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本編

-385- 肉団子のトマトスープ

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今日は特別“することがない日”で、畑もまだ休ませている状態だ。
新年に向けて準備するのは来月に入ってからになるようで、これと言って今日は何もない日。
寧ろ、何もない日の方が珍しいみたい。

僕らが来ると分かっていて、態と何もない日を作ってくれたのかもしれない。


午前中はみんなでかくれんぼをしたり、鬼ごっこをしたりして遊んだよ。
アレックスはおばあ様と仕事の話があるから、ジュードと共に書斎へ。
リリーはステラと話を聞くためにリリーの部屋に行っている。

アレックスはおばあ様との話が終えたら、リリーを呼んで見習いへの具体的な話をするはずだ。

僕もお昼が終わったら少しだけルカと話す時間を貰っている。
この間は手紙を読むことは出来なかったから、今日こそかなえてあげたい。


鬼ごっこでは、ジャック相手に本気で走って捕まえたら、大人げないと文句を言われちゃった。
他の子相手には手加減して走っていたからだろうけれど、ジャック相手なら本気を出していいかなと思ったからだ。
ジャックが早いからこそ、だ。

セオも僕の目が届く範囲で一緒に参加していた。
僕が本気で走っても、セオにはかなわない。
風魔法なんて使わなくても、セオは十分早い。
息切れなんてしてないし、余裕過ぎていっそ悔しいくらいだった。



たくさん遊んだ後は、今日も美味しいお昼ごはん。
このエリソン侯爵領の孤児院が素晴らしいところのひとつは、このあったかくておいしいご飯がちゃんと三食食べられることだと思う。

食欲誘うトマトの甘酸っぱい香りが食堂いっぱいに広がっている。
みんなで配膳を手伝っているし、パーシーやネロですらちゃんと席についていただきますからごちそうさままで座ってられる。
校長先生が優秀だっていっていたけれど、僕もそう思う。

僕の席は今日も前と同じ席だ。
ステラはジュードと向かいの席で、近いところにはリリーとキャシーが座っていた。
キャシーは前回はリサと隣通しで座っていたけれど、今日は違う席なんだなあとぼんやりと思いながら、パーシーとネロに視線を移す。

「あれ?ふたりともどうしたの?」

ふたりともちゃんと席についてるけれど、唇を尖らせたままうつ向きがちだ。

「僕これ嫌い」
「ネロもー」
「ええ?なんで?」

美味しそうにみえるトマトベースのスープには、野菜がたっぷり入っていて、お肉は肉団子だ。
栄養満点で美味しそうだし、トマトベースの味は子供たちにも人気じゃないの?

ルカの方に目を向けるけれど、ルカの表情は変わらない。
けれど、小さく口を開いた。

「まあ……これ、スープは酸っぱ辛くて、野菜は苦くて、おいしくないからね」
「そうなの?」

あらら。
ルカもおいしくないと感じてるみたいだ。
ルカにとって酸っぱ辛いんじゃ、パーシーとネロにとったらもっと食べにくいのかもしれない。

「去年まではそうだったよ」


みんなでいただきますをする声が、ちょっとばかり暗い。
いただきますではなくて、『おいしいごはんをありがとうございます。今あるすべてに感謝します』という言葉だけれど。
みんなパンから手を付けるみたいだ。

僕はスープから───ん?

「っおいしい!あまくてとっても美味しいよ?」

トマトの瑞々しい甘さ以外にも、玉ねぎや人参の甘さがしっかり溶け込んでるスープだ。
トマトベースだけれど、風味がしっかりしてるし、味もぼやけていない。
肉団子もほろほろで、刻み玉ねぎが入ってるからか、ふんわり優しい味だ。

それに、ほうれん草までが甘い。
ふんわりと大地の香りがするほうれん草で、ほうれん草自体に甘さがある。
アクもないし、苦くもない。
元の世界だと癖がないほうれん草、悪く言うと、あまり香りも味もないほうれん草だった。
けれど、このほうれん草はしっかり香りと味がある。
流石エリソン侯爵領の野菜だ、美味しい!

「ほうれん草も甘いよ?お肉も美味しい」
「……本当だ、去年と全然違う」

ルカがスープを口に付けて、びっくりした声をあげた。

「なら、みんなのことを思って、味を変えてくれたのかもしれないね?
パーシー、ネロも、一口食べてみて?とっても美味しいよ?」

僕が言うと、恐る恐るスープを口にした二人は、次の瞬間目を丸くしてキラキラさせた。
二口目を大きな口で頬張る。
うん、美味しいみたいだ。

「ね?美味しいでしょう?」
「うん!美味しい!僕これ好きー!」
「ネロもー!」
「ふふっ良かった」

「でもまるで味が違う……っていうより、ここの料理はいつも少し食べづらかった気がするんだけど、これが出てくるまで気が付かなかったな」
「そうなの?」
「多分、お店で出してる味をそのまま出してる感じかな……僕らは貰ってる方で、味に文句は言えないけどね。
ネロもパーシーも嫌々ながらちゃんと残さず食べていたし」
「そっか、みんな偉いね」

孤児院の子供たちは、しっかり自分たちの状況が分かってる。
貰えるものに対して、表立って文句を言えない状況だ。

親がいない。
それでも、三食ついて、おやつもついて、しっかり学んで遊んで、温かい布団で寝ることが出来ている。
学校に通う子たちは、身だしなみもきちんと整えているし、清潔感のあるよう心掛けているように見えた。
自分たちが不衛生な恰好をしていたら、孤児院を悪く思う子もいるだろう。
学業もそうだ。
後れを取れば、孤児院出身だからと決めつけられるかもしれない。

そうならないよう、子供ながらに考えている。
そして、きちんと感謝の気持ちがある子たちだ。

だからやりたいことや挑戦したいことがあるなら声に出して挑戦させてあげたい。
孤児院の子供たちは、こちらの空気を読むのに長けている。
そういう環境を、僕らが作ってあげなくちゃいけない。


「ああ、なら、今年の春から代替わりしたんで、そのせいかもしれませんね」

セオが、思い出したように口を開いた。

「ここの食堂は客層がおっさん連中が多いですからねー、香辛料を使ったがっつりした肉料理がメインの店なんですよ。
鳥の丸焼きが名物料理で、コックの爺さんが一人で作ってました。
腰を痛めて、去年結婚したお孫さん夫婦が店を引き継いだんです。
客層は変わらず、味もちゃんと引き継いでますが、コックは孫娘、女性です。
頑固な爺さんと違って柔軟な方でしたから、味も子供たちに合わせて作ってくれてるんでしょう」
「そっか、助かるね」

セオはこのお店に行ったことがあるような話しぶりだ。
照り焼きチキンのサンドが好きなら、香辛料を使った鳥の丸焼きなんかも好きなのかもしれない。


「レン様、すっかり直ったみたいですね」
「え?」
「ここ数日ご機嫌ななめっていうか、何か悩んでたように見えましたから」
「………」

そういえば、『何かありましたか?あったら言ってくださいね?』って言われていたっけ。
でも、前にスプラッシュって何かを聞いた時のセオの反応は、凄く恥ずかしそうだったから、これ以上具体的なやり方を聞くのは酷だというか可哀そうだろうなって遠慮したんだよね。
今月末旭さんがお泊りにくるから、その時に相談してみようと思ったんだ。

何を相談するかって言うと、『スプラッシュのやり方』だ。
頑張ったけど、アレックスのスプラッシュは見られなかった。
勿論ちゃんとイってもらえたし、気持ちが良いとも言って貰えたんだけれどね。
その後は、結局僕の方が気持ちよくなっちゃって、アレックスのスプラッシュは拝めなかった。


「うん、解決してないけれど、セオに聞いたら困るかなって思って」
「遠慮される方が困りますー」
「そう?じゃあ後で聞くね?」
「はい、そうしてください」
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