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本編
-284- 面接
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「レン様、お疲れ様です。
本日はこれで終了ですが……その、大丈夫ですか?」
気づかわし気にアニーがそっと僕に声をかけてくる。
つい、疲れた顔をしちゃったかも。
「うん、僕は大丈夫だけれど……レナードとセオが大丈夫じゃなさそうだよね」
「……ですわね」
使用人の面談が始まって、今日で早3日目。
今は、15時を少し過ぎたところだ。
予定では14時50分に終わるはずだったけれど、ちょっとずつ時間が押しちゃって、今しがた最後の面談が終わった。
驚くべきことに、3日間があっという間に流れていった。
ほぼ、同じようで、面談が始まるたび、『あれ?デジャブかな?』なんて思ったりした。
僕は試されているのかな?とも思ったけれど、そうじゃない。
アレックスが信用してる人からの推薦だからって油断してた。
その中には、つい、ぺらっと募集していることを公に話してしまった人がいて、回りまわって話を持ちかけられて断れなかった相手というのがいるみたい。
貴族は縦の社会だもんね、子爵なら、その上の伯爵家から言われたら断れないよね。
勿論、血縁者……と言っても、かなり遠縁で、そういう繋がりが多かったのだけれど、そうすると推薦とはいえ基準が甘いのか、僕にとっては“相応しくない”と判断した人たちばかりだった。
全員、一次面談で落としてきた。
相応しくないっていう言い方は悪いかもしれないけれど、ここエリソン侯爵邸で働くっていう意識が足りない人たちばかりだった。
女性の殆どはレナード目的と思えたし、男性の中には自分がいかに素晴らしいかを永遠に語る人や、あろうことか僕のことを神器様としてしか見ていない人もいた。
美しい神器様の世話ができる、と思っていたみたいなんだよね。
それでもそこで怒るわけにも諭すわけにもいかない。
僕自身が諭したって無駄に終わりそうだと思ったから、『お疲れ様でした。今日はこれでおしまいです。結果は後日封書にてお届けします』という断わり文句を述べただけだ。
セバスが鼻息荒く、『アレックス様にお伝えして抗議文を送りましょう』と言っていたから、本気でやりかねない。
因みに、一次を通った場合は使用人の食堂で待機してもらうことになっていた。
午前のグループ、午後のグループと別れて、一次が終わったら休憩を挟んで二次の予定だったんだ。
でも、二次に進む人が一人もいなくて……というか、僕が落としてきたんだけれどね。
レナードの限界がきてそうだと思ったのもだけれど、セオの限界もきてそうだった。
何故かっていうと、今日の面談の殆どが、セオのご両親からの推薦だったからだ。
僕の右後ろに立ってるセオからだんだん殺気めいた怒りが湧いて出てるのをひしひしと感じた。
僕が見上げると、無理矢理にうっすら笑うその笑顔が可哀想なくらいだった。
フィッツ家は、去年セオのお兄さんが継いだばかりだそうだ。
セオのお兄さんは、セオより7つ年上だそう。
セオは次男って言っていたけれど、その上には更にお姉さんもいるらしい。
お姉さんはとっくに嫁いで、お子さんもいるんだってセバスが教えてくれた。
セオのすぐ下に双子の弟さん、さらにその下に妹さんが1人いて、全部で6人兄弟なんだって。
とても賑やかそうだ。
使用人の部屋の話になった時に、実家よりずっと静か、みたいなこと前に言ってたもんね。
で。
僕はちゃんと把握していないのだけれど、セオはご両親とあまりうまくいっていないっぽい。
直接聞いた訳じゃないし、セバスも、上手くいっていない、と直接的な言葉は言ってない。でも、仲が良いとは言わないし、避けてる感じがした。
以前フィッツ子爵の管轄する人々の暮らしっていうのを話してくれた時は、全然そんな感じじゃなかったんだけどな。
『レン様、すみません。少しそばを離れても?』
最後の面談の人をレナードが送り出してすぐ、セオは僕にそう言ってきた。
本当にすまなそうな顔で言ってくるから、僕の方が心配になった。
『大丈夫だよ』というと、『ありがとうございます……爺さま、ちょっと』とセバスを連れ出した。
あれは、きっとセバスに色々と文句を言ってるんだろうな。
なんで、断らなかったのか、とか。
でも、わかる。
現在フィッツ家を継いだお兄さんが止めなかったものを、セバスが断るわけにはいかない。
それは、セオのためなんだろうなあ。
セバスは、フィッツ家とセオとどちらをとるかってなったら、迷わずセオをとる。
そのくらい僕にもわかる。
でも、セバスだって血縁者だし、セオとフィッツ家を離したいわけじゃないだろうし。
それに、セオがフィッツ家を抜けてない上に、恋人がそこに加わってもいい、って言うんだから、家自体を嫌悪しているわけじゃ無さそう。
どうも、セオのご両親は良くも悪くも周囲に対して“人が良い”みたいなんだよね。
セバスは、『けして悪い人たちじゃない』という言い方をしてたから、セバスから見て上に立つ人柄ではないのだろう印象を受けた。
領地の経営自体は回っていたそうだけれど、それでもお兄さんが継ぐのが早いのはやっぱり色々と事情がありそうだよね。
「はい、どうぞ」
そんなことをぼんやりと考えていると、控えめなノックと共に、レナードが戻ってきた。
案内していた時は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のように煌びやかな笑顔を振りまいていたけれど、今は苛立ち隠さずぶすっとしてる。
僕の前でその顔が出来るなら、逆に安心しちゃう。
「レナード、お疲れ様」
「無理に増やす必要、ないんじゃないでしょうか。私はすでに限界を通り越してます」
「だよね、ごめんね?今日はもうこれでおしまいだから」
「……レン様のせいではありません」
「でも、僕がレナードに案内役を頼んだから、レナードが疲れてるのは僕に原因があるよ」
「それでも、勤められたらたまったもんじゃないんで、はるかにマシだと思うことにします」
レナードの言葉遣いが遠慮なくなってきた。
その方が良いな、本音で言ってくれる方が良い。
「ありがとう。あとは、ゆっくり休んで?」
「そうさせていただきます」
うん、今日の仕事がレナードにまだあるとしたら、セバスに言って減らしてもらおう。
言わなくても、あの様子じゃそうしてくれると思うけれど、一応。
「レン様、明日明後日の2日間は、午前中10時から15分刻みで面談が入ってますが、午後は全て2人ずつです。
今日までよりは、少しは楽になるはずですよ」
「そっか」
面談のスケジュールは全てアニーとセバスに任せているけど、午後は2人だけってことは、午後の方が見込みのある人なのかな?
でも、5日間の内既に3日が過ぎて収穫ゼロっていうのも、少し不安になってくる。
僕もだけれど、アレックスもとても忙しそうだ。朝の見送りと、ご飯とお茶は付き合って貰えてるから、前ほどじゃないのかもしれないけれど、ちょっとばかり恋しい。
無条件に信頼出来る愛を注いでくれるアレックスとの時間がもう少しだけあったら、明日も頑張れると思う。
明日からの面談に、少し自信と癒しが欲しい。
「はい、どうぞー」
このノックの仕方はセオだなあ、と思いつつ返事をするとすぐに扉が開く。
セオは、さっきよりはまともな顔をしてた。
「お待たせしました」
「話したいこと、話せた?」
「……とりあえず、言いたいことは言えました」
「なら良かった」
イタズラがバレたような顔をしながらセオは口を開いた。
何を話したのかは知らないけど、そこは気にしない。
それに、少しだけほっとする。
セオがセバスに言いたいことを言える仲で良かった。
ご両親には、言いたいことを言えないのかもしれない。
「それと、アレックス様ですが仕事で急な来客があり、こちらへは戻られないようです」
「え?そうなの?」
「はい」
「……そっか、わかった。──セオ」
「はい、どうしました?」
「孤児院に行きたい、子供たちに会いたい」
「そうですねー、来週でしたら──」
「ううん、今から」
「え!?今からですか?」
「うん」
純粋な好意を向けてくれる子供たちに会って癒されたい。
嫌な視線を3日間ずっと目の当たりにしてきて、心が疲れちゃった。
アニーには大丈夫って答えたけど、あんまり大丈夫でもないのかもしれない。
本日はこれで終了ですが……その、大丈夫ですか?」
気づかわし気にアニーがそっと僕に声をかけてくる。
つい、疲れた顔をしちゃったかも。
「うん、僕は大丈夫だけれど……レナードとセオが大丈夫じゃなさそうだよね」
「……ですわね」
使用人の面談が始まって、今日で早3日目。
今は、15時を少し過ぎたところだ。
予定では14時50分に終わるはずだったけれど、ちょっとずつ時間が押しちゃって、今しがた最後の面談が終わった。
驚くべきことに、3日間があっという間に流れていった。
ほぼ、同じようで、面談が始まるたび、『あれ?デジャブかな?』なんて思ったりした。
僕は試されているのかな?とも思ったけれど、そうじゃない。
アレックスが信用してる人からの推薦だからって油断してた。
その中には、つい、ぺらっと募集していることを公に話してしまった人がいて、回りまわって話を持ちかけられて断れなかった相手というのがいるみたい。
貴族は縦の社会だもんね、子爵なら、その上の伯爵家から言われたら断れないよね。
勿論、血縁者……と言っても、かなり遠縁で、そういう繋がりが多かったのだけれど、そうすると推薦とはいえ基準が甘いのか、僕にとっては“相応しくない”と判断した人たちばかりだった。
全員、一次面談で落としてきた。
相応しくないっていう言い方は悪いかもしれないけれど、ここエリソン侯爵邸で働くっていう意識が足りない人たちばかりだった。
女性の殆どはレナード目的と思えたし、男性の中には自分がいかに素晴らしいかを永遠に語る人や、あろうことか僕のことを神器様としてしか見ていない人もいた。
美しい神器様の世話ができる、と思っていたみたいなんだよね。
それでもそこで怒るわけにも諭すわけにもいかない。
僕自身が諭したって無駄に終わりそうだと思ったから、『お疲れ様でした。今日はこれでおしまいです。結果は後日封書にてお届けします』という断わり文句を述べただけだ。
セバスが鼻息荒く、『アレックス様にお伝えして抗議文を送りましょう』と言っていたから、本気でやりかねない。
因みに、一次を通った場合は使用人の食堂で待機してもらうことになっていた。
午前のグループ、午後のグループと別れて、一次が終わったら休憩を挟んで二次の予定だったんだ。
でも、二次に進む人が一人もいなくて……というか、僕が落としてきたんだけれどね。
レナードの限界がきてそうだと思ったのもだけれど、セオの限界もきてそうだった。
何故かっていうと、今日の面談の殆どが、セオのご両親からの推薦だったからだ。
僕の右後ろに立ってるセオからだんだん殺気めいた怒りが湧いて出てるのをひしひしと感じた。
僕が見上げると、無理矢理にうっすら笑うその笑顔が可哀想なくらいだった。
フィッツ家は、去年セオのお兄さんが継いだばかりだそうだ。
セオのお兄さんは、セオより7つ年上だそう。
セオは次男って言っていたけれど、その上には更にお姉さんもいるらしい。
お姉さんはとっくに嫁いで、お子さんもいるんだってセバスが教えてくれた。
セオのすぐ下に双子の弟さん、さらにその下に妹さんが1人いて、全部で6人兄弟なんだって。
とても賑やかそうだ。
使用人の部屋の話になった時に、実家よりずっと静か、みたいなこと前に言ってたもんね。
で。
僕はちゃんと把握していないのだけれど、セオはご両親とあまりうまくいっていないっぽい。
直接聞いた訳じゃないし、セバスも、上手くいっていない、と直接的な言葉は言ってない。でも、仲が良いとは言わないし、避けてる感じがした。
以前フィッツ子爵の管轄する人々の暮らしっていうのを話してくれた時は、全然そんな感じじゃなかったんだけどな。
『レン様、すみません。少しそばを離れても?』
最後の面談の人をレナードが送り出してすぐ、セオは僕にそう言ってきた。
本当にすまなそうな顔で言ってくるから、僕の方が心配になった。
『大丈夫だよ』というと、『ありがとうございます……爺さま、ちょっと』とセバスを連れ出した。
あれは、きっとセバスに色々と文句を言ってるんだろうな。
なんで、断らなかったのか、とか。
でも、わかる。
現在フィッツ家を継いだお兄さんが止めなかったものを、セバスが断るわけにはいかない。
それは、セオのためなんだろうなあ。
セバスは、フィッツ家とセオとどちらをとるかってなったら、迷わずセオをとる。
そのくらい僕にもわかる。
でも、セバスだって血縁者だし、セオとフィッツ家を離したいわけじゃないだろうし。
それに、セオがフィッツ家を抜けてない上に、恋人がそこに加わってもいい、って言うんだから、家自体を嫌悪しているわけじゃ無さそう。
どうも、セオのご両親は良くも悪くも周囲に対して“人が良い”みたいなんだよね。
セバスは、『けして悪い人たちじゃない』という言い方をしてたから、セバスから見て上に立つ人柄ではないのだろう印象を受けた。
領地の経営自体は回っていたそうだけれど、それでもお兄さんが継ぐのが早いのはやっぱり色々と事情がありそうだよね。
「はい、どうぞ」
そんなことをぼんやりと考えていると、控えめなノックと共に、レナードが戻ってきた。
案内していた時は、まるでおとぎ話に出てくる王子様のように煌びやかな笑顔を振りまいていたけれど、今は苛立ち隠さずぶすっとしてる。
僕の前でその顔が出来るなら、逆に安心しちゃう。
「レナード、お疲れ様」
「無理に増やす必要、ないんじゃないでしょうか。私はすでに限界を通り越してます」
「だよね、ごめんね?今日はもうこれでおしまいだから」
「……レン様のせいではありません」
「でも、僕がレナードに案内役を頼んだから、レナードが疲れてるのは僕に原因があるよ」
「それでも、勤められたらたまったもんじゃないんで、はるかにマシだと思うことにします」
レナードの言葉遣いが遠慮なくなってきた。
その方が良いな、本音で言ってくれる方が良い。
「ありがとう。あとは、ゆっくり休んで?」
「そうさせていただきます」
うん、今日の仕事がレナードにまだあるとしたら、セバスに言って減らしてもらおう。
言わなくても、あの様子じゃそうしてくれると思うけれど、一応。
「レン様、明日明後日の2日間は、午前中10時から15分刻みで面談が入ってますが、午後は全て2人ずつです。
今日までよりは、少しは楽になるはずですよ」
「そっか」
面談のスケジュールは全てアニーとセバスに任せているけど、午後は2人だけってことは、午後の方が見込みのある人なのかな?
でも、5日間の内既に3日が過ぎて収穫ゼロっていうのも、少し不安になってくる。
僕もだけれど、アレックスもとても忙しそうだ。朝の見送りと、ご飯とお茶は付き合って貰えてるから、前ほどじゃないのかもしれないけれど、ちょっとばかり恋しい。
無条件に信頼出来る愛を注いでくれるアレックスとの時間がもう少しだけあったら、明日も頑張れると思う。
明日からの面談に、少し自信と癒しが欲しい。
「はい、どうぞー」
このノックの仕方はセオだなあ、と思いつつ返事をするとすぐに扉が開く。
セオは、さっきよりはまともな顔をしてた。
「お待たせしました」
「話したいこと、話せた?」
「……とりあえず、言いたいことは言えました」
「なら良かった」
イタズラがバレたような顔をしながらセオは口を開いた。
何を話したのかは知らないけど、そこは気にしない。
それに、少しだけほっとする。
セオがセバスに言いたいことを言える仲で良かった。
ご両親には、言いたいことを言えないのかもしれない。
「それと、アレックス様ですが仕事で急な来客があり、こちらへは戻られないようです」
「え?そうなの?」
「はい」
「……そっか、わかった。──セオ」
「はい、どうしました?」
「孤児院に行きたい、子供たちに会いたい」
「そうですねー、来週でしたら──」
「ううん、今から」
「え!?今からですか?」
「うん」
純粋な好意を向けてくれる子供たちに会って癒されたい。
嫌な視線を3日間ずっと目の当たりにしてきて、心が疲れちゃった。
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