異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-359- さつま芋のフルコース

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「おかえりなさい、アレックス」
「ああ、ただいま。遅くなってすまない。夕飯、楽しみにしていたんだって?」
「大丈夫。うん、今日の夕飯でも僕がとったさつま芋を使ってくれるんだって」
「そうなのか?それは楽しみだな」
「うん」

予定より10分遅れで帰宅したアレックスだったけれど、疲れは見せずに穏やかな表情で僕をエスコートしてくれる。
この贅沢なエスコートに慣れてしまう自分がちょっとだけ怖かった。



「季節野菜のテリーヌでございます」

今日もセバスが安定で完璧な給仕をしてくれる。
静かに前に置かれたテリーヌは、色彩豊かで凄く綺麗だ。
エリソン侯爵領はとっても豊かですよ、って教えてくれてる。
オレンジ色のソースも鮮やかにその彩を添えていて、いつもながらマーティンの感性に惚れ惚れしちゃう。

「すごく綺麗。あ、テリーヌにさつま芋が入ってるね!」
「はい。これからお出しする料理にも少しずつ使われているそうですよ」
「嬉しい!いただきます」

さつま芋の甘みに、ブラックペッパーの効いたソースがとっても合う!
他の野菜もさつま芋に負けてない。
色々な味がするのに、まとまりがあって凄く美味しい。
思わず笑顔になると、その顔を見てセバスもアレックスも優しい顔を向けてくる。

「おいしい!さつま芋だけじゃなくて他の野菜もとても味が濃いね!ソースも凄く美味しい。まとまりあるし、真似できない味」
「確かに、美味い……にしても、今年は本当に豊作だったんだな」
「ね?野菜本来のうまみが詰まってるし、これだけでエリソン侯爵領はとても豊かですよーって教えてくれてるね」
「ああ、嬉しい限りだ」

アレックス、とっても嬉しそう。
前菜から幸せにしてくれるマーティンの料理は、手間がかかってるだけじゃなくて、ちゃんと心がこもってるのがわかる。

「さつま芋のポタージュでございます」

続いて運ばれてきたのは、聞いていた通りさつま芋のポタージュだ。
柔らかな乳白色のポタージュは、さつま芋のふんわりとした甘さと風味があって、とってもなめらかだ。

「美味しい。ポタージュなのに軽いからこの後の料理も楽しめそう」
「ああ、確かに軽いな。こっちはデカい芋の方だったか」
「うん。甘みもあって筋も少なくて良い芋だったって褒めてくれたよ」
「凄いじゃないか」
「ふふっ」

アレックスが、お世辞じゃなく褒めてくれるから、自分で言っておいて気恥しい。照れ隠しに笑うと、アレックスもつられたように笑ってくれた。

「そういえば」
「ん?……んー美味しい!あ、ごめんなさい、何?」

アレックスが言いかけたのに、運ばれてきた温かでふんわりしたパンの美味しさに思わずそっちに気を取られちゃった。
前もこんなことあった気がする。
でも、そのくらい凄く美味しかったんだ。
よく見ると断面が渦巻きで、さつま芋を練りこんである生地とのマーブルだ。
ほのかにさつま芋の甘みのある香りがして凄く美味しい!
バターの塩気ともとっても合う。

「レンは、米を食べたいか?」
「米?お米があるの?」
「南東で生産されているんだ。コナーから、アサヒもマナトも主食だったと聞いて。うちの領では生産されていないんだが、レンが今まで主食だったのなら食べたいんじゃないかと思ってな。
ちなみに、オリバーは定期購入するそうだ」
「そっか」
「食べたいのなら、キャンベル商会を通して取り寄せるぞ。南東は米が主食だから高価なものでもない」

さて、どうしようか。
米が食べたいか、と聞かれて、たまには食べたい気もする。
でも、わざわざ別の場所から定期購入してもらうのは気がひけちゃう。
旭さんが住んでるのは帝都だし、色々な地域からの物流がスムーズなのだろうけれど、ここ、エリソン侯爵領は領内が豊かだからか、外からの物はあまり入っては来ない。
魚を扱う料理店はあっても魚屋さんはないし、豚肉や牛肉も普及していない。

うーん……侯爵夫人としてどうなのかな?
エリソン侯爵領でとれた恵みを食とするのが良いんじゃないかなって思うんだよね。
今までがそうだったんだし。

それに、第一、僕が向こうの世界で主食が米だったかと聞かれたら首をかしげるものがある。
朝は小さいころからパン派で、ときどきシリアル。
もっと時間がない時は、スムージーの入ったクリアカップを持たされることもあった。
母さんが朝はスムージーだったからだ。

移動で車内で口にするのはコンビニのサンドイッチが多かったな、手軽に野菜がとれてお腹にたまらないから。
おにぎりのときもあったけれど、お腹が膨れると思考回路が鈍る気がして、次の仕事が控えているときはお腹いっぱいにしないようにしていたんだ。

賄い弁当は出されたものをそのまま食べてたけれど、夜だって食べたり食べなかったりだったし。

仕事後のご飯や稽古後のご飯は、マネージャーのオッケーが出たら、だった。
それが良いか悪いかは考え方次第かもしれないけれど、僕は面倒を起こしたくなくて彼女に従っていた。
とは言え、仕事を取ることに僕より貪欲な彼女は、稽古後にもしっかり仕事を入れてくれてたから断ることの方が多かったんだけれどね。

そんなわけで、一日一回白米を食べないと気が済まないなんていう考えもないし、日本人なら米を食えなんて考えもなかった。
家族旅行が専ら海外が多くて、ヨーロッパが多かったのもあるかもしれない。
偶に食べたくなったのは、カップラーメンとかポテトチップスとかそんなんだし。

「遠慮しなくていいぞ?」
「あ、うん。僕が向こうで米が主食だったかって聞かれるとね、そうでもなかったんだ」
「そうなのか?」
「うん。朝はパンだったし、夜は食べないこともあったし。
職業柄、食事が不規則なことが多くて、こんなふうに決まった時間に三食しっかり食べて、お茶の時間まであるなんて出来なくて」
「そうか」

アレックスが、少し痛まし気に見てくる。

「あ、でも好きでやっていた仕事だからね?それで別に良かったんだ。毎日食べたいっていう人もいると思うけれど、僕はそこまでこだわりもないし。でもそうだなあ、偶に食べたくなる時があるかもしれないから、少しだけ買って欲しい。定期での購入はしないで良いよ」
「わかった。無理はしてないな?」
「うん、勿論」


「鶏もも肉の香草焼きでございます」
「わ、良い香り!」

お米の話をセバスも聞いていたからかな、笑顔でメインの料理を運んでくれる。
セバスは、エリソン侯爵領が大好きだから、エリソン侯爵領でとれるもので足りるならそれが良いと思ってるはず。
僕は日々の暮らしの中で、朝昼晩のご飯に加えてお茶の時間もすごく楽しんでいるし、贅沢な時間と料理の数々に文句なんて何もない。
僕が、もも肉の方が好きだって言ったからかな?
メインで出される時のとり肉料理は、もも肉が多い。
パリッとした皮と、ジューシーで柔らかなお肉がとっても美味しい。
香草の爽やかな香りに、オリーブオイルかな?
ぜんぜんしつこくなくて、ぺろっと食べられる。

「レンは、向こうの世界で……っや、いい。すまない」
「ん?」

アレックスが言いかけた言葉を詰まらせて、すぐに謝ってくる。
本当に申し訳ないような顔をしてるけれど、元の世界のことを聞きたいみたいだ。
僕が、望んでこちらの世界に来たわけじゃないっていうのが、アレックスの中で凄く重視してくれてるのがわかる。

「アレックス、僕はもう元の世界のことを聞かれても心は痛まないよ?」
「そう、なのか?」
「うん。みんなとても良くしてくれてるし、それに、アレックスに会えたし。
今が充実していて幸せだって思えるから大丈夫。何でも聞いて?」

「レンは向こうの世界でどんな風に育ったか、聞いてもいいか?子供の頃はどうだったか知りたい」
「うん、勿論。僕が小さいころはね───」



++++++++++++++
あと一話間に挟みます。
サラダ、チーズ、デザートまで書かせていただきます、よろしくお願いします!!
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