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本編

-388- 向き不向き*

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「これからどうしたいのかは自分で決めるよ。
魔力量は、14だけど本当はもっとあるってことだよね」
「そうですねー……エルフ族と天人族との間でしたら、少なくともアレックス様以上あると思います。
書き換えたというなら、その封印を解くことも出来ると思いますよ」

セオが言うんだから、ヴァンか、お父さまあたりなら出来るのかな?
前に、書き替えられたものを解くには書き換えた本人が行うのが良いって聞いた気がするけれど、最初から出来ないことは、セオは言わないはず。


「ちょっとどころかかなり面倒そうだし、とりあえずこのまま隠していたい。
でも、時期が来たら、グレース様には自分から本当のことを全部話しておこうと思う」

ルカがしっかりした声と瞳で僕に告げてくれる。
人より長いかもしれないし、短いかもしれないし、同じくらいかもしれない。
もしかしたら、あと20年しか生きられないかもしれないのに、悲観することがない。
それどころか、手紙を読む前よりも、生きる力というか気力というか、生命力みたいなものをルカに感じる。


「天人族もエルフ族も15、6歳を迎える頃に、ある日突然成長すると聞いたことがあります」
「じゃあ、今は人よりも幼く見えても急に大人になるの?」
「そうですね、天人族の男性もエルフ族の男性とそう平均は変わらないはずですから、それこそスペンサー公ほどになるんじゃないですかね?
あの方は平均的な方だと思いますよ」
「そうなんだ?じゃあルカは、僕よりずっと背が高くなるね」
「急にモテるかもしれませんね」

セオの言うことはわかる。
今だって、ルカはとても綺麗な少年だ。
それが急に大人になったら、美形の何物でもないだろうな。
それこそ、お父さま以上にキラキラした感じになるかもしれない。

「モテなくても良いけど、小さいままで舐めれれても困るし」

そう言って、面倒そうに笑うルカだけれど、やっぱりなにか吹っ切れたような顔つきをしてる。
手紙の内容はけして良いことばかりじゃなかったけれど、ルカにとっては知れて良かったみたいだ。

「レン様、本当ありがとね」
「うん」

ルカが良かったと言うなら、僕も良かったと思うだけだ。




今日も絵本を読んで、それから、みんなの歌のお礼に僕も歌を歌ったよ。
そしたら、あっという間にお別れの時間だ。
ここにくると、時間が過ぎるのがとても早い。

子供たちの純粋に好きな気持ちが凄く癒される。
みんなのこれからの成長を一緒に見守ってサポートしていきたいな。

お芋が美味しかったことも伝えたよ。
デザートにも夕食にも使ってもらってさつま芋づくしだったことを伝えると、みんなちょっと驚いてた。
さつま芋は、庶民の食べ物だって思っていたみたいだ。


『お貴族様だって、お芋は食べるんだよ』って伝えると、『レン様は自分で芋を掘ったから、普通のお貴族様じゃない』なんて言われちゃった。
まあ、お貴族様になってちょっとしか経ってないもんね。
らしくないのは仕方ない。
でもだからこそ、子供たちの距離が最初から近かったのかもしれない。
なら、僕は、お貴族様らしくなくていいと思うんだ。
僕らしくいたい。
そのままでいいって言って貰えているし、寧ろそのままでいてくれとも言われている。

みんなからは、“レン様らしい”って思ってくれると嬉しいな。


『すぐ来てね』『たくさん来てね』『またアレックス様に内緒でもいいよ?』なんて言ってくれる。
あったかい気持ちになれるし、いつでも心から歓迎してくれるって思うとまたすぐに行きたいなって思う。
もう、毎週でも行きたいなあ。
今は僕自身のレッスンがあるから難しいかもしれないけれど、祝賀会が終わったらアレックスにお願いしてみようかな。

「俺に内緒ってなんだ?」
「え?」

少し怪訝な顔をしてアレックスが聞いてくる。
え?って聞いた僕は、何のことかなー?と笑ってごまかす。
内緒でもいいと言ったパーシーが慌てて口を両手で抑えて、グレース様の後ろに隠た。
うん、凄く良い判断だ。

アレックスは僕を見て怒るわけじゃなく、仕方なさそうに笑っただけだった。
駄目な時は駄目だと言ってくるから、セーフだったみたい。
でも、今度から黙っていくのはやめておこうと思う。
僕が怒られなくても、セオかセバスが怒られちゃうかもしれないからね。



孤児院から帰宅したら、アレックスは今日はお仕事だ。
休むことなく移動するアレックスに、ちょっとだけ申し訳なさがあったけれど、謝らないでくれって言われたから、代わりにお礼を言ったよ。
アレックスに『ありがとう』って言うと、いつも嬉しそうに笑ってくれる。
その笑顔は、僕だけに見せてくれるものだってわかる。
僕だけの、特別だ。
アレックスのあの笑顔を見る度僕はアレックスをより好きになってる。

だから、こうして離れていても今はとても気分が良い。
僕はとても気分が良いけれど、セオも気分が良さそうだ。
今なら大丈夫かな?
セオの手を借りながら着替えつつ、約束の『あとで聞くね』を尋ねてみることにした。


「セオ、あとで聞くねって言ったことなんだけれど」
「はいはい、何ですか?」
「セオは、ヴァンのスプラッシュを見たことある?───セオ?」

セオの手が不自然に止まっちゃった、と思ってセオへと振り返ると、案の定真っ赤になってる。


「な……───っありません!」
「ないんだ」
「え?……ぅえ?!そういうアレなんですか?凄ーく深刻そうな顔してたからてっきりもっと真面目なお話かと思いましたよ、俺は!」
「真面目だよ?頑張ったんだけれど、なってくれなかったからコツとかあるかなって思って」
「その手はやめてください!」

握りこぶしを上下に動かすと、セオが慌てて掌で動きを止めてきた。
……確かに、卑猥というか、あからさますぎたかもしれない。

シャツを広げるセオの手元が幾分乱暴になるも、すぐに元の丁寧な手つきに戻る。

「心配して損しましたー」
「え?それは、ごめん」
「謝らないでくださーい」

色々と取り乱したけれど、すぐに戻ったみたいだ。
セオの言い方も、冗談じみてるからいつものセオらしいセオだ。
まあ、真っ赤になっても、セオらしいといえばセオらしいんだけれど。


「……レン様、人には向き不向きというものがあるんですよ?」
「そうだね」

急に、真面目になってセオが告げてくる。
一文字一文字、ゆっくりと、諭すようにだ。

確かに、何事にも向き不向きというものがあるのはわかる。
得意なことも、苦手なことも、人それぞれだ。
同じなんてない。

「スプラッシュだって同じです。別にそうならなくたって、レン様が下手なわけじゃないですからね?落ち込む必要なんてないんですよ」

セオが確信をついてくる。
アレックス以外から聞きたかった言葉だったというのを、僕は聞いてからわかった。
慰められたわけじゃないって思ってたけれど、どこかで僕が下手なんじゃないかとも思っていたんだ。
だって、なにもかも、アレックスが初めてだ。
キスは、あったけれど、仕事だったし、触れるだけだったし。
ちゃんとしたキスも、恋愛も、えっちも、全部がアレックスがはじめてだ。

誰にも負けない気持ちはあるけれど、テクニックなんてものはない。
本当、こういうことに関しては、ネットがなくて不便だ。

「うん……アレックスにも言われた」

「でしょ?いーんですよ、それで」
「でも、見てみたいなって思って」

「時には諦めることも必要ですよ?」
「もう少し頑張れるかなって思うんだ」
「他のことを頑張ってください」
「他のこと……」
「そうです、他のことです」
「あ……」
「なにか、思い出しましたか?」

他のこと、と言われて、思い出した。
紙、というか、文字の練習のことだ。
アレックスに話をする前に、セオに話をしてみてからでもいいかもしれないよね。
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