上 下
320 / 441
本編

-320- 形成魔法と花、ヴィオラの剣

しおりを挟む
「……出来ちゃったね、花瓶」
「出来ちゃいましたね」

思わずつぶやいた僕に続いてセオが呟く。

セバスが『では実際に作ってみてください』とか言うから、え?って思ったけれど、『はい!触ってもいいですか?』と一言。
セバスが了承すると一度両手でそっと持ち上げてからゆっくり下ろして、その隣に同じように手を掲げたら、底からパアと同じ花瓶が出現した。

「え?……これいいの?」
「いやいや、駄目ですよ」
「だよね?」

僕がこそっとセオに聞くと、セオは小さく首を振ってくる。
うん、だよね。
これじゃ本物そっくりどころか同じ贋作が出来ちゃう。

「全く同じだね。セバスにはどう見える?」
「私には製作者まで見えるので、区別はつきますが……これは、鑑定スキルがなければわかりませんね。物自体は全く同じものです」

ブルーノだから悪用せずにモデスト博士の言うことをきちんと聞いてきたんだろうけれど、大抵の人間だったら、このスキルで色々作って楽して金儲けをしようと考えるはずだ。
僕だって考える。
こんなことが出来るなら、宝石をちょっと持たせてもらっただけで量産できるってことだ。
“ブルーノが作った石”であっても、物自体が同じなら同じ色で同じ輝きの宝石だ。
でもきっとそんなことをすればどこかのお偉いさんが聞きつけて囲い込みに走るかもしれない。
すごく便利だけれど、すごく危険なスキルだなって思う。

「セバス、モデスト博士って、アレックスかアレックスのお祖父さまと交流があるの?」
「いいえ、領主としての直接交流はなかったはずですよ。ただ、アレックス様は魔法士としてそれはそれは優秀であられます。
宮廷魔法士としての仕事上のやりとりはあったかもしれません。
私が知る限り、直接お会いしたことはございませんよ」
「そっか。───ブルーノ、形成には制限があったりするの?大きさとか数とか」
「どうでしょう?レンガ以外作るなって言われてから……魔力はまだ平気です。この花瓶くらいならあと10個ほどは作れそうです。
レンガだと1日200個が限界でした。あとこれもレンガ基準なんですけど、二つ持っても一個ずつしか作れないです。
それと、俺が両手で持ち上げられるもの以外は出来ません」
「ありがとう」

制限があるにしろ、やっぱり便利で危険だ。
この花瓶があと10個も出来ちゃうなんてとんでもないよ。

モデスト博士が傍にいたのは、ブルーノにとって凄く幸運だったに違いない。
だって、セバスに言われてぽーんとその場で花瓶を作っちゃうくらい素直なんだもん。
最悪、弟さんを人質に取られて贋作の量産をされたりなんて事件が起こりうる可能性だってあったはずだ。
お釣りを何度も誤魔化されそうになったって言っていたくらいだ、本当に危ない。

「アニーは何かある?」
「はい。花を飾るのが得意だと言っていましたね。試しにこの花瓶の花の生け方を変えてみて貰えますか?」
「わかりました。あの、鋏を使ってもいいですか?」

ブルーノがアニーを見てから僕の顔を見る。
アニーも僕の顔を見る。
鋏は刃物だもんね。
ちらっとセオを見ると、『レン様の好きにして大丈夫ですよ?安心してください』と笑顔で伝えられた。
なら、答えは勿論OKだ。

「アニー、用意してあげて」
「畏まりました」


ブルーノは、花を手にすると凄く楽しそうに鋏を入れていった。
たくさんカットされてくわけじゃなくて、ほんの少しだ。
ブルーノは、鋏を入れる時花を褒めているみたい。
口には出さないけれど、綺麗だね、可愛いね、って言ってるみたいに感じる。
本当に花が好きなんだなあ。
それに、なぜか花たちがより綺麗に可愛くされていくようで、花も喜んでいるように見えた。


「完成です」
「可愛い!」
「得意と言うだけありますね。素晴らしい出来です」
「ありがとうございます!」

元々アニーが生けてくれた花はエレガントで気品のある感じだったけれど、ブルーノの場合は全体的に丸く可愛い感じにまとまってる。
花嫁さんが持つ花束みたいな感じだ、美しい上にとても可愛いし、生き生きしてる。
ブルーノが持つ花のイメージそのものなんだろうなあ。
どちらが良いか悪いかなんていうのは好みの問題で、どちらも良いと思う。
でも、同じ花で同じ本数なのに、全く雰囲気が変わるものだなってびっくりだ。
アニーの絶賛に、ブルーノは嬉しそうな笑顔を見せてくれたよ。



さて、お茶の時間をきっちりとった後は、二次試験の開始です。
今日は嬉しいことにアレックスも一緒にお茶が出来たんだ。
今日はラフランスのタルトで、凄く美味しかったよ。

正確には、梨だそう。
種類は違うけれど、梨は梨、らしい。
洋ナシだとかラフランスだとかの区別はないみたい。
チーズにも名前がなかったし、りんごも味が違えば種類も違うんだろうけれど、りんごはりんごだもんね。
そういう意味ではけっこう大雑把だ。


二次試験は、急遽庭で行うことになった。
勿論大切な薔薇を痛めるわけにはいかないから裏庭だ。
馬たちを怖がらせるわけにもいかないから、厩からもかなり離れた場所になる。

お茶を入れて貰うよりも、ヴィオラの剣の腕が見たかったんだ。
ジュードはまだ帰宅していないから、相手はレナード。
レナードだって、剣の使い手。
でも、実際剣を振るうのを僕は初めてみる。

ガキン、と剣と剣がぶつかる音が響く。
にしても、早い!
レナードが一瞬怯むくらいに早かったし、重さもありそうだ。
それでも、レナードは真正面から受け止めてるし、力にも負けていない。

彼女の剣は、その体格にそぐわないくらいには大きい。
あれじゃ背負うほどの大きさだ。
それを軽々と振るほどの力があるみたい。

レナードは氷魔法も使って、剣を振るう。
ヴィオラは驚きを隠せなかったようだけれど、レナードもまた驚いているみたいだった。
うん、僕も驚きだ。

ヴァンの時もそうだったけれど、無詠唱で瞬時に氷が出来るレナードにも驚きだし、
その氷に足を固められても、すぐに割れて粉々になり、ものともしないヴィオラにも驚きだ。
ほんのわずかに足止めできるくらいにしか氷魔法が効いていない。
そりゃ全身氷漬けにされたら違うかもしれないけれど、試験だからレナードもセーブしてるようだった。

「あの奇抜な服装ですが、彼女が戦闘服と言うだけあり、何重にも防御魔法の付与がなされています」
「そうなの?」
「はい。うちの制服には負けますが、エリソン侯爵領の警備隊の制服よりも強力ですね。
剣士のスキルがありますが、魔法は強化一択。
それでレオンと渡り合っているのですから、かなりの腕前です。
───そこまで」

セバスがストップをかけて、二人の動きがぴたりと止まる。
決闘じゃないのだから、勝ち負けを決める必要はないからだ。

戦闘中は疲れを見せない二人だったけれど、剣を降ろした二人は、共に息が上がっている。

「ありがとうございました。父以外で、初めて続きました。また是非お願いしたいです」
「私は正直もうやりたくはないな。……次はジュードに頼むといい。剣の腕は俺よりもずっと上だ」

良い笑顔のヴィオラに、げんなりとした顔をレナードは向けた。
セバスに止められなければ、ずっと打ち込んで来そうだもんね。

とはいえ、レナードが魔法を本気で使って彼女を倒しにかかっていたらまた結果は違っていたのだと思うけれども。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

神様ぁ(泣)こんなんやだよ

ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。 『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』 「??あっ!獣人の世界ですか?!」 『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』 「じゃ!可愛い猫耳」 『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』 白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた 「さ、、((クシュ))っむい」 『誰だ』 俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか? ん?エバ(イブ)って女じゃねーの? その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾 え?ん?ぴ、ピエん? 修正 (2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)

怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女
BL
過去の虐待のトラウマから、怒鳴られると動悸がしてしまう子が過呼吸を起こす話

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?

かかし
BL
会社では平凡で地味な男を貫いている彼であったが、私生活ではその地味な見た目に似合わずなかなかに派手な男であった。 長く続く恋よりも一夜限りの愛を好み、理解力があって楽しめる女性を一番に好んだが、包容力があって甘やかしてくれる年上のイケメン男性にも滅法弱かった。 恋人に関しては片手で数えれる程であったが、一夜限りの相手ならば女性だけカウントしようか、男性だけカウントしようが、両手両足使っても数え切れない程に節操がない男。 (本編一部抜粋) ※男性妊娠モノじゃないです ※人によって不快になる表現があります ※攻め受け共にお互い以外と関係を持っている表現があります 全七話、14,918文字 毎朝7:00に自動更新 倫理観がくちゃくちゃな大人2人による、わちゃわちゃドタバタラブコメディ! ………の、つもりで書いたのですが、どうにも違う気がする。 過去作(二次創作)のセルフリメイクです もったいない精神

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...