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本編
-382- 南東と神器様
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お茶の時間が終わったら、アレックスは仕事へ、その後は僕がピアノと歌を30分お礼に演奏して、お父さまと渚君が帰るっていうのが流れだ。
今日も変わらず同じだ。
「ふむ。魔力循環は良くなったみたいだな」
「本当?良かった、意識して頑張る」
「そうしておけ。お前の場合、これ以上魔力量を上げる必要はないな。寧ろ、常に自分とあいつの魔力を満たしているほうが良い」
「……っわかった」
にやりと笑ってお父さまが言うから、ついつい顔が熱くなる。
普通にサラッと言ってくれれば素直に頷けたのに!
「真っ赤だぞ」
「お父さまが変な顔するから」
「俺は元からこういう顔だ」
「ルカ、蓮君虐めないで!」
「虐めてはいないぞ、揶揄ってるんだ」
「どっちも変わらないよ!」
「ハイハイ、悪かった。……じゃあな、また来る」
「うん、楽しみにしてる」
ぽんと頭に手を置かれて、わしゃわしゃと撫でられる。
こういう撫で方は新鮮だ。
お父さまから見て、僕は本当の子供みたいだ。
何だかとても嬉しい。
お父さまの転移魔法でキラキラ粒子の舞う中、消えていくのを見守ると急に部屋が静かになった。
この後は、一時間休憩の予定だ。
お茶やピアノと歌がすでに休憩感覚なんだけれど、自分で気が付かないだけで疲れていることもある、とセバスに言われた。
セバスが勉強を見てくれて、セオがそれを補佐してるんだけれど、忙しいなら外から先生を呼べばいいんじゃないかな、と思ったことがある。
でも、二人きりでつきっきりになるし、短期間ゲストとして寝泊まりしてもらうわけにもいかないし、何よりアレックスがそれを許さなかったみたい。
何かの専門を学ぶわけじゃないから、なら、セバスとセオで十分だと判断したのかも。
僕は、それで不満もなければ物足りなさもない。
読み書きが問題ないし、計算は元の世界の方がずっと進んでいるからそれも問題ない。
エリソン侯爵領の昔と今とこれからと、帝国の情勢や状況を、ちゃんと知っておくことが僕の学ぶべきものだ。
この時間を自主勉強に宛てたらこの間セバスに怒られたから、それからはゆっくり読書をするか、セオとおしゃべりする時間にしている。
今日は、あと少しで読み終わる、神器様と元神官の本を読むことにした。
僕が読書をする傍ら、セオは僕の予定を確認したり、次の勉強の準備をしたり、読書をしたり、まちまちだ。
セオの気配がする方が安心して読めるし、『気になることがあればいつでも声をかけてくださいね』って言われているから、黙って一時間過ごすってことはまずなかった。
「セオ、南東の人たちって、帝国で差別があるの?」
「差別があるかないかで言ったら、ある、が正しいと思います。帝都だと、南東の人だと知ると冷たくあしらう店もあるかもしれません」
「そっか」
神官様と神器様は、南東地方で最初はよそよそしい扱いをされていたみたいだ。
そう時間を置かずに受け入れられたのは、彼らの人柄があってこそなんだろうな。
神器様が、自分の境遇を周りに偽りなく話していたのも良かったみたい。
「でも、うちの領だって帝都では“田舎者”と差別がありますからね、似たようなものですよ?
南東は、漁業と一部観光業が盛んですが陸の販路が不十分なんですよね。
かわりに川が多いんで、街中を船が行き来してるんです。
帝都からも距離があるので、うち以上に地域性が強いというか。
南東の人も、帝都の人に苦手意識がある人は少なくありません。
貧しいかと言ったら、一概にはそうは言えませんね」
セオの話だと、南東地方もそれなりに栄えている街もあって、主に商人を相手にした高級宿もあれば、新鮮な魚介が並ぶ市場もあるんだとか。
宝石は、珊瑚や真珠が人気みたい。
「セオは行ったことあるの?」
「ありますよ」
「どうだった?」
「まだ子供でしたけど、初めて海を見た時にはびっくりしましたね!生魚は衝撃が強すぎて怖くて口に出来ませんでした」
「そっか。僕の元いた場所は生魚も普通に出回ってたんだ」
「そうなんですか?」
「うん。焼いたり煮たりよりは、生の方が好きだったな。……あ、産まれた」
この元神官さんは、官能的な部分にあまり触れない。
ほど細かに書いてないだけで、奥ゆかしい表現で書いてあるから、経緯や感情は伝わってくる。
神器様との間に、めでたく赤ちゃんが産まれた。
男の子で、顔立ちがはっきりしてくると、お顔は神器様に似たのがわかったみたいだ。
色素は作者を引き継いだらしい。
元気いっぱいで、ミルクをたくさん飲むって書いてある。
ん?
ミルク……は、どうするのかな?
聞いてなかった。
ここにも、抱かれてごくごくと飲むって書いてあるけど、ミルクがどこからきてるのか書いてない。
僕が妊娠したら、おっぱいが出るのかな?
こんな真っ平らじゃ飲みにくいよね。
「セオー」
「はい、なんです?」
「僕が妊娠したら、おっぱいが出るの?」
「っ出ません!」
「あ、出ないんだ。じゃあ、ミルクってどうするの?」
「薬屋で売ってるんですよ、液状のものか粉状のもので、お湯に溶かしてさませば完成です」
「そっか、なら良かった。こんな真っ平らじゃ飲みにくいもんね」
「先に説明しておけば良かったですねー、ミルクについて。レン様の質問に俺の方がびっくりしちゃいましたよ」
「だって書いてないんだもん」
「まあ、ミルクが薬屋に売ってるのは全く珍しくもなんともないですからね、いちいち書かなかっただけかと思いますよ」
「そっか。手に入りやすいなら良かった。この神器様は、自分の子供としてちゃんと抱いてるんだね」
「レン様も、そうなりますよ」
「うん。普通は産んでおしまいなの?」
「そうですね、子育てはしないみたいですね」
「それで思うことないのかな?」
自分がお腹を痛めて産んだのに、自分の子じゃないっていう感覚はどんな感じなんだろう?
「レン様は、出産経験をお持ちの神器様に会ってみたいですか?」
「え?」
どうだろう?
会いたいか、会いたくないか……はっきりとは、言いづらい。
それに。
「神器様は、傲慢で贅沢でプライドが高いって聞いていたし、アレックスもレナードも嫌悪してたでしょう?
それに、等しく不憫な境遇にあったって聞いてるし。
僕は、元の世界でも今も、とても恵まれているから、向こうが僕と会うのを嫌がるんじゃないかな?」
元の世界でも今も、僕は愛されてる。
でも、出産経験のある神器様は、そうじゃない。
この本の神器様はともかく、神器様って、本当の意味では愛されてない人だと思う。
僕は、不快を与えるだけの存在になるのが分かっていて、会いたいとは言えなかった。
今日も変わらず同じだ。
「ふむ。魔力循環は良くなったみたいだな」
「本当?良かった、意識して頑張る」
「そうしておけ。お前の場合、これ以上魔力量を上げる必要はないな。寧ろ、常に自分とあいつの魔力を満たしているほうが良い」
「……っわかった」
にやりと笑ってお父さまが言うから、ついつい顔が熱くなる。
普通にサラッと言ってくれれば素直に頷けたのに!
「真っ赤だぞ」
「お父さまが変な顔するから」
「俺は元からこういう顔だ」
「ルカ、蓮君虐めないで!」
「虐めてはいないぞ、揶揄ってるんだ」
「どっちも変わらないよ!」
「ハイハイ、悪かった。……じゃあな、また来る」
「うん、楽しみにしてる」
ぽんと頭に手を置かれて、わしゃわしゃと撫でられる。
こういう撫で方は新鮮だ。
お父さまから見て、僕は本当の子供みたいだ。
何だかとても嬉しい。
お父さまの転移魔法でキラキラ粒子の舞う中、消えていくのを見守ると急に部屋が静かになった。
この後は、一時間休憩の予定だ。
お茶やピアノと歌がすでに休憩感覚なんだけれど、自分で気が付かないだけで疲れていることもある、とセバスに言われた。
セバスが勉強を見てくれて、セオがそれを補佐してるんだけれど、忙しいなら外から先生を呼べばいいんじゃないかな、と思ったことがある。
でも、二人きりでつきっきりになるし、短期間ゲストとして寝泊まりしてもらうわけにもいかないし、何よりアレックスがそれを許さなかったみたい。
何かの専門を学ぶわけじゃないから、なら、セバスとセオで十分だと判断したのかも。
僕は、それで不満もなければ物足りなさもない。
読み書きが問題ないし、計算は元の世界の方がずっと進んでいるからそれも問題ない。
エリソン侯爵領の昔と今とこれからと、帝国の情勢や状況を、ちゃんと知っておくことが僕の学ぶべきものだ。
この時間を自主勉強に宛てたらこの間セバスに怒られたから、それからはゆっくり読書をするか、セオとおしゃべりする時間にしている。
今日は、あと少しで読み終わる、神器様と元神官の本を読むことにした。
僕が読書をする傍ら、セオは僕の予定を確認したり、次の勉強の準備をしたり、読書をしたり、まちまちだ。
セオの気配がする方が安心して読めるし、『気になることがあればいつでも声をかけてくださいね』って言われているから、黙って一時間過ごすってことはまずなかった。
「セオ、南東の人たちって、帝国で差別があるの?」
「差別があるかないかで言ったら、ある、が正しいと思います。帝都だと、南東の人だと知ると冷たくあしらう店もあるかもしれません」
「そっか」
神官様と神器様は、南東地方で最初はよそよそしい扱いをされていたみたいだ。
そう時間を置かずに受け入れられたのは、彼らの人柄があってこそなんだろうな。
神器様が、自分の境遇を周りに偽りなく話していたのも良かったみたい。
「でも、うちの領だって帝都では“田舎者”と差別がありますからね、似たようなものですよ?
南東は、漁業と一部観光業が盛んですが陸の販路が不十分なんですよね。
かわりに川が多いんで、街中を船が行き来してるんです。
帝都からも距離があるので、うち以上に地域性が強いというか。
南東の人も、帝都の人に苦手意識がある人は少なくありません。
貧しいかと言ったら、一概にはそうは言えませんね」
セオの話だと、南東地方もそれなりに栄えている街もあって、主に商人を相手にした高級宿もあれば、新鮮な魚介が並ぶ市場もあるんだとか。
宝石は、珊瑚や真珠が人気みたい。
「セオは行ったことあるの?」
「ありますよ」
「どうだった?」
「まだ子供でしたけど、初めて海を見た時にはびっくりしましたね!生魚は衝撃が強すぎて怖くて口に出来ませんでした」
「そっか。僕の元いた場所は生魚も普通に出回ってたんだ」
「そうなんですか?」
「うん。焼いたり煮たりよりは、生の方が好きだったな。……あ、産まれた」
この元神官さんは、官能的な部分にあまり触れない。
ほど細かに書いてないだけで、奥ゆかしい表現で書いてあるから、経緯や感情は伝わってくる。
神器様との間に、めでたく赤ちゃんが産まれた。
男の子で、顔立ちがはっきりしてくると、お顔は神器様に似たのがわかったみたいだ。
色素は作者を引き継いだらしい。
元気いっぱいで、ミルクをたくさん飲むって書いてある。
ん?
ミルク……は、どうするのかな?
聞いてなかった。
ここにも、抱かれてごくごくと飲むって書いてあるけど、ミルクがどこからきてるのか書いてない。
僕が妊娠したら、おっぱいが出るのかな?
こんな真っ平らじゃ飲みにくいよね。
「セオー」
「はい、なんです?」
「僕が妊娠したら、おっぱいが出るの?」
「っ出ません!」
「あ、出ないんだ。じゃあ、ミルクってどうするの?」
「薬屋で売ってるんですよ、液状のものか粉状のもので、お湯に溶かしてさませば完成です」
「そっか、なら良かった。こんな真っ平らじゃ飲みにくいもんね」
「先に説明しておけば良かったですねー、ミルクについて。レン様の質問に俺の方がびっくりしちゃいましたよ」
「だって書いてないんだもん」
「まあ、ミルクが薬屋に売ってるのは全く珍しくもなんともないですからね、いちいち書かなかっただけかと思いますよ」
「そっか。手に入りやすいなら良かった。この神器様は、自分の子供としてちゃんと抱いてるんだね」
「レン様も、そうなりますよ」
「うん。普通は産んでおしまいなの?」
「そうですね、子育てはしないみたいですね」
「それで思うことないのかな?」
自分がお腹を痛めて産んだのに、自分の子じゃないっていう感覚はどんな感じなんだろう?
「レン様は、出産経験をお持ちの神器様に会ってみたいですか?」
「え?」
どうだろう?
会いたいか、会いたくないか……はっきりとは、言いづらい。
それに。
「神器様は、傲慢で贅沢でプライドが高いって聞いていたし、アレックスもレナードも嫌悪してたでしょう?
それに、等しく不憫な境遇にあったって聞いてるし。
僕は、元の世界でも今も、とても恵まれているから、向こうが僕と会うのを嫌がるんじゃないかな?」
元の世界でも今も、僕は愛されてる。
でも、出産経験のある神器様は、そうじゃない。
この本の神器様はともかく、神器様って、本当の意味では愛されてない人だと思う。
僕は、不快を与えるだけの存在になるのが分かっていて、会いたいとは言えなかった。
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