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本編

-338- アレックスのお許し

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「非の打ち所がないほど、完璧です」

唸るように褒めたたえてくれるセバスの声に、ほっとしてエリソン侯爵夫人の仮面を外す。
隣でエスコートしていたアレックスもほっと気を緩めたのがわかった。
アレックスもちょっとだけ緊張していたみたいだ。

エリー先生が帰られて入れ違いのようにアレックスが帰宅した。
5分程遅れてのお茶の時間だったけれど、例え5分の遅れであっても、アレックスは『遅れてすまない』って謝ってくれたよ。
勿論、そっと抱き寄せてからの口付け付きだ。

一緒にイアンの作ってくれたお菓子を堪能した後、早速ウォーキングとカテーシーに付き合ってもらったんだ。
おばあ様から指導されていたというアレックスは、堂々としてるし、凄く自然なエスコートだったし、礼も僕が合わせやすいようにしてくれた。

因みに、陛下の御前では胸に手を当てて同じくらい身を沈めるだけらしくて、ボウアンドスクレイプの動作はしないんだって。
じゃあいつするのかっていうと、ダンスを終えた時や、複数の相手に挨拶をした後なんかにするそうだ。

「よかった」
「一日で完璧なカテーシーが出来たのなら、週3回も必要ないんじゃないか?」

アレックスが、僕とセバスに授業を減らしたらどうかと言ってくる。

「それが……」
「マナーのレッスンは、外でやるんだって」
「は?」
「エリー先生が、基本はもう出来てるから、色んな人にお会いして色々な物を見た方が勉強になるって。アレックスにも外出̀
の許可を貰ってるからって……駄目だった?」
「いや、駄目じゃない。確かに許可は出したが……」

駄目じゃないって言いながらも、アレックスは良くも無さそうだ。
浮かない顔をしてる。

「レンは、やりたいか?」
「うん!」
「無理してないなら良いんだ。必ず傍にセオを連れてくれ。馬車でもだ」
「わかった。ありがとう、アレックス」
「ああ」

「馬車は運送ギルドからは御者付きで箱馬車2台を手配致しました。ハワード伯からは警護として男女を含む3名を用意すると伺っております。セオだけでも十分だと思われますが」
「可能ならうちからもう一人付けてくれ。それと、事前にルートを把握しておきたい」
「畏まりました」

どこに何しに行くかは、エリー先生に任せてくれって言われてるし、事前に予習は必要ないとも言われてる。

でも、アレックスは領主様だ。
お忍びで行くにしても、僕が僕であることには変わりないし、バレてうっかり人集りが出来てしまっても問題だ。
万が一の時のために、警備隊に伝えたりは、必要なのかもしれないよね。



「久しぶりにいいお湯だったね」
「レンは、一人だと浄化で済ますのか?」
「うん。……アレックスは?」
「レンが来てからは、俺もだ」
「同じだね」
「ああ」

エリー先生の初日の授業があった今日、アレックスが夜も早めに帰って来た。

お風呂が久しぶりな気がする。

あ、ちゃんと毎日浄化はしてるからね?
僕の浄化は、お風呂上がりみたいなものだし、髪の毛にもちゃんとシャンプーを思い浮かべながら浄化してるから綺麗で清潔だ。

ひとりこの広いお風呂はやっぱり寂しい気分になりそうだし、それに、こうやってアレックスが色々と世話をしてくれるのが、凄く嬉しいんだ。


アレックスの優しくあたたかい手が、僕の頭をふわふわのタオルで包んで、そっと水気を取っていく。

大事にされてるなーって実感出来るから、一人だと面倒だろうこんな時間も、アレックスと一緒なら至福のひとときだ。
うん……正直に言うと、ひとりだと、お風呂上がりが面倒だなって思う気持ちもある。
こんなに、至り尽くせりだからいけない。
ううん、いけなくはない、良すぎるんだもん。



今日は、湯舟に浸かりながら、お茶の時間と夕食の時間に話し足りなかったことを話した。
お茶の時間と夕食の時間はエリー先生の話が中心だったけど、お風呂では、神器様のことだ。
今読んでる本のこととか、僕の体のこととか、子供のこととか。
きっと僕が話題にしなければ、アレックスからは話題にしないと思った。

本当の意味でアレックスと2人きりになれる時間は、夜寝るときか、お風呂のときくらいだから。
だから、ちゃんと話しておきたかったんだ。
僕が神器様としての身体や心のメカニズムの知識を得たことで、少なからず安心出来たんだってことを分かって欲しかった。
セオやセバスもだけど、アレックスも僕が知らなくてもいいことだって思っていただろうから。
それは、僕が自ら選んで神の実を食べたんじゃなくて、無理矢理食べさせられたのも大きいと思う。

アレックスは僕の言葉をちゃんと聞いてくれて、『もし、辛いことや不安なことがあれば、何時でも何でも話してくれ』って言ってくれたんだ。
『どんなことでも受け止めてみせるから』とも言ってくれて、凄く嬉しかった。
またアレックスの好きな気持ちが、ひとつ増えた。
こうやってアレックスを知る度に、少しずつ好きが溜まっていく。
キラキラした欠片が、空っぽだった瓶にコトリ、コトリ、と落ちて、瓶の中がどんどん増えてくみたいに。
アレックスと出会ったことで、人を好きになる、愛する気持ちを知った。

またひとつ、コトリと音が聞こえた気がした。
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