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本編
-316- 蜜蝋
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今日で面談最終日だ。
起きがけアレックスとベッドの上でいちゃいちゃしたけれど、アレックスが先に支度を済ませて部屋を出ても寂しい感じは全くしない。
少し寝るか聞かれたけれど、それはしないでセオの手を借りてアレックスと一緒に着替えたよ。
服はベストタイミングで届けられた。
ちゃんと下着を着直したところで扉がノックされてOKの返事をしたけれど、朝からいちゃいちゃしてたの、セオは気付いていると思う。
だって、『本日は15分程遅らせております』なんて言うんだもん。
アレックスは『わかった。セオ、レンの着替えを手伝ってくれ』って普通に返事をしてた。
アレックスもセオも何も言わないし話題にはしないし平常心だったから、僕も顔が熱くなったりはしなかった。
アレックスはサクサク一人で着替えを済ませた後に、『少しだけセバスと話をした後にテンに顔を出してくる。慌てずゆっくり着替えてくれ』と僕に告げて、そして流れるように口づけをひとつ残してくれた。
面談があるから、ここ5日間は少しかっちりした服装だ。
今日は、焦げ茶色のベストと揃いのチェックのパンツで、いつもの通り丈は足りないけれどウエストは少し緩い。
シャツも肩幅と腕の長さが微妙に合っていないから、それらを目にするたびセオが、『早く新しいのが届くと良いですね』と口にしてくる。
今日も着替え終わった僕を見て、セオは微妙な顔で笑う。
化粧はしてない。
けれど、りんごのジェルクリームを購入してからは塗ってもらってる。
今日は唇や目元にはシアバターのクリームを足して塗ってくれたよ。
セオはメイクさんにでもなれるくらい手つきに慣れがあるから、まかせっきりでも安心だ。
「唇は、朝ごはんを食べた後にまた塗り直しますね。今日はかなり空気が乾燥してますから」
「うん、ありがとう、セオ。そういえば、スティック型のリップクリームってないの?」
スティック型のリップクリームが存在するなら今度買ってもらうのもいいかもしれない。
そうすれば、自分で乾燥してきたなって時にもささっと塗れるはず。
「リップクリームは瓶か缶に入って売ってますけど、スティック型っていうのはないですね」
「そっか」
「溶けやすいですからね」
「ん?でも、蜜蝋があるでしょ?」
「ミツロウ?……ってなんです?」
「え?蜂蜜の、蜂の巣からとれる蝋だけど……え、ないの?」
「……ないですね」
ぱちぱちとセオが瞬きをする。
うそでしょ?蜜蝋ってそんなに珍しいものじゃないと思うし、元の世界でも自然派なイメージが強いけれどそこまでレアな商品じゃなかったはずだし、第一昔からあったはず。
エリソン侯爵領は蜂蜜が名産なのに、蜜蝋がない?
「蜂の巣ってどうしてるの?捨てちゃうの?」
「瓶に入れて、蜂の巣ごと蜂蜜を売ってることが多いですね」
「あ、コムハニーなんだ」
「料理に使ったりしますが、触感が良くないのでうちでは捨てることが多いと思いますよ。
養蜂では、新しい巣をつくる際に古巣も必要としてますから、全て瓶に詰めているわけじゃないです。分蜂しますからね」
「その新しい巣箱を作るのに蜜蝋は使わないの?」
「そのミツロウってのが聞いたことないんですが、蜂の巣から蝋が取れるんですか?」
「うん。元の世界だと、化粧品を固めるのに使ってたし……あと、キャンドルとか。
それに、新しい巣箱を作るときに使うって、聞いたことあるよ。新しい巣箱の天井に塗ると、蜂が来てくれるんだって」
僕が知ったのは、旅行で蜂蜜専門店に行った時だ。
色々な蜂蜜の味を試食出来て、蜂蜜は勿論、蜂蜜を使ったお菓子や化粧品が並んでいるお店で、工房が隣にあった。
その工房の横に、ちいさな養蜂場もあって、その見学も出来たんだ。
見学はガラス越しだったから、刺される心配もなくて安心安全なところだった。
蜂の巣の内部を初めて間近に見た。
父さんと母さんも興味深く見てたなあ。
「なるほど……レン様、そのミツロウの作り方はわかりますか?」
「熱で溶かしてそれを冷やすんだと思うんだけれど、作り方までは聞いたことないや。でも、薬にも使われてたような気がするから、旭さんならもしかしたら知ってるかも」
「わかりました。ありがとうございます」
「うん」
エリソン侯爵領は、蜂蜜の産地だ。
蜜蝋が今までなかったのなら、それが出来ればより生産に繋がるはずだ。
リップクリームから、思わぬ話になったなあ。
起きがけアレックスとベッドの上でいちゃいちゃしたけれど、アレックスが先に支度を済ませて部屋を出ても寂しい感じは全くしない。
少し寝るか聞かれたけれど、それはしないでセオの手を借りてアレックスと一緒に着替えたよ。
服はベストタイミングで届けられた。
ちゃんと下着を着直したところで扉がノックされてOKの返事をしたけれど、朝からいちゃいちゃしてたの、セオは気付いていると思う。
だって、『本日は15分程遅らせております』なんて言うんだもん。
アレックスは『わかった。セオ、レンの着替えを手伝ってくれ』って普通に返事をしてた。
アレックスもセオも何も言わないし話題にはしないし平常心だったから、僕も顔が熱くなったりはしなかった。
アレックスはサクサク一人で着替えを済ませた後に、『少しだけセバスと話をした後にテンに顔を出してくる。慌てずゆっくり着替えてくれ』と僕に告げて、そして流れるように口づけをひとつ残してくれた。
面談があるから、ここ5日間は少しかっちりした服装だ。
今日は、焦げ茶色のベストと揃いのチェックのパンツで、いつもの通り丈は足りないけれどウエストは少し緩い。
シャツも肩幅と腕の長さが微妙に合っていないから、それらを目にするたびセオが、『早く新しいのが届くと良いですね』と口にしてくる。
今日も着替え終わった僕を見て、セオは微妙な顔で笑う。
化粧はしてない。
けれど、りんごのジェルクリームを購入してからは塗ってもらってる。
今日は唇や目元にはシアバターのクリームを足して塗ってくれたよ。
セオはメイクさんにでもなれるくらい手つきに慣れがあるから、まかせっきりでも安心だ。
「唇は、朝ごはんを食べた後にまた塗り直しますね。今日はかなり空気が乾燥してますから」
「うん、ありがとう、セオ。そういえば、スティック型のリップクリームってないの?」
スティック型のリップクリームが存在するなら今度買ってもらうのもいいかもしれない。
そうすれば、自分で乾燥してきたなって時にもささっと塗れるはず。
「リップクリームは瓶か缶に入って売ってますけど、スティック型っていうのはないですね」
「そっか」
「溶けやすいですからね」
「ん?でも、蜜蝋があるでしょ?」
「ミツロウ?……ってなんです?」
「え?蜂蜜の、蜂の巣からとれる蝋だけど……え、ないの?」
「……ないですね」
ぱちぱちとセオが瞬きをする。
うそでしょ?蜜蝋ってそんなに珍しいものじゃないと思うし、元の世界でも自然派なイメージが強いけれどそこまでレアな商品じゃなかったはずだし、第一昔からあったはず。
エリソン侯爵領は蜂蜜が名産なのに、蜜蝋がない?
「蜂の巣ってどうしてるの?捨てちゃうの?」
「瓶に入れて、蜂の巣ごと蜂蜜を売ってることが多いですね」
「あ、コムハニーなんだ」
「料理に使ったりしますが、触感が良くないのでうちでは捨てることが多いと思いますよ。
養蜂では、新しい巣をつくる際に古巣も必要としてますから、全て瓶に詰めているわけじゃないです。分蜂しますからね」
「その新しい巣箱を作るのに蜜蝋は使わないの?」
「そのミツロウってのが聞いたことないんですが、蜂の巣から蝋が取れるんですか?」
「うん。元の世界だと、化粧品を固めるのに使ってたし……あと、キャンドルとか。
それに、新しい巣箱を作るときに使うって、聞いたことあるよ。新しい巣箱の天井に塗ると、蜂が来てくれるんだって」
僕が知ったのは、旅行で蜂蜜専門店に行った時だ。
色々な蜂蜜の味を試食出来て、蜂蜜は勿論、蜂蜜を使ったお菓子や化粧品が並んでいるお店で、工房が隣にあった。
その工房の横に、ちいさな養蜂場もあって、その見学も出来たんだ。
見学はガラス越しだったから、刺される心配もなくて安心安全なところだった。
蜂の巣の内部を初めて間近に見た。
父さんと母さんも興味深く見てたなあ。
「なるほど……レン様、そのミツロウの作り方はわかりますか?」
「熱で溶かしてそれを冷やすんだと思うんだけれど、作り方までは聞いたことないや。でも、薬にも使われてたような気がするから、旭さんならもしかしたら知ってるかも」
「わかりました。ありがとうございます」
「うん」
エリソン侯爵領は、蜂蜜の産地だ。
蜜蝋が今までなかったのなら、それが出来ればより生産に繋がるはずだ。
リップクリームから、思わぬ話になったなあ。
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