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本編
-386- ルカの手紙
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僕のお悩みは、とてもじゃないけど子供たちのいる場で話せることじゃないので保留だ。
お昼ごはんを食べた後の30分、パーシーとネロがお昼寝の時間の時に、ルカとの過ごす時間を貰った。
他の子たちが愚図らなかったのは、最初からおばあ様が『大切なお話』って言っていたからみたい。
おばあ様が『大切なお話』っていうと、将来のこととか養子のこととかの話だから、みんな聞き分けるんだとか。
自分のことだけじゃなくて、みんなの将来を応援してる気持ちがあるんだろう。
本当に、良い子たちだ。
「ここだよ」
セオと共に、ルカの部屋に案内してもらう。
一人部屋は大体6帖くらいで、家具は、ベッドと勉強机と椅子、それからワードローブがあって、暖炉もある。
暖炉は、魔道暖炉といって、火の魔石を原料として、スイッチひとつで部屋全体を暖めてくれる、とっても便利な暖炉だ。
魔力がほんの少しでもあれば使えるものなんだとか。
エリソン侯爵領では、この魔道暖炉は特別珍しいものじゃなくて、各家庭に一つはついてる。
各部屋になくても、家族が集まるリビングやダイニングにはある。
宿屋経営も、この魔道暖炉が基準のひとつだから、安い宿であっても食堂にはついてるんだ。
この魔道暖炉の素晴らしいところは薪も石油もガスも必要としないことだ。
空気を汚さないから、一日中つけていても中毒になることもない。
見た目は暖炉なのだけど、中は火の魔石がひとつ置かれてる他は、魔法陣が描かれてるだけ。
元あった暖炉の煙突を塞いで、そのままその場所を使っているから、外見は暖炉そのままなことが多い。
ルカの部屋の魔道暖炉も同じ作りだ。
正面に大きな出窓がついていて、そこから明るい陽射しがたっぷりと入っているから、この時間は暖炉がついていなくてもとても暖かい。
ものが少なくても殺風景に見えないのは、窓から見える空の青と木々の黄色や緑や赤の色彩が豊かでとても綺麗だからかな?
「レン様、寒くない?」
「うん、大丈夫。天気が良いからあたたかいね?」
「うん、まだ日が沈んでも少しあたたかいよ。夏は暑いけどね……どうぞ。俺はベッドに座るから」
「ありがとう」
そう言いながら、机の椅子を引っ張り出して、回転させる。
ベッドと対面に置かれた椅子に腰かける。
机も椅子も頑丈そうだけれど、角張っていない丸みのある作りだった。
肩越しにルカを眺めると、一番上の右端、鍵のついた引き出しから手紙を取り出し、そのまま僕に差し出してきた。
何の変哲もない白い封筒だ。
のりも最初からなかったのか、どこも切れてはいなかった。
ただ、11年の年月が経っているからか、どことなく黄ばんでいるようにも見える。
ルカが座ったのを目に、手紙を取り出す。
「じゃあ、読むね?」
「お願いします」
「うん。───え……」
「何?」
最初の一文を目にして、思わず読むのを躊躇う。
ルカに目を向けると、不安そうな瞳とかち合った。
「あ、ごめんね。この手紙、最後まで読むと消えちゃうみたいなんだけど、どうする?」
「消える……」
「うん。“はじめに言っておく。この手紙は最後まで読むと跡形もなく消え去るように出来ている”……って書いてある」
「そっか。でも、このまま持ってても分からないままなら、ないのと一緒だから。読んで欲しい」
「わかった───あ、これ、隣で読んだ方が良いね、そっちに座ってもいい?」
「あ、うん……レン様が良ければだけど」
そう言って、ルカはチラリとセオを仰ぎ見る。
「……俺が逆隣に座ることが許されるなら」
「うん。ならお願い」
手紙に魔法の付与があるってわかったからかな?
セオが珍しく子供相手に難しい顔を見せた。
警戒しているのかもしれない。
ベッドに、ルカ、僕、セオの順番で座る。
「じゃあ読むね。
“はじめに言っておく。この手紙は最後まで読むと跡形もなく消え去るように出来ている。
尚、本人が腕輪をはめ傍にいることで正しい文章を読むことが出来、安全に魔法が発動する”」
そこまで読むと、ルカはすぐにポケットから腕輪を取り出し、左手首に嵌めた。
とたん、するすると文字が剥がれるように消えて、新しい文字が浮かび上がった。
ルカもセオも、手紙を覗き込むように見てたから3人してびっくりだ。
「凄いですね……初めて見ました」
セオが呟く。
「ちょっと先が怖くなってきた」
「……読んでも良い?」
「うん。大丈夫」
「うん。
“親愛なる我が息子、リュカーシュへ。今、この手紙を君が読めるということは、クライス帝国の鎖国が終わったのだろうか?”」
「……終わってないね」
「そうですねー。少なくとも現王が健在の内は、終わらないですね」
呆れ顔で呟くルカに、セオが同意する。
「続き読むね?“君は、戦地となったリュカトニアの地に生まれた。君の父である私は天人族、母であるテトラはエルフ族だ。
テトラは戦士として立派に役目を終えた。
私の命も残り少ないだろう。
私はとある精霊の気まぐれから、クライス帝国の往復切符を手に入れた。
君は幸いなことに、羽も生えちゃいないし、耳も尖っちゃいない。
君を生かすために、名前と出生、魔力量をも書き換えた。
君は人より成長が遅いかもしれないが、見る人が見たら、ハーフエルフと認識されるはずだ。
クライス帝国の中でも、エリソン侯爵領は、かつて獣人を救った英雄が眠る地だ。
この豊かであたたかな土地でなら、君も健やかに育つだろう。
君の命は、エルフ族に似て長いか、天人族に似て短いか、それとも間をとって人間族と同等か、私にもわからない。
だからリュカーシュ、君には悔いなき人生を歩んで欲しい。
君の名前は、リュカーシュ。
リュカトニアの星という意味だ。
どうか、君の行く先が、輝かしいものであるよう心から祈っている。
アハト=ユリエフ”」
読み終わると同時、キラキラと七色に輝く粒子を纏いながら、僕の手の中にあった手紙が跡形もなく消えていく。
消えていく手紙をどうすることも出来ず、僕もルカも勿論セオも、ただただその様を見届けることしかできなかった。
お昼ごはんを食べた後の30分、パーシーとネロがお昼寝の時間の時に、ルカとの過ごす時間を貰った。
他の子たちが愚図らなかったのは、最初からおばあ様が『大切なお話』って言っていたからみたい。
おばあ様が『大切なお話』っていうと、将来のこととか養子のこととかの話だから、みんな聞き分けるんだとか。
自分のことだけじゃなくて、みんなの将来を応援してる気持ちがあるんだろう。
本当に、良い子たちだ。
「ここだよ」
セオと共に、ルカの部屋に案内してもらう。
一人部屋は大体6帖くらいで、家具は、ベッドと勉強机と椅子、それからワードローブがあって、暖炉もある。
暖炉は、魔道暖炉といって、火の魔石を原料として、スイッチひとつで部屋全体を暖めてくれる、とっても便利な暖炉だ。
魔力がほんの少しでもあれば使えるものなんだとか。
エリソン侯爵領では、この魔道暖炉は特別珍しいものじゃなくて、各家庭に一つはついてる。
各部屋になくても、家族が集まるリビングやダイニングにはある。
宿屋経営も、この魔道暖炉が基準のひとつだから、安い宿であっても食堂にはついてるんだ。
この魔道暖炉の素晴らしいところは薪も石油もガスも必要としないことだ。
空気を汚さないから、一日中つけていても中毒になることもない。
見た目は暖炉なのだけど、中は火の魔石がひとつ置かれてる他は、魔法陣が描かれてるだけ。
元あった暖炉の煙突を塞いで、そのままその場所を使っているから、外見は暖炉そのままなことが多い。
ルカの部屋の魔道暖炉も同じ作りだ。
正面に大きな出窓がついていて、そこから明るい陽射しがたっぷりと入っているから、この時間は暖炉がついていなくてもとても暖かい。
ものが少なくても殺風景に見えないのは、窓から見える空の青と木々の黄色や緑や赤の色彩が豊かでとても綺麗だからかな?
「レン様、寒くない?」
「うん、大丈夫。天気が良いからあたたかいね?」
「うん、まだ日が沈んでも少しあたたかいよ。夏は暑いけどね……どうぞ。俺はベッドに座るから」
「ありがとう」
そう言いながら、机の椅子を引っ張り出して、回転させる。
ベッドと対面に置かれた椅子に腰かける。
机も椅子も頑丈そうだけれど、角張っていない丸みのある作りだった。
肩越しにルカを眺めると、一番上の右端、鍵のついた引き出しから手紙を取り出し、そのまま僕に差し出してきた。
何の変哲もない白い封筒だ。
のりも最初からなかったのか、どこも切れてはいなかった。
ただ、11年の年月が経っているからか、どことなく黄ばんでいるようにも見える。
ルカが座ったのを目に、手紙を取り出す。
「じゃあ、読むね?」
「お願いします」
「うん。───え……」
「何?」
最初の一文を目にして、思わず読むのを躊躇う。
ルカに目を向けると、不安そうな瞳とかち合った。
「あ、ごめんね。この手紙、最後まで読むと消えちゃうみたいなんだけど、どうする?」
「消える……」
「うん。“はじめに言っておく。この手紙は最後まで読むと跡形もなく消え去るように出来ている”……って書いてある」
「そっか。でも、このまま持ってても分からないままなら、ないのと一緒だから。読んで欲しい」
「わかった───あ、これ、隣で読んだ方が良いね、そっちに座ってもいい?」
「あ、うん……レン様が良ければだけど」
そう言って、ルカはチラリとセオを仰ぎ見る。
「……俺が逆隣に座ることが許されるなら」
「うん。ならお願い」
手紙に魔法の付与があるってわかったからかな?
セオが珍しく子供相手に難しい顔を見せた。
警戒しているのかもしれない。
ベッドに、ルカ、僕、セオの順番で座る。
「じゃあ読むね。
“はじめに言っておく。この手紙は最後まで読むと跡形もなく消え去るように出来ている。
尚、本人が腕輪をはめ傍にいることで正しい文章を読むことが出来、安全に魔法が発動する”」
そこまで読むと、ルカはすぐにポケットから腕輪を取り出し、左手首に嵌めた。
とたん、するすると文字が剥がれるように消えて、新しい文字が浮かび上がった。
ルカもセオも、手紙を覗き込むように見てたから3人してびっくりだ。
「凄いですね……初めて見ました」
セオが呟く。
「ちょっと先が怖くなってきた」
「……読んでも良い?」
「うん。大丈夫」
「うん。
“親愛なる我が息子、リュカーシュへ。今、この手紙を君が読めるということは、クライス帝国の鎖国が終わったのだろうか?”」
「……終わってないね」
「そうですねー。少なくとも現王が健在の内は、終わらないですね」
呆れ顔で呟くルカに、セオが同意する。
「続き読むね?“君は、戦地となったリュカトニアの地に生まれた。君の父である私は天人族、母であるテトラはエルフ族だ。
テトラは戦士として立派に役目を終えた。
私の命も残り少ないだろう。
私はとある精霊の気まぐれから、クライス帝国の往復切符を手に入れた。
君は幸いなことに、羽も生えちゃいないし、耳も尖っちゃいない。
君を生かすために、名前と出生、魔力量をも書き換えた。
君は人より成長が遅いかもしれないが、見る人が見たら、ハーフエルフと認識されるはずだ。
クライス帝国の中でも、エリソン侯爵領は、かつて獣人を救った英雄が眠る地だ。
この豊かであたたかな土地でなら、君も健やかに育つだろう。
君の命は、エルフ族に似て長いか、天人族に似て短いか、それとも間をとって人間族と同等か、私にもわからない。
だからリュカーシュ、君には悔いなき人生を歩んで欲しい。
君の名前は、リュカーシュ。
リュカトニアの星という意味だ。
どうか、君の行く先が、輝かしいものであるよう心から祈っている。
アハト=ユリエフ”」
読み終わると同時、キラキラと七色に輝く粒子を纏いながら、僕の手の中にあった手紙が跡形もなく消えていく。
消えていく手紙をどうすることも出来ず、僕もルカも勿論セオも、ただただその様を見届けることしかできなかった。
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