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本編

-350- ダンスのレッスン

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「1、2、3、1、2、3、アレックス様、お身体が固くございます。大きく開いてターン───はい、結構です」
「ありがとう、アレックス、セバスも」
「俺の方こそ助かる……というか、俺の方がマズいな、確実に」
「お分かりになっていらっしゃるなら祝賀会まで毎日稽古されると良いでしょう。今までのツケがたまっていらっしゃる様ですから」
「相手がいなかったんだから、仕方ないだろう?」
「皆最初は、いつかのお相手のためにマスターするものでございます」

僕がアレックスと踊る曲を一曲まるまる覚えたところで、朝昼晩のご飯の前と、お茶の時間の前に一回ずつ、1日4回アレックスとダンスをしてから食べることにして貰ったんだ。

今日のお茶の時間がアレックスとのはじめてのダンスだ。

あ、そうそう、ブローチを受け取ったことをアレックスに話すと、腕章が明後日には出来上がるから、そしたら正式な従者に任命しようって言ってくれたよ。
エリー先生の外出前には、任命したかったとも言ってくれた。
セオじゃないことはないとわかってはいたけど、もしかしたら来年の新人たちが正式に雇われるタイミングでなるのかな、とも思っていたんだ。
だから凄く嬉しいし、僕も主となるべく、今まで以上に、上に立つに相応しい人として言葉や行動に示していきたいな。
自分自身に対して、意気込みを感じてる。
まだ、スタート位置だ。
これからの道は長いし、けして楽じゃないと思う。
楽じゃないけど、楽しんで歩きたい。
ひとりじゃないんだ、誰より1番そばに居てくれるのは、アレックスだ。
愛しい僕の旦那様。


アレックスとの初ダンスはエリー先生のときと違って、ドキドキした。
ただの練習なのに。
こんな気持ちは、沢山練習すれば慣れるかな?……って思ったけど、慣れないかもしれない。
だって、毎晩のえっちに、僕はいつもドキドキしてる。
毎晩してるのに……っ今考えることじゃないよね。

「先に冷たいお飲み物をお持ちしましょう」

顔が熱くてぱたぱた手で仰いでも、ダンスのせいだと思われたみたいで、内心ほっとしちゃう。
セバスが冷たい飲み物を用意してくれるみたいだ、申し訳なかったな、と思うも、確かに冷たいのが飲みたいから、その心遣いが嬉しい。

「疲れてないか?」
「うん、大丈夫」

アレックスがソファに促してくれるので、導かれるまま隣に座る。

アレックスとのダンスでは、先生役は毎回セバスが買って出てくれた。
セバスも子爵の出だからアレックスと踊るこの曲くらいなら教えられるんだって。
『伝統的な曲ですから』そう言って、にこやかに引き受けてくれたよ。
セバスのリズムと早さは、エリー先生と同じだ。
セバスが手拍子なのに対し、エリー先生のレッスンの時は、今はセオが手拍子をしてくれてる。
エリー先生はラララの歌で僕の相手だ。

だから、アレックスと踊った今、僕もラララで歌いながら踊ったよ。
全部で3分間くらいかな?
同じメロディを繰り返すし、曲の構成は王道だったから、直ぐに覚えられた。
なんなら、主旋律にアレンジを加えてピアノでも弾ける。

驚くべきことに……というか、薄々気が付いていたことだけれど、向こうの世界みたいに曲を録音して流す、というものがない。
全部生演奏だという。
レコードもないのかって思うと、本当に進んでるんだか遅れてるんだか分からない世界だ。
でも、ないならないでしかたない。

『楽器が出来る人がいたらよかったんだけれどねー』と残念そうに呟くエリー先生に、『あ、ピアノなら弾けます』と僕が呟いたとき、エリー先生はまん丸な目になった。
でもすぐに、セオのツッコミが入った。
『レン様が弾いたら踊れないでしょー?……ステラさんピアノ出来ないかなー無理ですかねえ……楽器、は、当てはあるんで、爺さまに相談しておきます』と言っていた。
ラララの歌でも、曲で覚えられる方がありがたい。
じゃなかったら、ステップの回数とか調子の数で覚えるしかないもん。それは結構難易度高いはずだ。


エリー先生のダンスレッスンは、最初から上級ステップで習ってる。
教えて貰うのは3曲で、どれもワルツだ。
祝賀会で流れる曲の順番は毎年同じだそうで、どれも定番の曲だからこの3曲が出来ればどこの舞踏会に行っても通用するみたい。
最初にならったのはアレックスと踊るこの曲で、僕もまだ完璧じゃないのだけれど、7~8割踊れているから、もうお父様と踊る曲も教えて貰ってる。

急ピッチだけれど、そうしないと間に合わないからだ。
3日間の内1日は、マナーとして一緒に外出するのをダンスレッスンには変えてくれなかった。
万が一どうしてもダメな時に、後半で調整してくれるとは言ってたけど、そうならないようにしたい。

『3曲を8割踊れたところで、最後につめるよ』とエリー先生が言っていた。
だから、エリー先生のいないときでも忘れないように稽古を続けて欲しい、とも。
実際に踊るアレックスと練習出来るなら助かる。

それに、言うほどアレックスのダンスは下手じゃない。
リズムはきちんと取れてるし、僕を気遣って優しくリードしてくれてた。
ただ、アレックス自身に苦手意識があるからか、若干遠慮がちで構えている感じがするのは事実。
セバスが固いといったのは、そう言う意味だと思う。

ダンスも演技と同じだ。
相手の呼吸と意識にどれだけ合わせられるかが、善し悪しに関わってくる。
良い演技が、上手いか下手かの直結でないように、良いダンスも同じな気がする。

僕は、自分よがりで一方的な演技や、無理矢理相手を形に嵌めてくる演技より、その場の空気感を大切にして、自ずと会話の間や台詞回しを変えてこられる方が好きだ。
その方が自然だし、感情の流れが成立してると思うし、良い演技だって思う。
じゃなきゃ、ひとりでやったって一緒で、相手なんて必要としてない。
そんなのは、つまらない。
やってる本人がつまらないんだから、見てる方はもっとつまらないはずだ。

「アレックスは言うほど下手じゃないよ?優しくリードしてくれてるし、僕はアレックスと踊れて楽しいし、凄く嬉しい。
アレックスが、僕と踊れて楽しいって思って貰えればそれで良いよ?
こうやって、一緒に練習してくれる?」
「ああ、勿論。……ありがとう、レン。
本番までに、もう少しマシにするから、その……呆れずに付き合って欲しい」
「うん、喜んで」
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