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本編
-380- 転移魔法とワイン
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「次に教えて貰いたいことといったら、転移魔法なのだけれど……」
と言いながら、横に立つセオの顔を見上げる。
「アレックス様に内緒で他へも転移魔法が使えるようになられては心配されるかと」
「だよね……」
アレックスはとっても心配性だ。
転移も、アレックスのところしか行けない。今のところなんの不便もないけれど、覚えられたら便利じゃないかなとは思う。
この間みたいにこっそり孤児院に行くときに、セオの風魔法以外の手段が取れるし、転移が出来たら一瞬で行ける。
「最初にアレックスに教えて貰ったのが、アレックスのいるところに転移する魔法なのだけれど……あ、アレックスに教わったのはそれだけだ」
「くくっ……独占力丸出しだな」
お父さまが面白そうに笑う。
アレックス大好きなお父様は、アレックスの話をいつも楽しそうに聞いてくれるから、僕もついつい話しちゃう。
「すっごく心配性なんだよ?元気なのにお医者さんとか呼んじゃうし。
まあ、あれはあれで結果良かったんだと思うし、愛されてるから良いんだけれどね。
でも、不義理なことはしたくないから、他への転移は聞いてからにする」
「そうか。なら、原理や制限だけでも教えてやろう。あいつはそんなこといちいち説明してないだろ?」
「うん、魔力消費に距離は関係なくて、体積が関係するっていうのだけ」
なんで、魔力消費に距離は関係しないのかまでは知らない。
そういうものなんだろうな、って理解しただけだ。
だから、本当の意味で理解したとは言えない。
「ふむ。原理を知ってるのと知らないのとじゃ、差が出るからな」
「お願いします」
そう言って、お父さまは転移についての原理を教えてくれた。
瞬間移動と変わらないかと思っていたけれど、突き詰めると全く別物だった。
距離は関係ないってアレックスが言っていたけれど、お父さまの説明でその意味がよく分かった。
空間と空間を繋げる、言わば距離という概念がそもそもなかった。
折り紙みたいな感じで、自分と場所、あるいは人等を終着点として、端と端を合わせる感じだ。
目標が小さいほど正確だし、目標が大雑把だとズレる。
折り紙ならほんの少しのズレは修正可能だけれど、大地にしたらちょっとのズレが大きなズレになる。
それからお父さまの説明でわかったのだけれど、この世界、大地は平面だという。
丸くないんだって言うんだ、びっくりだよ。
「僕が住んでいたところは丸かったよ」
「丸いぞ」
「平面でしょ?そうじゃなくて、球体だったよ」
「ああ、球体説を唱える者もいたな。が、事実、大地は平面だ」
「そっか。なんか不思議」
「知ってどうこうなるわけじゃないけどな。気にしてるのは、一部の学者くらいだ」
確かに、僕も普段地球は丸いなんて気にしながら暮らしてはいなかったなけど。
でも、空も星も月も太陽も同じような見え方なのに、変なの、とは思う。
「そういやレン、お前、ワインは飲めるのか?」
「ん?うん。昨日が初めてだったけれど、少しずつ慣らしてくれるって」
お父さまが唐突に聞いてきた。
飲めるか飲めないかで言ったら、予想通り飲めた。
「昨日はどれくらい飲んだんだ?」
「4杯。特にこれと言って酔いを感じなかった」
「は?」
「セバスが言うには、グレース様と良い勝負だって」
「大分強いな、それは。だがまあ、飲めるならいい」
「演技は得意だから、必要なら酔ったフリをしたら良いかなって思うんだけど」
正直ワインよりジュースや果実水の方が美味しい。
朝に出してくれるジュースは、いつも100パーセントの搾りたてだから、美味しくないわけがないし、果実水だって、エリソン侯爵領で取れる新鮮な果物を使ってる水だ。
ワインだってぶどうから出来てるし、見た目や香りは良くても、ワインはやっぱりワインの味なんだよね。
ワインにかまけてマーティンのご飯やイアンのデザートがおなかいっぱいで美味しく食べられなくなる、なんてしたくないし。
正直、理由がないと特別飲みたいとは思えない。
もっと大人になれば好きになるのかな?
母さんも父さんもワイン好きだったし。
でも、今はまだワインの香りを楽しむのは無理みたいだ。
香りと言えば、紅茶の香りの違いは分かってきたよ。最近やっと紅茶そのものの香りの違いが分かってきたんだ。
ワインは、勉強のため、アレックスの横に立つため、そのために飲む。
ワイン好きな人からしたら、きっとワインが勿体ないと思うんだろうな。
あ、でも、アレックスが好きなワインがあれば一緒に飲んでみたいかも。
僕だけ飲んでるから、それも美味しいと思えない理由の一つかもしれない。
セバス相手にフリなんて出来ないけど、祝賀会本番では、酔ったフリは使える手だと思う。
「くくっ便利だな。感は良さそうだが、善し悪しは分かるのか?まあ、ここじゃ良いものしか出さないだろうが」
「飲んだときの感想は褒めて貰えたよ。でも、昨日出された中で1番高いのは飲めなくて。一口でごめんなさいしたから、ワインを語るなんてほど遠い感じ」
美味しいかって聞かれると困る。
ぶどうジュースとワインを選べるならぶどうジュースを選びたい。
「来たか」
お父さまがおかしそうに笑った後に、小さく呟く。
「アレックス様が到着されましたよ。こちらに向かってます」
セオが穏やかに告げてくれた。
もうそんな時間かあ。
アレックスとお父さま、そして渚くんと4人で一緒にお茶をするのはとても楽しい。
今日はどんなドルチェかな?
2人とも競う様に、それでも、ひと皿に綺麗に合わせて盛り付けてくれる。
イアンと渚くんのドルチェも、とっても楽しみだ。
と言いながら、横に立つセオの顔を見上げる。
「アレックス様に内緒で他へも転移魔法が使えるようになられては心配されるかと」
「だよね……」
アレックスはとっても心配性だ。
転移も、アレックスのところしか行けない。今のところなんの不便もないけれど、覚えられたら便利じゃないかなとは思う。
この間みたいにこっそり孤児院に行くときに、セオの風魔法以外の手段が取れるし、転移が出来たら一瞬で行ける。
「最初にアレックスに教えて貰ったのが、アレックスのいるところに転移する魔法なのだけれど……あ、アレックスに教わったのはそれだけだ」
「くくっ……独占力丸出しだな」
お父さまが面白そうに笑う。
アレックス大好きなお父様は、アレックスの話をいつも楽しそうに聞いてくれるから、僕もついつい話しちゃう。
「すっごく心配性なんだよ?元気なのにお医者さんとか呼んじゃうし。
まあ、あれはあれで結果良かったんだと思うし、愛されてるから良いんだけれどね。
でも、不義理なことはしたくないから、他への転移は聞いてからにする」
「そうか。なら、原理や制限だけでも教えてやろう。あいつはそんなこといちいち説明してないだろ?」
「うん、魔力消費に距離は関係なくて、体積が関係するっていうのだけ」
なんで、魔力消費に距離は関係しないのかまでは知らない。
そういうものなんだろうな、って理解しただけだ。
だから、本当の意味で理解したとは言えない。
「ふむ。原理を知ってるのと知らないのとじゃ、差が出るからな」
「お願いします」
そう言って、お父さまは転移についての原理を教えてくれた。
瞬間移動と変わらないかと思っていたけれど、突き詰めると全く別物だった。
距離は関係ないってアレックスが言っていたけれど、お父さまの説明でその意味がよく分かった。
空間と空間を繋げる、言わば距離という概念がそもそもなかった。
折り紙みたいな感じで、自分と場所、あるいは人等を終着点として、端と端を合わせる感じだ。
目標が小さいほど正確だし、目標が大雑把だとズレる。
折り紙ならほんの少しのズレは修正可能だけれど、大地にしたらちょっとのズレが大きなズレになる。
それからお父さまの説明でわかったのだけれど、この世界、大地は平面だという。
丸くないんだって言うんだ、びっくりだよ。
「僕が住んでいたところは丸かったよ」
「丸いぞ」
「平面でしょ?そうじゃなくて、球体だったよ」
「ああ、球体説を唱える者もいたな。が、事実、大地は平面だ」
「そっか。なんか不思議」
「知ってどうこうなるわけじゃないけどな。気にしてるのは、一部の学者くらいだ」
確かに、僕も普段地球は丸いなんて気にしながら暮らしてはいなかったなけど。
でも、空も星も月も太陽も同じような見え方なのに、変なの、とは思う。
「そういやレン、お前、ワインは飲めるのか?」
「ん?うん。昨日が初めてだったけれど、少しずつ慣らしてくれるって」
お父さまが唐突に聞いてきた。
飲めるか飲めないかで言ったら、予想通り飲めた。
「昨日はどれくらい飲んだんだ?」
「4杯。特にこれと言って酔いを感じなかった」
「は?」
「セバスが言うには、グレース様と良い勝負だって」
「大分強いな、それは。だがまあ、飲めるならいい」
「演技は得意だから、必要なら酔ったフリをしたら良いかなって思うんだけど」
正直ワインよりジュースや果実水の方が美味しい。
朝に出してくれるジュースは、いつも100パーセントの搾りたてだから、美味しくないわけがないし、果実水だって、エリソン侯爵領で取れる新鮮な果物を使ってる水だ。
ワインだってぶどうから出来てるし、見た目や香りは良くても、ワインはやっぱりワインの味なんだよね。
ワインにかまけてマーティンのご飯やイアンのデザートがおなかいっぱいで美味しく食べられなくなる、なんてしたくないし。
正直、理由がないと特別飲みたいとは思えない。
もっと大人になれば好きになるのかな?
母さんも父さんもワイン好きだったし。
でも、今はまだワインの香りを楽しむのは無理みたいだ。
香りと言えば、紅茶の香りの違いは分かってきたよ。最近やっと紅茶そのものの香りの違いが分かってきたんだ。
ワインは、勉強のため、アレックスの横に立つため、そのために飲む。
ワイン好きな人からしたら、きっとワインが勿体ないと思うんだろうな。
あ、でも、アレックスが好きなワインがあれば一緒に飲んでみたいかも。
僕だけ飲んでるから、それも美味しいと思えない理由の一つかもしれない。
セバス相手にフリなんて出来ないけど、祝賀会本番では、酔ったフリは使える手だと思う。
「くくっ便利だな。感は良さそうだが、善し悪しは分かるのか?まあ、ここじゃ良いものしか出さないだろうが」
「飲んだときの感想は褒めて貰えたよ。でも、昨日出された中で1番高いのは飲めなくて。一口でごめんなさいしたから、ワインを語るなんてほど遠い感じ」
美味しいかって聞かれると困る。
ぶどうジュースとワインを選べるならぶどうジュースを選びたい。
「来たか」
お父さまがおかしそうに笑った後に、小さく呟く。
「アレックス様が到着されましたよ。こちらに向かってます」
セオが穏やかに告げてくれた。
もうそんな時間かあ。
アレックスとお父さま、そして渚くんと4人で一緒にお茶をするのはとても楽しい。
今日はどんなドルチェかな?
2人とも競う様に、それでも、ひと皿に綺麗に合わせて盛り付けてくれる。
イアンと渚くんのドルチェも、とっても楽しみだ。
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