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本編
-370- 空間魔法
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「ふむ……駄目だな。精々10倍か、話にならん。闇の魔石でもつけりゃ変わるかもしれないが」
お父さまが空間から取り出した大小さまざまな巾着袋は、取り出した時は新品だったけれどそのほとんどがボロボロになった。
魔物の革で出来てる巾着なんだとか。
お父さまで付与できないなら僕なんて到底無理な話だ。
素材そのものに対して、魔法の耐性が低いみたい。
「魔石をつけちゃったら、目立つよね」
「何かあるって言ってるも同然だが……つけてみるか?領内であっても、人目のあるところで取り出すと警戒されるだろうな」
唯一成功したという10倍入る巾着袋を手に、はた、と気が付く。
あれ?10倍入るだけでも凄くない?
袋が小さいし、空間魔法は魔力消費を考えずにいたら際限なく大きくできるけれど、10倍だよ?
「お父さま……」
「ん?」
「10倍入るだけでも凄くない?」
「ろくでもないことにしか使えん」
「ろくでもないこと……」
「セオ、お前ならこれをどうする」
お父さまが、セオに話をふる。
「このサイズで10倍なら小さな暗器を必要なだけ持ち込めますね、それも他人が確認しても何も入っていない状態で」
「あ……」
「実に良い例だ」
「恐れ入ります」
「それとこれもどれだけ魔法が定着するかわからん。いきなり破れて使い物にならなくなっても困るだろう。……やはり魔石をつけてみるか」
「内側につけるなら、袋そのものを確認されなければ周りからの警戒も少ないんじゃないの?」
「馬鹿か、ちょっと鑑定のスキルがあるだけで、魔石が縫い付けてるのが分かる。より警戒されるぞ」
外で使えないとあまり役に立ちはしないか。
えー……でも、10倍入るんだから、もう少しなんとかならないかな?
それも、重さは袋の重さだけだ。
「あ、なら、魔石じゃなくて、宝石にしたら駄目かな?石もある程度魔法付与が出来るんだよね?」
「闇魔法は、素材に左右されずに付与できるからな。だが、普通の宝石じゃ空間魔法を付与するには耐性が弱いぞ」
光と闇の魔法は、素材に左右されずに付与できるけれど、付与できる魔法の方に制限があるらしい。
僕は闇魔法だから、空間や時間に関与できる魔法だ。
防御も闇魔法。
光魔法でも防御可能だけど、空間を制御できるのは闇魔法一択だ。
考えようによる、とのことだった。
ちなみに、魔法陣の場合は、また原理が異なる。
魔力が強ければ強いほど、精密であればあるほど、精巧な魔法式が出来る。
法則もあるし、制約が細かいから、数日で習得できるものじゃないんだって。
組み合わせて作り、魔石の力で発動するのが魔道具や魔法具と言われてるものだと言う。
魔石を使わずに魔法陣そのものに力を維持する場合は、定期的に魔力を注ぎ込む必要があるんだって。
なんていうか、パソコンのハードやソフトなんかに似てるかも。
機械弄りが得意だったり、ソフト開発に携わっていたらもう少し理解出来たかもしれないけど、僕には理解するのに時間がかかりそうだった。
理解するよりも、得意な誰かに頼む方が得策だ。
「別々に付与すればいいかなって。バッグの方に空間魔法を付与して、宝石の方に状態維持の魔法をかける。
それならどうかな?」
「便利っつってもなあ。レン、お前は全く必要としないだろ?作ってどうする。第一、これは売れないぞ?」
あ、お父さま、僕が商品を売る前提で考えてるのかな?
そもそも魔法の付与自体が闇魔法に限定されてるから、事業にするには全く持って向いてないのはわかる。
わかるんだけど。
「確かに、あったら便利は便利ですねーとっても。袋でも袋分の重さで運べるなら、袋の方を大きくすればいいんですから。なにより入れた時のままの状態で取り出せるっていうのが良いです。うちの領民なら闇属性に抵抗がない人は多いので使い方次第だとは思います。
ただ……色々考えると、やっぱり使うならこっそり、それこそ侯爵邸のみ、もしくは信頼のおける方に限定した方が良いでしょうね。アレックス様も、空間収納の魔法は限られた人しか知りませんから」
「………」
わかってる。
戦争に駆り出されるかもしれないから、って前に聞いたし。
大量の武器なんかを一度に一瞬で運べちゃうんだもん。
いくら闇属性が嫌煙されていても、いざとなったら分からないよね。
「レン?言いたいことがあるならはっきり言え」
「空間収納の魔法付与が出来たら、アレックスの負担を減らせるかなって思ったんだ。
エルフ族は帝国に属してるけど、不可侵条約を結んでるって聞いてるから、実質空間収納の魔法を使えるのはアレックスのみだったわけでしょう?
魔法省の、入りきらない物の保管もアレックスがしてるって聞いたけど、それって負担が大きいなって思ったんだ。別の人ができるならって思って」
「はー……ま、アレックスはアレックスで、あれはそれを嫌がってはいないぞ。
むしろ、自分のために嬉々としてやってる。放っておいてやれ」
お父さまは、そこ止めないのか。
一人でこの帝国の国境に築いている結界を守っている人だ。
それに比べたら責任も負担も低いと思うけれど、でも。
「自分のためっていうけれど、それは自分の居場所を守るためって意味でしょ?
もう必要ないと思うんだ。
そんなことしなくても、みんなアレックスを認めてくれているよ?
アレックスがいればいいってことだけれど、アレックスだって寿命はあるよ?さっきお父さまが言ってたけど、万が一突然事故や病気で亡くなっちゃったら、それこそどうするの?うちに関することならまだいいんだ。けど、アレックスが魔法省の機密事項をずっと空間に保管し続けてるのは凄く危うい」
「あー……」
お父さまが、俯いて盛大にため息のようなうめき声をあげて、髪をかき上げた。
見た目が美しいお父さまは何をしても美しい。
「アレックスが保管するにしても、アレックスだけしか管理できない状態は良くないでしょ?」
「っわかったわかった、別の方法を考えてやる。
言い出しておいてなんだが、空間収納の魔法付与も少し待て。
可視化できてからにしろ、それも考えてやるから。
それと、空間魔法は使えるようになったといってむやみなたらに数を増やすなよ?覚えきれなくなったら元も子もないからな。だが、練習は怠るな」
「うん、ありがとう」
「レン、お前は可愛い顔して結構強情だな」
仕方なく笑うお父さまの優しさが嬉しくて、僕は笑顔で頷いておいた。
お父さまが空間から取り出した大小さまざまな巾着袋は、取り出した時は新品だったけれどそのほとんどがボロボロになった。
魔物の革で出来てる巾着なんだとか。
お父さまで付与できないなら僕なんて到底無理な話だ。
素材そのものに対して、魔法の耐性が低いみたい。
「魔石をつけちゃったら、目立つよね」
「何かあるって言ってるも同然だが……つけてみるか?領内であっても、人目のあるところで取り出すと警戒されるだろうな」
唯一成功したという10倍入る巾着袋を手に、はた、と気が付く。
あれ?10倍入るだけでも凄くない?
袋が小さいし、空間魔法は魔力消費を考えずにいたら際限なく大きくできるけれど、10倍だよ?
「お父さま……」
「ん?」
「10倍入るだけでも凄くない?」
「ろくでもないことにしか使えん」
「ろくでもないこと……」
「セオ、お前ならこれをどうする」
お父さまが、セオに話をふる。
「このサイズで10倍なら小さな暗器を必要なだけ持ち込めますね、それも他人が確認しても何も入っていない状態で」
「あ……」
「実に良い例だ」
「恐れ入ります」
「それとこれもどれだけ魔法が定着するかわからん。いきなり破れて使い物にならなくなっても困るだろう。……やはり魔石をつけてみるか」
「内側につけるなら、袋そのものを確認されなければ周りからの警戒も少ないんじゃないの?」
「馬鹿か、ちょっと鑑定のスキルがあるだけで、魔石が縫い付けてるのが分かる。より警戒されるぞ」
外で使えないとあまり役に立ちはしないか。
えー……でも、10倍入るんだから、もう少しなんとかならないかな?
それも、重さは袋の重さだけだ。
「あ、なら、魔石じゃなくて、宝石にしたら駄目かな?石もある程度魔法付与が出来るんだよね?」
「闇魔法は、素材に左右されずに付与できるからな。だが、普通の宝石じゃ空間魔法を付与するには耐性が弱いぞ」
光と闇の魔法は、素材に左右されずに付与できるけれど、付与できる魔法の方に制限があるらしい。
僕は闇魔法だから、空間や時間に関与できる魔法だ。
防御も闇魔法。
光魔法でも防御可能だけど、空間を制御できるのは闇魔法一択だ。
考えようによる、とのことだった。
ちなみに、魔法陣の場合は、また原理が異なる。
魔力が強ければ強いほど、精密であればあるほど、精巧な魔法式が出来る。
法則もあるし、制約が細かいから、数日で習得できるものじゃないんだって。
組み合わせて作り、魔石の力で発動するのが魔道具や魔法具と言われてるものだと言う。
魔石を使わずに魔法陣そのものに力を維持する場合は、定期的に魔力を注ぎ込む必要があるんだって。
なんていうか、パソコンのハードやソフトなんかに似てるかも。
機械弄りが得意だったり、ソフト開発に携わっていたらもう少し理解出来たかもしれないけど、僕には理解するのに時間がかかりそうだった。
理解するよりも、得意な誰かに頼む方が得策だ。
「別々に付与すればいいかなって。バッグの方に空間魔法を付与して、宝石の方に状態維持の魔法をかける。
それならどうかな?」
「便利っつってもなあ。レン、お前は全く必要としないだろ?作ってどうする。第一、これは売れないぞ?」
あ、お父さま、僕が商品を売る前提で考えてるのかな?
そもそも魔法の付与自体が闇魔法に限定されてるから、事業にするには全く持って向いてないのはわかる。
わかるんだけど。
「確かに、あったら便利は便利ですねーとっても。袋でも袋分の重さで運べるなら、袋の方を大きくすればいいんですから。なにより入れた時のままの状態で取り出せるっていうのが良いです。うちの領民なら闇属性に抵抗がない人は多いので使い方次第だとは思います。
ただ……色々考えると、やっぱり使うならこっそり、それこそ侯爵邸のみ、もしくは信頼のおける方に限定した方が良いでしょうね。アレックス様も、空間収納の魔法は限られた人しか知りませんから」
「………」
わかってる。
戦争に駆り出されるかもしれないから、って前に聞いたし。
大量の武器なんかを一度に一瞬で運べちゃうんだもん。
いくら闇属性が嫌煙されていても、いざとなったら分からないよね。
「レン?言いたいことがあるならはっきり言え」
「空間収納の魔法付与が出来たら、アレックスの負担を減らせるかなって思ったんだ。
エルフ族は帝国に属してるけど、不可侵条約を結んでるって聞いてるから、実質空間収納の魔法を使えるのはアレックスのみだったわけでしょう?
魔法省の、入りきらない物の保管もアレックスがしてるって聞いたけど、それって負担が大きいなって思ったんだ。別の人ができるならって思って」
「はー……ま、アレックスはアレックスで、あれはそれを嫌がってはいないぞ。
むしろ、自分のために嬉々としてやってる。放っておいてやれ」
お父さまは、そこ止めないのか。
一人でこの帝国の国境に築いている結界を守っている人だ。
それに比べたら責任も負担も低いと思うけれど、でも。
「自分のためっていうけれど、それは自分の居場所を守るためって意味でしょ?
もう必要ないと思うんだ。
そんなことしなくても、みんなアレックスを認めてくれているよ?
アレックスがいればいいってことだけれど、アレックスだって寿命はあるよ?さっきお父さまが言ってたけど、万が一突然事故や病気で亡くなっちゃったら、それこそどうするの?うちに関することならまだいいんだ。けど、アレックスが魔法省の機密事項をずっと空間に保管し続けてるのは凄く危うい」
「あー……」
お父さまが、俯いて盛大にため息のようなうめき声をあげて、髪をかき上げた。
見た目が美しいお父さまは何をしても美しい。
「アレックスが保管するにしても、アレックスだけしか管理できない状態は良くないでしょ?」
「っわかったわかった、別の方法を考えてやる。
言い出しておいてなんだが、空間収納の魔法付与も少し待て。
可視化できてからにしろ、それも考えてやるから。
それと、空間魔法は使えるようになったといってむやみなたらに数を増やすなよ?覚えきれなくなったら元も子もないからな。だが、練習は怠るな」
「うん、ありがとう」
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