の変動ですぐにわかっちゃいますからねー。
普通突然の訪問や緊急時の際は、使用人からその旨レン様に伺いを立てて、レン様が指示を出されて動くのかもしれません。
ですが、同じようなことがあっても、爺さまが健在なうちは今日と変わらない流れになります」
「頼りになるね」
若干申し訳なさそうにセオは言うけれど、セバスが元気な間に僕の侯爵夫人としての振舞いを見に付ければいいわけで。
それは、まだすぐにじゃない。
時間がある。
ずっと、アレックスは一人でいるつもりだっただろうから、この家の使用人もその心構えでいたはずだ。
だから、アレックスがいない時は緊急時にセバスが全部の指示を出していただろう。
僕がいたとしてもそれでいいなら、僕もその方が助かる。
手間と時間が増えるだけだから、変に僕に合わせる必要はないと思うんだ。
ケースバイケースだと思うし、今後は変わるかもしれないけれど、僕にとっては別に誰が偉いとかの順番なんてどうでもいい。
緊急時の時は、咄嗟の判断の迷いが危険に繋がることもある。
そのタイミングは、僕の気持ちより、みんなの安全面を優先したい。
階段の上からでもエントランスホールのやり取りが聞こえてきた。
お父様とセバスが、まるでコントのような会話をしてる。
早く到着したお父様は、セバスに色々言われてもいつも通りだ。
申し訳なさのかけらもない。
ただ、一緒に来た渚君は、もの凄ーく申し訳なさそうな声でセバスに謝っていた。
「随分と、ええ随分とっ!お早いご到着で。次は何事かと些か鼓動が早まりました」
「少し早まったくらいどうってこともないだろうが。それと、これくらいでお前の命は縮まないから安心するがいい」
「また驚かせてごめんなさいっ!緊急事態じゃないんです。でも、ルカが早い方が良いはずだって聞かなくて」
「渚がうるさく言うから3時間も待ってやったぞ」
「約束もしないで朝早く行ったらもっと迷惑だよ!」
「渚様、お気遣い痛み入ります。大変助かりました」
「いいえ、そんな!……あ、蓮君!」
「いらっしゃい、渚君、お父様」
「突然早く来ちゃってごめんね」
「ううん、何か悪い知らせとかじゃなくて良かった」
「うん、むしろ良い知らせだよ。ね、ルカ!」
「ああ」
良い知らせなんだ?
なんだろう?
空間魔法の付与の件かな?
「良い知らせって何?」
「まあ待て。座ってから話をしてやる」
「うん、お部屋に案内するね」
お父様は、いつもと変わらない態度だ。
ただ、ちょっともったいぶってる感じがする。
それがなんだか珍しい。
セオとセバスの案内で、談話室に移動する。
3時間前じゃなくて良かった。
掃除は魔法で行き届いてるとはいえ、朝の時間は何かと忙しい。
主に、セバスとアニーが、だ。
新人の皆がやってくる時間と被ってバタバタしちゃうのが目に見える。
「レン、両手出せ」
「手?」
「じゃなくて、逆だ、手のひらを出せ」
「はい」
僕らがソファに座ったのを見届けてから、お茶を入れるのにセバスが下がった。
それを合図に、お父様が唐突に言い放つ。
なんだろうと、手の甲を差し出すと裏返すように言われた。
裏返した僕の手のひらに、お父様が空間から取り出したんだろうブローチとピアスをのせてきた。
最初は何かわからなかったから、零れ落ちないように慌てて手のひらの隙間を埋めた。
「出来だぞ、やる」
「これ……アレックスの?」
「そうだ」
「すごく綺麗だ……」
むき出しでのせられたものは、本来こんなふうに素手でぽんと渡すなんて、気軽に扱っていいものじゃない気がする。
ブローチもピアスも僕の黒なんだけど、黒いのに反射する光が綺麗に入ってるし、光りの色は真っ黒じゃなくて、キラキラと輝いて見えた。
僕がセオに送ったブローチは魔法処理のない天然のブラックダイヤだったけど、これはもっと色が濃いのに光が強い。
ピアスは小ぶりの一粒。
でも、小ぶりなのに、耳にあったら誰しもがつい目にいくほどの輝きがある。
ブローチというか、正確に言うとクラバットピンなのだけど、こっちは大ぶりな一粒に金色のぴかぴかのピンだ。
アンティークで繊細な作りに見える台座だけど、シンプルにも見える。
大ぶりといっても品を損なわないほどの大きさだ。
でも、石の輝く存在感がすごくて、黒なのに圧倒されるのような存在感がある。
とても上品なクラバットピンで、とにかく極上であるってことは、宝石に疎い僕だってわかる。
「ありがとう、お父様。……凄く嬉しい、アレックスによく似合いそう」
「そうか」
なんだか感動してしまって、言葉がうまく出てこなかった。
でも、僕が喜んでいるのが伝わったのか、お父様がとても優しい笑顔になった。
常にフラットというか平然としているというか。
何を言ってもあまり変わらないお父様だから、こんな優しい笑顔も出来るんだなあなんてちょっと驚いた。
一瞬の出来事で、すぐに元の状態に戻っちゃったけれどね。
「集めに集めて数ある中から選んで作ったのがこれだ」
「集めに集め?」
「ノームに極上な黒い宝石を探せと伝えたら、まあ色々集まったんだがな」
「凄かったんだよー!黒い宝石がテーブルの上に山積みだったもん」
「えー?!」
渚君の山積み発言にびっくりして思わず声が上がる。
数ある中って、精々10個とか20個とか、そのくらいかと思ったよ。
「ノームのおじいちゃん…あ、ノームっていう名前の見た目がおじいちゃんな精霊さんなんだけれど、ルカに言われて、ありとあらゆる場所を探したんだって」
ありとあらゆる場所……え、それってまさか帝国内だけじゃなくて?
───うん、とにかくものすごーく貴重な石だってことはわかった。
『実際探すのは精霊だと思うが』……ってアレックスも言ってたもんね。
おじいちゃんが一生懸命探しているところを想像したら、なんだかちょっと気の毒に思えた。
「あいつは渚の前で甘えていただけだぞ。実際集めたのはその配下だろう。
現に石ころも一緒に混ざってただろうが」
「えー?でもノームのおじいちゃんも、過去一番頑張ったって言ってたよ?」
「ふん。どうだかな」
「もー……。あ、蓮君、この石はね、ルカと僕とルカの精霊さんたちみんなで選んだ石なんだよ」
「渚君も選んでくれたの?」
「うん!なんたって、僕が一番蓮君の瞳の色を知ってるからね!」
渚君が、満面の笑みで自信ありげに答えてくれた。
僕の大ファンで、鬼押しとまで言ってくれるくらいだ。
もしかしたら僕が自分で選ぶよりもずっとわかっているかもしれない。
きっと気合をいれて真剣に選んでくれたんだろうなあ。
「渚君、とても素敵な石を選んでくれてありがとう」
「うん、やっぱりこの石が蓮君と一番近い色だね!」
「ねえ見て、セオ。すごく綺麗」
「ええ、見てますよ。やー……なんていうか、これは凄いですね。
俺がレン様からめちゃくちゃ良いブラックダイヤを先に貰っちゃいましたからねー実はちょっと心配してたんですけど」
「杞憂だったね?」
「ですね。……これ見たことない石ですけど、鑑定されたらマズい石とかじゃないですよね?」
鑑定されたらマズい石っていうと、産地が帝国内じゃない可能性ってことかな?
確かに、ありとあらゆる場所を探したなんて言ってたけれど。
僕とセオが一緒にお父様を見ると、お父様はニヤリと笑った。
え、やっぱりマズい場所から見つけてきた石なの?
そもそも、勝手に取ってきて大丈夫なのかな?
ちょっと心配になってきた。
「そこは抜かりない。産地は帝国内に偽装してるぞ。同じものを欲しがる奴もそうそうでない場所だ、安心しろ」
お父様以上に魔力の高いものが帝国内にはいない。
産地偽装に選ばれた土地は、エルフ族の土地、山脈奥深くだそう。
エルフ族の地は不可侵条約が結ばれているから、取引はしていないことになっているんだとか。
していないことになっている───というのに、ちょっと引っ掛かった。
お父様の言い方だと、もしかしたらこっそり繋がりのある人がいるかもしれない。
「アレックスがこれをつけてくれるところが早く見たいな」
「それは、一緒につけましょうね。レン様がつけられる石ももうすぐ出来上がるそうですから」
「なんだ、グレースは先に用意してなかったのか?」
お父様がびっくりしたように声をあげた。
「石は随分前に用意されていたようですが、台座のデザインにも拘られたみたいですね。仕立ての加工職人も腕の良い方にお願いしているので少しお時間がかかっているそうです。今月中には届くと聞いています」
「なるほど」
セオの説明に、お父様が納得して一度頷いた。
お時間がかかってるっていったって、僕がここに来てから一カ月も経ってない。
あーでも、お父様はせっかちだな人だからなあ。
「僕とアレックスが石をつけたところ、お父様にも見て欲しいな」
「ああ、お前のが届いたらすぐにつけろ」
「うん」
あ、もしかして午前中に来てくれたのは、お昼にアレックスが戻ってきた時に付けられると思ったからかもしれない。
今日の三時のお茶は、アレックスが戻ってこない日だ。
エリー先生とお父様とダンスのレッスンをして、お茶をする日。
アレックスがこれをつけるところを楽しみにして来てくれたのかも。
だとすると、お父様のびっくり加減も午前中に来てくれたのもわかる気がする。
ちょっとお待たせしちゃうけれど、楽しみにしてくれているんだなってわかったことが嬉しい。
「なんだ、その顔は」
お父様が僕を見て、怪訝そうに眉を寄せる。
こんなに整った顔でこんな表情をされたら普通の人は恐怖を感じるかもしれない。
でも、僕はもうお父様に色々と慣れた。
それに、とても優しい人だってことも、アレックスを本当の息子のように大切にしている人だってことも十分に分かってる。
「ん?ふふっなんでもない」
「なんでもないのにそんな顔はしないだろうが」
「え?んー……ただ、お父様も楽しみにしてるんだなって思ったら嬉しくて、つい」
「なんだそれは」
「もールカ!そういう言い方良くないよ!」
鼻で笑うお父様に向かってすぐさま渚君が叱る。
怒るっていうより、叱るっていう言葉がしっくりくる。
叱られたお父様は、いつもどこか楽しそうだ。
お家でもこんな感じなんだろうなあ。
ところで、むきみのまま手のひらにのせてていいのかな?
そう思ったところで、セバスがお茶を持ってきてくれた。
───うん、お茶を入れる手が止まって、僕のてのひらを凝視してる。
「………」
たっぷり凝視してから、ゆっくり息を吐いて落ち着きを取り戻したセバスは、再び優雅にお茶を入れてくれた。
僕が声をかけるか迷ったけれど、いつものセバスに戻ってくれた。
驚きよりもお茶の方を優先してくれたセバスに、思わず心の中で先にお礼を伝えたよ。
セオが、変なタイミングで口を閉ざす。
「セオ?」
「爺さま───」
「先に出迎えますので、セオはレン様と共に」
「わかりました───レン様、スペンサー公とナギサ様が来られました」
「え?もう?」
「はい、もうです」
誰か来たのかな?出迎えるって何だろう?って不思議に思ったらすぐにセオが教えてくれた。
まだお昼にもなっていない。
今日は随分と早い到着だ。
僕もセオに促されてエントランスホールへと足を運ぶ。
「何か急ぎのことでもあったのかな?」
「あー…ナギサ様の感じでは、それはなさそうですね」
「そっか」
大分ほっとする。
セバスの顔もセオの声も硬かったから
何か良くないことでもあったのかと思っちゃった。
「あ。今からマーティンに言ってお昼追加したら間に合うかな?」
あと一時間ほどでお昼になる。
着々と準備してくれているだろうけれど。
「レン様が次に気にするところはそこなんですねー」
「うん。変かな?」
「いいえ、全然変じゃないですよ?マーティンのおっさんならなんとかして間に合わせるでしょ。
先に爺さまが出迎えてますし、途中アニーさんとステラさんに指示もしてますね、安心してください」
「良かった」
「爺さまは家に誰か入られたら魔力の変動ですぐにわかっちゃいますからねー。
普通突然の訪問や緊急時の際は、使用人からその旨レン様に伺いを立てて、レン様が指示を出されて動くのかもしれません。
ですが、同じようなことがあっても、爺さまが健在なうちは今日と変わらない流れになります」
「頼りになるね」
若干申し訳なさそうにセオは言うけれど、セバスが元気な間に僕の侯爵夫人としての振舞いを見に付ければいいわけで。
それは、まだすぐにじゃない。
時間がある。
ずっと、アレックスは一人でいるつもりだっただろうから、この家の使用人もその心構えでいたはずだ。
だから、アレックスがいない時は緊急時にセバスが全部の指示を出していただろう。
僕がいたとしてもそれでいいなら、僕もその方が助かる。
手間と時間が増えるだけだから、変に僕に合わせる必要はないと思うんだ。
ケースバイケースだと思うし、今後は変わるかもしれないけれど、僕にとっては別に誰が偉いとかの順番なんてどうでもいい。
緊急時の時は、咄嗟の判断の迷いが危険に繋がることもある。
そのタイミングは、僕の気持ちより、みんなの安全面を優先したい。
階段の上からでもエントランスホールのやり取りが聞こえてきた。
お父様とセバスが、まるでコントのような会話をしてる。
早く到着したお父様は、セバスに色々言われてもいつも通りだ。
申し訳なさのかけらもない。
ただ、一緒に来た渚君は、もの凄ーく申し訳なさそうな声でセバスに謝っていた。
「随分と、ええ随分とっ!お早いご到着で。次は何事かと些か鼓動が早まりました」
「少し早まったくらいどうってこともないだろうが。それと、これくらいでお前の命は縮まないから安心するがいい」
「また驚かせてごめんなさいっ!緊急事態じゃないんです。でも、ルカが早い方が良いはずだって聞かなくて」
「渚がうるさく言うから3時間も待ってやったぞ」
「約束もしないで朝早く行ったらもっと迷惑だよ!」
「渚様、お気遣い痛み入ります。大変助かりました」
「いいえ、そんな!……あ、蓮君!」
「いらっしゃい、渚君、お父様」
「突然早く来ちゃってごめんね」
「ううん、何か悪い知らせとかじゃなくて良かった」
「うん、むしろ良い知らせだよ。ね、ルカ!」
「ああ」
良い知らせなんだ?
なんだろう?
空間魔法の付与の件かな?
「良い知らせって何?」
「まあ待て。座ってから話をしてやる」
「うん、お部屋に案内するね」
お父様は、いつもと変わらない態度だ。
ただ、ちょっともったいぶってる感じがする。
それがなんだか珍しい。
セオとセバスの案内で、談話室に移動する。
3時間前じゃなくて良かった。
掃除は魔法で行き届いてるとはいえ、朝の時間は何かと忙しい。
主に、セバスとアニーが、だ。
新人の皆がやってくる時間と被ってバタバタしちゃうのが目に見える。
「レン、両手出せ」
「手?」
「じゃなくて、逆だ、手のひらを出せ」
「はい」
僕らがソファに座ったのを見届けてから、お茶を入れるのにセバスが下がった。
それを合図に、お父様が唐突に言い放つ。
なんだろうと、手の甲を差し出すと裏返すように言われた。
裏返した僕の手のひらに、お父様が空間から取り出したんだろうブローチとピアスをのせてきた。
最初は何かわからなかったから、零れ落ちないように慌てて手のひらの隙間を埋めた。
「出来だぞ、やる」
「これ……アレックスの?」
「そうだ」
「すごく綺麗だ……」
むき出しでのせられたものは、本来こんなふうに素手でぽんと渡すなんて、気軽に扱っていいものじゃない気がする。
ブローチもピアスも僕の黒なんだけど、黒いのに反射する光が綺麗に入ってるし、光りの色は真っ黒じゃなくて、キラキラと輝いて見えた。
僕がセオに送ったブローチは魔法処理のない天然のブラックダイヤだったけど、これはもっと色が濃いのに光が強い。
ピアスは小ぶりの一粒。
でも、小ぶりなのに、耳にあったら誰しもがつい目にいくほどの輝きがある。
ブローチというか、正確に言うとクラバットピンなのだけど、こっちは大ぶりな一粒に金色のぴかぴかのピンだ。
アンティークで繊細な作りに見える台座だけど、シンプルにも見える。
大ぶりといっても品を損なわないほどの大きさだ。
でも、石の輝く存在感がすごくて、黒なのに圧倒されるのような存在感がある。
とても上品なクラバットピンで、とにかく極上であるってことは、宝石に疎い僕だってわかる。
「ありがとう、お父様。……凄く嬉しい、アレックスによく似合いそう」
「そうか」
なんだか感動してしまって、言葉がうまく出てこなかった。
でも、僕が喜んでいるのが伝わったのか、お父様がとても優しい笑顔になった。
常にフラットというか平然としているというか。
何を言ってもあまり変わらないお父様だから、こんな優しい笑顔も出来るんだなあなんてちょっと驚いた。
一瞬の出来事で、すぐに元の状態に戻っちゃったけれどね。
「集めに集めて数ある中から選んで作ったのがこれだ」
「集めに集め?」
「ノームに極上な黒い宝石を探せと伝えたら、まあ色々集まったんだがな」
「凄かったんだよー!黒い宝石がテーブルの上に山積みだったもん」
「えー?!」
渚君の山積み発言にびっくりして思わず声が上がる。
数ある中って、精々10個とか20個とか、そのくらいかと思ったよ。
「ノームのおじいちゃん…あ、ノームっていう名前の見た目がおじいちゃんな精霊さんなんだけれど、ルカに言われて、ありとあらゆる場所を探したんだって」
ありとあらゆる場所……え、それってまさか帝国内だけじゃなくて?
───うん、とにかくものすごーく貴重な石だってことはわかった。
『実際探すのは精霊だと思うが』……ってアレックスも言ってたもんね。
おじいちゃんが一生懸命探しているところを想像したら、なんだかちょっと気の毒に思えた。
「あいつは渚の前で甘えていただけだぞ。実際集めたのはその配下だろう。
現に石ころも一緒に混ざってただろうが」
「えー?でもノームのおじいちゃんも、過去一番頑張ったって言ってたよ?」
「ふん。どうだかな」
「もー……。あ、蓮君、この石はね、ルカと僕とルカの精霊さんたちみんなで選んだ石なんだよ」
「渚君も選んでくれたの?」
「うん!なんたって、僕が一番蓮君の瞳の色を知ってるからね!」
渚君が、満面の笑みで自信ありげに答えてくれた。
僕の大ファンで、鬼押しとまで言ってくれるくらいだ。
もしかしたら僕が自分で選ぶよりもずっとわかっているかもしれない。
きっと気合をいれて真剣に選んでくれたんだろうなあ。
「渚君、とても素敵な石を選んでくれてありがとう」
「うん、やっぱりこの石が蓮君と一番近い色だね!」
「ねえ見て、セオ。すごく綺麗」
「ええ、見てますよ。やー……なんていうか、これは凄いですね。
俺がレン様からめちゃくちゃ良いブラックダイヤを先に貰っちゃいましたからねー実はちょっと心配してたんですけど」
「杞憂だったね?」
「ですね。……これ見たことない石ですけど、鑑定されたらマズい石とかじゃないですよね?」
鑑定されたらマズい石っていうと、産地が帝国内じゃない可能性ってことかな?
確かに、ありとあらゆる場所を探したなんて言ってたけれど。
僕とセオが一緒にお父様を見ると、お父様はニヤリと笑った。
え、やっぱりマズい場所から見つけてきた石なの?
そもそも、勝手に取ってきて大丈夫なのかな?
ちょっと心配になってきた。
「そこは抜かりない。産地は帝国内に偽装してるぞ。同じものを欲しがる奴もそうそうでない場所だ、安心しろ」
お父様以上に魔力の高いものが帝国内にはいない。
産地偽装に選ばれた土地は、エルフ族の土地、山脈奥深くだそう。
エルフ族の地は不可侵条約が結ばれているから、取引はしていないことになっているんだとか。
していないことになっている───というのに、ちょっと引っ掛かった。
お父様の言い方だと、もしかしたらこっそり繋がりのある人がいるかもしれない。
「アレックスがこれをつけてくれるところが早く見たいな」
「それは、一緒につけましょうね。レン様がつけられる石ももうすぐ出来上がるそうですから」
「なんだ、グレースは先に用意してなかったのか?」
お父様がびっくりしたように声をあげた。
「石は随分前に用意されていたようですが、台座のデザインにも拘られたみたいですね。仕立ての加工職人も腕の良い方にお願いしているので少しお時間がかかっているそうです。今月中には届くと聞いています」
「なるほど」
セオの説明に、お父様が納得して一度頷いた。
お時間がかかってるっていったって、僕がここに来てから一カ月も経ってない。
あーでも、お父様はせっかちだな人だからなあ。
「僕とアレックスが石をつけたところ、お父様にも見て欲しいな」
「ああ、お前のが届いたらすぐにつけろ」
「うん」
あ、もしかして午前中に来てくれたのは、お昼にアレックスが戻ってきた時に付けられると思ったからかもしれない。
今日の三時のお茶は、アレックスが戻ってこない日だ。
エリー先生とお父様とダンスのレッスンをして、お茶をする日。
アレックスがこれをつけるところを楽しみにして来てくれたのかも。
だとすると、お父様のびっくり加減も午前中に来てくれたのもわかる気がする。
ちょっとお待たせしちゃうけれど、楽しみにしてくれているんだなってわかったことが嬉しい。
「なんだ、その顔は」
お父様が僕を見て、怪訝そうに眉を寄せる。
こんなに整った顔でこんな表情をされたら普通の人は恐怖を感じるかもしれない。
でも、僕はもうお父様に色々と慣れた。
それに、とても優しい人だってことも、アレックスを本当の息子のように大切にしている人だってことも十分に分かってる。
「ん?ふふっなんでもない」
「なんでもないのにそんな顔はしないだろうが」
「え?んー……ただ、お父様も楽しみにしてるんだなって思ったら嬉しくて、つい」
「なんだそれは」
「もールカ!そういう言い方良くないよ!」
鼻で笑うお父様に向かってすぐさま渚君が叱る。
怒るっていうより、叱るっていう言葉がしっくりくる。
叱られたお父様は、いつもどこか楽しそうだ。
お家でもこんな感じなんだろうなあ。
ところで、むきみのまま手のひらにのせてていいのかな?
そう思ったところで、セバスがお茶を持ってきてくれた。
───うん、お茶を入れる手が止まって、僕のてのひらを凝視してる。
「………」
たっぷり凝視してから、ゆっくり息を吐いて落ち着きを取り戻したセバスは、再び優雅にお茶を入れてくれた。
僕が声をかけるか迷ったけれど、いつものセバスに戻ってくれた。
驚きよりもお茶の方を優先してくれたセバスに、思わず心の中で先にお礼を伝えたよ。
67
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
神様ぁ(泣)こんなんやだよ
ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。
『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』
「??あっ!獣人の世界ですか?!」
『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』
「じゃ!可愛い猫耳」
『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』
白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた
「さ、、((クシュ))っむい」
『誰だ』
俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか?
ん?エバ(イブ)って女じゃねーの?
その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾
え?ん?ぴ、ピエん?
修正
(2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?
かかし
BL
会社では平凡で地味な男を貫いている彼であったが、私生活ではその地味な見た目に似合わずなかなかに派手な男であった。
長く続く恋よりも一夜限りの愛を好み、理解力があって楽しめる女性を一番に好んだが、包容力があって甘やかしてくれる年上のイケメン男性にも滅法弱かった。
恋人に関しては片手で数えれる程であったが、一夜限りの相手ならば女性だけカウントしようか、男性だけカウントしようが、両手両足使っても数え切れない程に節操がない男。
(本編一部抜粋)
※男性妊娠モノじゃないです
※人によって不快になる表現があります
※攻め受け共にお互い以外と関係を持っている表現があります
全七話、14,918文字
毎朝7:00に自動更新
倫理観がくちゃくちゃな大人2人による、わちゃわちゃドタバタラブコメディ!
………の、つもりで書いたのですが、どうにも違う気がする。
過去作(二次創作)のセルフリメイクです
もったいない精神
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる