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本編
-292- 寂しさと虚しさ**
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この家のみんなは、とてもあたたかい人たちばかりだ。
忙しくても他人を気遣えるなんて優しい人たちだと思う。
自分の仕事に誇りを持っているんだろうし、なによりこのエリソン侯爵邸が好き、なんだろうなあ。
イアンのくれた金木犀のロリポップキャンディはとても美味しかった。
ふんわりと甘い混ざり気のない上質なべっ甲飴みたいな飴で、割れた上部から花の香りが甘く広がった。
セオもひとしきり眺めた後にちゃんと食べていたし、味も気に入ったみたいだった。
『明日も朝から面談が入ってますから、今日も早めにお休みください』そう言われてしまうと、アレックスを待つのも気が引ける。
『アレックスは?』と聞き返すと、『日付が回るかもしれません』なんて答えが返ってくると余計に。
それでもセオは、アレックスが帰ってくるまでは別の仕事があるのか、あるいは、部屋の鍵は空けておくのか『何かあったらお呼びください』と笑顔で伝えてきた。
なんだろう……というか、なんでだろう?
なんだか、とても寂しい夜で全然寝付けない。
アレックスがいない。
「アレックス……」
小さく言葉にしてみても、いないことを実感するだけだ。
その実感にまた寂しい気持ちが膨らんでいく。
自分で自分の身体を抱きしめて、アレックスが抱きしめてくれるのを想像してみる。
長くしなやかで綺麗に鍛えられてるアレックスの腕は、僕を抱きしめるとき、そっとやさしく包んでくれる。
あたたかくてとても安心する、優しい腕だ。
パジャマの胸元のボタンを一つだけ外し、胸の突起を摘まんでみる。
指の腹で撫でたり摘まんで優しく捏ねたり、アレックスがしてくれるように、アレックスの手を思い出す。
「ん……っ」
熱を帯びる下半身に両手を伸ばし、扱いていく。
優しくも大胆に、アレックスがしてくれるように。
「んんっ……アレックス……っん……っはあ……」
自分では今まで知らなかった良いところも、アレックスが見つけてくれた。
そもそも、そんな自慰行為にふけることなんてなかった。
好きな人がいたら違ったのかもしれないけれど、僕はアレックスが最初に好きになった人だ。
最初で最後の恋で、早々結婚まで駆け上がったけれど、ちゃんと心がついていけたのは、それだけアレックスのことが好きだからだ。
「そこ、気持ちいい……」
そう言ったら、きっとアレックスなら『ああ、気持ちいいな』って、そう言って、こうやってもっと気持ちよさをくれるはずだ。
「っ………はあ……っはあ……」
ひとりで吐き出した精を浄化する。
こんなの、終わってみれば虚しくなるだけだった。
一度お尻に指を入れてみようとしたけれど、そこは乾いていて、嫌でも現実の世界に引き戻されたから、それはやめたのに。
全然違うし、何もかもが足りてない。
薄暗い部屋の中でも、視界がぼやけていくのがわかる。
鼻の奥が痛い。
両目が熱い。
アレックスがいない。
「……っふ……っ……」
奥歯を噛み締めて泣くのを耐えてたけど、誰もいないこの部屋なら自分の心に素直になっても許されるはずだ。
そう思った途端、ぼたぼたと涙が頬を伝って落ちていく。
僕はどこかおかしくなっちゃったのかな?
アレックスには毎日顔を合わせてるし、行ってらっしゃいの口付けだってしてるし、夜遅くなっても僕の隣に寝てくれてる。
えっちをしてからだって、4日目前だ。
たったの4日間だ。
そこまで経ってない。
なのに、アレックスがそばにいないことがこんなに苦しい。
何かあれば何時でも来ていいって言ってくれてるけど、こんな状態で行ったらアレックスを困らせるだけだし、別に危機的状況な訳じゃない。
来客の時間は終わったかな?
今は何してるんだろ。
会いたい……
我慢しなくちゃと思う度、アレックスへの思いがどんどん強くなってく。
「っ?!」
「レン様、開けても──」
「駄目!開けないでっ!」
「……開けます」
扉のノックが聞こえて、呼んでないのにセオが来ちゃった。
駄目って言ったのに、セオは扉を開けて部屋に入ってくる。
咄嗟に取り繕うことが出来なかった。
なんでもないように返事をしていたら、そのまま踵を返してくれたかもしれないのに。
「駄目って言ったのに……っなんで開けちゃうの?」
「ごめんなさい。でも、俺は開けて良かったと思ってます……アレックス様をお呼びましましょう」
「駄目だよ、迷惑かけちゃうよ」
「駄目でも迷惑でもないです」
「だって、おかしいのは僕の方だよ?毎日会ってるし、朝だってアレックスに行ってらっしゃいをしたし、お昼だって一緒に過ごした!それなのに、こんなの変だよ」
そう、変だ。
こんなに固執して欲するなんておかしい。
傍にいないだけで、これじゃ病的な異常を疑われてもいいくらいだ。
恋とか愛とかそういう、可愛くてふわふわしたものじゃなくて、凄く汚くて醜くてドロドロしてる。
「レン様、アレックス様から魔力を受け取ったのは?」
「……っん、何?」
「アレックス様の魔力です。受けたのはいつですか?別にセックスじゃなくたっていいんです。口付けでもなんでも」
「え?えっと……4日前」
「それが原因です」
忙しくても他人を気遣えるなんて優しい人たちだと思う。
自分の仕事に誇りを持っているんだろうし、なによりこのエリソン侯爵邸が好き、なんだろうなあ。
イアンのくれた金木犀のロリポップキャンディはとても美味しかった。
ふんわりと甘い混ざり気のない上質なべっ甲飴みたいな飴で、割れた上部から花の香りが甘く広がった。
セオもひとしきり眺めた後にちゃんと食べていたし、味も気に入ったみたいだった。
『明日も朝から面談が入ってますから、今日も早めにお休みください』そう言われてしまうと、アレックスを待つのも気が引ける。
『アレックスは?』と聞き返すと、『日付が回るかもしれません』なんて答えが返ってくると余計に。
それでもセオは、アレックスが帰ってくるまでは別の仕事があるのか、あるいは、部屋の鍵は空けておくのか『何かあったらお呼びください』と笑顔で伝えてきた。
なんだろう……というか、なんでだろう?
なんだか、とても寂しい夜で全然寝付けない。
アレックスがいない。
「アレックス……」
小さく言葉にしてみても、いないことを実感するだけだ。
その実感にまた寂しい気持ちが膨らんでいく。
自分で自分の身体を抱きしめて、アレックスが抱きしめてくれるのを想像してみる。
長くしなやかで綺麗に鍛えられてるアレックスの腕は、僕を抱きしめるとき、そっとやさしく包んでくれる。
あたたかくてとても安心する、優しい腕だ。
パジャマの胸元のボタンを一つだけ外し、胸の突起を摘まんでみる。
指の腹で撫でたり摘まんで優しく捏ねたり、アレックスがしてくれるように、アレックスの手を思い出す。
「ん……っ」
熱を帯びる下半身に両手を伸ばし、扱いていく。
優しくも大胆に、アレックスがしてくれるように。
「んんっ……アレックス……っん……っはあ……」
自分では今まで知らなかった良いところも、アレックスが見つけてくれた。
そもそも、そんな自慰行為にふけることなんてなかった。
好きな人がいたら違ったのかもしれないけれど、僕はアレックスが最初に好きになった人だ。
最初で最後の恋で、早々結婚まで駆け上がったけれど、ちゃんと心がついていけたのは、それだけアレックスのことが好きだからだ。
「そこ、気持ちいい……」
そう言ったら、きっとアレックスなら『ああ、気持ちいいな』って、そう言って、こうやってもっと気持ちよさをくれるはずだ。
「っ………はあ……っはあ……」
ひとりで吐き出した精を浄化する。
こんなの、終わってみれば虚しくなるだけだった。
一度お尻に指を入れてみようとしたけれど、そこは乾いていて、嫌でも現実の世界に引き戻されたから、それはやめたのに。
全然違うし、何もかもが足りてない。
薄暗い部屋の中でも、視界がぼやけていくのがわかる。
鼻の奥が痛い。
両目が熱い。
アレックスがいない。
「……っふ……っ……」
奥歯を噛み締めて泣くのを耐えてたけど、誰もいないこの部屋なら自分の心に素直になっても許されるはずだ。
そう思った途端、ぼたぼたと涙が頬を伝って落ちていく。
僕はどこかおかしくなっちゃったのかな?
アレックスには毎日顔を合わせてるし、行ってらっしゃいの口付けだってしてるし、夜遅くなっても僕の隣に寝てくれてる。
えっちをしてからだって、4日目前だ。
たったの4日間だ。
そこまで経ってない。
なのに、アレックスがそばにいないことがこんなに苦しい。
何かあれば何時でも来ていいって言ってくれてるけど、こんな状態で行ったらアレックスを困らせるだけだし、別に危機的状況な訳じゃない。
来客の時間は終わったかな?
今は何してるんだろ。
会いたい……
我慢しなくちゃと思う度、アレックスへの思いがどんどん強くなってく。
「っ?!」
「レン様、開けても──」
「駄目!開けないでっ!」
「……開けます」
扉のノックが聞こえて、呼んでないのにセオが来ちゃった。
駄目って言ったのに、セオは扉を開けて部屋に入ってくる。
咄嗟に取り繕うことが出来なかった。
なんでもないように返事をしていたら、そのまま踵を返してくれたかもしれないのに。
「駄目って言ったのに……っなんで開けちゃうの?」
「ごめんなさい。でも、俺は開けて良かったと思ってます……アレックス様をお呼びましましょう」
「駄目だよ、迷惑かけちゃうよ」
「駄目でも迷惑でもないです」
「だって、おかしいのは僕の方だよ?毎日会ってるし、朝だってアレックスに行ってらっしゃいをしたし、お昼だって一緒に過ごした!それなのに、こんなの変だよ」
そう、変だ。
こんなに固執して欲するなんておかしい。
傍にいないだけで、これじゃ病的な異常を疑われてもいいくらいだ。
恋とか愛とかそういう、可愛くてふわふわしたものじゃなくて、凄く汚くて醜くてドロドロしてる。
「レン様、アレックス様から魔力を受け取ったのは?」
「……っん、何?」
「アレックス様の魔力です。受けたのはいつですか?別にセックスじゃなくたっていいんです。口付けでもなんでも」
「え?えっと……4日前」
「それが原因です」
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