上 下
316 / 440
本編

-316- 蜜蝋

しおりを挟む
今日で面談最終日だ。
起きがけアレックスとベッドの上でいちゃいちゃしたけれど、アレックスが先に支度を済ませて部屋を出ても寂しい感じは全くしない。
少し寝るか聞かれたけれど、それはしないでセオの手を借りてアレックスと一緒に着替えたよ。

服はベストタイミングで届けられた。

ちゃんと下着を着直したところで扉がノックされてOKの返事をしたけれど、朝からいちゃいちゃしてたの、セオは気付いていると思う。

だって、『本日は15分程遅らせております』なんて言うんだもん。
アレックスは『わかった。セオ、レンの着替えを手伝ってくれ』って普通に返事をしてた。
アレックスもセオも何も言わないし話題にはしないし平常心だったから、僕も顔が熱くなったりはしなかった。

アレックスはサクサク一人で着替えを済ませた後に、『少しだけセバスと話をした後にテンに顔を出してくる。慌てずゆっくり着替えてくれ』と僕に告げて、そして流れるように口づけをひとつ残してくれた。

面談があるから、ここ5日間は少しかっちりした服装だ。
今日は、焦げ茶色のベストと揃いのチェックのパンツで、いつもの通り丈は足りないけれどウエストは少し緩い。
シャツも肩幅と腕の長さが微妙に合っていないから、それらを目にするたびセオが、『早く新しいのが届くと良いですね』と口にしてくる。
今日も着替え終わった僕を見て、セオは微妙な顔で笑う。

化粧はしてない。
けれど、りんごのジェルクリームを購入してからは塗ってもらってる。
今日は唇や目元にはシアバターのクリームを足して塗ってくれたよ。
セオはメイクさんにでもなれるくらい手つきに慣れがあるから、まかせっきりでも安心だ。

「唇は、朝ごはんを食べた後にまた塗り直しますね。今日はかなり空気が乾燥してますから」
「うん、ありがとう、セオ。そういえば、スティック型のリップクリームってないの?」

スティック型のリップクリームが存在するなら今度買ってもらうのもいいかもしれない。
そうすれば、自分で乾燥してきたなって時にもささっと塗れるはず。

「リップクリームは瓶か缶に入って売ってますけど、スティック型っていうのはないですね」
「そっか」
「溶けやすいですからね」
「ん?でも、蜜蝋があるでしょ?」
「ミツロウ?……ってなんです?」
「え?蜂蜜の、蜂の巣からとれる蝋だけど……え、ないの?」
「……ないですね」

ぱちぱちとセオが瞬きをする。
うそでしょ?蜜蝋ってそんなに珍しいものじゃないと思うし、元の世界でも自然派なイメージが強いけれどそこまでレアな商品じゃなかったはずだし、第一昔からあったはず。
エリソン侯爵領は蜂蜜が名産なのに、蜜蝋がない?

「蜂の巣ってどうしてるの?捨てちゃうの?」
「瓶に入れて、蜂の巣ごと蜂蜜を売ってることが多いですね」
「あ、コムハニーなんだ」
「料理に使ったりしますが、触感が良くないのでうちでは捨てることが多いと思いますよ。
養蜂では、新しい巣をつくる際に古巣も必要としてますから、全て瓶に詰めているわけじゃないです。分蜂しますからね」
「その新しい巣箱を作るのに蜜蝋は使わないの?」
「そのミツロウってのが聞いたことないんですが、蜂の巣から蝋が取れるんですか?」
「うん。元の世界だと、化粧品を固めるのに使ってたし……あと、キャンドルとか。
それに、新しい巣箱を作るときに使うって、聞いたことあるよ。新しい巣箱の天井に塗ると、蜂が来てくれるんだって」

僕が知ったのは、旅行で蜂蜜専門店に行った時だ。
色々な蜂蜜の味を試食出来て、蜂蜜は勿論、蜂蜜を使ったお菓子や化粧品が並んでいるお店で、工房が隣にあった。
その工房の横に、ちいさな養蜂場もあって、その見学も出来たんだ。
見学はガラス越しだったから、刺される心配もなくて安心安全なところだった。
蜂の巣の内部を初めて間近に見た。
父さんと母さんも興味深く見てたなあ。

「なるほど……レン様、そのミツロウの作り方はわかりますか?」
「熱で溶かしてそれを冷やすんだと思うんだけれど、作り方までは聞いたことないや。でも、薬にも使われてたような気がするから、旭さんならもしかしたら知ってるかも」
「わかりました。ありがとうございます」
「うん」

エリソン侯爵領は、蜂蜜の産地だ。
蜜蝋が今までなかったのなら、それが出来ればより生産に繋がるはずだ。
リップクリームから、思わぬ話になったなあ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

αなのに、αの親友とできてしまった話。

おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。 嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。 魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。 だけれど、春はαだった。 オメガバースです。苦手な人は注意。 α×α 誤字脱字多いかと思われますが、すみません。

怒鳴り声が怖くて学校から帰ってしまった男子高校生

こじらせた処女
BL
過去の虐待のトラウマから、怒鳴られると動悸がしてしまう子が過呼吸を起こす話

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

処理中です...