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本編
-372- レンのため アレックス視点
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「次は、どこに行かれるかお聞きになりましたか?」
「ああ、そうだった。次は───ハワード伯爵家だ」
「え……」
セオすらびっくりだ。
ユージーンからレンが着せ替え人形化するのではないかと聞いていた。
次こそ帝都を連れ回されるのではと思っていたが、なんと自分の家に招くと伝えられた。
当日は、複数の商人を家に招くというから、本当に予想の上をいく人だ。
更にお茶の時間もそちらで用意するから、一緒に取りたいならハワード家に転移してこいとも言われてしまった。
可能なら、息子もつれてきてほしい、と。
聞いた後なら合点がいく。
ラソンブレの件も問いただすつもりだろうな。
単純に一年に一度しか生身で実家に帰らない息子の顔を見たいと言う理由も、嘘ではないだろうけれども。
「ハワード伯が所有している神器様がどういった方なのかを知らないからこその考えですが、レン様を他の神器様に会わせるのはまだ早いと思われます」
「俺もそう思ったんだが、祝賀会で初めて会うよりは、事前に一度神器様と話す機会があった方が良いというエリー夫人の考えも一理あると思った」
「レン様は神器様としてではなく、エリソン侯爵夫人として参加されます。同じ空間にいることはないかと」
「だが、すれ違う可能性もある。それに他の神器様と一緒にどうだと王家から言われては、立場上断れない。そのようなことにならないよう全力で努めるが、万が一もある」
「………」
「ハワード伯の所有する神器様は、夫人曰く、“そう見せているだけ”らしい」
「中身は違うと?」
「ああ。立場的に数年前まで一緒に帝都入りすることもあったようだし、人柄を一言でいうと、お人よしなんだそうだ」
中身はエリー夫人にそっくりだと思っていたが、夫人曰く、息子のお人好しな部分は神器さまの性格を引き継いだ、と言う。
面倒見がいいところは私に似たんだろうけれどね、と息子自慢をされた。
『声も喋り方もエリー夫人そっくりですが』と言うと『はははっよく言われます』と嬉しそうに答えられたな。
「神器様にも了承を得ているそうだ」
「俺は……まだ、正直賛成できかねます」
「……理由を聞いても?」
神器様の性格が例外だと言うなら、会って話をする機会というのはレンにとってもいい機会じゃないかと思う。
噂だけなら俺も話せるが、神器様から実際に話が聞けるならその方がより正しい情報だ。
上官の神器様方は、例に漏れない方々だ、レンに会わせるわけにはいかない。
「確かに、祝賀会前に神器様と接触する機会があったほうが良いとの考えを理解は出来ました。
ですが、レン様は無理矢理こちらに連れてこられた方です。
アレックス様に出会われて、楽しそうに過ごされてますし、侯爵夫人として日々邁進されてます。
けどですよ?十中八九、元の世界の話になるじゃないですか。
全く未練がないってことないでしょ?
役者としてようやくってときに連れてこられたわけで、思い出にするには圧倒的に時間が足りません」
「………」
セオの言葉が、胸に刺さる。
『思い出にするには圧倒的に時間が足りない』……確かにそうだ。
レンにとって苦痛な時間となり、後々引きずられては困るし、俺だってそんなことを望んじゃいない。
レンのため……本当にそうか?
会わせるのが、レンのためになるだろうか。
祖母さんが俺にしてきたのと同じようなことを、俺はレンにしていないか?
俺は、人の気持ちを汲むことが苦手だ。
だが、せめて自分の手に届く範囲くらいそうなろうと努力はしている。
特に、レンにとっては、より気を配ってきた。
それでも俺の至らないことでレンを悲しませることもあった。
「確かに、お前の言う通りだな。
俺が直接レンに聞くと、具体的な話に進んでしまう。
『祝賀会より前に神器様と話す機会があったら話してみたいか』を聞いてほしい。
あくまで、さりげなく、だ。
今、レンは神器様の本を読んでいるだろう?その時にでも話題にして欲しい。
レンが『今は話したくない』と言えば、エリー夫人には神器様には会わせない旨を俺から伝える」
「畏まりました。酌んで頂きありがとうございます」
お礼を言うのは俺の方だ。
「いや……お前がレンの傍にいてくれて良かった」
そう言うと、セオは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ああ、そうだった。次は───ハワード伯爵家だ」
「え……」
セオすらびっくりだ。
ユージーンからレンが着せ替え人形化するのではないかと聞いていた。
次こそ帝都を連れ回されるのではと思っていたが、なんと自分の家に招くと伝えられた。
当日は、複数の商人を家に招くというから、本当に予想の上をいく人だ。
更にお茶の時間もそちらで用意するから、一緒に取りたいならハワード家に転移してこいとも言われてしまった。
可能なら、息子もつれてきてほしい、と。
聞いた後なら合点がいく。
ラソンブレの件も問いただすつもりだろうな。
単純に一年に一度しか生身で実家に帰らない息子の顔を見たいと言う理由も、嘘ではないだろうけれども。
「ハワード伯が所有している神器様がどういった方なのかを知らないからこその考えですが、レン様を他の神器様に会わせるのはまだ早いと思われます」
「俺もそう思ったんだが、祝賀会で初めて会うよりは、事前に一度神器様と話す機会があった方が良いというエリー夫人の考えも一理あると思った」
「レン様は神器様としてではなく、エリソン侯爵夫人として参加されます。同じ空間にいることはないかと」
「だが、すれ違う可能性もある。それに他の神器様と一緒にどうだと王家から言われては、立場上断れない。そのようなことにならないよう全力で努めるが、万が一もある」
「………」
「ハワード伯の所有する神器様は、夫人曰く、“そう見せているだけ”らしい」
「中身は違うと?」
「ああ。立場的に数年前まで一緒に帝都入りすることもあったようだし、人柄を一言でいうと、お人よしなんだそうだ」
中身はエリー夫人にそっくりだと思っていたが、夫人曰く、息子のお人好しな部分は神器さまの性格を引き継いだ、と言う。
面倒見がいいところは私に似たんだろうけれどね、と息子自慢をされた。
『声も喋り方もエリー夫人そっくりですが』と言うと『はははっよく言われます』と嬉しそうに答えられたな。
「神器様にも了承を得ているそうだ」
「俺は……まだ、正直賛成できかねます」
「……理由を聞いても?」
神器様の性格が例外だと言うなら、会って話をする機会というのはレンにとってもいい機会じゃないかと思う。
噂だけなら俺も話せるが、神器様から実際に話が聞けるならその方がより正しい情報だ。
上官の神器様方は、例に漏れない方々だ、レンに会わせるわけにはいかない。
「確かに、祝賀会前に神器様と接触する機会があったほうが良いとの考えを理解は出来ました。
ですが、レン様は無理矢理こちらに連れてこられた方です。
アレックス様に出会われて、楽しそうに過ごされてますし、侯爵夫人として日々邁進されてます。
けどですよ?十中八九、元の世界の話になるじゃないですか。
全く未練がないってことないでしょ?
役者としてようやくってときに連れてこられたわけで、思い出にするには圧倒的に時間が足りません」
「………」
セオの言葉が、胸に刺さる。
『思い出にするには圧倒的に時間が足りない』……確かにそうだ。
レンにとって苦痛な時間となり、後々引きずられては困るし、俺だってそんなことを望んじゃいない。
レンのため……本当にそうか?
会わせるのが、レンのためになるだろうか。
祖母さんが俺にしてきたのと同じようなことを、俺はレンにしていないか?
俺は、人の気持ちを汲むことが苦手だ。
だが、せめて自分の手に届く範囲くらいそうなろうと努力はしている。
特に、レンにとっては、より気を配ってきた。
それでも俺の至らないことでレンを悲しませることもあった。
「確かに、お前の言う通りだな。
俺が直接レンに聞くと、具体的な話に進んでしまう。
『祝賀会より前に神器様と話す機会があったら話してみたいか』を聞いてほしい。
あくまで、さりげなく、だ。
今、レンは神器様の本を読んでいるだろう?その時にでも話題にして欲しい。
レンが『今は話したくない』と言えば、エリー夫人には神器様には会わせない旨を俺から伝える」
「畏まりました。酌んで頂きありがとうございます」
お礼を言うのは俺の方だ。
「いや……お前がレンの傍にいてくれて良かった」
そう言うと、セオは嬉しそうに笑みを浮かべた。
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