311 / 414
本編
-311- ジョーカー
しおりを挟む
「レン様、なるはやで一周回してください」
何をなるべく早く回せって、ジョーカーを、だ。セオじゃなくて、ヴァンから言ってくるんだから、笑いそうになる。
今ので向かって右側だってことだけは分かった。
「うん。───セオ、ヴァンとの賭けに勝ったって言ってたでしょ?のれたのは何で?」
「う゛っ!」
言葉に詰まったのは、セオじゃなくてヴァンの方だ。
まだダメージがあるみたい。
一緒に暮らせる気満々だったところを見事に圧し折られたわけだから、それもそうか。
「あんな阿呆なスピーチの中に脅しを込めてたなんて俺は気付きもしなかったんですけど、意図してやったならレン様なら必ず気が付いただろうなって思いました。
それに、俺は別に命令されたからレン様に仕えてるわけじゃないですからね?自分で決めたんです」
「そっか……ありがとう、セオ」
「どういたしまして」
セオの表情に確かな意思がそこに見えて、それが凄く嬉しい。
そういうセオのところを気に入ってるけれど、きっとヴァンは悔しいに違いない。
ちょっと優越感に浸っちゃう。
さて、セオの視線の動きで大体分かった。
なにが分かったかって、ジョーカーがどこにあるか、だ。
こっちか、こっちだなあ……こっちかな?
「よしっ」
裏返して確認するよりなにより、ヴァンの声が一番早かった。
うん、ジョーカーが僕に回ってきた。
カードを良く切りつつレナードを見やると、信じられないような顔をしている。
「おまえねー、いちいち声に出すなよ。ばればれじゃねーか。えー……でもレン様、今のでわかっちゃうんですか?」
「二択だったけれど、後は勘かな。僕はわりと勘も良いから」
「いやいや、カードまだこんだけありますが?」
「ふふっ」
最初にヴァンが視線を向けたことは黙っててあげよう。
「レン様、何故わざと引くのです?このゲームはジョーカーを引かないようにするゲームでしょう!」
「違うよ?いかに手札を早く無くすかを競うゲームだよ、それで、最後にジョーカーを持っている人が負け……え、それでいいの?」
レナードが文句を言いながらも真剣な顔でカードを一枚選ぶ。
それから僕の問いに手を止める。
「は?」
「だから、そのカードでいいのかなって思って。後悔するかも」
「っその顔やめてください!私は自分の選択に後悔したことはありません!っ───!?」
「っぶっふはははっ!最高だな、あんた!」
わざとらしく視線をレナードに投げかけると、案の定イラっとしたレナードはそのままカードを抜き取る。
や、良いんだけれどね、渡したいカードだしさ、けれど一周くらい僕が持ってても良いかなって思ったんだけどなあ。
耐えきれなくなったようにヴァンが大笑いしてる。
僕も思わず笑っちゃう。
レナードは真っ赤になって、やけくそとばかりカードを切ってるけれど、それ意味ないのわかってるのかなあ。
「だから言ったのに。人の忠告に耳を傾けようね、レナード。あとカード切ってもヴァンには意味ないよ、全部見えてる」
「っ!!なら私が負けなのは確定じゃないですか!」
「だから、よくよく人を見てって言ってるでしょう?遅くてもセオが上がったらすぐまたジョーカーはヴァンに移るよ」
「は?」
うん、まだよくわかってないみたいだ。
嘘みたいだけれど、レナードはそういう人らしい。
「とりあえず、コレね」
「っ!卑怯だぞ、お前」
ヴァンがレナードからカードを引き抜くと、レナードがすかさず叫ぶ。
これじゃどこにジョーカーがあるか、僕にもすぐ分かっちゃうのに、そういうのは気にしないみたいだ。
レナードが本当に真っ直ぐな人で、不正なんて絶対許せない人なんだろうなあ。
人を騙したり嵌めたりなんてのも、本来向いてないんだと思う、全然。
「えー?どこがですか?俺はセオさんファーストなだけですー」
ヴァンは自分の手札を捨てるより、セオの手札を捨てる方が優先だ。
こんなことされてもセオは怒らないんだからある意味凄い。
呆れはしてるだろうけれど、それでも特別扱いは嬉しいんだろうなあ。
どのカードを引くかを、わりと真剣に選ぶセオにヴァンは楽しそうだ。
一カ月間で7割、思ってる以上に難しい課題を出したかもしれなかった。
「レン様は、セオさんのどこが気に入ったんですか?セオさん以外考えられないって言ってた理由を是非知りたいです」
「ん?セオはね、最初から僕のことを偏見なしで認めてくれたし、そのままでいてくださいねって言ってくれるんだ」
「っ……他には?」
「ちょっとした事でもすぐに気づいてくれるよ。どうしました?言ってください?って何でも聞いてくれる。
あとね、ありがとうっていうと、どういたしましてって言ってくれるよ。
そうやって受け止めてくれるのセオだけだよ?他の人は大抵、遠慮しちゃう。
駄目な時は駄目って言ってくれるし、僕のためにアレックスを本気で怒ってくれたんだ。
アレックスのためにアレックスを叱ってくれる人はいるけれど、僕のためにアレックスを怒ってくれるのはセオだけだよ」
「っ……」
ヴァンが悔しそうな顔を僕に向けてくる。
もう一回くらい遊べるかな?
すでに、セオは早々と上がった。
レナードはセオに『お前はそれでいいのか?』なんて言われてたけれど、『まあ、いいんじゃない?』って返してたよ。
もちろん、レナードは全然納得していなかったけれどね。
セオがヴァンの後ろで嬉しそうに照れてるけれど、おかげでジョーカーはどれかはわかった。
「っ?!セオさん、そんな可愛い顔俺以外に見せないで!」
「はあ?阿呆なこと言ってんな」
「痛っ!」
ぺしっと額を叩かれたヴァンは、痛いと言いながらも、嬉しそうだ。
じゃれてるようにしか見えない。
仲良いなあ。
「レナードは、どういう人が好みなの?……え、それひくの?」
「引きますけど何か?
好み……芯の通った人ですね。あとは顔だけで判断しない人」
顔だけで判断……なるほど。
外面が良いだけに、普段の顔を見せたら夢見てた子達は、こんなんじゃないって思っちゃうのかなあ。
「顔面偏差値高すぎるもんね」
「ガンメンヘンサチ?レン様こそ、最初からアレックス様が好みだったんですか?」
「ん?うーん…好みのタイプとかは、僕はよく分からないんだけど、アレックスは凄くかっこいいから、出会ってすぐに好きになったよ」
「幻滅したり、がっかりしたことはないんですか?」
「アレックスの事で?うん、ないよ。新しい一面を知る度、好きが増えてくよ。初めて好きになった初めての恋人がアレックスで良かった」
「……まあ、幸せそうで何よりです」
「認めてくれてるんだ」
「それは……はい、今は」
「良かった」
僕が良かったって言うと、それを見たレナードは、最初に選んでいたカードを変えて、その隣を引き抜く。
つくづく期待を裏切らない人だ。
「っ!?」
レナードはまた勢いよくカードを切ってるけど、意味ないのに無意識なんだろうなあ。
思わず笑いが漏れちゃう。
でも、最高と言ってたヴァンはどこへやら、盛大にため息を吐いてくる。
理由は、セオが『お前は見えてるんだから卑怯な上がり方だけはするなよ?』と言ったからだ。
つまり、手札がどんなに少なかろうと、レナードにジョーカーが渡ったら、それを取れってことだ。
「レナードさんさー、もう少し頑張ってくれよ。俺のご褒美がかかってんだからさー」
「お前は大人しく帰れ!」
「嫌ですー。あーでも、俺、レナードさんのこと結構気に入ったわ」
「迷惑だ!」
「ぶははははっ!」
楽しそうに笑いながらヴァンがこちらにカードを掲げてくる。
もうこれでおしまいにしよう、いい頃合いだ。
目的のカードに手を伸ばす。
「あ゛!待った!や、待ってください、いやいや、それはないですってか、あと1周、ね?1周しましょう!」
「もう十分遊んだでしょ?なら、別のにしようよ」
「う゛……」
引き抜きたいカードが、抜けない。
カードは全部で7枚。
それぞの手元には、ジョーカーを外したらもう2枚ずつしか残ってない。3組が綺麗に別れてる状態だ。
「往生際が悪いことすんな」
「……はい、ごめんなさい」
セオの一言でカードがするりと抜けて僕の手元に入る。
手札を捨てて、レナードにカードを引き抜かれたら、勿論、僕の上がりだ。
何をなるべく早く回せって、ジョーカーを、だ。セオじゃなくて、ヴァンから言ってくるんだから、笑いそうになる。
今ので向かって右側だってことだけは分かった。
「うん。───セオ、ヴァンとの賭けに勝ったって言ってたでしょ?のれたのは何で?」
「う゛っ!」
言葉に詰まったのは、セオじゃなくてヴァンの方だ。
まだダメージがあるみたい。
一緒に暮らせる気満々だったところを見事に圧し折られたわけだから、それもそうか。
「あんな阿呆なスピーチの中に脅しを込めてたなんて俺は気付きもしなかったんですけど、意図してやったならレン様なら必ず気が付いただろうなって思いました。
それに、俺は別に命令されたからレン様に仕えてるわけじゃないですからね?自分で決めたんです」
「そっか……ありがとう、セオ」
「どういたしまして」
セオの表情に確かな意思がそこに見えて、それが凄く嬉しい。
そういうセオのところを気に入ってるけれど、きっとヴァンは悔しいに違いない。
ちょっと優越感に浸っちゃう。
さて、セオの視線の動きで大体分かった。
なにが分かったかって、ジョーカーがどこにあるか、だ。
こっちか、こっちだなあ……こっちかな?
「よしっ」
裏返して確認するよりなにより、ヴァンの声が一番早かった。
うん、ジョーカーが僕に回ってきた。
カードを良く切りつつレナードを見やると、信じられないような顔をしている。
「おまえねー、いちいち声に出すなよ。ばればれじゃねーか。えー……でもレン様、今のでわかっちゃうんですか?」
「二択だったけれど、後は勘かな。僕はわりと勘も良いから」
「いやいや、カードまだこんだけありますが?」
「ふふっ」
最初にヴァンが視線を向けたことは黙っててあげよう。
「レン様、何故わざと引くのです?このゲームはジョーカーを引かないようにするゲームでしょう!」
「違うよ?いかに手札を早く無くすかを競うゲームだよ、それで、最後にジョーカーを持っている人が負け……え、それでいいの?」
レナードが文句を言いながらも真剣な顔でカードを一枚選ぶ。
それから僕の問いに手を止める。
「は?」
「だから、そのカードでいいのかなって思って。後悔するかも」
「っその顔やめてください!私は自分の選択に後悔したことはありません!っ───!?」
「っぶっふはははっ!最高だな、あんた!」
わざとらしく視線をレナードに投げかけると、案の定イラっとしたレナードはそのままカードを抜き取る。
や、良いんだけれどね、渡したいカードだしさ、けれど一周くらい僕が持ってても良いかなって思ったんだけどなあ。
耐えきれなくなったようにヴァンが大笑いしてる。
僕も思わず笑っちゃう。
レナードは真っ赤になって、やけくそとばかりカードを切ってるけれど、それ意味ないのわかってるのかなあ。
「だから言ったのに。人の忠告に耳を傾けようね、レナード。あとカード切ってもヴァンには意味ないよ、全部見えてる」
「っ!!なら私が負けなのは確定じゃないですか!」
「だから、よくよく人を見てって言ってるでしょう?遅くてもセオが上がったらすぐまたジョーカーはヴァンに移るよ」
「は?」
うん、まだよくわかってないみたいだ。
嘘みたいだけれど、レナードはそういう人らしい。
「とりあえず、コレね」
「っ!卑怯だぞ、お前」
ヴァンがレナードからカードを引き抜くと、レナードがすかさず叫ぶ。
これじゃどこにジョーカーがあるか、僕にもすぐ分かっちゃうのに、そういうのは気にしないみたいだ。
レナードが本当に真っ直ぐな人で、不正なんて絶対許せない人なんだろうなあ。
人を騙したり嵌めたりなんてのも、本来向いてないんだと思う、全然。
「えー?どこがですか?俺はセオさんファーストなだけですー」
ヴァンは自分の手札を捨てるより、セオの手札を捨てる方が優先だ。
こんなことされてもセオは怒らないんだからある意味凄い。
呆れはしてるだろうけれど、それでも特別扱いは嬉しいんだろうなあ。
どのカードを引くかを、わりと真剣に選ぶセオにヴァンは楽しそうだ。
一カ月間で7割、思ってる以上に難しい課題を出したかもしれなかった。
「レン様は、セオさんのどこが気に入ったんですか?セオさん以外考えられないって言ってた理由を是非知りたいです」
「ん?セオはね、最初から僕のことを偏見なしで認めてくれたし、そのままでいてくださいねって言ってくれるんだ」
「っ……他には?」
「ちょっとした事でもすぐに気づいてくれるよ。どうしました?言ってください?って何でも聞いてくれる。
あとね、ありがとうっていうと、どういたしましてって言ってくれるよ。
そうやって受け止めてくれるのセオだけだよ?他の人は大抵、遠慮しちゃう。
駄目な時は駄目って言ってくれるし、僕のためにアレックスを本気で怒ってくれたんだ。
アレックスのためにアレックスを叱ってくれる人はいるけれど、僕のためにアレックスを怒ってくれるのはセオだけだよ」
「っ……」
ヴァンが悔しそうな顔を僕に向けてくる。
もう一回くらい遊べるかな?
すでに、セオは早々と上がった。
レナードはセオに『お前はそれでいいのか?』なんて言われてたけれど、『まあ、いいんじゃない?』って返してたよ。
もちろん、レナードは全然納得していなかったけれどね。
セオがヴァンの後ろで嬉しそうに照れてるけれど、おかげでジョーカーはどれかはわかった。
「っ?!セオさん、そんな可愛い顔俺以外に見せないで!」
「はあ?阿呆なこと言ってんな」
「痛っ!」
ぺしっと額を叩かれたヴァンは、痛いと言いながらも、嬉しそうだ。
じゃれてるようにしか見えない。
仲良いなあ。
「レナードは、どういう人が好みなの?……え、それひくの?」
「引きますけど何か?
好み……芯の通った人ですね。あとは顔だけで判断しない人」
顔だけで判断……なるほど。
外面が良いだけに、普段の顔を見せたら夢見てた子達は、こんなんじゃないって思っちゃうのかなあ。
「顔面偏差値高すぎるもんね」
「ガンメンヘンサチ?レン様こそ、最初からアレックス様が好みだったんですか?」
「ん?うーん…好みのタイプとかは、僕はよく分からないんだけど、アレックスは凄くかっこいいから、出会ってすぐに好きになったよ」
「幻滅したり、がっかりしたことはないんですか?」
「アレックスの事で?うん、ないよ。新しい一面を知る度、好きが増えてくよ。初めて好きになった初めての恋人がアレックスで良かった」
「……まあ、幸せそうで何よりです」
「認めてくれてるんだ」
「それは……はい、今は」
「良かった」
僕が良かったって言うと、それを見たレナードは、最初に選んでいたカードを変えて、その隣を引き抜く。
つくづく期待を裏切らない人だ。
「っ!?」
レナードはまた勢いよくカードを切ってるけど、意味ないのに無意識なんだろうなあ。
思わず笑いが漏れちゃう。
でも、最高と言ってたヴァンはどこへやら、盛大にため息を吐いてくる。
理由は、セオが『お前は見えてるんだから卑怯な上がり方だけはするなよ?』と言ったからだ。
つまり、手札がどんなに少なかろうと、レナードにジョーカーが渡ったら、それを取れってことだ。
「レナードさんさー、もう少し頑張ってくれよ。俺のご褒美がかかってんだからさー」
「お前は大人しく帰れ!」
「嫌ですー。あーでも、俺、レナードさんのこと結構気に入ったわ」
「迷惑だ!」
「ぶははははっ!」
楽しそうに笑いながらヴァンがこちらにカードを掲げてくる。
もうこれでおしまいにしよう、いい頃合いだ。
目的のカードに手を伸ばす。
「あ゛!待った!や、待ってください、いやいや、それはないですってか、あと1周、ね?1周しましょう!」
「もう十分遊んだでしょ?なら、別のにしようよ」
「う゛……」
引き抜きたいカードが、抜けない。
カードは全部で7枚。
それぞの手元には、ジョーカーを外したらもう2枚ずつしか残ってない。3組が綺麗に別れてる状態だ。
「往生際が悪いことすんな」
「……はい、ごめんなさい」
セオの一言でカードがするりと抜けて僕の手元に入る。
手札を捨てて、レナードにカードを引き抜かれたら、勿論、僕の上がりだ。
応援ありがとうございます!
3
お気に入りに追加
1,038
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる