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本編
-398- 一日経って
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「レン様、今日の午前中にティッセルボナーの方々が来ます。
レン様のオーダーしていた三着の最終調整に入るそうです」
「え?もう?三着とも?」
「はい。早くて良かったですねー。これでアレックス様のお下がりを着なくてすみますよ!」
朝の支度をしながらセオが今日の予定を告げてくれた。
今日は、午前中にティッセルボナーの服の調整に入るそうだ。
孤児院の訪問から一日経った。
昨日は本当に楽しい一日だったし、その後も色々と考えさせられた。
エリソン侯爵夫人として僕が出来ることって、これからもたくさんある。
神器としてたけじゃなくて、家の皆にも、領民にも認めて貰いたいんだ。
勿論、みんなアレックスの子供を望んでいるんだろうけれども。
そういえば、子供が出来たらの準備はちゃんとしてくれていても、子供が出来たらの話を先に振られることがなかった。
早くできると良ですねだとか、いつ頃になるでしょうとか、もだ。
ただ、子供が出来ないのなら身体的原因はアレックスにあると聞いている。
プレッシャーを感じる必要は一切ないのは、僕が女性だからじゃなくて、神の実を食べた神器という存在だからだ。
もしかしたら、アレックスは、子供のことで何か言われてるかもしれないけれど、僕には微塵に出さない。
毎日幸せに愛されてるだけだ。
「毎日丈が残念なことになってますからね。レン様はあまり気にされずとも、俺とアニーさんはいつも気になってました」
セオはそう言うけれど、でも、早すぎない?
フルオーダーなのに、もうほぼ出来上がったなんて。
急いでほしいなんて一言も言っていないのにな。
って思ったんだけれど、僕がティッセルボナーの店長だったら何が何でも急ぐ。
出迎えた時に明らかに合っていない服を身に着けていたからだ。
クロッシェには先に越されてしまったが、実際服を着て貰うのはティッセルボナーの店が先でありたい。
今からでも間に合うだろう、急げ!……ってなるよね。
それに、祝賀会の服はクロッシェに取られてしまったけれど、それはあくまで今回限りのことだとも思っていそうだ。
実際そうなのだけれど、出来が良かったら必要な時は毎回お願いしたいと僕は思ってる。
出来上がる順に届く下着やパジャマ、靴下なんかはとても作りが丁寧で、いい肌触りで凄く気に入ったんだ。
でも、あの場で結婚式の服はまだオーダーしていなかった。
祝賀会の服の出来で最終的に決めるってアレックスが言っていた。
そのくらいの情報は伝わっているだろう。
今までエリソン侯爵家御用達のお店がティッセルボナーだったのなら、何が何でも結婚式のスーツを作りたいと思うだろうなあ。
色んな思惑が飛び交っていそうだけれど、僕がどこまで気にすればいいかわからないから、気にしなくちゃいけない時までは、一旦放っておくことにした。
セオは、そんな心配よりも、単純に僕の服が早く手元に来るのが嬉しいみたいだ。
毎回僕が着替える度にちょっと残念そうに笑ってるもんね。
今日もそうだけれど、新しい服が来ると聞いたからかそっちに気がいっているみたいだ。
鼻歌でも歌いそうなセオをぼんやりと眺めながら、僕は孤児院の黒板のことを考える。
朝一番でおばあ様からの手紙が届いたんだ。
朝食の後にセバスから受け取ったのだけれど、綺麗なピンク色の薔薇の描かれている封筒で、便せんもお揃いで、おばあ様の人柄そのものだった。
手紙はなんと封がされていなかった。
たった一日でおばあ様から返事が来たのは、ヴァンがお遣いに出てくれたからだ。
黒板を贈りたい旨を伝えると快く了承してくれたし、何より子供たちがとても喜んでくれたみたいだ。
大きいものを贈りたいことを伝えたので、場所はピアノがあるホールになった。
入って右側、窓に届くまでの長い黒板を作ってもらうことにしたよ。
一番光りが入るし、全員で書いても広いし、何より周りに“レン様からの贈り物”だって示すことが出来るからだそう。
最後のは僕にとってはどうでもいいけれど、子供たちが黒板で勉強したり絵を描いたりしているのを見て貰えるのは良いことだ。
エリソン侯爵領は、平民の教養を底上げしようと頑張っている。
豊かだからこそ出来ること。
子供たちが集まる保育所にはないようだし、そこもあればいいなと思う。
でもそれは、空き家を使ってる場所も多くあるし、まだきちんと全ての保育所が整っていないみたい。
元の世界のようなきちんとした“保育園”には程遠い。
もちろん、領都の一角や、フィーテル内にある保育所は大きくて働く人も多くて、ちゃんとしたところもあるって聞いた。
まだ聞いただけだから、実際にこの目で見てみたいとは思ってる。
僕が出来ることもあると思うんだ。
孤児院だけじゃなくて保育所も回ってみたいし、他の学校にも行ってみたいな。
そんな考えを巡らしているうちに、僕の支度が整っていく。
セオはいつも僕を綺麗にすることに余念がない。
毎日家にいながら、撮影前みたいな感覚だ。
でも、セオは仕事なのにも関わらず、僕の髪をとかすのも、爪を磨くのも、クリームや日焼け止めを塗るのもいつも楽しそうにしてる。
今までの仕事とは違うし面倒じゃないかな?って思わないで済んでるのは、セオが楽しそうにしてるからだ。
「今日は、午後はエリー先生とお父様が来る日だよね?」
「はい。あー……先にお伝えしますと、今日からエリー先生のダンスレッスン時は、ヴァンの演奏が入ります」
「え?そうなの?良かった!」
ヴァンが演奏を出来るとは思いもしなかったな。
あ、でも、ヴァンなら器用だからそこそこなんでも出来そうだ。
「今日はスペンサー公がいらっしゃいますからヴァンだけですが、後の一日はレオンか爺さまが付きます」
「うん、わかった」
「はい、なのでご安心ください」
万が一って、万が一のこともないと思うんだけれど、ヴァンが演奏するにあたって僕のガードが緩むのを良しとしてないってことだよね。
だって、セバスかレオンが付くって、監視役としてって言ってるようなものだ。
伴奏があったほうが良いというのはわかるし、今から選定してたら間に合わないから、妥協策なのかも。
ヴァンもセオから頼まれたら拒むなんてことまずないだろうなあ。
だって、一緒にいる時間が増えるんだからね、仕事中でもセオの姿を目に入れる時間が増えるなら他を切り詰めても時間確保すると思う。
ヴァンだもん。
「ヴァンは何の楽器が出来るの?」
「リュートってわかりますか?」
「リュート?弦楽器だっけ?マンドリンみたいな」
「マンドリンというのを聞いたことがありませんが……はい、弦楽器です。酒場や街の一角で弾く者もいたりしますね」
「なら、多分合ってると思う」
マンドリンはこっちの世界でないみたいだ。
でも、確か、マンドリンみたいな楽器だったと思う。
舞台知識でしかないけれど、一度それっぽいのを目にしたことがあった。
「仕事で使ってたの?」
「はい。寧ろその為に覚えた、と」
「ヴァンらしいね」
諜報のために楽器の一つが出来ていたほうが良かったのかもしれない。
自分自身を偽ることが出来る武器は、多い方が得だ。
仕事で使うのだから、かなり上手いんじゃないかな?
上手いからこそ、セオが打診してくれたんだろうし。
「爺さまが許すくらいには腕がいいので、ダンスもしやすくなると思います」
「そっか。楽しみ」
「はい、期待して良いですよ」
セオがヴァンを褒めていることに、ほんわかな気持ちになった。
セオは自分で気が付いてなさそうだけれど、セオだってヴァンのことが大好きだ。
上手くいっているようで嬉しい。
ダンスも少しずつ慣れてきたし、今日はお父様とだ。
上級ステップで容赦がない。
お父様相手に気を遣うことがあまりなくなったけれど、常に悪戯好きで困る。
それでも、伴奏があった方が絶対やりやすいはずだ。
僕もだけれど、エリー先生が。
「レン様」
「ん?」
「今月末まで予定を結構詰め込んでますが、今のところ疲れてはいませんか?」
「うん。大丈夫」
セオが気遣うように僕を見る。
今月末には、旭さんと愛斗君と一緒にご飯をする予定があるけれど、その間は毎日何かしらの予定が入ってる。
今日はティッセルボナーの服の調整だけれど、近日中にクロッシェも調整すると聞いてる。
ちゃんと時間が決まったら改めて教えてくれるって言ってたんだ。
それから、僕のためのピアスとブローチがそろそろ出来上がるとも聞いてる。
これも今月中に届くと言ってた。
お父様の魔法のレッスンもあるし、あと警備隊の隊長さんが訪問する日も決まってるし、エリー先生のお家に訪問して神器様と会う日も決まってる。
その間に、エリソン侯爵内の現状と貴族間を叩きこむことになってる。
まだ少し知識が足りてないけれど、とりあえずは台詞を覚えるように詰め込んでいて大方覚えた。
訪問が終わっても忘れないようにしないといけないけれど、まずはその場で使えるようにならないと話にならないもんね。
セバスとセオから覚えが良いと褒められてるから、何とかなりそうだ。
もし何とかならなくても、セオがフォローしてくれるという。
ただ僕を着飾って護衛するだけじゃなくて、知識を持って僕のフォローに回るんだから僕より知っていないといけない。
きっと、セオには負担をかけているんだろうけれど、セオはいつも『お任せください』とさらっと当然のように口にしてくる。
本当に頼もしい限りだ。
「大丈夫だから朝の稽古も無くさないでね?」
「了解です」
「人騙せそうだね……」
鏡を覗いて呟やいた僕に、セオが面白そうに笑ってくる。
稽古を終えたところで、『髪も結って軽くお化粧もしておきましょう』とセオが言ってくれたんだ。
ぱぱっと支度が整った。
メイクは軽くというだけあって、薄っすらだ。
前に、マリアンさんがしてくれた時よりもずっと薄い。
それでも、僕のこの顔は、例え薄っすらのメイクであってもより華やかさが出る。
淡いグリーン系の目元と桃色の頬と唇は、大人のような妖艶さもあるけれど、子供のような可憐さもある気がする。
自分で鏡で見ても、ちょっとびっくりだ。
「そんなこと言わないでくださいよ、とっても綺麗で可愛いく出来てます」
「うん、ありがとう、セオ」
確かにとっても綺麗で可愛くなった。
合わせる服がそれなりだから、この方がより合うと思う。
あと30分もしたら、ティッセルボナーの人たちがくる予定だ。
「あ、到着したみたいですね。あちらの準備もあると思いますから時間通りにお声がかかると思いますよ」
「わかった」
僕も楽しみだけれど、本当に、僕以上にセオが楽しみにしてるみたい。
うん、決めた。
祝賀会や結婚式の服は別として、今度から僕が普段着る服を作る時は、全部セオにお任せしよう。
レン様のオーダーしていた三着の最終調整に入るそうです」
「え?もう?三着とも?」
「はい。早くて良かったですねー。これでアレックス様のお下がりを着なくてすみますよ!」
朝の支度をしながらセオが今日の予定を告げてくれた。
今日は、午前中にティッセルボナーの服の調整に入るそうだ。
孤児院の訪問から一日経った。
昨日は本当に楽しい一日だったし、その後も色々と考えさせられた。
エリソン侯爵夫人として僕が出来ることって、これからもたくさんある。
神器としてたけじゃなくて、家の皆にも、領民にも認めて貰いたいんだ。
勿論、みんなアレックスの子供を望んでいるんだろうけれども。
そういえば、子供が出来たらの準備はちゃんとしてくれていても、子供が出来たらの話を先に振られることがなかった。
早くできると良ですねだとか、いつ頃になるでしょうとか、もだ。
ただ、子供が出来ないのなら身体的原因はアレックスにあると聞いている。
プレッシャーを感じる必要は一切ないのは、僕が女性だからじゃなくて、神の実を食べた神器という存在だからだ。
もしかしたら、アレックスは、子供のことで何か言われてるかもしれないけれど、僕には微塵に出さない。
毎日幸せに愛されてるだけだ。
「毎日丈が残念なことになってますからね。レン様はあまり気にされずとも、俺とアニーさんはいつも気になってました」
セオはそう言うけれど、でも、早すぎない?
フルオーダーなのに、もうほぼ出来上がったなんて。
急いでほしいなんて一言も言っていないのにな。
って思ったんだけれど、僕がティッセルボナーの店長だったら何が何でも急ぐ。
出迎えた時に明らかに合っていない服を身に着けていたからだ。
クロッシェには先に越されてしまったが、実際服を着て貰うのはティッセルボナーの店が先でありたい。
今からでも間に合うだろう、急げ!……ってなるよね。
それに、祝賀会の服はクロッシェに取られてしまったけれど、それはあくまで今回限りのことだとも思っていそうだ。
実際そうなのだけれど、出来が良かったら必要な時は毎回お願いしたいと僕は思ってる。
出来上がる順に届く下着やパジャマ、靴下なんかはとても作りが丁寧で、いい肌触りで凄く気に入ったんだ。
でも、あの場で結婚式の服はまだオーダーしていなかった。
祝賀会の服の出来で最終的に決めるってアレックスが言っていた。
そのくらいの情報は伝わっているだろう。
今までエリソン侯爵家御用達のお店がティッセルボナーだったのなら、何が何でも結婚式のスーツを作りたいと思うだろうなあ。
色んな思惑が飛び交っていそうだけれど、僕がどこまで気にすればいいかわからないから、気にしなくちゃいけない時までは、一旦放っておくことにした。
セオは、そんな心配よりも、単純に僕の服が早く手元に来るのが嬉しいみたいだ。
毎回僕が着替える度にちょっと残念そうに笑ってるもんね。
今日もそうだけれど、新しい服が来ると聞いたからかそっちに気がいっているみたいだ。
鼻歌でも歌いそうなセオをぼんやりと眺めながら、僕は孤児院の黒板のことを考える。
朝一番でおばあ様からの手紙が届いたんだ。
朝食の後にセバスから受け取ったのだけれど、綺麗なピンク色の薔薇の描かれている封筒で、便せんもお揃いで、おばあ様の人柄そのものだった。
手紙はなんと封がされていなかった。
たった一日でおばあ様から返事が来たのは、ヴァンがお遣いに出てくれたからだ。
黒板を贈りたい旨を伝えると快く了承してくれたし、何より子供たちがとても喜んでくれたみたいだ。
大きいものを贈りたいことを伝えたので、場所はピアノがあるホールになった。
入って右側、窓に届くまでの長い黒板を作ってもらうことにしたよ。
一番光りが入るし、全員で書いても広いし、何より周りに“レン様からの贈り物”だって示すことが出来るからだそう。
最後のは僕にとってはどうでもいいけれど、子供たちが黒板で勉強したり絵を描いたりしているのを見て貰えるのは良いことだ。
エリソン侯爵領は、平民の教養を底上げしようと頑張っている。
豊かだからこそ出来ること。
子供たちが集まる保育所にはないようだし、そこもあればいいなと思う。
でもそれは、空き家を使ってる場所も多くあるし、まだきちんと全ての保育所が整っていないみたい。
元の世界のようなきちんとした“保育園”には程遠い。
もちろん、領都の一角や、フィーテル内にある保育所は大きくて働く人も多くて、ちゃんとしたところもあるって聞いた。
まだ聞いただけだから、実際にこの目で見てみたいとは思ってる。
僕が出来ることもあると思うんだ。
孤児院だけじゃなくて保育所も回ってみたいし、他の学校にも行ってみたいな。
そんな考えを巡らしているうちに、僕の支度が整っていく。
セオはいつも僕を綺麗にすることに余念がない。
毎日家にいながら、撮影前みたいな感覚だ。
でも、セオは仕事なのにも関わらず、僕の髪をとかすのも、爪を磨くのも、クリームや日焼け止めを塗るのもいつも楽しそうにしてる。
今までの仕事とは違うし面倒じゃないかな?って思わないで済んでるのは、セオが楽しそうにしてるからだ。
「今日は、午後はエリー先生とお父様が来る日だよね?」
「はい。あー……先にお伝えしますと、今日からエリー先生のダンスレッスン時は、ヴァンの演奏が入ります」
「え?そうなの?良かった!」
ヴァンが演奏を出来るとは思いもしなかったな。
あ、でも、ヴァンなら器用だからそこそこなんでも出来そうだ。
「今日はスペンサー公がいらっしゃいますからヴァンだけですが、後の一日はレオンか爺さまが付きます」
「うん、わかった」
「はい、なのでご安心ください」
万が一って、万が一のこともないと思うんだけれど、ヴァンが演奏するにあたって僕のガードが緩むのを良しとしてないってことだよね。
だって、セバスかレオンが付くって、監視役としてって言ってるようなものだ。
伴奏があったほうが良いというのはわかるし、今から選定してたら間に合わないから、妥協策なのかも。
ヴァンもセオから頼まれたら拒むなんてことまずないだろうなあ。
だって、一緒にいる時間が増えるんだからね、仕事中でもセオの姿を目に入れる時間が増えるなら他を切り詰めても時間確保すると思う。
ヴァンだもん。
「ヴァンは何の楽器が出来るの?」
「リュートってわかりますか?」
「リュート?弦楽器だっけ?マンドリンみたいな」
「マンドリンというのを聞いたことがありませんが……はい、弦楽器です。酒場や街の一角で弾く者もいたりしますね」
「なら、多分合ってると思う」
マンドリンはこっちの世界でないみたいだ。
でも、確か、マンドリンみたいな楽器だったと思う。
舞台知識でしかないけれど、一度それっぽいのを目にしたことがあった。
「仕事で使ってたの?」
「はい。寧ろその為に覚えた、と」
「ヴァンらしいね」
諜報のために楽器の一つが出来ていたほうが良かったのかもしれない。
自分自身を偽ることが出来る武器は、多い方が得だ。
仕事で使うのだから、かなり上手いんじゃないかな?
上手いからこそ、セオが打診してくれたんだろうし。
「爺さまが許すくらいには腕がいいので、ダンスもしやすくなると思います」
「そっか。楽しみ」
「はい、期待して良いですよ」
セオがヴァンを褒めていることに、ほんわかな気持ちになった。
セオは自分で気が付いてなさそうだけれど、セオだってヴァンのことが大好きだ。
上手くいっているようで嬉しい。
ダンスも少しずつ慣れてきたし、今日はお父様とだ。
上級ステップで容赦がない。
お父様相手に気を遣うことがあまりなくなったけれど、常に悪戯好きで困る。
それでも、伴奏があった方が絶対やりやすいはずだ。
僕もだけれど、エリー先生が。
「レン様」
「ん?」
「今月末まで予定を結構詰め込んでますが、今のところ疲れてはいませんか?」
「うん。大丈夫」
セオが気遣うように僕を見る。
今月末には、旭さんと愛斗君と一緒にご飯をする予定があるけれど、その間は毎日何かしらの予定が入ってる。
今日はティッセルボナーの服の調整だけれど、近日中にクロッシェも調整すると聞いてる。
ちゃんと時間が決まったら改めて教えてくれるって言ってたんだ。
それから、僕のためのピアスとブローチがそろそろ出来上がるとも聞いてる。
これも今月中に届くと言ってた。
お父様の魔法のレッスンもあるし、あと警備隊の隊長さんが訪問する日も決まってるし、エリー先生のお家に訪問して神器様と会う日も決まってる。
その間に、エリソン侯爵内の現状と貴族間を叩きこむことになってる。
まだ少し知識が足りてないけれど、とりあえずは台詞を覚えるように詰め込んでいて大方覚えた。
訪問が終わっても忘れないようにしないといけないけれど、まずはその場で使えるようにならないと話にならないもんね。
セバスとセオから覚えが良いと褒められてるから、何とかなりそうだ。
もし何とかならなくても、セオがフォローしてくれるという。
ただ僕を着飾って護衛するだけじゃなくて、知識を持って僕のフォローに回るんだから僕より知っていないといけない。
きっと、セオには負担をかけているんだろうけれど、セオはいつも『お任せください』とさらっと当然のように口にしてくる。
本当に頼もしい限りだ。
「大丈夫だから朝の稽古も無くさないでね?」
「了解です」
「人騙せそうだね……」
鏡を覗いて呟やいた僕に、セオが面白そうに笑ってくる。
稽古を終えたところで、『髪も結って軽くお化粧もしておきましょう』とセオが言ってくれたんだ。
ぱぱっと支度が整った。
メイクは軽くというだけあって、薄っすらだ。
前に、マリアンさんがしてくれた時よりもずっと薄い。
それでも、僕のこの顔は、例え薄っすらのメイクであってもより華やかさが出る。
淡いグリーン系の目元と桃色の頬と唇は、大人のような妖艶さもあるけれど、子供のような可憐さもある気がする。
自分で鏡で見ても、ちょっとびっくりだ。
「そんなこと言わないでくださいよ、とっても綺麗で可愛いく出来てます」
「うん、ありがとう、セオ」
確かにとっても綺麗で可愛くなった。
合わせる服がそれなりだから、この方がより合うと思う。
あと30分もしたら、ティッセルボナーの人たちがくる予定だ。
「あ、到着したみたいですね。あちらの準備もあると思いますから時間通りにお声がかかると思いますよ」
「わかった」
僕も楽しみだけれど、本当に、僕以上にセオが楽しみにしてるみたい。
うん、決めた。
祝賀会や結婚式の服は別として、今度から僕が普段着る服を作る時は、全部セオにお任せしよう。
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