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本編
-303- 二人目の面談
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気を引き締めて、次の人の面談だ。
セオは、僕が言った通り、五分前ぴったりに戻ってきた。
扉を開いたセオは、僕を見て眩しそうに笑ってくれたから、きっと耳に色々と届いていたんだと思う。
まあ、気になるよね、当然。
僕もヴァンが読唇するのも勿論、セオの耳に届くのを前提で話をしていたから、盗み聞きしてたって咎める必要は全くない。
セオは何も僕に聞かなかったけれど、僕が『言いたいこと言えた?』と聞いたら、『はい』と答えてくれたよ。
「レン様、賭けは俺の勝ちです」
そろそろ来そうだなって思った時、背後からセオの声がぼそりと聞こえてきた。
ちらっと振り向くと、セオは誇らしげに笑ってくる。
僕が口を開いたと同時、扉のノックが聞こえたから、その言葉は『はい、どうぞ』に変わってしまった。
気を引き締めて、というのは、ヴァンのことがあったからだ。
この面談が、アレックスを大切に思う誰かが、僕を試す材料に使ってくるかもしれない。
きちんと見極めて、答えを出したい。
そうそう、おばあ様以上のことをやってのけるような人はいないと思うけれど、油断しちゃ駄目だ。
それに、アレックスの信頼している人からの紹介と言えども、他領の貴族の人も多かった。
僕が適当に選んで万が一間者だったりしたら、それこそ目も当てられない。
「失礼いたします」
涼やかで澄んだ声の女性は、誰がどう見ても美人だった。
ちょっとやそっとじゃない、もの凄い美人だ。
人からもの凄い美人と言われる僕の目から見ても、だ。
アニーとセバスをちらっと見ると、二人とも驚いてる。
だよね、凄く綺麗な人だ。
そしてびっくりなのはそれだけじゃない。
レナードの王子然とした上品煌びやかな笑顔の対応に、同じように上品に美しい笑顔で返したんだ。
凄い、全く動じてない!
女性では、初めてだ。
たぶん、年齢はレナードと同じくらいだろうけれど、これだけで第一関門は突破したと言っていい。
柔らかそうな薄い菫色の髪を一本の長い三つ編みにまとめていて、落ち着いた若草色のワンピースに身を包んでいる。
胸の中央に赤茶色のブローチをしていて、両耳にも同じ色のピアスをしているので既婚者だってことがすぐにわかる。
一見地味な装いなのに全然そう思えないのは、彼女がとても美しいから、かもしれない。
なんていうか、はっとするような、例えて言うなら、舞台で主役を張るようなそんな……うん、母さんみたいなオーラがある。
その場の誰もが注目しちゃうような、そんな空気間が彼女にはあった。
「はじめまして、ステラと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「はじめまして、ステラ。レン=エリソンです。こちらこそよろしく。どうぞ、おかけください。
僕のことは、みんなレン様って呼ぶから、ステラもそう呼んでね」
「畏まりました、レン様。──失礼いたします」
少し目じりが垂れ気味なのが、優し気な印象を与えてくれる。
少し青みを帯びたグレーの瞳だ。柔らかな笑顔で、ステラはお手本のような綺麗な所作で腰を降ろした。
セバスが、僕の前に身分経歴書を差し出してくる。
それを受け取って、目を落とす。
彼女は、アレックスの友人、キャンベル商会長である、コナー=キャンベルさんからの紹介だった。
彼女の職の経歴は、今までの誰よりも長い。
それでも、きちんと年代別に箇条書きになっているのでとても見やすかった。
「この、一番最初に書いてある『セ・ラ・ヴィー商会』って言うのは、帝都にあるの?」
「いいえ、拠点を持たず、帝国各地を巡る旅商人です。馬車で旅をしながら回っておりました」
「そうなんだ?大変かもしれないけど、楽しいことも沢山ありそう。それに、実際行って、自分の目で見るのは何より得難いものだもんね」
「はい。日々充実しておりました」
彼女は十七歳で見習いから入って、そのまま商会員となり、同じ商会員の男性と結婚したらしい。
けれど、大きな落石事故に巻き込まれて、商会の七割もの人達が亡くなったり行方不明になったりで、旦那さんも帰ってこなかったんだとか。
生まれたばかりのお子さん二人と共に宿で休んでいたステラと、別行動をしていた数人とか生き残り、結局解散となったようだ。
それから、なんと双子の子供を抱えて、次の職場は住込みの家政婦さん。
元お客さんで裕福な老婦人だったらしく、ステラのことをとっても気に入ってくれていたんだって。
だから、家政婦の契約をしていても、実際には、一緒に子育てを手伝ってくれていただけ。子供たちも元気に育ち、毎日とても楽しく暮らすことが出来たみたい。
けれど、楽しい日々は五年間で幕を閉じた。婦人が亡くなり、家を出なければならなくなったと言う。
そこからは、昼間は宝石工房で検品作業、夜は飲食店で働き宿に戻る生活をすること丸二年。
お給料は少なかったけれど、どちらも託児所が併設されていたらしい。
三年目に、宝石工房が潰れる。工房の伝手で、帝都にある骨董品を扱う商会員として働くことになった。
商会長が代替わりすると同時に退職。そこのお客様に拾われて、そのお嬢さんの家庭教師を引き受ける。
家庭教師と言っても、勉学じゃなくて、所作や礼儀の先生だ。離れのお家に子供たちも一緒に暮らせたっていうから、中々良い条件だったみたい。
お嬢さんが帝国の学院に通うと同時に、お役目御免で退職、そこからは、すぐにキャンベル商会の商会員だ。
なんでも、本店でお客さんと揉めているところを、彼女が場を収めたのだとか。
丁度コナーさんが訪れていた時で、その場で引き抜きが始まって、お嬢さんが帝国学院に入学すると同時に勤めることが決まっていたようだ。
そして今から三年前、エイミー店の店員に抜擢され、家族三人でエリソン侯爵領にやってきたという。
ん?
もっとずっと若いかと思ったけど、年齢をちゃんと見たら、四十三歳!
最初に何となく母さんみたいな雰囲気だなと思ったけど、歳も変わらない。
今までの面接で一番の最年長だ。
「お子さんたちは今どうしてるの?」
「警備隊の見習候補生に入ってます。試験に受かれば、来年は晴れて正隊員になります」
「警備隊の?凄いね!花形職業だ」
無事受かればですけど……と笑顔で答えるステラの表情から、全くお子さんたちの心配はしていないように思えたよ。
セオは、僕が言った通り、五分前ぴったりに戻ってきた。
扉を開いたセオは、僕を見て眩しそうに笑ってくれたから、きっと耳に色々と届いていたんだと思う。
まあ、気になるよね、当然。
僕もヴァンが読唇するのも勿論、セオの耳に届くのを前提で話をしていたから、盗み聞きしてたって咎める必要は全くない。
セオは何も僕に聞かなかったけれど、僕が『言いたいこと言えた?』と聞いたら、『はい』と答えてくれたよ。
「レン様、賭けは俺の勝ちです」
そろそろ来そうだなって思った時、背後からセオの声がぼそりと聞こえてきた。
ちらっと振り向くと、セオは誇らしげに笑ってくる。
僕が口を開いたと同時、扉のノックが聞こえたから、その言葉は『はい、どうぞ』に変わってしまった。
気を引き締めて、というのは、ヴァンのことがあったからだ。
この面談が、アレックスを大切に思う誰かが、僕を試す材料に使ってくるかもしれない。
きちんと見極めて、答えを出したい。
そうそう、おばあ様以上のことをやってのけるような人はいないと思うけれど、油断しちゃ駄目だ。
それに、アレックスの信頼している人からの紹介と言えども、他領の貴族の人も多かった。
僕が適当に選んで万が一間者だったりしたら、それこそ目も当てられない。
「失礼いたします」
涼やかで澄んだ声の女性は、誰がどう見ても美人だった。
ちょっとやそっとじゃない、もの凄い美人だ。
人からもの凄い美人と言われる僕の目から見ても、だ。
アニーとセバスをちらっと見ると、二人とも驚いてる。
だよね、凄く綺麗な人だ。
そしてびっくりなのはそれだけじゃない。
レナードの王子然とした上品煌びやかな笑顔の対応に、同じように上品に美しい笑顔で返したんだ。
凄い、全く動じてない!
女性では、初めてだ。
たぶん、年齢はレナードと同じくらいだろうけれど、これだけで第一関門は突破したと言っていい。
柔らかそうな薄い菫色の髪を一本の長い三つ編みにまとめていて、落ち着いた若草色のワンピースに身を包んでいる。
胸の中央に赤茶色のブローチをしていて、両耳にも同じ色のピアスをしているので既婚者だってことがすぐにわかる。
一見地味な装いなのに全然そう思えないのは、彼女がとても美しいから、かもしれない。
なんていうか、はっとするような、例えて言うなら、舞台で主役を張るようなそんな……うん、母さんみたいなオーラがある。
その場の誰もが注目しちゃうような、そんな空気間が彼女にはあった。
「はじめまして、ステラと申します。どうぞよろしくお願い致します」
「はじめまして、ステラ。レン=エリソンです。こちらこそよろしく。どうぞ、おかけください。
僕のことは、みんなレン様って呼ぶから、ステラもそう呼んでね」
「畏まりました、レン様。──失礼いたします」
少し目じりが垂れ気味なのが、優し気な印象を与えてくれる。
少し青みを帯びたグレーの瞳だ。柔らかな笑顔で、ステラはお手本のような綺麗な所作で腰を降ろした。
セバスが、僕の前に身分経歴書を差し出してくる。
それを受け取って、目を落とす。
彼女は、アレックスの友人、キャンベル商会長である、コナー=キャンベルさんからの紹介だった。
彼女の職の経歴は、今までの誰よりも長い。
それでも、きちんと年代別に箇条書きになっているのでとても見やすかった。
「この、一番最初に書いてある『セ・ラ・ヴィー商会』って言うのは、帝都にあるの?」
「いいえ、拠点を持たず、帝国各地を巡る旅商人です。馬車で旅をしながら回っておりました」
「そうなんだ?大変かもしれないけど、楽しいことも沢山ありそう。それに、実際行って、自分の目で見るのは何より得難いものだもんね」
「はい。日々充実しておりました」
彼女は十七歳で見習いから入って、そのまま商会員となり、同じ商会員の男性と結婚したらしい。
けれど、大きな落石事故に巻き込まれて、商会の七割もの人達が亡くなったり行方不明になったりで、旦那さんも帰ってこなかったんだとか。
生まれたばかりのお子さん二人と共に宿で休んでいたステラと、別行動をしていた数人とか生き残り、結局解散となったようだ。
それから、なんと双子の子供を抱えて、次の職場は住込みの家政婦さん。
元お客さんで裕福な老婦人だったらしく、ステラのことをとっても気に入ってくれていたんだって。
だから、家政婦の契約をしていても、実際には、一緒に子育てを手伝ってくれていただけ。子供たちも元気に育ち、毎日とても楽しく暮らすことが出来たみたい。
けれど、楽しい日々は五年間で幕を閉じた。婦人が亡くなり、家を出なければならなくなったと言う。
そこからは、昼間は宝石工房で検品作業、夜は飲食店で働き宿に戻る生活をすること丸二年。
お給料は少なかったけれど、どちらも託児所が併設されていたらしい。
三年目に、宝石工房が潰れる。工房の伝手で、帝都にある骨董品を扱う商会員として働くことになった。
商会長が代替わりすると同時に退職。そこのお客様に拾われて、そのお嬢さんの家庭教師を引き受ける。
家庭教師と言っても、勉学じゃなくて、所作や礼儀の先生だ。離れのお家に子供たちも一緒に暮らせたっていうから、中々良い条件だったみたい。
お嬢さんが帝国の学院に通うと同時に、お役目御免で退職、そこからは、すぐにキャンベル商会の商会員だ。
なんでも、本店でお客さんと揉めているところを、彼女が場を収めたのだとか。
丁度コナーさんが訪れていた時で、その場で引き抜きが始まって、お嬢さんが帝国学院に入学すると同時に勤めることが決まっていたようだ。
そして今から三年前、エイミー店の店員に抜擢され、家族三人でエリソン侯爵領にやってきたという。
ん?
もっとずっと若いかと思ったけど、年齢をちゃんと見たら、四十三歳!
最初に何となく母さんみたいな雰囲気だなと思ったけど、歳も変わらない。
今までの面接で一番の最年長だ。
「お子さんたちは今どうしてるの?」
「警備隊の見習候補生に入ってます。試験に受かれば、来年は晴れて正隊員になります」
「警備隊の?凄いね!花形職業だ」
無事受かればですけど……と笑顔で答えるステラの表情から、全くお子さんたちの心配はしていないように思えたよ。
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