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本編
-290- 見極め
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セバスの手によって、同じ料理の同じ盛り付けが僕の前に二つ並ぶ。
どっちかには毒だとか良くない薬だとかが混ざっているようだ。
……うん、僕には全く分からない。
セバスには“鑑定”スキルがあるから、すぐにわかるんだとか。
だから、例えシャッフルしちゃってもちゃんと正解を引き当てられる。
それでも、念には念を入れて、テーブルのすぐそばには毒消しのポーションが用意されている。
因みに睡眠薬や媚薬といった薬を盛られた場合は、専用のポーションがないらしい。
じゃあどうするのかというと、どうしようもないようだ。
一度くらいじゃ体に害はないみたいだけれど、口にしないのが一番で、気が付いたら無理にでも吐き出すのが良いみたい。
どちらも味が独特なものしか出回っていないから、素面の状態で注意して口にすれば一口目で気がつけるものなんだって。
「今回はよく使われる3種類の毒薬と、睡眠薬、媚薬、の5種類です。
食材そのものが毒をもつ場合もございますが、今回は調理後の混入を想定してお出ししています。
香りを嗅いだくらいでは害はございません。
まず、大前提として、食事中は料理から目を離さないことです。
飲み物も同様です。
特に、紅茶や酒などの飲み物に混ぜられることが一般的な手口となります。
ですから、話に夢中になり意識をとられて視線をそむけたりなさらないこと。
席を立つ際には、飲み物を相手に預けないことです」
「飲み物は全て飲み干してから席を立つっていうのは、元の世界でも気を付けていたよ」
「そうでしたか」
「うん。悪戯されるのを防ぐためって教わったけど、もしかしたらそれだけじゃなくて、セックスドラッグとかの心配もあったのかも」
打ち上げの参加は必ずマネージャーがついていたし、彼女はいつも僕を気にしてくれている人だったから、故意にお酒を出されることもなかった。
治安のよくない場所へのお誘いは丁重に断りを入れていたなあ。
僕じゃなくて、マネージャーが。
そういう店には全然詳しくないからまかせきりだったけれど、店の名前を聞いてぱっとその店がどこにあるどんな店かを知っていたから凄いよね。
飲み物は全部飲んでからっていうのは、マネージャーからではなくて、小さい時に母さんから教わってずっとそうしていた。
自分の飲み物を混ぜたり、居ない間に僕のを飲んだり、酷いと唾液を入れられると聞いて子供ながらに鳥肌がたった。
本当にそんなことする人いるの?って思ったけれど、されたら嫌だと思い、外食時は毎回気を付けていたっけ。
「ドラッグ……麻薬ですか」
「あ、うん。元の世界にもそういうのは一部で出回って問題になっていたから」
「ちょっと爺さま、そろそろ食べさせてあげてよ。食事目の前にしてお預けされて、レン様が可哀そうだよ」
セオが後ろからセバスに文句を飛ばす。
うん、まあ、確かにお腹が減ってる状態でこれは、って思うけれど、こうやって二つ並べられてどちらかに毒が入ってます、ってされると食欲より別のところに意識が向いちゃう。
「申し訳ございません、レン様」
「ううん。で、どっちかに毒が入ってるんだよね」
「はい。最初はわかりやすいものからお出ししています。よくよく違いをご確認ください」
そう言われてじっと左右を見比べるけど、全然分からない。
本当にこれが分かりやすいものなのかな?
「……全然わかんない。どっちも一緒に見えるよ」
「セオ、あなたはわかりますか?」
「こっちですね」
「正解です」
セオはすぐに、右の方にある皿に手を向ける。
後ろに控えてるセオがわかって、目の前にしてる僕が分からないなんて。
「なんでわかるの?」
「よーく見てください。食材の油とは違った変な照りがあるのわかりますか?」
「言われてみれば、確かに」
確かに、よーく見ると、食材の油とは違って、光に照らされて虹色みたいな歪なわくが薄く出来てる。
わかると、それが異質なものなんだと思い知らされる。
なんていうか、工業系の油みたいな、そんな見え方だ。
「では、こちらをお召し上がりください」
「いただきます」
僕が正解してもしなくても食べられるのはありがたい。
ありがたいけれど、なんだか食を楽しめない。
それに、わざわざ見比べるために毒を入れるのは、とても勿体ない。
「セバス、この見極めは今日限りにしてね?ちゃんと今日覚えるから。
折角マーティンが作ってくれたのに、もったいないよ」
「……畏まりました」
どっちかに入っていると最初から分かってるからか、それに慣れてきたからか、メインディッシュは香りで見分けることが出来た。
媚薬と睡眠薬は見た目の変化がないけれど、香りと味に変化が現れる。
媚薬は独特な甘ったるさの香りがあったし、睡眠薬は苦いだろう独特な薬の香りがした。
香りで気づけなくても、少量口にした時点で味で気が付けるみたい。
「変だと思ったら吐き出してください。出来ないような場面の場合でも極力飲みこまずに」
「わかった。それは演技でどうにかなるから大丈夫」
出来ないような場面でも、器官に入ったふりをしてむせるだとかすればいいだけだからそこまで難しい話じゃない。
それに。
「空間魔法を使えば、飲んでるふりをしながら外に出せるはずだからそれが出来るようになったら便利だね」
「そのようなことが?」
「アレックスが出来てたから、僕も出来るようになると思う」
「レン様の前でなさったのですか?」
「え?……あ、うん」
セバスに驚かれて、頷く。
何を飲んでるふりをしたかなんて聞かないで欲しい。
えっちの最中に僕の精液を飲んだふりをされました、なんて言いたくない。
第一食事中にする話じゃない。
でも、その時のことを思い出して顔が熱くなってきてるから、セバスにはすぐにバレそうだ。
「……なるほど」
あ、絶対気が付かれた。
う゛ー……いたたまれないよ。
どっちかには毒だとか良くない薬だとかが混ざっているようだ。
……うん、僕には全く分からない。
セバスには“鑑定”スキルがあるから、すぐにわかるんだとか。
だから、例えシャッフルしちゃってもちゃんと正解を引き当てられる。
それでも、念には念を入れて、テーブルのすぐそばには毒消しのポーションが用意されている。
因みに睡眠薬や媚薬といった薬を盛られた場合は、専用のポーションがないらしい。
じゃあどうするのかというと、どうしようもないようだ。
一度くらいじゃ体に害はないみたいだけれど、口にしないのが一番で、気が付いたら無理にでも吐き出すのが良いみたい。
どちらも味が独特なものしか出回っていないから、素面の状態で注意して口にすれば一口目で気がつけるものなんだって。
「今回はよく使われる3種類の毒薬と、睡眠薬、媚薬、の5種類です。
食材そのものが毒をもつ場合もございますが、今回は調理後の混入を想定してお出ししています。
香りを嗅いだくらいでは害はございません。
まず、大前提として、食事中は料理から目を離さないことです。
飲み物も同様です。
特に、紅茶や酒などの飲み物に混ぜられることが一般的な手口となります。
ですから、話に夢中になり意識をとられて視線をそむけたりなさらないこと。
席を立つ際には、飲み物を相手に預けないことです」
「飲み物は全て飲み干してから席を立つっていうのは、元の世界でも気を付けていたよ」
「そうでしたか」
「うん。悪戯されるのを防ぐためって教わったけど、もしかしたらそれだけじゃなくて、セックスドラッグとかの心配もあったのかも」
打ち上げの参加は必ずマネージャーがついていたし、彼女はいつも僕を気にしてくれている人だったから、故意にお酒を出されることもなかった。
治安のよくない場所へのお誘いは丁重に断りを入れていたなあ。
僕じゃなくて、マネージャーが。
そういう店には全然詳しくないからまかせきりだったけれど、店の名前を聞いてぱっとその店がどこにあるどんな店かを知っていたから凄いよね。
飲み物は全部飲んでからっていうのは、マネージャーからではなくて、小さい時に母さんから教わってずっとそうしていた。
自分の飲み物を混ぜたり、居ない間に僕のを飲んだり、酷いと唾液を入れられると聞いて子供ながらに鳥肌がたった。
本当にそんなことする人いるの?って思ったけれど、されたら嫌だと思い、外食時は毎回気を付けていたっけ。
「ドラッグ……麻薬ですか」
「あ、うん。元の世界にもそういうのは一部で出回って問題になっていたから」
「ちょっと爺さま、そろそろ食べさせてあげてよ。食事目の前にしてお預けされて、レン様が可哀そうだよ」
セオが後ろからセバスに文句を飛ばす。
うん、まあ、確かにお腹が減ってる状態でこれは、って思うけれど、こうやって二つ並べられてどちらかに毒が入ってます、ってされると食欲より別のところに意識が向いちゃう。
「申し訳ございません、レン様」
「ううん。で、どっちかに毒が入ってるんだよね」
「はい。最初はわかりやすいものからお出ししています。よくよく違いをご確認ください」
そう言われてじっと左右を見比べるけど、全然分からない。
本当にこれが分かりやすいものなのかな?
「……全然わかんない。どっちも一緒に見えるよ」
「セオ、あなたはわかりますか?」
「こっちですね」
「正解です」
セオはすぐに、右の方にある皿に手を向ける。
後ろに控えてるセオがわかって、目の前にしてる僕が分からないなんて。
「なんでわかるの?」
「よーく見てください。食材の油とは違った変な照りがあるのわかりますか?」
「言われてみれば、確かに」
確かに、よーく見ると、食材の油とは違って、光に照らされて虹色みたいな歪なわくが薄く出来てる。
わかると、それが異質なものなんだと思い知らされる。
なんていうか、工業系の油みたいな、そんな見え方だ。
「では、こちらをお召し上がりください」
「いただきます」
僕が正解してもしなくても食べられるのはありがたい。
ありがたいけれど、なんだか食を楽しめない。
それに、わざわざ見比べるために毒を入れるのは、とても勿体ない。
「セバス、この見極めは今日限りにしてね?ちゃんと今日覚えるから。
折角マーティンが作ってくれたのに、もったいないよ」
「……畏まりました」
どっちかに入っていると最初から分かってるからか、それに慣れてきたからか、メインディッシュは香りで見分けることが出来た。
媚薬と睡眠薬は見た目の変化がないけれど、香りと味に変化が現れる。
媚薬は独特な甘ったるさの香りがあったし、睡眠薬は苦いだろう独特な薬の香りがした。
香りで気づけなくても、少量口にした時点で味で気が付けるみたい。
「変だと思ったら吐き出してください。出来ないような場面の場合でも極力飲みこまずに」
「わかった。それは演技でどうにかなるから大丈夫」
出来ないような場面でも、器官に入ったふりをしてむせるだとかすればいいだけだからそこまで難しい話じゃない。
それに。
「空間魔法を使えば、飲んでるふりをしながら外に出せるはずだからそれが出来るようになったら便利だね」
「そのようなことが?」
「アレックスが出来てたから、僕も出来るようになると思う」
「レン様の前でなさったのですか?」
「え?……あ、うん」
セバスに驚かれて、頷く。
何を飲んでるふりをしたかなんて聞かないで欲しい。
えっちの最中に僕の精液を飲んだふりをされました、なんて言いたくない。
第一食事中にする話じゃない。
でも、その時のことを思い出して顔が熱くなってきてるから、セバスにはすぐにバレそうだ。
「……なるほど」
あ、絶対気が付かれた。
う゛ー……いたたまれないよ。
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