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本編

-278- コッチネッラ商会

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文房具を取り扱う商会が来てくれた。
セオと一緒に応接室にいた僕に、セバスに案内された商会長さんは被っていた帽子をとって深く頭を下げてくる。

「レン様、文房具店を取り扱うコッチネッラ商会が到着されました」

セバスの声がかかっても、頭を上げることはなかった。
今まで会ってきたエリソン侯爵領の人々は、すぐ声をかけてくれたけれど、本来は僕から声がをかけるものだというのを教えて貰っている。
礼を重んじる商会なのかな?
あまり畏まらずに、楽な時間になってほしい。

「はじめまして、レン=エリソンです。
今日は、忙しい中僕のために時間を作ってくれてありがとう。
どうか顔をあげて?」

「ーーーお許しいただきありがとうございます。
初めまして、レン様。
この度は、お声掛けいただき大変光栄でございます。
私、コッチネッラ商会会長を務めておりますエイダンと申します。
どうぞよろしくお願いいたします」

僕の顔を見て一瞬息を飲んだエイダンさんは、すぐ持ち直して穏やかな笑顔で挨拶をしてくれた。
良かった。
僕のことを、“レン様”と呼ぶあたり、やっぱりエリソン侯爵領の商会だって感じてほっとする。

エイダンさんは背はそこまで高くないけれど、ふくよかな体つきで笑顔がとても優しい人だ。
歳は、50代くらいかな?
鼻の下に綺麗に整った口ひげを生やしていて、上品なスーツに身を包んでる。
驕った感じは全然ないのに、とても豊かであたたかい印象だ。
安心感のある笑顔のその瞳は、僕に対して打算や値踏みの類いを一切感じない。
セバスとセオが選んでくれた商会だけれど、この人なら僕自身にあった品を勧めてくれそうだ。



エイミー店のときには、アニーがいてくれたけれど、今度はセバスが一緒にいてくれるみたい。
セオも勿論一緒だけれど、心強いな。
何を基準にどう選んだらいいかが僕にはまだ分からないし、何より品その物が良いものなのかがわからない。
これから鍛えていかなきゃならないものの一つだと思う。

「本日は、ご要望の日記帳を厳選して5つお持ちしております。手触りやお色は異なりますが、全てに良質な革を使っており、鍵付でございます。こちらの3つは魔道具による鍵付き、こちらの2つは通常の金属による鍵付きです。どうぞお手に取ってご覧下さい」

そう言うと、白い手袋を渡してくれる。
日記帳を手にするのに手袋が必要なの?って思ったけど、大切な売り物だもんね。

「魔道具の鍵付きは魔力を流すことで発動します。念の為こちらの手袋を」
「ありがとう」

なるほど、魔道具の鍵ってそういう作りなんだ。見た目、鍵がどこについてるのかわからない。
うっかり魔力を流して登録しちゃったら買取になっちゃうだろうから、有り難く借りる。
この手袋は、魔蚕の絹で出来た手袋で魔力を遮断する効果を付与してあるそうだ。

うーん。明らかに、魔道具の鍵付きのものは、とても高そうだ。
そもそも、鍵、必要かな?
こっそり覗く人なんていないと思う。

「鍵付きのは鍵を無くしそうだから鍵をかけないで使うかも」
「レン様、是非、魔道具の鍵付きのものに致しましょう」
「そうですねー、爺さまの言う通り、魔道具の鍵付きのものにしましょう」
「でも、毎日ちょっと書き留めとくだけだよ?」
「レン様、このセバスやセオに確認したいこと等は書き留めたりしませんか?うっかりアレックス様のお目に入られると少々困ることや、内緒のサプライズなどは書かれたりは?」
「……書くかも」

セバスがそっと確認してくる。
それは、書くかもしれない。

アレックスは日記を黙って見たりはしないと思うけど、開きっぱなしにしちゃったら、目に入ってしまうかもしれない。
えっちな内容、書いちゃうかもしれないよね、それに、サプライズも。

「なら、魔道具の鍵付きにしましょうよ。毎日使うものなんですから、ちゃんとレン様が気に入ったものを購入しましょう」
「うん、わかった」


1つ目は黒の柔らかな革張りで、重厚感がある日記帳だ。
中は至ってシンプル。
通常のノートのように真っ白な用紙に横に黒いラインが走ってるだけだ。大きさもB5サイズと変わらない。
日記帳と言われたけど、鍵付きノートって言われた方が分かりやすい。ただ、ちゃんと背表紙に紐の栞が2本ついている。
これはこれで使いやすそうだ。

2冊目は柔らかなスウェード生地で、上品なオールドローズ色の日記帳だ。表には繊細な薔薇が金色の型押しで描かれている。
中は薄いベージュ色の用紙で、日付のラインが右上にあり、見開きで4日分書けるようになってる。
大きさはさっきより小さい。
小さいって言っても、A5サイズ位の大きさはある。
こちらは、薄い金属製の栞が1枚セットでついていて、細やかな薔薇のシルエットが美しい栞だ。
華美すぎなくて、あくまで上品なところがいいと思う。

そして、3つ目。鮮やかなエメラルドグリーンの日記帳で、表面がつるりとした革張りの日記帳だ。アレックスの瞳の色とよく似てる。
大きさはこちらもA5サイズくらい。
中は白地にグレーの細い線が引かれていて、これも、見開きで4日分、右上に日付用の線があって、シンプルだけど書きやすそうだ。
なにより、この色がとても綺麗。
背表紙に栞用の紐が1本ついているからページも開きやすい。
うん、これが良いな。
いいなって思ったら、途端にこれが良くなる。
目の前に置かれた時には、どれも良いものだろうし、お値段は分からないし、使い勝手が良いのがいいのかな?と色々と悩んだのに。

「これがいいな。凄く綺麗な色」
「ありがとうございます」

エイダンさんはにっこりと優しげな笑みでお礼を告げてくれたし、セオとセバスもにこやかに頷いてくれたよ。
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