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本編

-353- 新人紹介 アレックス視点

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「今日から皆と一緒に働く新しい使用人を3名……、や、紹介は4名だな。
ヴァン、お前も改めて紹介するからこちらへ───」
「あー……はい」

気がのらないのだろう、曖昧な表情で返事をしたヴァンは、それでも一番端のブルーノの隣に大人しく移動した。

「手前から紹介していく。まずは、ステラ、一歩前へ。彼女は元キャンベル商会の商会員で、エイミー店で勤務していた者だ。
また、お子さん二人はうちの警備隊候補生だそうだ。
ゆくゆくはレンの乳母を務めてくれるが、最初の内は調度品の管理や部屋の装飾を中心に働いてもらう」

「ステラと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

美しい所作で一礼をするステラに、皆の視線が集まる。
セバスなんて『ほう……』と息を吐いている。

「その隣が、ヴィオラ=ヴォルテラだ。彼女は、辺境の警備隊隊長の娘さんで、素晴らしい剣筋をしている。
最初は学んでもらうことの方が多いだろうが、領地の警備を中心に関わってもらう予定でいる」
「ヴィオラ=ヴォルテラです。私は父に勘当された身です、どうぞ皆さんヴィオラとお呼びください。よろしくお願いします」

目をまんまるにしたのは、マーティンとイアンの二人だ。
態と言わなかったんだが、自分から言ったか。
まあ、ある程度素性をばらした方が馴染みやすいかもしれないな。

「彼女の隣が、ブルーノだ。彼も辺境から来た。
まだ、未成年なので来年の春までは見習いとして働いてもらうことになる。
最初は学んでもらうことの方が多いが、彼は辺境の元警備隊候補生で体術も弓の腕も素晴らしい。また、花のアレンジのセンスも良いそうだ」
「ブルーノです!よろしくお願いします」

「最後に、ヴァン=リトルトンだ。諜報ギルドで国内一の成績を五年間譲らなかった腕前だ。紹介が遅れたが既に多くの調査を任せている」

セオの恋人……要らないな、セオに視線を移すと、首を振られてしまった。

「ヴァンです。あー……よろしくお願いします」

ちらりとセオに目を向けたヴァンは、セオの顔が『言ったら怒るぞ』と物語ってるのを理解し、言葉に詰まる。
結局、よろしくお願いします、しか言わなかった。
だが、言わなくても、ヴァン自身で個々に『セオさんの恋人なんですよー』の発言はし終わっていた。
そのことはセバスから呆れたように伝えられたが、セオ自身が知っているかはわからない。
まあ、今更必要は無いかもしれない。

「では、奥から。庭師のロブと、ロン。彼らは親子だ。うちの庭園はこの二人に任せている。
その横がグルームのトーマス。今は一人で馬の世話をしているが、来年から彼の孫も一緒に働く予定だ。
その隣が、コックのマーティンだ。今は一人で任せているが、彼の息子二人も後にコックとして勤めてもらうことになっている。
その隣が、コンフェのイアンだ。うちの製菓専門だ。俺とレンだけじゃなく、使用人の分もちゃんとある。
次、レンの専属従者である、セオだ。まだ仮だが、レンの身の回りと護衛は彼に任せている。
その隣が、ジュード。俺の専属従者にあたるが、俺が魔法省にいる間は、領内の警備を取りまとめている。
その隣が、家令候補のレナードだ。従者からシフトチェンジしたばかりだが、セバスと共に家の経営と、領地経営の補佐を任せている。
次がハウスキーパーのアニーだ。使用人の取りまとめは彼女に任せている。何か不都合があれば遠慮なく相談して欲しい。
最後に、家令のセバスだ。先代から続き家令として家に仕えている。分からないことがあればなんでも彼に聞くといい」

駆け足で紹介してしまったが、新人たちの表情は明るい。
大丈夫そうだな。

「では、これで解散だ、今日からよろしく頼む。
各自持ち場に戻ってくれ。
ジュードはこの後、ヴィオラを連れて行って欲しい」
「了解です。よろしくな」
「はい、よろしくお願いします」

「アニー、ステラを頼んだ」
「畏まりました」
「よろしくお願いします」

「ブルーノはセバスの指示に従ってくれ」
「はい!よろしくお願いします」

「ヴァンは───仕事だな」
「ええ、まあ、今朝もレナードさんからめいっぱい貰っちゃいました」

めいっぱいと言いながらも、へらっと笑う笑顔には余裕がある。
ああ、これは……確かに扱いが難しいかもしれないな。
実力はあるが、本気を見せているのか見せていないのか判断が難しい。

レオンの表情が厳しくなる。
……あまり怒らせると、氷魔法が漏れ物理的に気温が下がるかもしれない。
まあ、少年の頃なら兎も角、今はない、か。

レンが、以前ヴァンに対し圧を与えたと言っていたが、それ以来変化があったかと言われたら微妙なところだ。

「お前はすぐに仕事に向かえ!タラッタラ飯を食った分働け」
「いーじゃん、日々潤いないとやってけないよお」
「だから許しているだろう」
「はあい。じゃあセオさんお昼には戻ってくるから、絶対一緒に食べてくださいね!」
「……待たないからな、俺は」
「っ行ってきます!」

すぐさま出ていくヴァンに思わず苦笑いすると、レンもくすくすと笑っている。
や、レンはヴァンに、というか、レオンの盛大なため息に笑ったのかもしれない。

4人でトランプをした、と言っていたな。
あれからレンに対するレオンは、最初の頃に感じていたよそよそしさがなくなった気がする。
より遠慮もなくなった気がするが……レンは扱いが雑になっても特に気にしてなさそうだな。
寧ろ、今の方が気が楽そうだ。


「本当にどこが良いんだ……アレの」

レオンがセオに八つ当たりともいえる言葉を呟くが、聞いてるこっちにはなんだか笑いを誘う。
現に、レンは『ふふっ』とおかしそうに笑いを濃くする。
まるで、実の兄か父親みたいなセリフだ。

「悪いとは思ってるよ」
「お前を目の前にぶら下げる以外に動かす術が今のところない!」
「あー……ははは」
「笑い事じゃない」
「本当、俺ももう少しあいつには周りのことを見て欲しいと思ってるよ?けど、最近は前よりはちょこっと周りを見るようになってきたから。うまく使ってやってよ」
「はー……」

レオンにとっても成長するはずだとレンもセバスも言っていたが、レオンの精神的ダメージが大きいか。
潰れない程度にセバスがうまくやってくれると良いんだが。


一瞬、レオンも相手がいれば違うかもしれない、などと傲慢な考えをしてしまった。
以前、俺が言われて嫌な台詞の一つだっただろうが。



「アレックス?」
「や、何でもない」

レンが少し心配そうに俺を見上げる。
黒い瞳に俺の心が見透かされそうだ。

「そう?……レナードなら、大丈夫だよ」

少し外れた心配をされたが、傲慢な心を覗かれるよりずっとマシだ。

「そう思うか?」
「綺麗な笑顔でそつなくやり過ごしてないし、ああ言ってるうちは大丈夫だと思う」
「……なるほど」

ならば、見守ろう。
倒れたら……いや、その前には、支えてやればいい。
それに、支えるのは俺一人じゃないからな。
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