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本編
-354- 友の集い アレックス視点
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「……いつからいた、ユージーン?」
「君が昼から戻って来て、嬉しそうに笑ったかと思えば、難しそうな顔をしてため息をつく───を繰り返すところ3回、その前だね」
「最初からいたんだな?」
「そうともいうね」
「いたなら声をかけてくれ」
「今、そうしようとしていたところだよ」
「そうか。───で?」
ああ言えばこう言う。
上手いように口が回るユージーンに勝てた試しなどないに等しいので、それ以上何も言わずに受け止めた。
最近は良い助手……ではないな、正式な職員ではないのだから。
手伝い、雑用係、というのが正しいか。
それを手に入れて、少しだけ余裕が出来たように思えたが、忙しくないと言ったら嘘になる。
「ああ、うん。コナーからついさっき連絡があってね」
「なんか問題でも出たか?」
オリバーとアサヒとが作り上げたハンドクリームの件か、それとも特殊な薔薇の件か。
そのどちらかだとすると、ユージーンにも聞かれるのはまずいな。
口は堅くはあるが、その責任をおわすわけにはいかない。
「あとで連絡する」
「や、仕事の話じゃない。その、今月末に仕事でそっちに行くらしいんだ。
だから、それに合わせて一緒に飲めないかって……いうか、もう店も予約してるから、来いってことだろうね。
オリバーは会う予定があるから誘っておくと言っていたよ。その、神器様を連れてくるから、レン君も一緒に、って」
「……レンもか」
「あーうん。僕らが4人で食事をする間に、レン君たちも別の席でって」
「場所は聞いたか?」
「あー……うん、聞い、た」
歯切れが悪い。
なんだ?嫌な予感がするな。
「どこだ?」
「黒猫亭」
「脚下だ」
「だよねえ」
黒猫亭というのは、領都のはずれにある店で、酒の数がやたら多い店だ。
飯もかなり美味いが、場所は帝都貴族街じゃない、領都だ。
特別でも何でもない酒好きな領民のためにあるような店で、勿論領民なのだから帝都ほどいがみ合いやいざこざはない。
だが、全く小競り合いが起こったことがないかといったら嘘になる。
酒が入るのと入らないのとじゃ、その比率も変わってくる。
4人で飲みあう時にはたまに利用していたが、貸切ならともかくそうでないならレンを連れては行きたくない。
「ラソンブレの個室をとる」
「あー、うん、レン君たちがいるなら、それがいいね」
“ラソンブレ”というのは、領都で一二を争う有名なレストランで、味は勿論、従業員の品質も帝都と変わらずに教育されている一流店だ。
この店にはいくつかの個室があり、そのうちの2つは、優先的に俺と祖母さんが使用の優先権を持っている。
勿論空いている時には別の客が利用して構わないが、急に使うことになった場合は優先権は俺らにある、という部屋だ。
今まで文句を言われたのは、1度きり。領民外の貴族からだったが、事前に説明した上で了承したのだから、客側に問題がある。
俺が呼び出されてそいつを出禁にしたが、それきりだ。
……まあ、もしかしたら色々言われているが、俺まで話が降りてこないだけかもしれないな。
うちの領民は、俺が宮廷魔法省の魔法士であり、いくつかの特許を持っていることを知っている。
領地経営とは別なことを知っているからこそ、こう言った贅沢も反感を食らうことなく許されている。
「あと、レンにはセオをつける。同胞と言えど家じゃないんだ。立場的に必要だ」
「君には付けないのにかい?」
「4人で、なんだろ?個室2つを取るとして、目に届くところにいないのは俺が気になって仕方ない」
「あー……うん、ならそうしたほうが良いね」
コナーは言い出したら聞かないからな。
どこかで折り合いを付けないと、ぐいぐいと通そうとしてくる。
まあ、本気で無理なら無理だと断ればいいんだが、今回はそうもいかない。
レンが、コナーの神器様に会いたがっていたからだ。
会える機会があるなら、会わせてやりたい。
「オリバーは嫌がるんじゃないか?」
「だよねー……3日間はかかるし」
「まあそこは、俺の瞬間移動で連れてきても良いんだが」
「君と君の従者だけなら兎も角、友人をそうほいほい帝都から領都へやっていいのかい?」
「お前も最初からそのつもりだろうが」
「まあ、そうなんだけどさ」
「良くはないが、オリバーはうちの領民だしワグナー姓も捨ててない。先に書類だけ出せば問題にはならないぞ?……うちの領は、だが」
「だよねえ」
帝都を出る記録がないと帝都に入る記録がつけられない。
片道だけは難しいし、途中何処かに寄りたいと思っていてもかなわないだろう。
ユージーンは、最初から出ていないていでいく気なんだろうな。だが、アサヒとオリバーは、いくらなんでも流石に直接店に転移はまずいか。
「別邸から本邸に転移、店への移動はうちの馬車で、本邸に戻ってから別邸へ転移だな。
遅くなるようなら、一日泊まってもらってもいいか」
「そこは任せるよ。オリバーは自分から絶対に言い出さないだろうから、君から提案してあげたほうが良いね。
来られるなら、僕も今年中に一度会いたいし」
「……だろうな」
「僕は当日の仕事のよりけりで頼むよ」
「わかったわかった」
コナーなら使えるもんならいつでも使いたいくらいに思ってそうだし、ユージーンもこの程度なら遠慮がない。
だが、オリバーは自身のために俺の闇魔法を頼ってきたことが一度もない。
頼りたいけど頼れないんじゃなくて、頼りたくないと思っているようだ。
例の一枚でティースプーン一杯の精油が取れる魅惑の薔薇は、畑ごと移すことにしたが、それだって申し訳ないような顔で俺を見てきたからなあ。
実際頼んできたのはアサヒだったが。
「折角作ってくれた機会だ。予定をちゃんと空けるさ」
「君が昼から戻って来て、嬉しそうに笑ったかと思えば、難しそうな顔をしてため息をつく───を繰り返すところ3回、その前だね」
「最初からいたんだな?」
「そうともいうね」
「いたなら声をかけてくれ」
「今、そうしようとしていたところだよ」
「そうか。───で?」
ああ言えばこう言う。
上手いように口が回るユージーンに勝てた試しなどないに等しいので、それ以上何も言わずに受け止めた。
最近は良い助手……ではないな、正式な職員ではないのだから。
手伝い、雑用係、というのが正しいか。
それを手に入れて、少しだけ余裕が出来たように思えたが、忙しくないと言ったら嘘になる。
「ああ、うん。コナーからついさっき連絡があってね」
「なんか問題でも出たか?」
オリバーとアサヒとが作り上げたハンドクリームの件か、それとも特殊な薔薇の件か。
そのどちらかだとすると、ユージーンにも聞かれるのはまずいな。
口は堅くはあるが、その責任をおわすわけにはいかない。
「あとで連絡する」
「や、仕事の話じゃない。その、今月末に仕事でそっちに行くらしいんだ。
だから、それに合わせて一緒に飲めないかって……いうか、もう店も予約してるから、来いってことだろうね。
オリバーは会う予定があるから誘っておくと言っていたよ。その、神器様を連れてくるから、レン君も一緒に、って」
「……レンもか」
「あーうん。僕らが4人で食事をする間に、レン君たちも別の席でって」
「場所は聞いたか?」
「あー……うん、聞い、た」
歯切れが悪い。
なんだ?嫌な予感がするな。
「どこだ?」
「黒猫亭」
「脚下だ」
「だよねえ」
黒猫亭というのは、領都のはずれにある店で、酒の数がやたら多い店だ。
飯もかなり美味いが、場所は帝都貴族街じゃない、領都だ。
特別でも何でもない酒好きな領民のためにあるような店で、勿論領民なのだから帝都ほどいがみ合いやいざこざはない。
だが、全く小競り合いが起こったことがないかといったら嘘になる。
酒が入るのと入らないのとじゃ、その比率も変わってくる。
4人で飲みあう時にはたまに利用していたが、貸切ならともかくそうでないならレンを連れては行きたくない。
「ラソンブレの個室をとる」
「あー、うん、レン君たちがいるなら、それがいいね」
“ラソンブレ”というのは、領都で一二を争う有名なレストランで、味は勿論、従業員の品質も帝都と変わらずに教育されている一流店だ。
この店にはいくつかの個室があり、そのうちの2つは、優先的に俺と祖母さんが使用の優先権を持っている。
勿論空いている時には別の客が利用して構わないが、急に使うことになった場合は優先権は俺らにある、という部屋だ。
今まで文句を言われたのは、1度きり。領民外の貴族からだったが、事前に説明した上で了承したのだから、客側に問題がある。
俺が呼び出されてそいつを出禁にしたが、それきりだ。
……まあ、もしかしたら色々言われているが、俺まで話が降りてこないだけかもしれないな。
うちの領民は、俺が宮廷魔法省の魔法士であり、いくつかの特許を持っていることを知っている。
領地経営とは別なことを知っているからこそ、こう言った贅沢も反感を食らうことなく許されている。
「あと、レンにはセオをつける。同胞と言えど家じゃないんだ。立場的に必要だ」
「君には付けないのにかい?」
「4人で、なんだろ?個室2つを取るとして、目に届くところにいないのは俺が気になって仕方ない」
「あー……うん、ならそうしたほうが良いね」
コナーは言い出したら聞かないからな。
どこかで折り合いを付けないと、ぐいぐいと通そうとしてくる。
まあ、本気で無理なら無理だと断ればいいんだが、今回はそうもいかない。
レンが、コナーの神器様に会いたがっていたからだ。
会える機会があるなら、会わせてやりたい。
「オリバーは嫌がるんじゃないか?」
「だよねー……3日間はかかるし」
「まあそこは、俺の瞬間移動で連れてきても良いんだが」
「君と君の従者だけなら兎も角、友人をそうほいほい帝都から領都へやっていいのかい?」
「お前も最初からそのつもりだろうが」
「まあ、そうなんだけどさ」
「良くはないが、オリバーはうちの領民だしワグナー姓も捨ててない。先に書類だけ出せば問題にはならないぞ?……うちの領は、だが」
「だよねえ」
帝都を出る記録がないと帝都に入る記録がつけられない。
片道だけは難しいし、途中何処かに寄りたいと思っていてもかなわないだろう。
ユージーンは、最初から出ていないていでいく気なんだろうな。だが、アサヒとオリバーは、いくらなんでも流石に直接店に転移はまずいか。
「別邸から本邸に転移、店への移動はうちの馬車で、本邸に戻ってから別邸へ転移だな。
遅くなるようなら、一日泊まってもらってもいいか」
「そこは任せるよ。オリバーは自分から絶対に言い出さないだろうから、君から提案してあげたほうが良いね。
来られるなら、僕も今年中に一度会いたいし」
「……だろうな」
「僕は当日の仕事のよりけりで頼むよ」
「わかったわかった」
コナーなら使えるもんならいつでも使いたいくらいに思ってそうだし、ユージーンもこの程度なら遠慮がない。
だが、オリバーは自身のために俺の闇魔法を頼ってきたことが一度もない。
頼りたいけど頼れないんじゃなくて、頼りたくないと思っているようだ。
例の一枚でティースプーン一杯の精油が取れる魅惑の薔薇は、畑ごと移すことにしたが、それだって申し訳ないような顔で俺を見てきたからなあ。
実際頼んできたのはアサヒだったが。
「折角作ってくれた機会だ。予定をちゃんと空けるさ」
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