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本編
-331- キャンベル商会 アレックス視点
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「折角来たんだし、興味があるなら見学でもしてく?うちの商会ほど大きいところは中々ないから、役に立つんじゃないかしら?」
契約が終了し、雑談が一段落したときだった。
ふいに、コナーがアサヒへとキャンベル商会の見学を促してくる。
俺等だけに何か話したいことがあるんだろう。
神器様に関する話なのかもしれない。
それに、アサヒを気に入ったからこそ、見学という選択を取ったのだろう。
「願ってもないけど…いいのか?」
「良いわよ?あなたに見られてまずいものなんかないもの。そのかわり、あなたの目で見て、何か改善した方が良いことがあったら遠慮なく教えて頂戴。それが対価ね」
「わかった」
神器様は時として色々な知識を持っているが、アサヒは規格外だ。
契約時の時点でそれを良く分かったのだろう。
対価を持ち出すのだから、コナーらしい。
「お呼びでしょうか」
コナーがベルを鳴らすと、コナーの秘書であるエマが隙のない出で立ちで入ってくる。
彼女は仕事だけでなく、戦闘面でも高い能力をもっている商会員だ。
ほっそりとした体形に優し気な笑みを浮かべているが、実力はかなりのものと聞いている。
コナーは、物理的争いは苦手としている。
言葉での闘いは自信があるが、物理的行使に出られると力負けする───というのが本人の言い分だが、俺から見れば十分動ける側の人間だ。
ようは、出来る出来ないの問題より、したくないという心の問題だろう。
苦手、とは言いようだ。
実力的に苦手なのか、それとも生理的に苦手なのか。
オリバーの場合は前者だが、コナーの場合は後者だ。
自他ともに認めるサディストでありながら、血が大の苦手だときている。
それはもう、大騒ぎするだけならまだいいが、酷いと失神するほどだからかなりのものだろう。
学生時代、魔術の授業でミスって掌を血で染めたユージーンを目にし、その場でぶっ倒れたことがある。
……懐かしいことを思い出してしまった。
「この子を見学させてあげてちょうだい。契約書も取引先の一覧も好きに見学させてあげて構わないわ」
「畏まりました」
「え、アサヒ一人で行くんですか?」
オリバーが待ったをかける。
アサヒは行きたそうだから、俺らにとってもアサヒにとっても好都合……と思っていたところだったのだが。
エマがいるのだから一人ではないんだが、オリバーはそういう意味で口にしたわけじゃないだろう。
『私も一緒に行きたい』ってところか。
……や、駄目だろうが。
「そうだけど……え、お前も来んの?」
「あなたが一緒じゃ仕事にならないわよ、うちの商会員の邪魔する気?冗談でもやめてちょうだい!」
アサヒがびっくりした声を上げ、言い終わるか終わらないかの内に、今度はコナーが叫ぶように止めてくる。
まあ、そうだろう。
俺が行くのとはわけが違うが、同じくらいには邪魔になるはずだ。
受付を担当している商会員は、若い女性も多いはずだ。
この姿のオリバーを目にしたら、気が散るどころか、手が止まる……ならまだマシか。
目が合っただけで失神する者が出るかもしれない。
「酷い言い草ですね…アサヒ、危ないことはしないでくださいね」
「しないって」
「あなたも大概よ、物騒なこと言わないでちょうだい、失礼ねえ。大丈夫よ、エマは私の秘書だけれど、物理的にも強いから安心して頂戴」
オリバーとアサヒのために、女性である彼女をよこしたんだろうな。
オリバーの奴はかなり心配症だと思ったが、もし、レンだったらどうだ?と考えるととたんオリバーの気持ちが分かってしまった。
さらにセオを付ければ、送り出すことが出来るだろう。
ふたりで来ちまったとしても、一度戻って呼び寄せるくらい俺もする。
まあ、それができるとしたら祝賀会の後の話だが。
「エマです。よろしくお願いいたします」
「アサヒ=ワグナーです。わがままを聞いてくださりありがとうございます。よろしくお願いします」
「そう畏まらずに、くだけた言葉で大丈夫ですわ。では、ご案内いたします」
「なら、お言葉に甘えて。ありがとう、エマさん」
アサヒはもう行く気だな。
だが、オリバーは……ああ、未練がましくアサヒの腰に腕を回しているか。
「なんだよ、この手。すぐ戻ってくるって」
立ち上がろうとするアサヒは、そのオリバーの腕をぺしっと軽く叩く。
あきれ顔だが、建前だろう。
「学友なんだろ?俺がいたらしにくい話もあるだろ?」
「………」
情けない顔のオリバーにアサヒが告げると、ゆっくりと腕が外された。
こんなオリバーを目に出来るのは、アサヒと一緒の時だけだろう。
にしても。
アサヒはわかっていて席を外すらしい。
勿論見学をしたいのは本当だろうが。
「きちんとお守りいたします」
「頼んだよ」
「過保護ねえ。若いっていたって成人してるんでしょうから、少し自嘲しなさいよ」
ようやく送り出したオリバーに、呆れ顔でコナーが口を開く。
こっちは、建前でもフリでもなく、本当に呆れてるようだ。
がしかし。
“この子”と口にして何となく違和感を感じていたが、ようやく理由がわかった。
コナーはアサヒの歳を見誤ってるらしい。
「若いって、そこまで若くないつもりですが、初めて私から人を好きになったのですから執着しても仕方ないでしょう?」
「何言ってんの、それこそ当たり前じゃない。私たちもういい年よ」
「え?アサヒは私たちの一つ下ですよ?」
「はあ!?嘘でしょ?」
「27歳ですよ。アサヒは綺麗ですが、そこまで幼く見えないと思いますが」
「何言ってんの、あの艶肌で一個下ですって?あり得ないでしょ!年齢詐欺よ!」
年齢詐欺……そうだろうか?
あそこまで交渉に長けているんだ、最初から持ち合わせているスキルでなく、仕事で身に着いたスキルであれば年相応と思うんだが、コナーが言うのはそういうことじゃないだろうな。
見た目の問題だろう。
コナーとオリバーの視線が俺へと向けられる。
見た目って言ったって、俺にはよくわからない。
俺の傍にいるレンに関しちゃ、見た目だけで言えば、19にしたら、やたら綺麗で可愛くて白くて華奢すぎる。
だが、レンも思考が幼いかと言うと、それは逆だ。
若いのに、物事を深く考えて、正しくとらえる力がある。
芋ほりや乳しぼりで楽しんだりと、基本無邪気で幼いし、最初から全面的に俺を信頼しているところや、信頼した者に関してあけすけなのは幼いと思う。
……や、今はレンのことじゃなく、アサヒのことだったな。
「神器様ってのは、多かれ少なかれ皆綺麗な存在と言われているからなあ。
レンがあけすけで幼く見えるから、アサヒが特別若いとは思えなかったが…言われてみれば、一個下にしては若く見える、か?」
「あなたたちに聞いた私が馬鹿だったわ。で?あの子は、ああ、もうあの子なんて言えない年齢なのね……、まあいいわ、あの子は何を食べて塗ったらあんなふうな肌になるわけ?」
「何をって、私と同じものを食べて、私と同じ保湿剤、椿オイルを使ってますよ?
肌艶は…こちらに来てからの方が良くなった気がしますね、食生活は良くなったと言っていましたから」
「本当に?あなたと同じものを?あなたかなりの偏食じゃない、本当に同じものを食べてるって言える?」
「…そう言われてしまうと、頷けませんが」
「レンも、なんだが……食べ物とかのせいではなく、オリバーといるからじゃないのか?」
「え?」
「自分と破局した相手が恋人が出来て綺麗になった、みたいなことをコナーが前に言っていただろ?
そういうあれじゃないのか?」
内面から出る若さというのがある。
……が、コナーもオリバーも微妙な顔をしていた。
「それだけじゃないと思うわ」
コナーが、ため息混じりに呟く。
答えは分からないままだな。
契約が終了し、雑談が一段落したときだった。
ふいに、コナーがアサヒへとキャンベル商会の見学を促してくる。
俺等だけに何か話したいことがあるんだろう。
神器様に関する話なのかもしれない。
それに、アサヒを気に入ったからこそ、見学という選択を取ったのだろう。
「願ってもないけど…いいのか?」
「良いわよ?あなたに見られてまずいものなんかないもの。そのかわり、あなたの目で見て、何か改善した方が良いことがあったら遠慮なく教えて頂戴。それが対価ね」
「わかった」
神器様は時として色々な知識を持っているが、アサヒは規格外だ。
契約時の時点でそれを良く分かったのだろう。
対価を持ち出すのだから、コナーらしい。
「お呼びでしょうか」
コナーがベルを鳴らすと、コナーの秘書であるエマが隙のない出で立ちで入ってくる。
彼女は仕事だけでなく、戦闘面でも高い能力をもっている商会員だ。
ほっそりとした体形に優し気な笑みを浮かべているが、実力はかなりのものと聞いている。
コナーは、物理的争いは苦手としている。
言葉での闘いは自信があるが、物理的行使に出られると力負けする───というのが本人の言い分だが、俺から見れば十分動ける側の人間だ。
ようは、出来る出来ないの問題より、したくないという心の問題だろう。
苦手、とは言いようだ。
実力的に苦手なのか、それとも生理的に苦手なのか。
オリバーの場合は前者だが、コナーの場合は後者だ。
自他ともに認めるサディストでありながら、血が大の苦手だときている。
それはもう、大騒ぎするだけならまだいいが、酷いと失神するほどだからかなりのものだろう。
学生時代、魔術の授業でミスって掌を血で染めたユージーンを目にし、その場でぶっ倒れたことがある。
……懐かしいことを思い出してしまった。
「この子を見学させてあげてちょうだい。契約書も取引先の一覧も好きに見学させてあげて構わないわ」
「畏まりました」
「え、アサヒ一人で行くんですか?」
オリバーが待ったをかける。
アサヒは行きたそうだから、俺らにとってもアサヒにとっても好都合……と思っていたところだったのだが。
エマがいるのだから一人ではないんだが、オリバーはそういう意味で口にしたわけじゃないだろう。
『私も一緒に行きたい』ってところか。
……や、駄目だろうが。
「そうだけど……え、お前も来んの?」
「あなたが一緒じゃ仕事にならないわよ、うちの商会員の邪魔する気?冗談でもやめてちょうだい!」
アサヒがびっくりした声を上げ、言い終わるか終わらないかの内に、今度はコナーが叫ぶように止めてくる。
まあ、そうだろう。
俺が行くのとはわけが違うが、同じくらいには邪魔になるはずだ。
受付を担当している商会員は、若い女性も多いはずだ。
この姿のオリバーを目にしたら、気が散るどころか、手が止まる……ならまだマシか。
目が合っただけで失神する者が出るかもしれない。
「酷い言い草ですね…アサヒ、危ないことはしないでくださいね」
「しないって」
「あなたも大概よ、物騒なこと言わないでちょうだい、失礼ねえ。大丈夫よ、エマは私の秘書だけれど、物理的にも強いから安心して頂戴」
オリバーとアサヒのために、女性である彼女をよこしたんだろうな。
オリバーの奴はかなり心配症だと思ったが、もし、レンだったらどうだ?と考えるととたんオリバーの気持ちが分かってしまった。
さらにセオを付ければ、送り出すことが出来るだろう。
ふたりで来ちまったとしても、一度戻って呼び寄せるくらい俺もする。
まあ、それができるとしたら祝賀会の後の話だが。
「エマです。よろしくお願いいたします」
「アサヒ=ワグナーです。わがままを聞いてくださりありがとうございます。よろしくお願いします」
「そう畏まらずに、くだけた言葉で大丈夫ですわ。では、ご案内いたします」
「なら、お言葉に甘えて。ありがとう、エマさん」
アサヒはもう行く気だな。
だが、オリバーは……ああ、未練がましくアサヒの腰に腕を回しているか。
「なんだよ、この手。すぐ戻ってくるって」
立ち上がろうとするアサヒは、そのオリバーの腕をぺしっと軽く叩く。
あきれ顔だが、建前だろう。
「学友なんだろ?俺がいたらしにくい話もあるだろ?」
「………」
情けない顔のオリバーにアサヒが告げると、ゆっくりと腕が外された。
こんなオリバーを目に出来るのは、アサヒと一緒の時だけだろう。
にしても。
アサヒはわかっていて席を外すらしい。
勿論見学をしたいのは本当だろうが。
「きちんとお守りいたします」
「頼んだよ」
「過保護ねえ。若いっていたって成人してるんでしょうから、少し自嘲しなさいよ」
ようやく送り出したオリバーに、呆れ顔でコナーが口を開く。
こっちは、建前でもフリでもなく、本当に呆れてるようだ。
がしかし。
“この子”と口にして何となく違和感を感じていたが、ようやく理由がわかった。
コナーはアサヒの歳を見誤ってるらしい。
「若いって、そこまで若くないつもりですが、初めて私から人を好きになったのですから執着しても仕方ないでしょう?」
「何言ってんの、それこそ当たり前じゃない。私たちもういい年よ」
「え?アサヒは私たちの一つ下ですよ?」
「はあ!?嘘でしょ?」
「27歳ですよ。アサヒは綺麗ですが、そこまで幼く見えないと思いますが」
「何言ってんの、あの艶肌で一個下ですって?あり得ないでしょ!年齢詐欺よ!」
年齢詐欺……そうだろうか?
あそこまで交渉に長けているんだ、最初から持ち合わせているスキルでなく、仕事で身に着いたスキルであれば年相応と思うんだが、コナーが言うのはそういうことじゃないだろうな。
見た目の問題だろう。
コナーとオリバーの視線が俺へと向けられる。
見た目って言ったって、俺にはよくわからない。
俺の傍にいるレンに関しちゃ、見た目だけで言えば、19にしたら、やたら綺麗で可愛くて白くて華奢すぎる。
だが、レンも思考が幼いかと言うと、それは逆だ。
若いのに、物事を深く考えて、正しくとらえる力がある。
芋ほりや乳しぼりで楽しんだりと、基本無邪気で幼いし、最初から全面的に俺を信頼しているところや、信頼した者に関してあけすけなのは幼いと思う。
……や、今はレンのことじゃなく、アサヒのことだったな。
「神器様ってのは、多かれ少なかれ皆綺麗な存在と言われているからなあ。
レンがあけすけで幼く見えるから、アサヒが特別若いとは思えなかったが…言われてみれば、一個下にしては若く見える、か?」
「あなたたちに聞いた私が馬鹿だったわ。で?あの子は、ああ、もうあの子なんて言えない年齢なのね……、まあいいわ、あの子は何を食べて塗ったらあんなふうな肌になるわけ?」
「何をって、私と同じものを食べて、私と同じ保湿剤、椿オイルを使ってますよ?
肌艶は…こちらに来てからの方が良くなった気がしますね、食生活は良くなったと言っていましたから」
「本当に?あなたと同じものを?あなたかなりの偏食じゃない、本当に同じものを食べてるって言える?」
「…そう言われてしまうと、頷けませんが」
「レンも、なんだが……食べ物とかのせいではなく、オリバーといるからじゃないのか?」
「え?」
「自分と破局した相手が恋人が出来て綺麗になった、みたいなことをコナーが前に言っていただろ?
そういうあれじゃないのか?」
内面から出る若さというのがある。
……が、コナーもオリバーも微妙な顔をしていた。
「それだけじゃないと思うわ」
コナーが、ため息混じりに呟く。
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