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本編
-304- ステラ
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「エイミー店の店員なら、セオは知ってる?」
振り向くように上を見ると、セオは僕の顔を見てから、ステラに目を向けて難しい顔をする。
「エイミー店のステラなら知ってますけど、まるで別人です」
「ん?」
「赤毛のお下げで丸眼鏡の可愛らしい店員です。俺よりずっと年下に思えました」
「人違いじゃない?」
「あ、いいえ、私です。髪色は魔道具を使用して変えています」
「えー?!」
セオはまだ信じられないくらいにステラをじっと見る。
「顔の印象は化粧でどうとでもなりますから。あの方が働きやすいしお客様に親しみをもってもらえるので。
ーーーいらっしゃいませ!エイミー店へようこそ。セオ様、お久しぶりですぅ!」
「うわー、本人ですね、その声は」
落ち着いた涼やかな女性の声から、明るく元気な声に変貌する。
僕から見ても凄いと思う。
女優の素質がありそうだ。
「魔道具を使用してること、コナーさんは知ってるの?」
「はい。実は、初日に商会員として受付に立ちましたら、長い列が出来、皆さまにご迷惑をかけしてしまい、コナー会長から印象を変えるよう指示されて。
会長に、魔道具の使用許可を頂きました。
十代の頃魔道具市で手に入れた指輪なのですが、七色の髪色を楽しめるという変わった指輪です」
「そんなのがあるんだね……あ、ステラはナニーのスキルがあるんだね!」
彼女も複数のスキル持ちだ。
目利、交渉、ナニーの三つを持ってる。
ゆくゆく僕が妊娠して出産することを考えると、早い段階で手助けしてくれる人が欲しい。
子育ての経験だけじゃなくて、そのスキルを持ってるなら貴重な存在だ。
「はい。コナー会長からご紹介の打診を受けた際に、ナニーのスキルがあるのはかなり有利になるはずだから、と」
「うん、確かにそうだね」
さて、ここで問題だ。
キャンベル商会の商会員であり、エイミー店の店員であるステラが、どうしてうちの使用人の面談を受けに来たか、だ。
コナーさんが間者とまではいかないけれど、なにか友人以上の繋がりをこの家に求めているなら、少し考えなくちゃならないこともある。
目利に、交渉のスキルまで持ってるんだもん。
みすみす手放すには惜しい人材だと思う。
彼女を僕の家に押す理由と、彼女が僕の家で働きたい理由が知りたい。
前者はすぐにわからないかもしれないけれど、後者は今知れること。
そうしたら、少しずつ背景が見えてくるはずだ。
「キャンベル商会やお店は大丈夫なの?目利っていうのがどのくらいのスキルなのかは分からないけれど、交渉スキルも持ってるし、必要とされてるんじゃ?」
「『あなたを手放すのは惜しいけれど、良い人がいたら紹介してくれと言われたら、あなた以外思いつかなかった』とコナー会長から伝えられました。
会長は、根っからの商人気質ですが、相手が何を求めているかを見抜く術を持っています」
なるほど。
確かに、ナニーのスキルを持っていて、年齢的にも、所作の美しさの面からも、アレックスが欲している人材だろう。
僕も彼女が欲しいと思う。
でも、今までの仕事の経緯を見ると、彼女は、人に言われるがまま職を変えている。
良く言えば、人と人との縁が繋がって上手く生きてきてる。
けれど、流れに身を任せるまま生きてきてるようにも思えた。
「それを聞いてステラはどう思ったの?」
「是非に、と」
「理由は?」
そう、うちで働きたい理由だ。
給金が良い、確かに商会員よりはいいと思うけれど、その分自由はないはずだ。
子どもが寮に入ったから、住み込みの仕事でも構わなくなるのだろうけれど、それだけじゃ理由としては今一欠ける。
「私、小さいころからアンティークや骨董が大好きなんです。
セ・ラ・ヴィーでもメインで取り扱っていましたし、住み込みのお屋敷もアンティークに囲まれた素晴らしいお家でした。
宝石工房はアンティークの宝石を取り扱っていて、飲食店ではアンティークのインテリアと食器を使用していたお店です。
家庭教師を受けるに至った理由も同じです。
キャンベル商会では広く品物を扱いますから、スキルを理由にアンティークの宝石や調度品を目にする機会が多くございました。
エイミー店の店員に立候補したのは、息子たちがエリソン侯爵領をとても気に入ったのでどうしても住民権が欲しかったことが一番の理由ですが、
近くのお店には、アンティークの宝石店とアンティークの家具店と楽器修理店があったことが決め手となりました」
なるほど、それが理由か!
それを言われたら、このエリソン侯爵邸は、彼女にとって素晴らしいと感じるだろうなあ。
なんせ、家の作りから家具から食器から全てがアンティーク。
そして、その品はどれをとっても最高級品のはず。
「外観もですが、一歩中に踏み入れてからは、益々ここで働きたく思いました。
目にするもの全てが一級品のアンティークです。
こんな素敵なものたちに囲まれながらお仕事が出来たら、さぞかし毎日が楽しいに違いありません」
ということは、コナーさんは、ステラがアンティークが好きなことも見抜いているはず。
うちにとってもステラにとっても良い条件だし、商会員を無くすのは痛手だけれど、ステラがここで働けることになったら紹介したコナーさん自身にはメリットが大きい。
メリットっていうのとはちょっ違うか、でも、アレックスとの信頼関係がますます深まるはずだ。
それは、かえがたいもののはず。
楽しそうに語るステラの瞳は、少女のようにキラキラと輝いていて、本当にアンティークが好きなんだなと感じたよ。
振り向くように上を見ると、セオは僕の顔を見てから、ステラに目を向けて難しい顔をする。
「エイミー店のステラなら知ってますけど、まるで別人です」
「ん?」
「赤毛のお下げで丸眼鏡の可愛らしい店員です。俺よりずっと年下に思えました」
「人違いじゃない?」
「あ、いいえ、私です。髪色は魔道具を使用して変えています」
「えー?!」
セオはまだ信じられないくらいにステラをじっと見る。
「顔の印象は化粧でどうとでもなりますから。あの方が働きやすいしお客様に親しみをもってもらえるので。
ーーーいらっしゃいませ!エイミー店へようこそ。セオ様、お久しぶりですぅ!」
「うわー、本人ですね、その声は」
落ち着いた涼やかな女性の声から、明るく元気な声に変貌する。
僕から見ても凄いと思う。
女優の素質がありそうだ。
「魔道具を使用してること、コナーさんは知ってるの?」
「はい。実は、初日に商会員として受付に立ちましたら、長い列が出来、皆さまにご迷惑をかけしてしまい、コナー会長から印象を変えるよう指示されて。
会長に、魔道具の使用許可を頂きました。
十代の頃魔道具市で手に入れた指輪なのですが、七色の髪色を楽しめるという変わった指輪です」
「そんなのがあるんだね……あ、ステラはナニーのスキルがあるんだね!」
彼女も複数のスキル持ちだ。
目利、交渉、ナニーの三つを持ってる。
ゆくゆく僕が妊娠して出産することを考えると、早い段階で手助けしてくれる人が欲しい。
子育ての経験だけじゃなくて、そのスキルを持ってるなら貴重な存在だ。
「はい。コナー会長からご紹介の打診を受けた際に、ナニーのスキルがあるのはかなり有利になるはずだから、と」
「うん、確かにそうだね」
さて、ここで問題だ。
キャンベル商会の商会員であり、エイミー店の店員であるステラが、どうしてうちの使用人の面談を受けに来たか、だ。
コナーさんが間者とまではいかないけれど、なにか友人以上の繋がりをこの家に求めているなら、少し考えなくちゃならないこともある。
目利に、交渉のスキルまで持ってるんだもん。
みすみす手放すには惜しい人材だと思う。
彼女を僕の家に押す理由と、彼女が僕の家で働きたい理由が知りたい。
前者はすぐにわからないかもしれないけれど、後者は今知れること。
そうしたら、少しずつ背景が見えてくるはずだ。
「キャンベル商会やお店は大丈夫なの?目利っていうのがどのくらいのスキルなのかは分からないけれど、交渉スキルも持ってるし、必要とされてるんじゃ?」
「『あなたを手放すのは惜しいけれど、良い人がいたら紹介してくれと言われたら、あなた以外思いつかなかった』とコナー会長から伝えられました。
会長は、根っからの商人気質ですが、相手が何を求めているかを見抜く術を持っています」
なるほど。
確かに、ナニーのスキルを持っていて、年齢的にも、所作の美しさの面からも、アレックスが欲している人材だろう。
僕も彼女が欲しいと思う。
でも、今までの仕事の経緯を見ると、彼女は、人に言われるがまま職を変えている。
良く言えば、人と人との縁が繋がって上手く生きてきてる。
けれど、流れに身を任せるまま生きてきてるようにも思えた。
「それを聞いてステラはどう思ったの?」
「是非に、と」
「理由は?」
そう、うちで働きたい理由だ。
給金が良い、確かに商会員よりはいいと思うけれど、その分自由はないはずだ。
子どもが寮に入ったから、住み込みの仕事でも構わなくなるのだろうけれど、それだけじゃ理由としては今一欠ける。
「私、小さいころからアンティークや骨董が大好きなんです。
セ・ラ・ヴィーでもメインで取り扱っていましたし、住み込みのお屋敷もアンティークに囲まれた素晴らしいお家でした。
宝石工房はアンティークの宝石を取り扱っていて、飲食店ではアンティークのインテリアと食器を使用していたお店です。
家庭教師を受けるに至った理由も同じです。
キャンベル商会では広く品物を扱いますから、スキルを理由にアンティークの宝石や調度品を目にする機会が多くございました。
エイミー店の店員に立候補したのは、息子たちがエリソン侯爵領をとても気に入ったのでどうしても住民権が欲しかったことが一番の理由ですが、
近くのお店には、アンティークの宝石店とアンティークの家具店と楽器修理店があったことが決め手となりました」
なるほど、それが理由か!
それを言われたら、このエリソン侯爵邸は、彼女にとって素晴らしいと感じるだろうなあ。
なんせ、家の作りから家具から食器から全てがアンティーク。
そして、その品はどれをとっても最高級品のはず。
「外観もですが、一歩中に踏み入れてからは、益々ここで働きたく思いました。
目にするもの全てが一級品のアンティークです。
こんな素敵なものたちに囲まれながらお仕事が出来たら、さぞかし毎日が楽しいに違いありません」
ということは、コナーさんは、ステラがアンティークが好きなことも見抜いているはず。
うちにとってもステラにとっても良い条件だし、商会員を無くすのは痛手だけれど、ステラがここで働けることになったら紹介したコナーさん自身にはメリットが大きい。
メリットっていうのとはちょっ違うか、でも、アレックスとの信頼関係がますます深まるはずだ。
それは、かえがたいもののはず。
楽しそうに語るステラの瞳は、少女のようにキラキラと輝いていて、本当にアンティークが好きなんだなと感じたよ。
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