異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-339- 偽物の気持ち

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きっちりとパジャマを着こんだし、ゆっくり部屋まで歩いて戻ったから、アレックスがその気じゃなさそうだっていうのはわかった。
わかったんだけれど、僕は抱かれる気満々だ。
さて、今日はどうやって誘おうか───部屋に戻って、美味しいお水を貰いながらアレックスをちらりと見やる。
今日の果実水は、りんご味だ。
そろそろホットでもいいかなとも思うけれど、お風呂上りだと冷たいものが飲みたくなる。
部屋の温度がいつも一定に保たれて快適だからかもしれない。

「ん?どうした、レン」

僕のあからさまな視線に気が付いたアレックスが、優しく聞いてくる。
『もういいのか?』そう言って、僕の手からグラスを受け取ってサイドテーブルに置いた。
どうしたって、どうもしない。
ううん、えっちの誘い方を考えていただけだ。
お互いからふんわりと香るフルーツの石鹸だけじゃなくて、アレックスからはオレンジの香りがしてくる。
いい匂い。
こうやってパジャマ越しにアレックスの体温を感じながら、このオレンジのいい香りを嗅いでいると、すごく安心する反面胸の真ん中がきゅっと掴まれるような不思議な気分になるんだ。

優しい笑顔のアレックスが僕の髪を梳くように頭を撫でて、そっと口づけを落としてくれた。
触れるだけで離れていきそうなアレックスの唇を食んで、口内を明け渡す。
逃げないように、耳のあたりに添えられたアレックスの手の上から僕の手を重ねた。

アレックスは何も言わなかったけれど、すぐに深い口づけで応えてくれた。
アレックスとの口づけはとても気持ちがいい。
胸がじんわりと温かくなって、心も身体も全部を素直にしてくれる。
泣きたいくらいに優しくて、こんな人が僕だけを好きでいてくれるのが凄く奇跡みたいなことで、気持ちがいっぱいになる。

所有者と神器様は、互いに惹かれ合う───その一文がふいに頭を過った。
本に書かれていたその一文だけが、どこかで引っ掛かってた。
神器様は、最初に魔力讓渡を受けた者に対して、心も身体も欲する。
それは、そうなるように神様が作ったからだ。
神の実、ペリエを口にして、神器様となれば、もれなくそうなる。
それに、神器様でなくても、魔力の交換は恋人同士や夫婦なら極々自然に行われる愛情の行為のひとつ。
それがなければ、神器様でなくても不安になることもあるという。
だからそれは、この世界ではなんらおかしいことでは無いし、まして神器様な僕には、自然なこと。
そういうふうになった自分の身体も、受け入れられた。
自分で自分の身体を受け入れられたのは、セオとセバスの教えや助けがあったからなのも大きい。
それに、何よりアレックスが神器様の僕も丸ごと受け入れてくれたからだ。

でも。
だからこそ、“好き”の気持ちまで、神様が作ったものなんて信じたくない。

なんで引っ掛かっていたのかが、今ようやくわかった。

まるで、僕の気持ちやアレックスの気持ちが、偽物みたいだからだ。
そうじゃない、そんなんじゃない。
例え、出会ってすぐにお互いを好きになったとしても、僕は僕の意思でアレックスを好きになったんだ。
僕が神器で、アレックスが所有者だからじゃない。
強くそう思う。

思うけれど、あの神の実、ペリエとかいう実を口にする前にアレックスに出会えていたらどうだったのかな、とも思うんだ。
もしかして違ったんだろうかって。
そんなふうにも思う。

神器だと知った僕を見るアレックスのその目は、最初冷たく感じた。
でも、それは誤解だった。
もとからとても優しい人だと今はわかってる。
誤解されることが多いんだってことも。
僕を愛してくれているのも、本当のことだって。
人として必要だって、神器様だからじゃない、僕だから、そばにいて欲しいって言ってくれたじゃないか。
わかってる、わかってるのに。

「本当に、どうしたんだ?」

透き通ったエメラルド色の瞳が、少し心配そうに揺れる。
『何時でも何でも話してくれ』って言われたけれど、でも今は話をするより抱いて欲しい。
この気持ちが本物なんだって思いたい。

「抱いて欲しい。アレックスが欲しい」


そう口に出した僕の声は掠れてしまって、思うようにしっかりと声にならなかった。
けれど、自分でも驚くくらいに切羽詰まってるようなこの気持ちごと、アレックスにはしっかり届いてくれたみたいだ。
驚いた顔をしたアレックスだったけれど、すぐにあたたかなその腕でしっかりと抱きしめてくれた。

ゆっくりとベッドへと倒される。

極上なシルクのシーツが僕の背を受けとめ、アレックスの指が僕の身体をなぞっていく。
そのことに酷く安堵して、ゆっくりと瞳を閉じた。
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