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本編

-279- コッチネッラ商会

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日記帳の他に、ペン軸も買ってもらうことにした。

「今使ってるのは太くて重めだから、もう少し軽くて細身なのが疲れないかなって思って。
これからもっとペンを握る時間が増えるかもしれないし」
「そうですねー、交流が増えればお手紙を書く機会も増えますし、レン様にお任せするお仕事もあると思いますから、是非今日購入しましょう」

セオも同意してくれて、セバスも笑顔で頷いてくれる。

エイダンさんが持ってきてくれたペン軸は太さや素材別に20本もあった。
4つの種類で太さ別に5本ずつ。
一番細いのが1番となってるのをみると、今使ってるのは4番だ。
ためさせてもらうと、僕が持つのには2番くらいがちょうどよさそうだ。
はっきりいって2番でも鉛筆やボールペンよりずっと太さはある。
でも、上にいくにしたがって綺麗な曲線で細身があるからか、1番だと曲線が僕の手には合わなくて持ちづらかった。
そうすると、やっぱり2番がいい。

美しい金属製のものや彫りのあるものもあるけれど、なんの装飾もないオーソドックスな形の木製のものが一番手に馴染むように思える。
金属製のもの、木製で美しい彫りのあるもの、赤みの強い木製のもの、白っぽい木製のもの、の4種だ。
木製でも2種類ある。
なんとなく、赤みの強い木製の方が持ちやすくて疲れない気がする。
重さは少し赤い方が重い気がするけれど、色のせいかもしれない。
赤い方が良いけれど、何が違うんだろう?

「エイダン、こっちの赤い木と、白い木は、木の種類が違うの?」
「はい、さようでございます。
赤いものの方が木に密度があるため少し重めに感じるかと思います。
木の種類の他、表面を仕上げる薬品にも違いがございます。
どちらも乾燥や劣化を防ぐために使用していますが、それぞれの木の樹液を混ぜて作ってございます。
どちらも樹液から作られているもので、魔法の付与はされていません。
色が違うのはその樹液の色の違いです。
香りも違いますよ」
「ほんとだ」

香水みたいに香るわけじゃないけれど、鼻を近づけるとわかる。
白っぽいのは檜みたいな香りがするし、赤っぽいほうは白檀みたいな香りがする。
どちらも鼻を近づけてようやくうっすら香る程度だ。
重さもやっぱり色のせいでそう感じるだけじゃなかったみたい。

でも、尚更赤っぽい方が良いな。

「教えてくれてありがとう、エイダン。こっちの赤っぽい色の方にするね」
「畏まりました」

その他に、セバスの勧めで、レターセットを3種類とメッセージカードを3種類、それからインクを2種類購入することになった。
使ったことのあるレターセットやメッセージカードはアレックスのものだから、シンプル且つ飾り気がないものだった。
それでもものはとても良いものなんだろうなあ、アレックスが使うものだもん。

レターセットもメッセージカードも、薔薇が描かれているもの、クローバーみたいな可愛い葉と白い小さな花が描かれているもの、それから中央上部にちょこんとルリアが描かれているものを購入した。
どれもエリソン侯爵領で有名なものみたいだ。
蜂のイラストが描かれているものもあったんだけれど、ちょっとリアルだったからやめちゃった。
エリソン侯爵領といったら蜂蜜も有名だし、こっちでも蜂は縁起がいいものみたいだけれど、虫は苦手な人もいるかもしれないし。

インクは黒とエメラルドグリーンを選んだよ。
黒はセバスが選んでくれたけれど、エメラルドグリーンのものは僕が選んだ。
黒いインクで5種類もあったけれど、僕が悩むまでもなく『こちらにしましょう』とセバスが選んでくれた。
全部真っ黒だったから僕には違いがわからなかったけれど、セバスには違いがすぐわかったんだと思うし、なんとなく、一番いいインクで一番高いんだと思う。
もう一つの方は、好きなお色をお選びくださいってセバスに言ってもらえたから、アレックスの瞳の色に似てるもので、光沢のないインクを選んだ。
3本選んで実際に書かせてもらったんだけれど、3本とも文字として書いたときも瓶に入っている時とそのままの色をしていた。
光沢がある色の方がアレックスの瞳の色に近いのだけれど、文字にすると目が疲れそうだから、ここは優しい方を選択する。

「他に、何かご要望はございますか?」
「うーん、エイダンのおすすめはある?」

さて、僕の買い物はこれで済んだけれど、エイダン自身からはこれといって物を勧めてはこなかった。
勿論、日記帳、ペン軸、レターセット、メッセージカード、インク、全て彼が厳選して持ってきてくれたことを考えると彼のおすすめ商品ではある。
でも、その中でもこれが一番良いだとか、これはいかがですか?とか、自分の一番売りたいものを前に出すことは一度もなかったんだ。
全部僕に選ばせてくれたし、わからないことは言える範囲でちゃんと答えてくれた。

化粧品のときもそうだけれど、この世界は元の世界と違って、基本的にそのものが何を使って作られているかっていうのは企業秘密だ。
企業とはこっちの世界では言わないけれど、とにかく秘伝となってることが殆どみたい。
エイダンは、教えてくれる範囲ぎりぎりまで口にしてくれたらしい。
良い意味で、商人らしくない商人っていうか、マリーさんよりずっと商売っ気がない気がする。

彼の人柄かもしれなけれど、なにか僕のために用意しているものがあるなら、見てみたい。
それに、僕の立場からすると、その機会を与えることが……与えるって言うと凄く偉そうか、うーん、機会を僕から作るって言えばいいかな?とにかく、そうすることが、僕自身の評価に繋がるような気がする。
そんな気持ちで、エイダンのおすすめを聞いてみた。

彼は一度目を丸くして驚いた顔をしたけれど、その後すぐにふんわりと笑って、艶やかな白い絹の布地で覆われた箱を目の前に差し出してくれた。
大きさは、A4サイズくらいの箱だ。

「レン様のご厚意に甘えましてーーー私からはガラスペンをおすすめいたします」

上に被さる布地がエイダンの手によってそっと上下左右と開かれると、黒とエメラルドグリーンのガラスペンが1本ずつ顔を出す。
アレックスの瞳の色そっくりのエメラルド色したガラスペン。
それと。黒いガラスペンの方はよく見ると金色の粒子がまるで天の川のように続いてる。

「すごく綺麗だね!2本とも薔薇が彫ってある」
「はい。こちらはこのままペン先にインクを吸い上げて使用するものです。
薔薇の彫りがそれぞれ異なりますが、角度を合わせますと」
「繋がった!」

黒いガラスペンと、エメラルドグリーンのペンの角度を合わせると、薔薇の弦が繋がった。
ペアで作られてるなんて、僕とアレックスの為にあつらえたようなガラスペンだ。

持たせてもらうと、思っていたより軽いし、曲線が綺麗で持ちやすい。見た目だけじゃなくて、ちゃんと実用的でもありそうだ。


「セバス、アレックスはガラスペンを持ってる?」
「いいえ。ですが、レン様からの贈り物でしたら喜んで使われると思いますよ」
「じゃあ、2本とも購入するね。黒い方はプレゼント用に包んで欲しいな」
「ありがとうございます」
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