上 下
378 / 441
本編

-382- 南東と神器様

しおりを挟む
お茶の時間が終わったら、アレックスは仕事へ、その後は僕がピアノと歌を30分お礼に演奏して、お父さまと渚君が帰るっていうのが流れだ。
今日も変わらず同じだ。

「ふむ。魔力循環は良くなったみたいだな」
「本当?良かった、意識して頑張る」
「そうしておけ。お前の場合、これ以上魔力量を上げる必要はないな。寧ろ、常に自分とあいつの魔力を満たしているほうが良い」
「……っわかった」

にやりと笑ってお父さまが言うから、ついつい顔が熱くなる。
普通にサラッと言ってくれれば素直に頷けたのに!

「真っ赤だぞ」
「お父さまが変な顔するから」
「俺は元からこういう顔だ」
「ルカ、蓮君虐めないで!」
「虐めてはいないぞ、揶揄ってるんだ」
「どっちも変わらないよ!」
「ハイハイ、悪かった。……じゃあな、また来る」
「うん、楽しみにしてる」

ぽんと頭に手を置かれて、わしゃわしゃと撫でられる。
こういう撫で方は新鮮だ。
お父さまから見て、僕は本当の子供みたいだ。
何だかとても嬉しい。

お父さまの転移魔法でキラキラ粒子の舞う中、消えていくのを見守ると急に部屋が静かになった。
この後は、一時間休憩の予定だ。
お茶やピアノと歌がすでに休憩感覚なんだけれど、自分で気が付かないだけで疲れていることもある、とセバスに言われた。

セバスが勉強を見てくれて、セオがそれを補佐してるんだけれど、忙しいなら外から先生を呼べばいいんじゃないかな、と思ったことがある。
でも、二人きりでつきっきりになるし、短期間ゲストとして寝泊まりしてもらうわけにもいかないし、何よりアレックスがそれを許さなかったみたい。
何かの専門を学ぶわけじゃないから、なら、セバスとセオで十分だと判断したのかも。
僕は、それで不満もなければ物足りなさもない。

読み書きが問題ないし、計算は元の世界の方がずっと進んでいるからそれも問題ない。
エリソン侯爵領の昔と今とこれからと、帝国の情勢や状況を、ちゃんと知っておくことが僕の学ぶべきものだ。

この時間を自主勉強に宛てたらこの間セバスに怒られたから、それからはゆっくり読書をするか、セオとおしゃべりする時間にしている。
今日は、あと少しで読み終わる、神器様と元神官の本を読むことにした。

僕が読書をする傍ら、セオは僕の予定を確認したり、次の勉強の準備をしたり、読書をしたり、まちまちだ。
セオの気配がする方が安心して読めるし、『気になることがあればいつでも声をかけてくださいね』って言われているから、黙って一時間過ごすってことはまずなかった。

「セオ、南東の人たちって、帝国で差別があるの?」
「差別があるかないかで言ったら、ある、が正しいと思います。帝都だと、南東の人だと知ると冷たくあしらう店もあるかもしれません」
「そっか」

神官様と神器様は、南東地方で最初はよそよそしい扱いをされていたみたいだ。
そう時間を置かずに受け入れられたのは、彼らの人柄があってこそなんだろうな。
神器様が、自分の境遇を周りに偽りなく話していたのも良かったみたい。

「でも、うちの領だって帝都では“田舎者”と差別がありますからね、似たようなものですよ?
南東は、漁業と一部観光業が盛んですが陸の販路が不十分なんですよね。
かわりに川が多いんで、街中を船が行き来してるんです。
帝都からも距離があるので、うち以上に地域性が強いというか。
南東の人も、帝都の人に苦手意識がある人は少なくありません。
貧しいかと言ったら、一概にはそうは言えませんね」

セオの話だと、南東地方もそれなりに栄えている街もあって、主に商人を相手にした高級宿もあれば、新鮮な魚介が並ぶ市場もあるんだとか。
宝石は、珊瑚や真珠が人気みたい。

「セオは行ったことあるの?」
「ありますよ」
「どうだった?」
「まだ子供でしたけど、初めて海を見た時にはびっくりしましたね!生魚は衝撃が強すぎて怖くて口に出来ませんでした」
「そっか。僕の元いた場所は生魚も普通に出回ってたんだ」
「そうなんですか?」
「うん。焼いたり煮たりよりは、生の方が好きだったな。……あ、産まれた」

この元神官さんは、官能的な部分にあまり触れない。
ほど細かに書いてないだけで、奥ゆかしい表現で書いてあるから、経緯や感情は伝わってくる。
神器様との間に、めでたく赤ちゃんが産まれた。

男の子で、顔立ちがはっきりしてくると、お顔は神器様に似たのがわかったみたいだ。
色素は作者を引き継いだらしい。
元気いっぱいで、ミルクをたくさん飲むって書いてある。

ん?
ミルク……は、どうするのかな?
聞いてなかった。
ここにも、抱かれてごくごくと飲むって書いてあるけど、ミルクがどこからきてるのか書いてない。

僕が妊娠したら、おっぱいが出るのかな?
こんな真っ平らじゃ飲みにくいよね。

「セオー」
「はい、なんです?」
「僕が妊娠したら、おっぱいが出るの?」
「っ出ません!」
「あ、出ないんだ。じゃあ、ミルクってどうするの?」
「薬屋で売ってるんですよ、液状のものか粉状のもので、お湯に溶かしてさませば完成です」
「そっか、なら良かった。こんな真っ平らじゃ飲みにくいもんね」

「先に説明しておけば良かったですねー、ミルクについて。レン様の質問に俺の方がびっくりしちゃいましたよ」
「だって書いてないんだもん」
「まあ、ミルクが薬屋に売ってるのは全く珍しくもなんともないですからね、いちいち書かなかっただけかと思いますよ」
「そっか。手に入りやすいなら良かった。この神器様は、自分の子供としてちゃんと抱いてるんだね」
「レン様も、そうなりますよ」
「うん。普通は産んでおしまいなの?」
「そうですね、子育てはしないみたいですね」
「それで思うことないのかな?」

自分がお腹を痛めて産んだのに、自分の子じゃないっていう感覚はどんな感じなんだろう?

「レン様は、出産経験をお持ちの神器様に会ってみたいですか?」
「え?」

どうだろう?
会いたいか、会いたくないか……はっきりとは、言いづらい。
それに。

「神器様は、傲慢で贅沢でプライドが高いって聞いていたし、アレックスもレナードも嫌悪してたでしょう?
それに、等しく不憫な境遇にあったって聞いてるし。
僕は、元の世界でも今も、とても恵まれているから、向こうが僕と会うのを嫌がるんじゃないかな?」

元の世界でも今も、僕は愛されてる。
でも、出産経験のある神器様は、そうじゃない。
この本の神器様はともかく、神器様って、本当の意味では愛されてない人だと思う。

僕は、不快を与えるだけの存在になるのが分かっていて、会いたいとは言えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

神様ぁ(泣)こんなんやだよ

ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。 『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』 「??あっ!獣人の世界ですか?!」 『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』 「じゃ!可愛い猫耳」 『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』 白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた 「さ、、((クシュ))っむい」 『誰だ』 俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか? ん?エバ(イブ)って女じゃねーの? その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾 え?ん?ぴ、ピエん? 修正 (2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)

怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女
BL
過去の虐待のトラウマから、怒鳴られると動悸がしてしまう子が過呼吸を起こす話

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?

かかし
BL
会社では平凡で地味な男を貫いている彼であったが、私生活ではその地味な見た目に似合わずなかなかに派手な男であった。 長く続く恋よりも一夜限りの愛を好み、理解力があって楽しめる女性を一番に好んだが、包容力があって甘やかしてくれる年上のイケメン男性にも滅法弱かった。 恋人に関しては片手で数えれる程であったが、一夜限りの相手ならば女性だけカウントしようか、男性だけカウントしようが、両手両足使っても数え切れない程に節操がない男。 (本編一部抜粋) ※男性妊娠モノじゃないです ※人によって不快になる表現があります ※攻め受け共にお互い以外と関係を持っている表現があります 全七話、14,918文字 毎朝7:00に自動更新 倫理観がくちゃくちゃな大人2人による、わちゃわちゃドタバタラブコメディ! ………の、つもりで書いたのですが、どうにも違う気がする。 過去作(二次創作)のセルフリメイクです もったいない精神

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...