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本編

-344- 心と身体 アレックス視点**

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脱衣所でも終始可愛すぎるレンに、しっかりとパジャマとガウンを着せ、ゆっくりと部屋まで歩いて戻ることにした。

正直に言えば、抱きたい。
だが、この気持ちのままレンを抱けば、また暴走しかねない。
明日のレンの予定が自由だと知ってしまった故に、タガが外れそうだ。
それは、流石にまずいだろ。

心を落ち着かせるためにも、果実水をレンに渡すと同時、自分もぐいっと飲み干す。
もう少し経てばホットの方が良さそうだ。
だが今は、冷えた果実水が自身の身体……主に下半身だが、その下半身とはやる気持ちの両方を少しばかり静めてくれる気がした。

毎回がっついてなんだが、俺はレンよりも9つも歳上だ。
初めての恋愛で、初めての恋人で、初めての経験と言えど、もう少し落ち着いて出来ないものだろうか。
レンが嫌がるどころか喜んでいるのだからそれでいい……なんて、免罪符にはならない。

「ん?どうした、レン」

悶々とするスケベ心をレンに悟られないようにすることに集中してしまったが、レンがじっと俺のことを見つめているのに気がつく。
誘われている……ような気もするが、さて、こういう時の判断はどうしたら正解なのだろうか?
や、正解だとか不正解だとかはない気もする。
お互いの気持ちが、大事なわけで。
レンから拒まれたことなど一度もない。

「もういいのか?」
「うん……ごちそうさまでした」

レンの手から空のグラスを受け取ると、律儀にも小さく『ごちそうさま』と呟いてくる。
そんなところも可愛い。

可愛いが……なんだ?
レンを伺うように観察すると、その態度が気になった。
傍にあったが、風呂の時と同様にぴとっと寄り添ってくる。

可愛い。
可愛いが……や、待て。
少しおかしくないか?
レンの体温をパジャマ越しに感じ、自身の身体の熱も上がりそうになったが、にしては高い気がする。
風呂に入ったから、という以上に。
それにいつもであったら、レンは色々と話してくれるじゃないか。
やけに大人しい。
いつもだって騒がしいわけじゃないが、それにしても、だ。

「………」

レンの形のいい頭をそっと撫で、熱を確かめるように口づけを落とす。
体温は───風呂上がりだが、やはりそれでも普段より心なしか高い……気がする。
だが、あっても微熱程度、か。
ただ欲情しているだけの様に思えるが、連日の疲れが出たのかもしれない。

さて、どうするか……と、思ったのもつかの間。
レンは俺の唇を優しく食んで、自身の口内へと招き入れてきた。
添えていた俺の手を逃がさないように掴んでいる。

欲しがられて、嬉しくないわけがない。
自分よがりにならないよう、レンが気持ちいいだろうキスを送る。

「ん……っふ……」

懸命に応え、時折小さく甘い鼻息を漏らすレンが可愛すぎる。

「?」

とろんとしたレンの目が、不意に、何かを思い出したようにはっと見開くのが分かった。
瞬間、身体も少しだけ強張った。
触れ合っていれば、小さな変化もより感じ取れるものだ。

……もしかして、心と身体が一致していないんじゃないか?

神器様は、最初に魔力讓渡を受けた者に対して、心も身体も欲するようになる。
それは、そうなるように神が作ったからだ。
神器様となれば、もれなくそうなる。
レンも例外ではない。
だが、神器様が皆、欲っして行動に移すことが、その心までついていくかと言ったら、別だ。
葛藤に苦しんでいた者も居たと、書籍には書かれていた。
恋愛感情がない、愛情がないのにも欲っするのは、耐え難いことかもしれない。
いくらそういう身体になっているのだからと納得出来ても、すぐに心まで順応出来るかと言ったら、また別の話だ。

レンが、俺のことを好いてくれていることで、まだその葛藤は小さなものかもしれない。
だが、身体だけが欲していることが、戸惑いとなってる、なんてことはないだろうか?
はたして、その場合、抱かずに少しずつ口付けで魔力を分け与える方が良いのか、それとも手っ取り早く抱いて時間をかけずに魔力を与えるほうが良いのか、どちらが正解なのだろうか。

魔力の交換は恋人同士や夫婦なら極自然に行われる愛情の行為だ。
足りなければ、神器様でなくとも情緒不安定になる者もいると聞く。
神器様であるレンの場合、その影響はより大きくなる。

……足りていなかっただろうか?
魔力不足は、愛情不足にも繋がる。
不甲斐ないな。

「本当に、どうしたんだ?」

普段とは違うレンの様子に、少し心配になってきた。
だが、相手はレンだ。
包み隠さず話せ、等とは言えない、言いたくはない。
せいぜい聞ける、精一杯の問いかけだ。


「抱いて欲しい。アレックスが欲しい」

やがて発せられたレンの声は、普段とは違い掠れて小さな声だったが、レンの強い気持ち丸ごと全部が詰まっているかのように伝わってきた。
正直、言葉にも態度にも驚いた。
だが、こんなふうにねだられたら、ぐっとくる。
今夜はやめておこう、など言えるわけがないだろ?

寂しげな細いレンの体を、腕の中にそっと抱きしめ、その背をベッドへと倒す。
出来る限り優しく、だ。
頼むから働いてくれ、と己の理性に懇願しつつ堪えるものを堪える。
やれば出来る、や、出来ないことなどあってはならない。

あからさまな誘いに煽られて、頭ん中はパンクしそうだ。
ゆっくり、優しく、丁寧に、の3つを頭ん中で呪文のように繰り返し呟く。
馬鹿にしてくれていい、もうとっくに馬鹿になってる。


甘やかな極上の蜂蜜の香りに誘われ、パジャマの裾から右手を忍ばせる。
肌の熱だけでなく、しっとりときめ細やかなその感触を確かめるようになぞると、レンは安心したように瞳を瞑ってきた。
それを合図に、レンを覆うものをゆっくりと剥いでいく。


「腕、一度放せるか?」
「うん……」

縋るように俺のパジャマの裾を掴んでいるレンの腕から、一本ずつ交互に袖を抜き、パジャマのズボンの紐を解き、下着の紐を解く。

「んっ……」

太腿から足先までを撫でるように脱がすと、レンの口からは感じ入るかのように甘い吐息が漏れた。
既に立ち上がっているレンの中心を目にし、俺自身がむくりと立ち上がるのが分かった。
レンの右手が伸び、俺の胸元のパジャマをぎゅっと掴んでくる。

「脱いで」
「ああ、悪い」

こんなに近くにいるのにも寂しそうな顔をするレンに罪悪感を覚えて、その額に口づけを落としてから自身の襟元のボタンを素早く外す。
早さ優先だ。
幾分乱暴に脱ぎ去り、パジャマと下着を放ると、すがるようにレンの両腕が伸ばされる。
その腕を自身の背に導いてやると、ほうと、安心するようなレンのため息が漏れた。


部屋の隅を照らす淡いオレンジの明かりに都合よくも目が慣れてきて、俺の目の前には、生まれたままの姿をしたレンが、美しく映し出されている。

何の抵抗もなく素肌を晒すレンを目に入れ、その心までも丸裸にしてしまいたい衝動に駆られた。
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