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本編

-355- 僕の専属従者

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「これからもよろしくね」
「はい。頂いたブローチに恥じないよう、全てをもってお仕えします」
「頼りにしてるね」
「お任せください」

セオが今日から正式な僕の専属従者になった。
アレックスにお伺いを立てて、3日後のことだった。
腕章が出来上がったのが昨日の午後、そして、迎えた次の日、今日、任命された。

腕章は、アレックスから授与された。
黒地だけれど、薔薇の刺繍とエリソン侯爵領の紋章が入った豪華な腕章で凄く目立つものだった。

左胸のブローチは僕がつけたよ。
ブローチはピンブローチだったからつけるのは簡単だったけれど、少しだけ緊張した。
やっぱり特別なことだし、いつもと違ってセオも真面目に綺麗な所作で受け取ったからかもしれない。

僕とアレックスとセオのやり取りは、セバスとアニーに見守られた。
みんなのいるところでするものかと思っていたけれど、そうじゃなかった。
本来は、僕とアレックスとセオが居ればいいだけのものみたい。
それでも、セバスとアニーの二人が一緒に見守ってくれることが、僕とアレックス以外にもちゃんと認められてるって目に見えることが、凄く嬉しい。


黒いタキシード姿に身を包み、白い手袋をはめたセオの左腕には腕章が、胸元にはブラックダイヤのブローチが光る。
黒いタキシードでも埋もれないブローチは、朝の光に照らされて綺麗に輝いて見えた。

「おめでとう、セオ」
「そうしていると、ちゃんと高貴族の専属従者に見えますね」

にこやかなアニーに続き、セバスが満足そうにセオを見て告げる。
言い方は兎も角、とても嬉しそうだ。
セオは立派に大人だけれど、セバスからしたらまだまだ若造なのかもしれない。
とたん、セオがむっと唇を尖らす。
セバス相手だと、セオはより子供じみた表情をするよね。
ヴァンとは別の意味で、甘えられる人がいて良かったと思う。

「普段は着ないよーこんな堅苦しいの」
「普段からもう少しきちんとなさい。人を着飾るセンスがあるなら、自分のことにも多少目を向けるように」
「そこまで楽な恰好はしてな……はい、ちゃんとします」
「分かれば結構」

「セオに似合ってるよ、凄く」
「……必要な時は着ます」
「動きづらい?」
「いえいえ、ただ、気を遣うだけです」
「そっか」

アレックスは僕とセオに優し気な表情で見守ってくれていた。
ブローチを付けて、はい、おしまいって感じじゃなくて、幸せを噛みしめる時間をくれた。

アレックスの、そういうところが好きだな。
ちゃんと僕のペースに合わせて待ってくれるところ。

「明日は、エリー夫人と外、だったな。早速その恰好でレンの隣にいてやってくれ。馬車でもだ」
「っ──畏まりました」

馬車でも、のアレックスの声にセオが一瞬言葉に詰まる。

「従者が馬車で一緒に乗ることは、あまりないの?」
「いえ、そんなことはないですよ?レン様が一人で公務にいかれる際は、同席します。
ただ、本来ならレン様とエリー夫人が進行方向に座られるのがマナーかな、と」
「大丈夫だ、ちゃんと許可は俺が貰ってる」

馬車の前でも横でも同じ気がするけれどな。
でも、アレックスの中では、何かあるのかもしれない。

「正直隣の方が守りやすいんでいいんですけどね」
「万が一のことを考えて、だ。頼んだぞ」
「お任せください」

セオが隣に座るのは、アレックスの心配性が発動したせいみたい。
でも、僕もセオが隣にいてくれてエリー先生が前の方が、エリー先生と話がしやすい。
所作の参考にしたいから、目の前の方が学ぶことも多いと思うし。

遊びに行くわけじゃないんだ。
それに、楽しみではあるけれど、アレックスが一緒にいないで出かけるのははじめてだから、ちょっとだけ緊張もする。
セオが隣にいてくれるのは、とっても心強いって思ったよ。
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