300 / 445
本編
-300- ヴァン=リトルトン
しおりを挟む
今までずっと諜報ギルドで首位にいたのに、あっさり捨てて面談を受けにきたくらい、セオの傍に居たかったんだろうな。
「じゃあ、1分間でアピールをお願いします」
この質問は、予定になかった。
なかったけど、セオはともかく、レナードの表情は厳しいままだし、セバスもずっと複雑そうな顔をしてるんだもん。
1分間で何ができるか、覆るのかはわからないけど、僕自身が、もう少しヴァンのことを知っておきたい。
因みに。アニーは、セオとヴァンを交互に見合っては微笑ましい笑みさえ浮かべているから、全く問題無さそうだ。
「恋人が、目の下にくまが出来てヘロヘロになりながら会いに来てくれても、泣き言や文句をひとつも言えない状態を作っていたのは、私自身です。
同じ立場であれば、それも叶うでしょうし、共有し合える……何より、傍で支えとなりたいのです。
そのために、手に入れるべきものを手に入れ、長年執着していたものを手放し、ここへ来ました。
私利私欲と言われれば、そうかもしれません。
ですが、調査事には、誰よりも迅速に確かな情報を手に入れてみせます。
毎回諜報ギルドを頼るより遥かにお買い得でしょうし、私がそれらを引き受ければ、セオさんがレン様のお傍を離れることも格段に減るでしょう。
今よりも物事がスムーズに流れるはずです。
本当の意味で信頼を得るには、それなりの時間がかかるものだとわかっていますが、その時がなるべく早く訪れるよう、全力で応じます。
どうか、よろしくお願いします」
「ありがとう」
綺麗なお辞儀を最後に、ぼくがお礼で答えると、ヴァンはゆっくりと顔を顔を上げてきた。
その表情に、不安は一切見られない。
けれど、一瞬少し驚いた顔をした後で、柔らかな笑みを浮かべてきた。
「僕はこれで最後だけど、セバスからは何かある?」
「いいえ、特には」
「アニーは?」
「私も大丈夫です」
「じゃあ、後で一時面談の合否を伝えるから、他の人が終わるまで少しお待たせしちゃうけど、それまでヴァンには食堂で自由に休んで貰うね。イアン、あ、うちのコンフェなのだけど、彼の作ったお菓子を用意してるんだ。美味しいから是非食べて」
「ありがとうございます」
「レナード、案内よろしくね」
「……畏まりました」
レナードはまだ納得してないみたいだ。
言いたいことを飲み込んだのがわかった。
予想はなんとなくついてる。
セバスはどうかな?
何だか複雑そうな顔をまだしてる。
アニーは……うん、少女めいて頬を染めてるから、きっと感動してるんだろうな。
セオは顔を両手で覆って天井を仰いでる。
レナードが戻ってきたら、セオをヴァンのところに行かせてあげたい。
次の面談までは、もともと間が空いていたからまだ時間があるし、レナードもセオがいたら言いたいことも言いにくいかもしれない。
セオのためでもあり、レナードのためでもあるし。
それに、セバスの複雑な顔をしている理由も知りたい。
きっと、セオの前じゃ言葉にしづらいことだ。
「素敵ねえ。愛されてますね、セオ」
ヴァンが出て行って、一番最初に口を開いたのは、アニーだ。
セオは真っ赤になったままだ。
「アニーさん、これ以上言わないでいいからー!
もー、なんで堂々と言ってのけるかな、怖いものないのってくらい。
あー、あのバカ、何で言わないんだよ、もー…レン様、すみません」
「ううん、謝らないでーーーあ、はい、どうぞ」
きちんと扉がノックされて、僕が返事をした後でそっと扉が開く。
さて、レナードが戻ってきた。
セオの耳には届いちゃうと思うけれど、配慮って大事だよね。
「セオ、まだ次の面談まで時間があるから、ヴァンのところに行ってきて?」
「レン様、まだ合否も出ていないうちからそのようなーーー」
セバスが口を挟んでくるし、レナードの顔はもっと険しくなる。
けどこのままじゃ、支障が出そうだっていうか、今、すでに色々出てる。
「でも、面談を受けるの聞いてなかったんでしょ?貴族籍のことは?」
「初めて知りました」
「なら、行ってきて?言いたいことたくさんあるでしょ?」
「……」
「セバス、次の面談まであとどのくらいある?」
「少し押しましたが、20分はあります」
「なら、15分だけ。ね?行ってきて?始まる5分前に戻ってくればいいから。
今の顔のままじゃ、次の面談に来た人がセオに惚れられたって誤解しちゃうかもしれないもん」
「うー……すみません、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
セオはその場を逃げるように、それでも風のスキルを使うことなくそそくさと部屋を出ていく。
「レン様、私は納得がいきません!」
扉が閉まると同時、レナードが厳しい視線と言葉を僕に向けてきた。
くるぞくるぞーって思ってたら、本当にきた。
「何が可笑しいのです?笑い事じゃありません」
む、笑ってないけれど笑いをこらえたのがバレてる。
だって、予想通り過ぎるんだもん。
「ごめん。だって、言ってくるぞ言ってくるぞーって思ってたら、そーらきたーって感じでタイミングばっちりだったから、つい」
「っ!?」
でも、意見があるなら遠慮なく言って欲しいし、僕も僕の思うことをちゃんと伝えたい。
まずはレナードの意見をちゃんと聞くために、僕は居住まいを正して、口を開いた。
「じゃあ、1分間でアピールをお願いします」
この質問は、予定になかった。
なかったけど、セオはともかく、レナードの表情は厳しいままだし、セバスもずっと複雑そうな顔をしてるんだもん。
1分間で何ができるか、覆るのかはわからないけど、僕自身が、もう少しヴァンのことを知っておきたい。
因みに。アニーは、セオとヴァンを交互に見合っては微笑ましい笑みさえ浮かべているから、全く問題無さそうだ。
「恋人が、目の下にくまが出来てヘロヘロになりながら会いに来てくれても、泣き言や文句をひとつも言えない状態を作っていたのは、私自身です。
同じ立場であれば、それも叶うでしょうし、共有し合える……何より、傍で支えとなりたいのです。
そのために、手に入れるべきものを手に入れ、長年執着していたものを手放し、ここへ来ました。
私利私欲と言われれば、そうかもしれません。
ですが、調査事には、誰よりも迅速に確かな情報を手に入れてみせます。
毎回諜報ギルドを頼るより遥かにお買い得でしょうし、私がそれらを引き受ければ、セオさんがレン様のお傍を離れることも格段に減るでしょう。
今よりも物事がスムーズに流れるはずです。
本当の意味で信頼を得るには、それなりの時間がかかるものだとわかっていますが、その時がなるべく早く訪れるよう、全力で応じます。
どうか、よろしくお願いします」
「ありがとう」
綺麗なお辞儀を最後に、ぼくがお礼で答えると、ヴァンはゆっくりと顔を顔を上げてきた。
その表情に、不安は一切見られない。
けれど、一瞬少し驚いた顔をした後で、柔らかな笑みを浮かべてきた。
「僕はこれで最後だけど、セバスからは何かある?」
「いいえ、特には」
「アニーは?」
「私も大丈夫です」
「じゃあ、後で一時面談の合否を伝えるから、他の人が終わるまで少しお待たせしちゃうけど、それまでヴァンには食堂で自由に休んで貰うね。イアン、あ、うちのコンフェなのだけど、彼の作ったお菓子を用意してるんだ。美味しいから是非食べて」
「ありがとうございます」
「レナード、案内よろしくね」
「……畏まりました」
レナードはまだ納得してないみたいだ。
言いたいことを飲み込んだのがわかった。
予想はなんとなくついてる。
セバスはどうかな?
何だか複雑そうな顔をまだしてる。
アニーは……うん、少女めいて頬を染めてるから、きっと感動してるんだろうな。
セオは顔を両手で覆って天井を仰いでる。
レナードが戻ってきたら、セオをヴァンのところに行かせてあげたい。
次の面談までは、もともと間が空いていたからまだ時間があるし、レナードもセオがいたら言いたいことも言いにくいかもしれない。
セオのためでもあり、レナードのためでもあるし。
それに、セバスの複雑な顔をしている理由も知りたい。
きっと、セオの前じゃ言葉にしづらいことだ。
「素敵ねえ。愛されてますね、セオ」
ヴァンが出て行って、一番最初に口を開いたのは、アニーだ。
セオは真っ赤になったままだ。
「アニーさん、これ以上言わないでいいからー!
もー、なんで堂々と言ってのけるかな、怖いものないのってくらい。
あー、あのバカ、何で言わないんだよ、もー…レン様、すみません」
「ううん、謝らないでーーーあ、はい、どうぞ」
きちんと扉がノックされて、僕が返事をした後でそっと扉が開く。
さて、レナードが戻ってきた。
セオの耳には届いちゃうと思うけれど、配慮って大事だよね。
「セオ、まだ次の面談まで時間があるから、ヴァンのところに行ってきて?」
「レン様、まだ合否も出ていないうちからそのようなーーー」
セバスが口を挟んでくるし、レナードの顔はもっと険しくなる。
けどこのままじゃ、支障が出そうだっていうか、今、すでに色々出てる。
「でも、面談を受けるの聞いてなかったんでしょ?貴族籍のことは?」
「初めて知りました」
「なら、行ってきて?言いたいことたくさんあるでしょ?」
「……」
「セバス、次の面談まであとどのくらいある?」
「少し押しましたが、20分はあります」
「なら、15分だけ。ね?行ってきて?始まる5分前に戻ってくればいいから。
今の顔のままじゃ、次の面談に来た人がセオに惚れられたって誤解しちゃうかもしれないもん」
「うー……すみません、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
セオはその場を逃げるように、それでも風のスキルを使うことなくそそくさと部屋を出ていく。
「レン様、私は納得がいきません!」
扉が閉まると同時、レナードが厳しい視線と言葉を僕に向けてきた。
くるぞくるぞーって思ってたら、本当にきた。
「何が可笑しいのです?笑い事じゃありません」
む、笑ってないけれど笑いをこらえたのがバレてる。
だって、予想通り過ぎるんだもん。
「ごめん。だって、言ってくるぞ言ってくるぞーって思ってたら、そーらきたーって感じでタイミングばっちりだったから、つい」
「っ!?」
でも、意見があるなら遠慮なく言って欲しいし、僕も僕の思うことをちゃんと伝えたい。
まずはレナードの意見をちゃんと聞くために、僕は居住まいを正して、口を開いた。
52
お気に入りに追加
1,100
あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる