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本編

-308- 圧

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「レン様、さっきの、人を選んでやってくださいね」

部屋に向かう途中、セオがそっと僕に話しかけてくる。
ちょっと部屋に移動するのも、セオは僕の斜め前を歩いて先導してくれてる。
そして、レナードは僕の少し後ろだ。
こういうちょっとした行動がすでに行き届いているなって感じる。

「ん?」
「レン様は、魔力がとてつもなく高いんです。圧をかけすぎると魔力一桁の人だと窒息するかもしれません」
「え……何それ。じゃあ、さっきヴァンの様子がおかしかったのは僕の演技のせいじゃなくて?」
「違いますね。や、最初はレン様の演技に引き込まれて、だったかもしれません。でも、最後の跪いての答えは、あれは圧のせいです」
「そっか……うん、気を付ける。あとでヴァンに謝らなきゃ。悪いことしちゃったな」

演技のせいで圧倒されたわけじゃなくて、魔力の圧によるものみたいだった。
セオの言うことには、意識すると魔力の圧をかけて、相手を威嚇、牽制することが出来るらしい。
魔物や獣相手にも使えるらしい。
僕は無意識にその圧をヴァンにかけていたことになる。

「謝る必要はありません。やれば出来るんですね」

レナードが当然のごとく言ってくる。
もー全然わかってない。
レナードのためにやったのに!

「レナードのためにやったんだよ?」
「……私のため?」
「そう。レナードが全然わからず屋だから、わかりやすくあえて即興にしたの!
でも、その“圧”が出たせいでヴァンの体調を悪くさせたのなら……あ、セオ、その圧ってどのくらい体調に影響あるの?」
「あれくらいじゃヴァンは大丈夫ですよ、すぐ回復します」
「僕を恐怖の対象に思うかな?」
「それはないと思いますが、次からすぐにレン様の言うことは聞いてくれると思いますよ?
あれはあれで丁度いい罰になったと思います」
「セオ、もしまた圧が出てたら教えてくれる?自分じゃよくわかってないから」
「わかりました、お任せください」

当分、牽制、制圧、掌握だとかの行動を言葉に込めるのはやめておこう。
言葉に込める重さによって圧が変わってるのなら、それらは危険だ。

『私のため……』なんて真剣な顔して呟いてるレナードを斜め後ろに、僕の部屋にたどり着く。
何の時間かっていうと、これからレナードの“説教”の時間だ。
セオが一緒なのも意味はある。
二人きりになるのに、同じ空間の場合は考えなきゃいけない。

何のためにって、僕の、アレックスに対する配慮だ。
セオとセバスなら大丈夫。
でも、他の人は注意が必要。
必ずセオを連れていたほうが良いはず。
だいたい、セオを外したってセオが聞くはずだ。

女性の場合なら、アニーとステラなら大丈夫。
でも、もっと若い子が来たら、部屋で二人きりは相手のためにも避けなければならない。


「お疲れさまでした」

部屋の扉を開きながら、セオがいつもと同じように労いの言葉をかけてくれる。
「セオもお疲れさま、レナードも。あ、そこかけてね」
「ありがとうございます」

セオはすぐに椅子に座るけれど、レナードは座らない。

「レナードも座って?ずっと立ちっぱなしで疲れたでしょ?」
「いえ……」
「じゃあ、言い方を変える。話があるから座って?」
「……失礼します」

うん、なんとなく扱い方が分かってきた気がする。

セバスとセオ、それから、アニー、この三人といる時間が長すぎてそれに慣れちゃってた。
この三人、凄く察する力が強い上に、表情によく出る。
だから、僕が言いたいことを言う前にわかってくれるし、伝わってることが僕にもすぐわかる。
言いたいけれど言えないことがあったら、雰囲気ですぐに聞いてくれる。

アレックスもだ。
僕のちょっとした動作や言葉で感じ取ってくれる。
でもアレックスは特別だろうな。
もともと察しが良いというより、相手が僕だからだと思う。


レナードは、はっきりものを言わないと伝わらない人だ。
それがわかったのだから、今度からお互いのためにはっきり言えばいいんだけれど、レナードのためを思うと少し相手を察する力をつけて欲しい。

行動の先回りと推測には長けてる。
じゃなかったら、僕が領都に行くときに警備隊に伝えたり、靴の店まで伝えたりは出来ないはずだ。
でも、相手の言葉から、その相手が何を言いたいかを読み取るのがとっても下手な人だ。
レナードが言うほどかっこいいと思えないのは、だからなのもあるかもしれない。
逆に、その方が親しみがあるというか、人間味があって良いとも思う。
人間、完璧なんて人はいないしね。
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