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本編

-360- 幸せな時間

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小さいころに母さんと同じ劇団に入ったこと、一緒の舞台に立ちたくて頑張ったこと、映画やドラマも中々一緒に立てなくて泣いたこと。
舞台で初めて大きな役を貰ったことや、やっと親子としてドラマに出たこと。
アレックスに話すと、その度頷いて、流さず聞いてくれた。
勿論、ドラマや映画っていうのは伝わらないと思ったから、舞台を記録して、その場にいなくてもたくさんの人にみてもらうことが出来るものだよ、と教えた。
アレックスはそこにも興味を持ってくれたみたい。
こっちの世界じゃないもんね……と思っていると、精属性を持つ者だと映像を記録することが出来るんだって。
お父さまは良く、手紙じゃなくてそれで寄こすって言っていたから、それはそれで凄いことだ。
仕組が知りたいから今度お父さまに聞いてみようと思う。
他に、学校でどんなことを学んだかも。
とはいえ、子役時代はそれなりに仕事を貰っていたし、学校より仕事の方が楽しかった。
それに、引きこもり時代もあったから、学校での思い出ってあまりなかった。
修学旅行も運動会も仕事だったしね。

それでも、残念に思ったことはなかったんだ。小さいころから海外旅行に年2回は連れて行って貰っていたし。
なにより、役を通して色々な人生を経験できたと言っても過言じゃない。



「季節の温サラダでございます」

いつもより時間をかけてメインを食べ終わると、温かいサラダが運ばれてきた。
温サラダといっても、茹でたり蒸したりしているものじゃない。
レタスやリーフの生野菜の上から、さつま芋やレンコン、南瓜や人参、後は何だろう?
色々な野菜が薄いチップ状に揚げてあるサラダだ。

揚げたて熱々で、シャキシャキの生野菜とパリパリの触感が楽しい上に美味しい!
思わず笑顔になると、アレックスもつられて笑ってサラダを口にする。
ドレッシングはさっぱりした酸味と甘みのあるもので、いつもながらにとても合ってる。
フライなのに全然しつこくない。
極力揚げた油は落とし切ってるみたいだ。

「凄く美味しい!触感が楽しいね!」
「はじめて食べるな、これは」
「あ……この間、セオにポテトチップスの話をしたからかな?」
「ポテトチップス?」
「うん」

この世界には、ポテトチップスがないみたいだった。
というか、しょっぱい系お菓子自体がなかった。
スナック菓子も、おせんべいもなかったんだよね。

ポテトチップスがないっていうのは、異世界転移の話にはよくあるのかな?
舞台の原作もポテトチップスとカレーがなかったし、この世界にはカレーがあるけれど元は神器様のヒントを得たみたいだし。

「ジャガイモを薄くスライスして、それこそこのさつま芋みたいにパリパリに揚げたものに、塩とかチーズとかコンソメとかフレーバーをつけたお菓子だよ。
こっちの世界にはしょっぱいおやつってないのかな?って話をしたら、食べ歩きで肉饅頭とか、肉の串焼きとかはあっても、しょっぱいお菓子はないって聞いたから」
「レンはそのポテトチップスが好きなのか?」
「うん、偶に無性に食べたくなってた。あ、でもこっちに来てからはそれは無いなあ……美味しくて良いものたくさん食べてるからかも」
「そうか」
「うん。それに、カロリーが多いし、たくさん食べると身体には良くないから」
「カロリー……ってなんだ?」

あ、カロリーもないのか。

「えーと……説明が難しいんだけれど、食べ物から得られるエネルギーと、運動とかで消費するエネルギーの単位って言えばいいかな?
こっちの世界だと、魔力量が数値で出るでしょう?普通は目には見えないと思うけれど、セバスとかじゃないと」
「ああ」
「そんな感じで、元の世界では、カロリーっていって、目には見えないけれど、数値として表していたんだ。
摂取カロリーが多くて、消費するカロリーが少なければ、太る……そんな感じ」

実際には、カロリーが高くても体に良いとされてる物は沢山あったし、逆にカロリーが低くても体に良くないとされてる食べ物も沢山あったけども。

「レンのいた世界は、本当に健康に重点をおいていたんだな」
「うん。具合が悪くなったら病院にもすぐに行けたしね。
突然怪我や病気で動けない人がでたら、病院まですぐに運んでくれる救急車、こっちで言ったら、専用の馬車みたいなものかな?優先で道を走って病院まで連れて行ってくれる、そういうのがあったよ」
「それは凄いな。貧しくても乗れるのか?」
「うん。乗るのにお金はかからないんだ。だから、貧しくても乗れるよ」
「そうか」

救急車は無理でも、健康はもう少し重点をおきたいな、って思う。
豊かであることのひとつに、健康なことも大切だって思うんだよね。
今までそこまで回らなかったのなら、少しずつ改善出来たらいいな。
すぐには無理だけど日記に書きとめて、まとめられる時にレポートにしよう。

「3種のチーズでございます」
「今日はチーズがあるんだね!」
「はい。良いのが入りましたのでそのままお楽しみ頂きたいとのことでございます」
「そっか。美味しそう」

「レン、確か元の世界ではまだ未成年だったな」
「うん」
「こちらでは成人扱いとなる。祝賀会に向けて、どの程度飲めるか少しずつ慣らしておいた方がいいかもしれない。
仕事が控えてるから一緒には飲めなくて申し訳ないが」

そっか。
こっちでは成人扱いで、祝賀会ではお酒が出されるのか。
全く受け付けないようなことはないとは思うけど、飲んだことが無いのにいきなり飲むのは危険だ。

「わかった」
「では、明日からでもお料理と合わせてお持ち致します」
「うん、よろしくね」

多分だけど、強い方だと思うんだ。
父さんも母さんも顔色変えずに2人で数本ボトルを空けてたし、全然シラフだったもん。

チーズは、とってもまろやかで、角だった風味が一切ないチーズだった。
マクマートリーさんのところのチーズだよね、とっても美味しい!
また乳牛たちとも会いたいなあ。

「チョコレートプリンでございます」
「わ、綺麗!これがプリン?」

四角く切ってあるチョコレート色したプリンには、鮮やかなベリーやソースで彩られてる。

ひと口食べると、こっくりとしたチョコレートプリンの濃厚さと甘酸っぱいベリーとがすごく合う!
チョコレートも甘すぎなくて、ビターな、大人の味のプリンだ。

「美味しい……こんなに美味しいチョコレートプリン初めて食べた」
「イアンが泣いて喜ばれることでしょう」
「マーティンの料理も、イアンのデザートも心がこもってるのがわかるから、すごく幸せな気持ちになれるね?」
「そうか。……俺は、感謝はすれど、レンが来るまでは日々の食事を楽しめなかったと思う」
「そっか……今は?」
「幸せだ」
「ふふっ、良かった」

本当に幸せそうに笑うアレックスに、僕も笑顔を返す。
アレックスの奥に、壁際でセバスが涙ぐんでいるのが見えた。



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