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本編
-387- リュカトニアと天人族
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「セオ、リュカトニアって知ってる?」
三人ともしばらく声も出なかったけれど、最初に声をあげたのは、僕だ。
僕は、この国の海外情勢を全く知らない。
この世界には四つの帝国があるってことと、隣接している国々が戦争中だと言うことだけだ。
約200年鎖国中のクライス帝国。
勿論、海外の人とのお付き合いなんて全くない。
海外のことを学ぶことよりもっと優先にすることがあったからだ。
知っていることと言えば、アレックスのひいひいお祖父さまが秘密裏に奴隷獣人を海外へ解放されたことと、エリソン侯爵は開国主義である、ということだ。
奴隷解放は海外では本にもなっていて、有名な話だとセオが言っていたのは、記憶に新しい。
開かずの間の存在を教えてくれた時に、聞いた話だ。
うちにその本があるかは聞いていなかったな。
今度聞いてみて、あるなら読んでみたい。
アレックスは表立って『開国主義』とは口に出していない。
ただ、3代前の、そのひいひいお祖父さまは表立って開国主義だったし、その次のひいお祖父さまも開国主義。
そしてそのまた次のお祖父さまも開国主義の方々とお付き合いをしていて、アレックスもそのまま懇意にしていると聞いている。
僕が共通語を読めたことに、『頼もしい』『通訳も頼める』とセバスもアレックスも絶賛してくれた。
だから、アレックスの代で、開国することを望んでいて、開国後のことも視野に入れているんだなって感じたよ。
クライス帝国には、鎖国主義、開国主義、中立主義、と三つに分かれている。
そしてこの三つは、それぞれ、皇后派、皇弟派、中立、を貫いていて、次世代の皇帝に、皇后派は皇太子のルーク殿下を、皇弟派はルーク殿下の弟であるリヒト殿下を押している。
皇太子って、僕らを勝手に召喚して放置したあの金髪碧眼の人だから、その後宰相のルーカスと一緒に入ってきたリヒト殿下の方が常識人で、まだ見込みがあるかもしれない。
……と、そんなわけで、僕が知っていることは本当に少ない。
「リュカトニアは小さな島国ですね。一年を通してあたたかい国で、自然の多い平和で豊かな国です。
開拓時代に他国から渡りついた者たちが作り上げた国で、その種族は様々です。
民族における差別がなく王国ではないのですが、トップの指導者はちゃんといます。
数百年前から指導者は竜人族ですから、早々変わることはありません。
彼らは珍しい種族ですが、云千年生きると言われていますからね。
戦争を放棄している中立国……と習いましたが、俺が学生時代の話です。
それに、国交を絶ってからは各国の情勢など情報は殆ど回ってきていません。
俺の知ってる世界情勢もずっと昔の話でしょうし、あまり役には立たないかもしれません」
「そっか」
「俺もそう習ったから、手紙の話が本当なら今は無くなってるかもね」
ルカがぽつりと悲しいことを呟く。
「出生がはっきりしたから聞けて良かったよ」
「そう?」
「うん。生かすために捨てたってわかったからね、邪魔になっていらなくなって捨てたんだとばかり思ってた。
勝手だとは思うけれど……俺に生きていて欲しいっていうのはわかったから」
「そっか」
「うん。レン様がいてくれてよかった。ありがとう、レン様。……まあ、新たな問題は出てきたけれどね」
ルカが、他人事のように『新たな問題』などと口にする。
悲観してはなさそうだし、深刻そうな顔をしているわけじゃないけれど、厄介そうというか面倒そうな顔をしてる。
「セオ、天人族ってどのくらい生きるの?」
「天人族は、女性は200年ほど生きるんですけど、男性は…30年前後、と言われています」
「え……そんなに短いの?」
「はい。男性の天人族は数も少ないんです」
「でも、それじゃ廃れちゃうんじゃ……あ、一夫多妻とか?」
「いいえ、天人族の女性は生殖器を持ってます。女性同士での妊娠が可能です」
「え……なら、男性の妊娠は?」
「それは出来ませんね」
「………」
そんなのってある?
や、実際あるんだろうけど、それじゃ女性ばっかりになっちゃうんじゃないのかな?
「通常、天人族は、天人族だけが住む天上地に住んでいることが多いと聞いています。排他的な種族で、罪を犯すと翼を折られ地上に捨てられるようですよ。生まれつき翼の欠けた天人族や、飛ぶことが出来ない者も住む資格がないと見なされ、地上へ捨てられる種族です」
「こわ」
「それは、優しくないね」
「ですねえ……でも、彼らには癒しの力があると言われているんですよ。声に力がのるので、世界各国を渡り歩く癒しの合唱団が有名だそうです。男性の方がその力は強いそうですよ」
「癒し……」
「片翼でも、翼を折られても、癒しの力は失われはしないと聞いたことがあります」
「じゃあ、ルカにも?」
「かも知れません」
三人ともしばらく声も出なかったけれど、最初に声をあげたのは、僕だ。
僕は、この国の海外情勢を全く知らない。
この世界には四つの帝国があるってことと、隣接している国々が戦争中だと言うことだけだ。
約200年鎖国中のクライス帝国。
勿論、海外の人とのお付き合いなんて全くない。
海外のことを学ぶことよりもっと優先にすることがあったからだ。
知っていることと言えば、アレックスのひいひいお祖父さまが秘密裏に奴隷獣人を海外へ解放されたことと、エリソン侯爵は開国主義である、ということだ。
奴隷解放は海外では本にもなっていて、有名な話だとセオが言っていたのは、記憶に新しい。
開かずの間の存在を教えてくれた時に、聞いた話だ。
うちにその本があるかは聞いていなかったな。
今度聞いてみて、あるなら読んでみたい。
アレックスは表立って『開国主義』とは口に出していない。
ただ、3代前の、そのひいひいお祖父さまは表立って開国主義だったし、その次のひいお祖父さまも開国主義。
そしてそのまた次のお祖父さまも開国主義の方々とお付き合いをしていて、アレックスもそのまま懇意にしていると聞いている。
僕が共通語を読めたことに、『頼もしい』『通訳も頼める』とセバスもアレックスも絶賛してくれた。
だから、アレックスの代で、開国することを望んでいて、開国後のことも視野に入れているんだなって感じたよ。
クライス帝国には、鎖国主義、開国主義、中立主義、と三つに分かれている。
そしてこの三つは、それぞれ、皇后派、皇弟派、中立、を貫いていて、次世代の皇帝に、皇后派は皇太子のルーク殿下を、皇弟派はルーク殿下の弟であるリヒト殿下を押している。
皇太子って、僕らを勝手に召喚して放置したあの金髪碧眼の人だから、その後宰相のルーカスと一緒に入ってきたリヒト殿下の方が常識人で、まだ見込みがあるかもしれない。
……と、そんなわけで、僕が知っていることは本当に少ない。
「リュカトニアは小さな島国ですね。一年を通してあたたかい国で、自然の多い平和で豊かな国です。
開拓時代に他国から渡りついた者たちが作り上げた国で、その種族は様々です。
民族における差別がなく王国ではないのですが、トップの指導者はちゃんといます。
数百年前から指導者は竜人族ですから、早々変わることはありません。
彼らは珍しい種族ですが、云千年生きると言われていますからね。
戦争を放棄している中立国……と習いましたが、俺が学生時代の話です。
それに、国交を絶ってからは各国の情勢など情報は殆ど回ってきていません。
俺の知ってる世界情勢もずっと昔の話でしょうし、あまり役には立たないかもしれません」
「そっか」
「俺もそう習ったから、手紙の話が本当なら今は無くなってるかもね」
ルカがぽつりと悲しいことを呟く。
「出生がはっきりしたから聞けて良かったよ」
「そう?」
「うん。生かすために捨てたってわかったからね、邪魔になっていらなくなって捨てたんだとばかり思ってた。
勝手だとは思うけれど……俺に生きていて欲しいっていうのはわかったから」
「そっか」
「うん。レン様がいてくれてよかった。ありがとう、レン様。……まあ、新たな問題は出てきたけれどね」
ルカが、他人事のように『新たな問題』などと口にする。
悲観してはなさそうだし、深刻そうな顔をしているわけじゃないけれど、厄介そうというか面倒そうな顔をしてる。
「セオ、天人族ってどのくらい生きるの?」
「天人族は、女性は200年ほど生きるんですけど、男性は…30年前後、と言われています」
「え……そんなに短いの?」
「はい。男性の天人族は数も少ないんです」
「でも、それじゃ廃れちゃうんじゃ……あ、一夫多妻とか?」
「いいえ、天人族の女性は生殖器を持ってます。女性同士での妊娠が可能です」
「え……なら、男性の妊娠は?」
「それは出来ませんね」
「………」
そんなのってある?
や、実際あるんだろうけど、それじゃ女性ばっかりになっちゃうんじゃないのかな?
「通常、天人族は、天人族だけが住む天上地に住んでいることが多いと聞いています。排他的な種族で、罪を犯すと翼を折られ地上に捨てられるようですよ。生まれつき翼の欠けた天人族や、飛ぶことが出来ない者も住む資格がないと見なされ、地上へ捨てられる種族です」
「こわ」
「それは、優しくないね」
「ですねえ……でも、彼らには癒しの力があると言われているんですよ。声に力がのるので、世界各国を渡り歩く癒しの合唱団が有名だそうです。男性の方がその力は強いそうですよ」
「癒し……」
「片翼でも、翼を折られても、癒しの力は失われはしないと聞いたことがあります」
「じゃあ、ルカにも?」
「かも知れません」
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