上 下
379 / 415
本編

-383- セオの優しさ、不安と期待

しおりを挟む
「なら性格が優しい方で、且つ幸せに暮らしていて、レン様のご事情も知られていたらお会いしてみたいですか?」
「……そんな神器様いるの?」
「いるみたいですね」

ここまで聞いてくるってことは、僕が会いたいと言えば会えるのか。

「もし、そんな神器様がいたら……会って話してみたいな」
「わかりました」

どんな人だろう、というか、どういう人でどういう繋がりで会えるのか───って思ったところで気がつく。

だって、エリソン侯爵領に神器様を迎えた貴族は、アレックスの他に一人しかいないって聞いてる。
エリー先生の旦那様、ハワード伯爵だ。
ということは、次に行くところはエリー先生のご自宅か、それか神器様を連れ出せる場所なんだろうな。

だとしたら、神器様に会うこと自体に意味があるはず。
暮らし方も立場も違うはずだから、そこに意味は無いはずだし、基本家から出ないのならばその必要性もない。
あるとすれば、妊娠と出産についてだ。
女性が妊娠するのと、神器様が妊娠することでは、身体的機能も感じ方も変わるはず。

「セオ、僕が神器様に会う意味って、僕じゃなくて他の人から見たらなんだと思う?妊娠と出産の心構え以外にあるかな?」
「……レン様は、鋭いからすぐ気づいちゃいますよね。さりげなーく聞いたんですけど」

セオが、小さく笑いながら聞いてくる。
答えになってないけど、意味はあるんだろうな、他にも。

「エリソン侯爵領にアレックス以外で神器様を迎えてる貴族は、今は一人しかいないって聞いてたからだよ?」
「でっすよねえ」

セオがそりゃそうだ、という感じで同意する。
深刻さの欠けらも無いから、あまり深く考えずでも良かったみたいだ。
エリー先生が場を設けて、それをアレックスが渋ったのかな?

「アレックスから聞くように頼まれたの?」
「まあ、そうですね。俺が反対したので、さりげなく、あくまでさりげなーく、レン様の意志を聞くように、と。
アレックス様が聞いたら、具体的に話が進んじゃいますから、俺に託されました」

余り変わらなかったですねー、と笑うセオに、疑問が沸いた。

アレックスは、会わせた方がいいと思っていたみたいだ。
セオが反対したのはなんでだろう?
神器様の善し悪しじゃないっていうのは分かっていたし。

「セオは、なんで反対だったの?」
「故郷を懐かしむには、圧倒的に時間が足りないと思ったからです。まだ早い、と反対しました」
「そっか」

僕が無理矢理連れてこられたからなのもあるんだろう。
セオは、立場的な必要性より、僕の心境を一番に考えてくれたんだなあ。
セオは、優しい。
貴族的な考えも知ってる上で、それが正しいとはしない人だ。
本当にセオが僕の専属従者で良かった。

「ありがとう、セオ」
「どういたしまして」

「会ったほうが良いっていうアレックスの言い分って、やっぱり妊娠と出産について経験者から学んだほうが良いからってことなのかな?あ、今聞かないほうが良い?」
「やーここまでわかっちゃったら、今更ですからね。
アレックス様とハワード夫人は、祝賀会でいきなりよその神器様を目にするよりも、先にハワード伯の神器様と会っておいたほうが良いという考えのようです。伯爵家ですから神器様をお連れすることもあったようですし。神器様としての目線で、直接お話が聞けるのは貴重ですから」
「確かにそうかも」

言われてみれば、祝賀会に向けてレッスンをしているのだから、妊娠と出産のことよりも、そっちのほうが必要なのかな?

僕は、アレックスと結婚しているし、お父さまはスペンサー公だ。
お父さまも来年は僕がいるから出てくれるって言っていたから、一人になることはないはずだ。
それでも、アレックスもレナードも嫌悪していたから、神器様の待機場所は相当異様な空間なのかもしれないし、すれ違うことがあったら、雰囲気に動揺してしまうかもしれない。

あ、勿論、セオも一緒に傍にいてくれるよ。
参加者は、従者を一人連れることを許されてる。
ただ、祝賀会の会場内は、階級持ちの従者しか許されていない。
少し前に、『ジュードは階級を持っていないけど、祝賀会にはヴィオラを連れてくの?』って聞いたことがある。
『考えているから大丈夫だ』ってアレックスは言ってたんだ。
肯定も否定もしない答えだったけれど、まだ決めかねてるってことなのかなあ。


「レン様が聞いてみたいことは、やっぱり妊娠と出産についてですか?」

セオが、神器様の話のことを聞いてくる。
違うこと考えてたけれど、僕が黙っちゃったから、心配されたかもしれない。

「うん。妊娠したらお腹がおっきくなるんだよね?普通に」
「ですね、そこは女性の妊婦と変わらないようですよ」
「でも、神器様の出産は、赤ちゃんはお尻から生まれるんでしょ?」
「そうですね」
「安産って言ったって、お尻から赤ちゃんが出るんだから、きっと大変だと思うんだよね」

お尻壊れちゃわないのかな?なんて思う。
勿論、産む気はあるし、大変だと聞いてもそこは頑張るしかない。
神器様は、神様が作った身体だ。
壊れはしないはず。

けれど、神様はどの程度男性の身体を女性の子宮機能に近づけて作ったのかな?とは疑問に思う。
同じように大変な思いをして産むのかな?
それとも、するっとつるんと生まれちゃうんだろうか?

本には、出産時の様子が書かれてなかった。
第一、著者は神器様の希望で部屋から追い出されてたんだよね。

僕はどうだろう?
アレックスには、傍にいて立ち会って欲しいかな?
うーん……いて欲しいような、いて欲しくないような。
痛がったりいきんだりしてるところを見られたくないような気もする。
もう一人欲しいと思っても、レンが大変だから……って遠慮されちゃうかもしれない。
そうなったら、えっちが遠慮がちになったりしないかな?

「レン様、大丈夫です?今から不安ならイーサン先生に話を聞くことも出来ますからね?」
「あ、そっか。たくさん診てきたって言ってたっけ。
どのくらい大変だったかとか、聞いておきたいなーって思って。
その方が先に想像しておけるから、いざそうなったらきちんと立ち回れそうだと思うんだ。
まだ妊娠もしてないのに、出産時のこと考えるなんて気が早すぎるってわかってるんだけれど」

でも、せっかく神器様に話が聞けるのなら、やっぱり妊娠と出産のことを聞いておきたい。

「いいえ、そんなことないですよ。
男として生きてきたんですから、より不安があるのは当然です。
俺が同じ状況だったとしたら、やっぱり戸惑いと不安でいっぱいになると思います。
でも、レン様が安心して過ごせるようにちゃんと周りがフォローしますからね?
そのための陣営も揃ってます」
「うん」

そうだった。
精神的にも身体的にも支えてくれる、頼もしい人たちが僕の周りには揃ってる。
これからのことを不安に感じるより、期待と楽しみに思っていたいな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

亜彩探偵の謎 #101 犯人の職業

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

はじまりの朝

BL / 連載中 24h.ポイント:555pt お気に入り:60

季楼フラグメント

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

【完結】相談する相手を、間違えました

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:949

嫁ぎ先は青髭鬼元帥といわれた大公って、なぜに?

BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:78

氷剣の皇子は紫水晶と謳われる最強の精霊族を愛でる

BL / 連載中 24h.ポイント:156pt お気に入り:168

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

BL / 連載中 24h.ポイント:1,612pt お気に入り:199

絶頂の快感にとろける男の子たち【2023年短編】

BL / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:121

処理中です...