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本編

-301- 答えはひとつだけ

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「あの男は恋人と時間を作るため、と言ってるんですよ?
恋人に会いたいがために同じ職場を受けに来るなんて、どうかしてるでしょう!
はっきり言って、頭がおかしいとしか思えない。
今までの面接者と大して変わりない、むしろ彼らの方が可愛く思えるくらいだ」

『レナードが納得がいかないのはなぜ?』と聞き返すと、言葉を選ばずに言ってくる。
うん、流石にレナードだってセオが傍にいたら言いづらかったろうなあ。
それに、そこは確かに、普通か普通じゃないかっていったら、普通じゃない。


「あの男は、いざとなったらアレックス様じゃなく、セオを守る男です」
「そうだろうね」
「それがわかっていて何故です?!みすみすアレックス様の命を危険に晒すのですか?
セオだって同じです。
あの男に危機が訪れれば、一瞬の判断に迷いが出るはずです。レン様、あなたの命も危うくなります。
セオのために、と言ってましたが、まったくためになってません。
あれはただ単に自己中で、自分勝手で、自分のやりたいことをしにきた男です」

それも、間違ってない。
ヴァン自身が私利私欲と言ってのけていたからだ。

「あの男を傍に置くのは危険です。私は公平な目でそう判断します」

「そこは……本人が一番わかってると思うよ」
「は?」
「時間を作りたい、同じ立場で支えたい、とは言ってたけれど、一緒に守りたいとは言ってなかったでしょ?
アレックスに仕えたいとも、僕に仕えたいとも言ってない。
彼は、調査事、情報収集を任せてくれって言ってたでしょう?
今までと同じように、諜報の仕事を単独でこなしてもらう気でいるし、彼も最初からそのつもりだと思う。
ヴァンには、裏の仕事を任せる。
直接指示をだすのは、セバス……ゆくゆくは、レナードになるはず。
それでも、認められない?」

あの正装をヴァンに着せたらさぞかし似合うかもしれないけれど、それは出来ないし、させる気も全くない。

ヴァンからの一分間アピールで、彼が何を言いたいのか、僕は僕なりにちゃんと読み取ったはずだ。

彼は、ヴァンは……とても食えない男だと思う。
見た目に騙されて、単純に言葉の表面だけをさらっちゃ駄目だ。
あれは、そうじゃないはず。
試されてるのは彼じゃなく、僕の方だった。

あの一分間がなければ危うかったかも。

それでも僕の答えは『裏の仕事を任せる』っていう点では一緒で変わりなかった。
でも、相手の真意を理解せずに答えを出すのと、明確に分かった上で答えを出すのとでは、僕が彼に与える印象そのものが全く違ってくる。


もう、面談を許可した時点で、最初から答えはひとつしか与えられてなかった。

「……あなたはセオに情を持ち過ぎです」
「確かに僕はセオを気に入っているよ、凄くね。まだ決定さてないけど、セオ以外は考えられないって思ってるくらい。
でも、だからこそ、間違った判断はしてない。二次面談を受けて貰うけれど、僕はヴァンがこのエリソン侯爵邸の使用人に欲しいし、必要な人材だと思ってる」

「私の今までの話をちゃんと理解していますか?あの男は貴族籍を買ってまで受けに来たのですよ?それも平民が購入できる最高位の子爵を。
レン様はご存じないかもしれませんが、本来、多額の金が必要です。
アレックス様の傍に仕え、あなたの後ろで控えるセオと並ぶ気でいるのは明らかでしょう!」

「それこそ違うよ」
「何でそう言えるんです?!」
「貴族籍取ったのは侍従になりたいからじゃないよ、セオと結婚したいからだよ。5年前からずっと欲しかったんだよ」

「は?……とにかく、私は反対です。うちには置かず、諜報ギルドに所属させたまま彼と契約し、仕事を依頼すれば済むことです」
「それはしたくても出来ないよ、だからこそ辞めてきたんでしょ、ヴァンは。
それに、彼は諜報ギルドには戻らないよ、断言して良い」
「何故そこまで言い切れるんです?なんの根拠もないでしょう」

根拠ならある。
彼は、手に入れるべきものを手に入れたと言っていた。
だから、言い切れる。

政治や情勢等の先を見通すことは、レナードは長けてると思う。アレックスが一目置くくらい。
けど、相手の台詞から、人の心や感情を読むのは、きっと僕の方が得意なはずだ。
それは、そういう仕事をしてきたから。

人は、その言葉で相手に何を伝えたいのか、っていうのは、同じ言葉でも、人が違えば変わる。
それに、同じ人でも、状況や背景が違えば、また変わってくる。

ヴァンは、僕がセオの主に相応しいかを自分の結果にかけてる。
アレックスの側近を許しちゃうようなただのいい子ちゃんならそれまで。
言葉だけを拾って、レナードのように切ってもそれまで。

僕だって侮られたくない。
例えヴァンが僕を試しているとしても、正解の答えがひとつしか与えられなかったとしても、取るのは僕だ。
その主導権まで渡せないし、セオが仕えるに相応しい主としてありたい。

「根拠ならあるよ?あと、レナードはヴァンを気に入ると思う」
「ありえません。何故そう思うのです?」

「セバス、レナードに身分経歴書の中の、ランキングリスト渡して」
「…ありがとうございます」

レナードがセバスからリストを受け取り、それを目にした途端、息を飲む。
レナードは頭がいいから、このランキングリストを見たらヴァンがどれだけ凄いかわかるはずだ。

「一番下にギルド長のサインがあるから、本物だよ」
「……」

2位との差が大きく開き、ぶっちぎりにトップを貫いているにも関わらず、ソロで活動してるのは、10位以内にヴァンしかいない。
金額もだけど、依頼の数も相当こなしてる。

「ハイリスクな案件ばかりこれだけの量を1人でこなしてるんだから、スキルだけじゃない、かなり要領が良いはず。
レナード、自分に厳しいけど他人にも凄く厳しいでしょ?言ったことは出来て当たり前で、+‪αは自分と同等レベルを最初から求めるでしょ?
駄目って言ってるんじゃないよ?本当は育てて欲しいけど、今レナード自身が学んでる側だし、人には向き不向きがあるのは理解してる。
でも、だからこそ最初から相当使える人じゃないと、きっと新しい人もレナードもどっちもストレス溜まると思うんだよね。
ヴァンならそれ、最初から応えてくれるはずだよ、全力出すって言ってるんだもん。諜報ギルドの、領内じゃないよ、帝国内だよ?そのトップを5年も貫いてる男が、全力だしてエリソン侯爵邸のためだけに情報収集するって言ってる。乗らないと損でしょ?」
「……それでも、諸刃の剣です」
「セオが僕らを必要としている限り、そして、僕がセオに相応しい主でいる限り、彼は味方でいてくれる。もの凄ーく食えない男って思うけど、そこだけは、わかりやすいし、御しやすい。そう思わない?」
「しかし……」

「レナード、セオがどんなことがあってもずっと僕らの傍に居てくれるとは限らないんだよ?」
「っあなたは!心からセオを信じているのではないのですか?!」

「もちろん信じてるよ?でもね、5年も付き合ってるんだもん。むしろ、5年も付き合ってるのに、なんだよ?
ヴァンから、『結婚して一緒に生きて欲しい、絶対に幸せにする』って言われたら、悩みに悩んでついてっちゃうかもしないでしょう?
この面談でヴァンを落としたら、彼はセオをこの家から連れだして、エリソン侯爵領のどこか素敵な家で、それこそセオが理想とするような家で、のんびり快適に暮らすつもりでいるよ。むしろその気満々で」
「まさか……」

レナードは驚いてるけれど、あの一分間アピールがあったからこそ、最初の経緯に戻り順を追うと、この答えに行きつく。

「セオは葛藤の末、うちに残ってくれるかもしれないし、その可能性も高いと思う。それは僕を取ってくれるんじゃないよ?セバスがいるからだ。でも、そんなの全然幸せじゃないでしょ?それこそ、僕は主失格だ」
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