369 / 414
本編
-369- 空間魔法
しおりを挟む
「魔法は想像力だと言ったが、空間魔法も同じだ」
午後になってお父さまと渚君がやってきて、僕は早速お父さまから空間魔法を教えて貰っている。
お父さまとだけなら、2人きりでもいいような気がするんだけど、一緒にセオも居てくれてる。
『アレックス様からも爺さまからも言いつけられてますので』って言われたら、『休んでいいよ』とは言えなかった。
そうそう、二人の他にもうひとり精霊さんが一緒に来てるのだけれど、揉めに揉めて毎回順番になったみたい。
今日は、初めて会う火の精霊さんで、オレンジ色の髪と瞳をした元気いっぱいの少年が一緒だったよ。
少年っていっても、16、7かな?
ブルーノと同じくらいに見えた。
実際は、もしかしたらもっと長く生きてるかもしれない。
精霊だもん。
「最初に大きさを決めておかねばならない。立体で想像しろ。
取り出し口には蓋も必要だ。
じゃないと零れ落ちてく。
それと、何を収納したかを忘れると一生取り出せないぞ。
こんなものあったっけ、懐かしい……なんて都合のいいことはない。
まあ、思い出せば取り出せはするが」
「自分自身が入って探すってことは出来ないの?」
「戻ってこれなくなるぞ」
「……そうなんだ。わかった、気を付ける」
「空間魔法は、空間と繋げた時に魔力を消費するだけで、保管してる間ずっと消耗しているわけじゃない。
また、空間の大きさ……体積だな、デカければデカいほど魔力を食う。
だから、デカいのを一つ作るよりは、必要な大きさのものをいくつか作り、使い分けた方が良いだろう。最初は小さく作れ、そうだな、この部屋くらいまでにしておけ」
「……分かった」
この部屋くらいにって、この部屋が小さい部類に入るのか。
もっと、ダンボール1個分くらいを想像してたよ。
じゃあもう、大きいっていったら、ホームセンターの倉庫並みだなあ。
ものは試しだ、やってみろとサラッと口にするお父さま。
頷いて作ろうと思ったところで、疑問を思い出す。
「あ、そうだ、お父さま、アレックスから入れた時と同じ状態のまま取り出せるって聞いたのだけど、ずーっと入れてても劣化しないの?」
「しないな」
「何十年でも?」
「ああ、何十年でもだ」
「でも、生き物も入れられるんでしょう?空気があるのに?」
「根本的な考えが違う。時間という概念が無いんだ」
「あ……そっか」
「お前は理解が早いな」
「お父さまの教え方が上手いからだよ」
「今の聞いたか?初めて言われたぞ!」
お父さまはセオに同意を求めて嬉しそうに笑った。
でも、お父さまの教え方には無駄がないし、専門用語を使わないからか、話がするっと入ってくる。
はじめノートを取ろうとしたら、必要ないって言われたんだよね。
見て聞いて実践して覚えろって。
『難しい詠唱のときもだめ?』って聞いたら、『そんなものは必要ない』と言われたんだ。
なんで必要じゃないかも教えて貰った。
詠唱っていうのは、イメージを増幅させたり、集中するために言葉にするもので、詠唱そのものに効果は殆どないんだとか。
ただ、言葉には魔力がのる。
実際に言葉にすることで力を増幅させることは可能らしい。
だから、イメージが足りないで詠唱だけ覚えてしまうと、失敗する原因になるんだって。
詠唱が全てだと、全く真逆のことを言う人もいる。
魔法には諸説あるみたいだけれど、少なくとも帝国内でお父さま以上に凄い魔法を使う人はいないから、素直に信じれば良いと言われたよ。
「入れて、扉を閉めて……開けて、取り出す、それから、扉を閉める」
お父さまが部屋に例えたから、試しに作ったのは元の世界の僕の部屋の大きさだ。
蓋をするって言われたけれど、部屋なら扉のほうが想像しやすい。
とりあえず、それでいいだろうと渡されたのは、僕が大切にしているガラスペンだ。
今日の授業で、『何か大切にしてる物を一つ用意しておけ』って言われたからだ。
まだお父さまにはガラスペンを見せていなかったら、自慢したかったのもある。
絶対失敗できないものだし、大切なものだ。
やるのも気合が入る。
「うまく出来てるな。あとは、よりスムーズに出し入れすることができるように練習しておけ」
「飲んだふりをして、空間に捨てるってことも出来るかな?」
「ん?ああ、同じ原理だな。
ただ、空間収納は術者が死んだ場合、どんな形で出てくるかわからない。
一生取り出せないかもしれないが、思わぬ場所から発見されたこともある。
捨てるっていう考えはやめておけ、一時保管だと思え」
「そうなんだ……じゃあ、要らないものをむやみなたらに捨てたら駄目だね」
「ああ、ただ問題を後ろ伸ばしにしただけだ。後々大問題になる可能性もある」
お父さまの話だと、湖の底から、亡くなったエルフの一人が空間に捨てていたゴミやガラクタがわんさか出てきたことがあったらしい。
教訓となったからか、今でも昔話として語り継がれているんだとか。
エルフ族は、精霊魔法を使う。
精霊との契約によるものだから、闇の精霊と契約をすれば闇属性の魔法が使えるのと同じようなものらしい。
アリアナ教も信じられてはいないから、闇精霊との契約をしているエルフ自体は、そう珍しいものでもないんだって。
「空間魔法って、物には付与できないの?」
「は?」
「えーと……たとえばなんだけれど、バッグとかポケットとかに、空間魔法の付与は出来ないのかなって」
「ポケットは無理だろ。や、待て……魔蚕や魔物の革ならいける、か?
だが、維持するのが難しいな。
お前が言うのは、それがあれば別の者も使えるんじゃないかってことを言いたいんだろう?」
「うん、そう。でも、空間魔法は、空間と繋げた時に魔力を消費するだけで、保管してる間ずっと消耗しているわけじゃないんでしょう?
開けたときだけ空間に繋がればいいんだから……バッグやポケットの入口が開いたときだけなら、維持もそう難しくないんじゃないのかなって思って」
「ふむ……」
お父様が顎に手を当てて、じっと考えるそぶりを見せてきた。
お父様は、魔法で一番大切なのはイメージだって言っていたけれど、魔法の論理的な部分もきちんと見極められている方だ。
「試す価値はある、か……」
固唾をのんで見守っていると、やがてお父様はぽつりと呟いた。
そうこなくっちゃ!
なんでも試すことって大事だよね。
午後になってお父さまと渚君がやってきて、僕は早速お父さまから空間魔法を教えて貰っている。
お父さまとだけなら、2人きりでもいいような気がするんだけど、一緒にセオも居てくれてる。
『アレックス様からも爺さまからも言いつけられてますので』って言われたら、『休んでいいよ』とは言えなかった。
そうそう、二人の他にもうひとり精霊さんが一緒に来てるのだけれど、揉めに揉めて毎回順番になったみたい。
今日は、初めて会う火の精霊さんで、オレンジ色の髪と瞳をした元気いっぱいの少年が一緒だったよ。
少年っていっても、16、7かな?
ブルーノと同じくらいに見えた。
実際は、もしかしたらもっと長く生きてるかもしれない。
精霊だもん。
「最初に大きさを決めておかねばならない。立体で想像しろ。
取り出し口には蓋も必要だ。
じゃないと零れ落ちてく。
それと、何を収納したかを忘れると一生取り出せないぞ。
こんなものあったっけ、懐かしい……なんて都合のいいことはない。
まあ、思い出せば取り出せはするが」
「自分自身が入って探すってことは出来ないの?」
「戻ってこれなくなるぞ」
「……そうなんだ。わかった、気を付ける」
「空間魔法は、空間と繋げた時に魔力を消費するだけで、保管してる間ずっと消耗しているわけじゃない。
また、空間の大きさ……体積だな、デカければデカいほど魔力を食う。
だから、デカいのを一つ作るよりは、必要な大きさのものをいくつか作り、使い分けた方が良いだろう。最初は小さく作れ、そうだな、この部屋くらいまでにしておけ」
「……分かった」
この部屋くらいにって、この部屋が小さい部類に入るのか。
もっと、ダンボール1個分くらいを想像してたよ。
じゃあもう、大きいっていったら、ホームセンターの倉庫並みだなあ。
ものは試しだ、やってみろとサラッと口にするお父さま。
頷いて作ろうと思ったところで、疑問を思い出す。
「あ、そうだ、お父さま、アレックスから入れた時と同じ状態のまま取り出せるって聞いたのだけど、ずーっと入れてても劣化しないの?」
「しないな」
「何十年でも?」
「ああ、何十年でもだ」
「でも、生き物も入れられるんでしょう?空気があるのに?」
「根本的な考えが違う。時間という概念が無いんだ」
「あ……そっか」
「お前は理解が早いな」
「お父さまの教え方が上手いからだよ」
「今の聞いたか?初めて言われたぞ!」
お父さまはセオに同意を求めて嬉しそうに笑った。
でも、お父さまの教え方には無駄がないし、専門用語を使わないからか、話がするっと入ってくる。
はじめノートを取ろうとしたら、必要ないって言われたんだよね。
見て聞いて実践して覚えろって。
『難しい詠唱のときもだめ?』って聞いたら、『そんなものは必要ない』と言われたんだ。
なんで必要じゃないかも教えて貰った。
詠唱っていうのは、イメージを増幅させたり、集中するために言葉にするもので、詠唱そのものに効果は殆どないんだとか。
ただ、言葉には魔力がのる。
実際に言葉にすることで力を増幅させることは可能らしい。
だから、イメージが足りないで詠唱だけ覚えてしまうと、失敗する原因になるんだって。
詠唱が全てだと、全く真逆のことを言う人もいる。
魔法には諸説あるみたいだけれど、少なくとも帝国内でお父さま以上に凄い魔法を使う人はいないから、素直に信じれば良いと言われたよ。
「入れて、扉を閉めて……開けて、取り出す、それから、扉を閉める」
お父さまが部屋に例えたから、試しに作ったのは元の世界の僕の部屋の大きさだ。
蓋をするって言われたけれど、部屋なら扉のほうが想像しやすい。
とりあえず、それでいいだろうと渡されたのは、僕が大切にしているガラスペンだ。
今日の授業で、『何か大切にしてる物を一つ用意しておけ』って言われたからだ。
まだお父さまにはガラスペンを見せていなかったら、自慢したかったのもある。
絶対失敗できないものだし、大切なものだ。
やるのも気合が入る。
「うまく出来てるな。あとは、よりスムーズに出し入れすることができるように練習しておけ」
「飲んだふりをして、空間に捨てるってことも出来るかな?」
「ん?ああ、同じ原理だな。
ただ、空間収納は術者が死んだ場合、どんな形で出てくるかわからない。
一生取り出せないかもしれないが、思わぬ場所から発見されたこともある。
捨てるっていう考えはやめておけ、一時保管だと思え」
「そうなんだ……じゃあ、要らないものをむやみなたらに捨てたら駄目だね」
「ああ、ただ問題を後ろ伸ばしにしただけだ。後々大問題になる可能性もある」
お父さまの話だと、湖の底から、亡くなったエルフの一人が空間に捨てていたゴミやガラクタがわんさか出てきたことがあったらしい。
教訓となったからか、今でも昔話として語り継がれているんだとか。
エルフ族は、精霊魔法を使う。
精霊との契約によるものだから、闇の精霊と契約をすれば闇属性の魔法が使えるのと同じようなものらしい。
アリアナ教も信じられてはいないから、闇精霊との契約をしているエルフ自体は、そう珍しいものでもないんだって。
「空間魔法って、物には付与できないの?」
「は?」
「えーと……たとえばなんだけれど、バッグとかポケットとかに、空間魔法の付与は出来ないのかなって」
「ポケットは無理だろ。や、待て……魔蚕や魔物の革ならいける、か?
だが、維持するのが難しいな。
お前が言うのは、それがあれば別の者も使えるんじゃないかってことを言いたいんだろう?」
「うん、そう。でも、空間魔法は、空間と繋げた時に魔力を消費するだけで、保管してる間ずっと消耗しているわけじゃないんでしょう?
開けたときだけ空間に繋がればいいんだから……バッグやポケットの入口が開いたときだけなら、維持もそう難しくないんじゃないのかなって思って」
「ふむ……」
お父様が顎に手を当てて、じっと考えるそぶりを見せてきた。
お父様は、魔法で一番大切なのはイメージだって言っていたけれど、魔法の論理的な部分もきちんと見極められている方だ。
「試す価値はある、か……」
固唾をのんで見守っていると、やがてお父様はぽつりと呟いた。
そうこなくっちゃ!
なんでも試すことって大事だよね。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
1,038
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる