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本編
-327- ティッセルボナー
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「まあ、レン様。丁度良いところに来てくださいました」
僕が来たのを知れて、アニーがほっとしたような顔を見せてくる。
丁度良いってことは、採寸が終わってデザインを考えてるところなんだろう。
「どうかしたの?」
「採寸は済んだのですが……その、デザインで揉めております」
「そっか。女性の正装は初めてだから僕も一緒に考えるって話をしていたんだ」
「そうでしたか。私ではもうどうすることも。……お呼びしようかと思っていたところです」
「ふふっ」
あのアニーが途方に暮れた顔をしている。
なんだかおかしくなって笑いながら、デザイナーさんとヴィオラとステラ、三人が座っているソファとテーブルまで来ると、最初に気が付いたステラが立ち上がって綺麗なお辞儀を返してくれる。
「レン様、おはようございます」
「あ……おはようございます、レン様」
それに合わせて、ヴィオラもデザイナーさんも慌てて頭を下げてきた。
「おはよう、ステラ。ヴィオラもおはよう。女性の正装は初めてだって聞いてるから、僕も一緒に考えても良い?」
「心強いです」
「はい、勿論です!なかなか伝わらなくて困ってました」
ふんわり笑顔のステラに続いて、ヴィオラがほっとした顔を見せてくる。
ほっとした顔をしたのは、デザイナーさんもだ。
ヴィオラも自分の意見は曲げないだろうけれど、ステラも自分が着るものだし、まして公の場で着るものだから通そうとするだろうなあ。
なんたって交渉のスキルを持ってるから、ふんわり優しい雰囲気でも妥協はしなさそうだ。
「こちらです、いかがですか?」
「レン様、あたしこのまま着たくない。足さばきも悪いし……これじゃ全然可愛くないです」
「私はもう年齢が年齢ですし、もう少し丈が長い方が。それに短剣は目に見える形でさすにしても、これでは他に隠せる場所が全くないですわ」
デッサン画を覗くと、お尻が隠れるか隠れないかのジャケットに、膝が隠れるほどのストレートなスカートだ。
制服としてはオーソドックスな形だろうし、正装というに相応しくて、レナードたちが着ている制服と合わせるととても対になってる。
けれど、確かにこれでは動きに制限が出るだろうし問題だ。
「わかった。じゃあ、順番にデザインを決めようか。一緒にすることはないんだし、生地は同じものでデザインは別々のを作ろう、ね?」
「っありがとうございます!」
「ヴィオラのから考えてようか、ステラも一緒に考えてくれる?」
「はい、畏まりました」
セオも、僕が分からないこともあるかもしれないから、同じ立場で意見があったら遠慮しないで伝えて」
「了解です」
ステラは商会に勤めていたのだから、センスは良いだろう。
「まず、スカートは駄目だね、パンツスタイルのほうが良い」
「ですねー」
「え?!」
ヴィオラとデザイナーさんが悲しそうな顔をする。
「馬車だとランブルシートに立つし、これじゃ第一乗馬が出来ない。正装でも乗馬の時はあるからねー」
セオが当然だろうとヴィオラとデザイナーさんに告げる。
ふたりはガッカリ顔だ。
でも、ヴィオラに似合う恰好可愛い型の制服にしてあげたい。
「この生地にスライム混ぜて、伸縮可能に出来る?」
「はい、可能です」
「なら、パンツは細身にして。ジャケットもストレートじゃなくて、ウエストに絞りがあるほうが良いね、その方がスタイルが良く見えるし。
膝を曲げても、腕を振り上げても肘を曲げてもつれないのは勿論、動きやすさも重視したい。
これを着るってことは、僕とアレックスが命を預かることなんだ。
二人が女性でもね、彼女たちはその力が十分にある。
だから、見た目だけじゃなくてちゃんと機能性も必要になる」
デザイナーさんに目を向けると、びっくり顔で僕を見る。
「てっきり式典の時用のものだとばかり……」
「ヴィオラは、領内の警護にも関わってもらう人だよ」
「そうでしたか、申し訳ございません」
「僕もちゃんと伝えてなかったから……ジャケットの後ろはドレスのようにリボンで搾りを調整できるようにして。
それから、ヴィオラは可愛いのが好きだから、このジャケットの裾部分を可愛くしよう。
取り外しできるほうが良いかな、内側に隠れるようにボタンで取り付けできるほうが良い。
内側は軽い生地を使用して、今彼女が着ているようなふんわりしたAラインが良いかな、表は三段のフリルで、あ、もっと短くていいよ」
デザイナーさんが僕の話を聞きながらデッサンを変えていく。
うん、大分かわいい感じになった。
良いんじゃないかな、どうだろう?
「ヴィオラ、どうかな?」
「可愛い……レン様、ありがとうございます」
「他に、もっとこうしたいなっていうのはある?遠慮しないで言ってね」
「出来ればジャケットを脱いだ時にも可愛い方が……」
「あ、そっか。そうだよねえ……」
ジャケットを脱ぐときがあるかっていったら、休憩時の時だけかもしれないけれど、そのときだって人目にはつく。
脱いだ時も可愛いほうが良いっていうなら叶えてあげたいし、私もあれが着たいって思う子が領内で出てくれたら良い。
「ならジャケットじゃなくて、いっそのことボレロにしちゃったらどうですか?その方が剣も振り回しやすいはずですし。で、コルセット型のベルトを追加してこのひらひらを取り付けたらどうです?それなら今のシルエットを変えずにジャケットを脱いでも可愛いと思いますよ」
「あ、いいね!流石セオ」
デザイナーさんがセオの言う通りにデッサンを変えていく。
「なら、ベルトはもっと胸の下あたりまであったほうが良いかな、中央はⅤ字にして、ジャケットっぽくボタンを2つ左右のダブルに。
うーん……もうちょっと絞った感じに出来ないかな?」
デザイナーさんの手が止まる。
難しいかなあ。
「このウエストのボタン、下にいくにつれて小さくしてみては?幅もV字に狭めればもっと絞った感じになるかと思います」
ステラのアドバイスでデッサンを変えると、うん、確かにもっとスタイルが良く見える形になった。
「あ、良いね!ヴィオラ、どう?」
「あたし、これが着たいです」
「よかった。今着てるものより保護魔法の付与は強化できるはずだから安心してね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、次はステラだね」
「このスタイルなら、私もベルトの裾を変えていただければ───」
ステラがふんわりと告げた後に、細かく自分でスラスラとデザインを告げる。
さすが、元商人で、令嬢だ。
スクエアの生地を4枚斜めに重ねることで縦のラインにフリルを出し、その内側に薄い生地を重ねることでふんわりとした品のあるAラインの完成だ。
「綺麗だし素敵だね!ステラにとってもあいそうだ」
「うわー、これは武器を隠しやすく出しやすいですねー」
「ありがとうございます」
僕とセオの注目する点は違ったけれど、確かにセオの言う通りだ。
抜かりないところは、流石だなあ。
僕が来たのを知れて、アニーがほっとしたような顔を見せてくる。
丁度良いってことは、採寸が終わってデザインを考えてるところなんだろう。
「どうかしたの?」
「採寸は済んだのですが……その、デザインで揉めております」
「そっか。女性の正装は初めてだから僕も一緒に考えるって話をしていたんだ」
「そうでしたか。私ではもうどうすることも。……お呼びしようかと思っていたところです」
「ふふっ」
あのアニーが途方に暮れた顔をしている。
なんだかおかしくなって笑いながら、デザイナーさんとヴィオラとステラ、三人が座っているソファとテーブルまで来ると、最初に気が付いたステラが立ち上がって綺麗なお辞儀を返してくれる。
「レン様、おはようございます」
「あ……おはようございます、レン様」
それに合わせて、ヴィオラもデザイナーさんも慌てて頭を下げてきた。
「おはよう、ステラ。ヴィオラもおはよう。女性の正装は初めてだって聞いてるから、僕も一緒に考えても良い?」
「心強いです」
「はい、勿論です!なかなか伝わらなくて困ってました」
ふんわり笑顔のステラに続いて、ヴィオラがほっとした顔を見せてくる。
ほっとした顔をしたのは、デザイナーさんもだ。
ヴィオラも自分の意見は曲げないだろうけれど、ステラも自分が着るものだし、まして公の場で着るものだから通そうとするだろうなあ。
なんたって交渉のスキルを持ってるから、ふんわり優しい雰囲気でも妥協はしなさそうだ。
「こちらです、いかがですか?」
「レン様、あたしこのまま着たくない。足さばきも悪いし……これじゃ全然可愛くないです」
「私はもう年齢が年齢ですし、もう少し丈が長い方が。それに短剣は目に見える形でさすにしても、これでは他に隠せる場所が全くないですわ」
デッサン画を覗くと、お尻が隠れるか隠れないかのジャケットに、膝が隠れるほどのストレートなスカートだ。
制服としてはオーソドックスな形だろうし、正装というに相応しくて、レナードたちが着ている制服と合わせるととても対になってる。
けれど、確かにこれでは動きに制限が出るだろうし問題だ。
「わかった。じゃあ、順番にデザインを決めようか。一緒にすることはないんだし、生地は同じものでデザインは別々のを作ろう、ね?」
「っありがとうございます!」
「ヴィオラのから考えてようか、ステラも一緒に考えてくれる?」
「はい、畏まりました」
セオも、僕が分からないこともあるかもしれないから、同じ立場で意見があったら遠慮しないで伝えて」
「了解です」
ステラは商会に勤めていたのだから、センスは良いだろう。
「まず、スカートは駄目だね、パンツスタイルのほうが良い」
「ですねー」
「え?!」
ヴィオラとデザイナーさんが悲しそうな顔をする。
「馬車だとランブルシートに立つし、これじゃ第一乗馬が出来ない。正装でも乗馬の時はあるからねー」
セオが当然だろうとヴィオラとデザイナーさんに告げる。
ふたりはガッカリ顔だ。
でも、ヴィオラに似合う恰好可愛い型の制服にしてあげたい。
「この生地にスライム混ぜて、伸縮可能に出来る?」
「はい、可能です」
「なら、パンツは細身にして。ジャケットもストレートじゃなくて、ウエストに絞りがあるほうが良いね、その方がスタイルが良く見えるし。
膝を曲げても、腕を振り上げても肘を曲げてもつれないのは勿論、動きやすさも重視したい。
これを着るってことは、僕とアレックスが命を預かることなんだ。
二人が女性でもね、彼女たちはその力が十分にある。
だから、見た目だけじゃなくてちゃんと機能性も必要になる」
デザイナーさんに目を向けると、びっくり顔で僕を見る。
「てっきり式典の時用のものだとばかり……」
「ヴィオラは、領内の警護にも関わってもらう人だよ」
「そうでしたか、申し訳ございません」
「僕もちゃんと伝えてなかったから……ジャケットの後ろはドレスのようにリボンで搾りを調整できるようにして。
それから、ヴィオラは可愛いのが好きだから、このジャケットの裾部分を可愛くしよう。
取り外しできるほうが良いかな、内側に隠れるようにボタンで取り付けできるほうが良い。
内側は軽い生地を使用して、今彼女が着ているようなふんわりしたAラインが良いかな、表は三段のフリルで、あ、もっと短くていいよ」
デザイナーさんが僕の話を聞きながらデッサンを変えていく。
うん、大分かわいい感じになった。
良いんじゃないかな、どうだろう?
「ヴィオラ、どうかな?」
「可愛い……レン様、ありがとうございます」
「他に、もっとこうしたいなっていうのはある?遠慮しないで言ってね」
「出来ればジャケットを脱いだ時にも可愛い方が……」
「あ、そっか。そうだよねえ……」
ジャケットを脱ぐときがあるかっていったら、休憩時の時だけかもしれないけれど、そのときだって人目にはつく。
脱いだ時も可愛いほうが良いっていうなら叶えてあげたいし、私もあれが着たいって思う子が領内で出てくれたら良い。
「ならジャケットじゃなくて、いっそのことボレロにしちゃったらどうですか?その方が剣も振り回しやすいはずですし。で、コルセット型のベルトを追加してこのひらひらを取り付けたらどうです?それなら今のシルエットを変えずにジャケットを脱いでも可愛いと思いますよ」
「あ、いいね!流石セオ」
デザイナーさんがセオの言う通りにデッサンを変えていく。
「なら、ベルトはもっと胸の下あたりまであったほうが良いかな、中央はⅤ字にして、ジャケットっぽくボタンを2つ左右のダブルに。
うーん……もうちょっと絞った感じに出来ないかな?」
デザイナーさんの手が止まる。
難しいかなあ。
「このウエストのボタン、下にいくにつれて小さくしてみては?幅もV字に狭めればもっと絞った感じになるかと思います」
ステラのアドバイスでデッサンを変えると、うん、確かにもっとスタイルが良く見える形になった。
「あ、良いね!ヴィオラ、どう?」
「あたし、これが着たいです」
「よかった。今着てるものより保護魔法の付与は強化できるはずだから安心してね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、次はステラだね」
「このスタイルなら、私もベルトの裾を変えていただければ───」
ステラがふんわりと告げた後に、細かく自分でスラスラとデザインを告げる。
さすが、元商人で、令嬢だ。
スクエアの生地を4枚斜めに重ねることで縦のラインにフリルを出し、その内側に薄い生地を重ねることでふんわりとした品のあるAラインの完成だ。
「綺麗だし素敵だね!ステラにとってもあいそうだ」
「うわー、これは武器を隠しやすく出しやすいですねー」
「ありがとうございます」
僕とセオの注目する点は違ったけれど、確かにセオの言う通りだ。
抜かりないところは、流石だなあ。
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